2023年3月12日放送①いま福島から伝えたいこと~安東量子さん

NHK
2023年3月28日 午後6:57 公開

3月12日放送の「日曜討論」では、東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故の発生から12年となる中、震災からの復興や原発事故への対応について、復興大臣・東北3県の知事・専門家が議論しました。

番組前半は福島の復興について。この討論に地元・福島から参加していただいたのが、NPO法人「福島ダイアログ」理事長の安東量子さんです。安東さんは震災直後、地域の人々の人間関係がうまくいかなくなってしまうことに危機感を覚え、人間関係をつなぎ直したいと勉強会を開くなどしてきました。今では地元の住民に加え、海外の専門家や行政関係者など様々な立場の人が集まる対話の場を企画・運営しています。日々、地元の人たちの切実な声を聞いている安東さんが考える、福島の復興に必要なこととは。そして、いま全国に伝えたいメッセージとは。

安東量子さん

NPO「福島ダイアログ」理事長

東電福島第一原発事故の発生時、福島県いわき市に住む。地元の行政区と協力して、放射線測定などの地域活動を行うとともに、福島の状況に関心を持つ人びとが集い、それぞれの現状を共有し、意見を交わす対話集会を開催。対話の過去の記録を保管し、語り継ぐ活動を行うため、2019年にNPO法人化した。このほか論文執筆や国際会議などの参加を通じて、原発事故後の復興の状況を伝える活動なども行う。

●福島の復興 現状と課題は

政府は2025年度までの5年間を、第2期復興・創生期間に位置づけています。

ハード面での整備はおおむね完了したとしていて、被災者の心のケアや原発事故の避難指示が解除された地域への帰還や移住に向けた支援などを進めています。

一方、福島では今も多くの人が避難を続けています。福島県によると、2月時点での避難者は2万7399人。このうち県外への避難者は2万人を超えています。

安東:

対話集会などで、みなさんの話を聞くと、「復興」という言葉は皆さんもちろん知っていますが、そもそも「復興」って何なんだと、最近、口をそろえて言うようになっています。「復興」とは言いますけど、定義がそもそもなされてない。どこを目指しているのか、わからない。なので、てんでバラバラなことを話している。そういう状態ではないかという声が多く聞かれます。

私たち現場レベルでやってきた人間にしてみれば、12年間のそれなりの積み上げもありますし、達成感や実績もあると思っていますが、一方で、復興の政策的な面では、私たちの周りでは失望感を持っている人が多くいます。最初のうちは、“新しい福島”といいますか、新しい社会をつくりたいとそういう思いで始めていました。12年たって振り返ってみたときに、現在の状況というのは、旧来の縦割りのバラマキ、“箱もの”の復興になってしまっている。私たちが目指した復興は何だったんだろうと、そういう意見が多く聞かれています。

●「処理水」放出・風評被害への影響は

東京電力福島第一原発では、トリチウムなどの放射性物質を含む処理水が増え続けています。トリチウムは自然界でも生成されるため、雨水や水道水にも含まれますが、政府はその濃度を国の基準の40分の1まで薄めたうえで、ことし春から夏ごろにかけて海への放出を始める方針です。ただ、漁業者などを中心に風評被害を懸念する声は根強く、放出の開始時期が近づく中、理解を得られるかが焦点となります。

安東:

この問題に関しては、メディアなどで「賛成」「反対」ということで取り上げられることが多いですが、地元の人間にしてみれば「どちらともいえない」という人が大多数ではないかと思います。さまざまな事情がありますけれども、特に、この問題に関して、皆さん最初に言うのは「何でこんな決め方をするのだ」という人が多いです。例えば、処理水を放出するにしても、これは事故が起きた当初から問題になっていたわけですね。それなのに放置しておいて、突然、政治決断で決めてしまう。そもそも決め方の問題としていかがなものかというところが非常に大きいです。

この問題の本質というのは、地元の人間にとってみれば、不公平感、不遇感っていうところがあるんです。そもそも私たちは事故で被害を受けているのに、更にこのうえ被害をなぜ受けなくてはいけないのかと。そこは科学的に正しいという、そういう問題ではありませんし、そもそもで言えば、賠償でもそれは拭い切れるものではない。そのためにはおそらく地元の人たちを巻き込んだ何らかの話し合いの仕組みを作る必要があったのではないかと認識しています。

●住民の帰還は

原発事故の発生によって、将来にわたり居住を制限するとされた「帰還困難区域」の中には、避難指示の解除に向けて、先行して除染やインフラ整備を行う「特定復興再生拠点区域」が2017年から設けられています。去年、葛尾村・大熊町・双葉町でこの拠点区域の避難指示が解除されたのに続き、3月31日には浪江町、4月1日には富岡町、そして、大型連休ごろには、飯舘村で避難指示が解除される予定です。また、帰還困難区域の92%を占める残りのエリアについて、政府は個別に住民の意向を把握したうえで、2020年代に希望者の帰還を進める「特定帰還居住区域」という新たな枠組みを設ける方針を示しています。

安東:

いろいろ一生懸命やってくださっているのはもちろん承知しているんですけれども、やはり話を伺っていても、生活の姿がまったく見えてこないんですね。帰還を進めるという前提自体は、私はちょっと違和感があります。それは帰還をしてはいけないという意味ではなくて、生活者の視点からしますと、“幸せに暮らせるかどうか”ということが一番の問題なんですね。いくらインフラが整備されたとしても、幸せに暮らせると思えなければ、それは意味がないわけで、そうした視点というのがどうもインフラ重視の復興政策の中でスポッと抜け落ちて、それをおいて帰還を進めるとか、避難指示を解除するとか、そういう話ばかり出てくるので、一般住民の視点からすれば、戻るかどうかということ以前の問題で、判断がそもそもできない、そういうかたちではないかと思っています。

●福島の“これから”をどう描く

安東:

先日、前回のダイアログ(対話活動)の時に若い方が話していたんですけれども、ご自身が避難区域の出身の方で、自分も廃炉の将来に関わりたいと思われている人ですが、浜通りの将来というのは、廃炉の行く末に大きく左右されるのが現実だと。それにもかかわらず、廃炉に関わる意思決定に、住民や地域が全く関われない状況が続いていると。これは生活の自立性を自分たちは取り戻せていると言えるのか。自立性が取り戻せていないということは、自分たちの尊厳というものがないがしろにされているということなのではないかというふうに言っていました。私はその人のご指摘は非常にもっともだと思っています。

地域の活性化といいますけれど、それを行う上での大方針の決定などに地元の住民や地域はほとんど関れない。一方的に上から落ちてくるという状態がずっと続いているんです。その状態で地域が活性化するかというと、ちょっと難しいのではないかというふうに感じています。