2023年2月19日放送②「日銀新体制へ 今後の金融政策の行方は?」

NHK
2023年2月27日 午後2:23 公開

新体制となる日銀に今後何が求められるのか?番組後半では、大規模金融緩和の副作用について議論が白熱。これからの金融政策についても意見が分かれました。

ここまでの議論は ⇒ 「①日銀新体制へ “金融緩和10年”をどう評価する?」

●大規模緩和の副作用は

金融緩和の長期化による副作用として指摘されている1つが、日銀が保有する国債の急増です。景気を下支えするため日銀が大量に国債を買い続けた結果、日銀が保有する国債の残高は500兆円を超えました。発行された国債の半分以上を日銀が保有する異例の状況となっています。借金である国債を発行しても日銀が市場から買い入れるという意識が広がって、財政規律が緩んだという批判も出ています。

(大規模金融緩和と財政規律の関係は)

片岡:

財政規律が緩んだとは全く思いません。そもそも2%の物価安定目標のために日銀が国債を買い取るという金融政策をやっているわけで、それが間違っているという話ではないと思います。それから先ほど話がありましたけれども、アベノミクスは“金融政策1本足打法”だったわけですよね。これほど長い期間、金融緩和を続けざるを得ないというのは、財政政策のサポートが薄かったから結果としてそうなったのではないかと理解しています。

岩田:

大規模緩和の副作用はまったくないと思いますね。よく日銀が債務超過になって大変だと言われますが、これは日銀券が金と交換可能だった金本位制の亡霊にとらわれている話で、全く問題にすることはないんですよ。最近のオーストラリア中央銀行は債務超過になっているんですけど、総裁自身が何も問題ないと言っていて、(実際)何も問題ないですよね。イスラエルは2000年代から2019年まで、ずっと債務超過なんですよ。何の問題もありませんよね。それからチェコも自己資本がGDP比でマイナス23.1%なんていう時代もずっとあるんですよ。何も問題ないです。これは本当にとんでもない、日銀と普通の銀行を混同した誤った議論ですね。

(財政規律は緩んでいない?)

河村:

金利水準にかかわらず、財政再建を進めるべきだったのに実際にはできていなかったと思いますね。来年度の当初予算の政府案を見ても、新発国債を36兆円も出すと。去年の補正予算では平気で赤字国債を23兆円も出すと。毎年本当に国債の発行額がものすごくて、来年度の予算案でも190兆円、借換債(=過去に発行した国債などの償還資金を調達するために新たに発行する債券)がものすごいんですね。新発国債だけじゃありませんから。190兆円も国債を出さなければ回っていかない国、そのうち50兆円が短期国債で、毎年借り換えている。こんな財政運営をやっている国はないんですね。超低金利状態で、政府の財政運営に臨む姿勢が緩んでしまった結果としてすごく残念であります。

早川:

日銀の国債保有残高のグラフ見ていただくとお分かりのように、最初に異次元緩和を始めたときに急激に増えるんですよね。そのあとイールドカーブコントロールに入って、増え方がずいぶん収まる。せっかく収まったのに、去年イールドカーブコントロールの修正がなかなかできなかったのでまた急増して、いまや日銀自身が認めるように、機能不全を起こしてしまっているという意味では、明らかに副作用がいろいろ出ている。財政規律を緩めたと僕は思っていますけれども、私の昔の同僚の中には「それは政府の問題であって、日銀がそういう環境をつくったわけじゃない。むしろ大胆な金融緩和をずっと続けて、これだけやってもなかなか効果が出ないことを証明したことによって、もっと緩和しろという議論がなくなったからこれでいいんだ」ということを言っている人もいますね。

(日銀が国債の約半分を保有、問題は)

片岡:

これは致し方ないと思いますね。先ほど河村さんが国債を発行するとか、財政政策を非常にたくさんやっていることを問題視されていたと思うんですけど、ではどうしたらよかったんですかね。コロナ禍の状況で何もしなければ、当然景気は大幅に悪化しますし、先ほど懸念しておられた国民の暮らしも悪化するわけですよ。財政の運営の話というのは、支出しなければいけないときには支出をしないといけないという状況もありますので、そういう話と(財政)規律みたいな話は切り分けて論じるべきなのではないかという気がします。

河村:

コロナ禍の時に対応しなければいけなかったということは、おっしゃる通りで私も賛成です。ただもうコロナ危機に入ってから3年以上たっているんですね。コロナ対策として20年度の第2次補正で全部で73兆円もやったと思うんですけども、国債に頼ってやるとして、じゃあそのコストを誰が負担するかという議論を、この国だけがまだやっていないんですね。財務省も必死に短期国債の発行を減らしてきているけど、まだ50兆円残っている。コロナ対策の財源を誰が負担するのかという議論がほったらかしになってしまっている。他の国はもうみんないろいろ考えて決めていますよ。どうやって誰が負担するか(を議論し)、実行に移しているのにそれが全然できてない。これは日本の財政運営の大きな問題だと思います。

(日銀はETF=上場投資信託も大量に保有、どう考える)

早川:

これは率直に言って極めて深刻な問題だと思うし、政策の意図もよく分からない。それをどんどん拡張してしまった弊害は極めて大きい。単に安倍政権にゴマをすったとしか表現のしようがないと思っています。

岩田:

私もあんまりいいことではないと思っていますから、徐々にフェーズアウト(段階的に終わらせていく)した方がいいと思っています。国債残高だとか債務1000兆円だとか、国債を日銀が半分も買っているとか、こういう数値だけで人々を驚かすというのはもうやめてほしいと思います。副作用はどこで見るかというと、1つはすごいインフレ率にしたかどうかで見るべきで、もう1つは金利が暴騰している状況を作ったのならば問題ですけれども、(そういう状況では)全然ないわけですね。金利はそんなに上がっていないし、インフレ率もそんなに上がっていない。これだけやっても何も問題はないのに数字だけで大騒ぎしているんですね。“1本足打法”でこれだけやっても金利は下がっていて、インフレ率の上がり方が少ないのは増税が効いてきているからなんですよ。それをなくせばちゃんと2%インフレに行くし、税収も2.7という弾性値(=名目GDPが1%上がったときに税収が何%増えるかを示した数値)で非常に大きいんですよ。増税から入らなくても成長率を上げていけば、名目成長率も上がりますから、税収も上がって財政再建できるんです。ですからインフレ率と金利はそんなに暴騰しているのかという点で見るべきだということです。

早川:

表現が適切であったかどうかは別にして、安倍元総理が「日銀は政府の子会社である」とおっしゃったのは基本的には正しいと思っているんですよ。中央銀行が債務超過になったら致命的な問題が起こるかというと、そうではない。親会社さえしっかりしていればそんなに心配することはないわけですけれども、日本の場合は親会社が一番心配されている存在なので。安倍さんがどういう意図でおっしゃったかはともかくとして、あの発言は正しくて、やっぱり親会社がしっかりしていないとダメだと思っています。日銀の財務だけ考える必要はないと思っています。

(このままの状態が続けられるのか)

岩田:

インフレ率が2%に近づいてくるというような時には、出口にゆっくりと出ていくということでけっこうで、それまでの間は国債を買っても何も問題ないんですよ。インフレになってないし、金利が暴騰しているわけではないですから。2%までは今のやり方を続けていけばいいということです。

●今後必要となる金融政策は

(新体制の日銀は「出口戦略」にどう取り組むべきか)

河村:

国債市場が大変なことになっているので、イールドカーブコントロールをどうやっていくかということが非常に大きな問題だと思います。ただ性質上、あらかじめ段階的に言いながら進めるということはできないんですね。市場のアタックを受けてしまうから。だから非常に新体制は苦労されると思いますが、そこは柔軟化を徐々にしていく必要がある。政府との連携をとる必要がありますね。間違いなく利払い費は上がってきますから。大事なことは、先行きの見通しをしっかり立てて取り組むことだと思います。これだけバランスシートを大きくしてしまって、これから正常化するには10年では済まなくてもっと長い時間がかかる。その計画をしっかりと立てる。日銀自身の財務がどうなっていくのか、政府の財政運営がどうなっていくのか、きちんとした見通しを立てて、出口戦略の試算の結果などもきちんと正直に国民に示した上で、長期的な計画を立てて段階的に少しずつ取り組んでいくという姿勢を示すことが必要だと思っております。

片岡:

出口政策というのは、2%の物価安定目標が達成できている状態でないとできないわけです。その状態のもとであれば長期金利にも上昇圧力がかかりますし、利上げできる環境になる。正常化できる環境になるということだと思うんですよね。そういう環境にできる限り早いタイミングで近づけていくということがまず大事だと思います。その上で具体的にどういう形で金融政策を変更していくのかということについては、我々外野があれこれ言うよりは、日銀のスタッフの人たちがやはり一番能力もあるし、いろいろなことを計画して、よく知っていると理解しています。日銀のやることを信頼していいのではないかと思っています。いずれにしても、細かい政策の対応というのは物価安定目標を達成した段階で考えるということです。懸念しているのは、政府が共同声明を早く書き換えること。物価安定目標を長期化したりして段階的に緩めるようなことをやってしまうというのがまずいと思うんですね。そこは問題点だと思っています。

早川:

基本的には2つに分けて考えるべきです。2%が達成されて、金融緩和そのものを修正するというフェーズ。その前にこれまでやってきたかなり複雑化してしまった現在の金融緩和のやり方を微修正する。このツーステップがあると思うので、そこは分けた方がいいと思います。最初の微修正する段階でも、まず第一に共同声明はある程度、令和臨調なんかの意見に比較的近いところに僕はいますし(※令和臨調は2023年1月、共同声明を長期的な目標に位置づけることを提案)、イールドカーブコントロールやマイナス金利政策について2016年9月に「総括的検証」というのをやりました。今回もイールドカーブコントロールとかマイナス金利について、どういう効果があったのか、どういう副作用があったのかをきちんと分析した上で、修正が必要ならば修正するという議論だと思います。

(イールドカーブコントロールの見直しは?政策の「期間」はどれくらいが妥当か)

早川:

僕はもともと幅(期間)を広げる派ではなくて短期化する派だったんです。いろいろな理由があるのですが、たまたまこれをスタートした2016年9月の時点がマイナス金利だったので、10年でやっちゃったんだけど、もともと最初にこの議論を言いだしたのは、多分バーナンキ(元FRB議長)で、バーナンキは2年と言っていると思います。オーストラリアなども3年でやっていて。景気とか物価に一番影響の大きいゾーンをターゲットにするのがオーソドックス。10年というのは、10年でお金を借りているのはほとんど政府なので、あまりにも露骨な財政ファイナンス(=財政赤字を賄うため政府が発行した国債を中央銀行が通貨を発行して直接引き受けること)になってしまう。オーソドックスな景気とか物価への影響というのは2年とか3年だと思っています。

岩田:

2%の達成が見通せないような中で早期にこれを見直すということは、非常に危ないですね。むしろデフレに逆戻りする。中長期というのは経済に非常に影響を与えるという日銀の実証理論的な研究がちゃんとあるんですよ。出口に向かっていくことについては、日銀の本当のプロがちゃんとシミュレーションしていますので。その間に債務超過になる期間が若干あるかと思いますけど、それはすぐなくなってしまって、普通に正常化していくと。国債の残高はそれからゆっくり減らしていく可能性はあると。これはアメリカの中央銀行のFRBが、14年半ばから出口を目指したやり方なのですが、それと同じだと。ちゃんとうまくやっているわけで、大変大変と言うのが本当に好きな人が多過ぎますね。

(イールドカーブコントロール見直しのタイミングは? 2%の目標達成を待つべきか)

河村:

今の状況に鑑みれば、そこまでこだわる必要はない。2%を達成できているかどうかといえば、もう名目ではとっくに達成していますよね、去年の4月以降。(YCCの)外し方は、中央銀行本意に考えれば、どんどん(期間を)短期化する、それを騙し討ちでやるというのが(市場に)介入もしないで済むしいいのでしょうけれども、それをやられたほうはたまったもんじゃない。昔、金利ではなくて為替ですけれど、スイスの中央銀行が2015年1月にいきなり騙し討ちで外して、国際金融界、日本の生保も含めて、本当に混乱して影響を被ったことがある。それと同じようなことになりかねない。日本の場合、急に短期化とか一旦外すなどということは、財政運営への影響が出ますので、そこは慎重に政府との連携をしっかり取ってやっていただかないといけないと思っています。

片岡:

河村さんが言われるように、しっかり慎重にやられるんじゃないかと思います。金利を引き上げていくことは、市場に金利上昇圧力がかからない限りできないんですよね。特に長期金利に関しては、実体経済の先行きですとか、そうした影響も踏まえて決まる部分がありますので。中央銀行が金利を引き上げようとしても、市場がそのような雰囲気に応えるような環境でない限り金利は上がらないんですよね。そうした環境というのは、2パーセントの物価安定目標が達成できる環境、賃金も伴って物価が上がる環境、これが重要だと思います。

(政府と日銀の共同声明は維持すべきか)

早川:

共同声明を丁寧に読んでいただくと、けっこうちゃんと書いてある。ただみんながどう受け止めているかという観点からすると、やっぱり2%目標だけが知られていて、政府サイドが経済の競争力・成長力の強化をするとか、財政健全化、持続可能な財政基盤を整えるとか、そういうことが(書いてはあるが)忘れ去られてしまっているので、そういう意味では、再確認する意味でももう一回確認した方がいいと思います。それから物価安定目標はもう10年かかってしまったのですから、「できるだけ早期」という表現自体はいかがなものかと思っていまして、これは「中長期」でいいのではないかと思っています。だからといって2%をやらなくていいというわけではないということですね。

片岡:

私は今変えることのコストは大きいのかなと思うんですね。現状できるかぎり早期にというのは空文化しているのはその通りで、ただできるかぎり早期に頑張りますと表明していることの意味はあると思うんですよね。これをあえて中長期の目標にするというのは、例えば日銀がそれがいいという判断をした上で、政府と協議をして決めるとか、そういったことであれば話は別だと思うのですが。政府と一緒に目標を決めたのに、政府の方からもうできそうにないからやめるというようなことでやると、将来的に中央銀行がいろいろな政策を行おうとしても、それを市中の人が信じてくれないのではないかというリスクが大きいのかなという気がします。

早川:

実際問題として、2%は当分できないという状況だったら、変に中長期化しない方がいいと思っているんですけれども。今の賃金調整その他を考えると、今年がどうこうということは考えませんけれども、来年、再来年あたり2%が本当に達成される局面はあり得ると思っているので、ここで別に中長期にしても、それほど大きな弊害はないのかと。

片岡:

それは達成してからやればいいんじゃないですか。

早川:

僕は本格的な金融緩和政策の転換は必要ないと思っていますけれども、さっきのイールドカーブコントロールについては何とかしないとマーケットがめちゃくちゃになってしまいますから。そういうことを考えると、2%(の目標)を緩めておいた方が、2%が完全に大丈夫という前に必要な修正はできる。その観点から必要な修正をやるための検証はやった方がいいという考えです。

(共同声明見直しの必要性は)

岩田:

見直すとすれば、財政再建、財政持続可能性のところをやめるべきだと思います。共同声明というのは、どこの国でも中央銀行と政府が金融政策について結んでいるんですよ。財政再建をどうこうなんてやっているところはありません。これは日銀とは別の話ですので、これは取った方がいいというのが私の考えです。それから早川さんは来年あたりに2%になると言っているが、今のところ(の物価上昇は)コストプッシュ型ですから。需要牽引型の2%に移れば確かにおっしゃるようなことを考えてもいいけど、需要不足が20兆円とかあるというような状況で、需要牽引型の2%にすぐにはならないとは思いますのでね。そういう意味でも、2%にいくのには財政の方がもう少ししっかりしなければならない。これは河村さんと逆ですけどね。そうすると税収が上がってくるんですよ。それで財政再建ができるんで。増税から入ったら、景気が悪くなって税収が落ちて、財政再建できないです。

早川:

僕が一番注目しているのは賃金をめぐる環境が大きく変わったということ。今年の年頭に岸田総理が「物価上昇を上回る賃上げ」と言ったときに、経済界の反応が予想以上にポジティブだった。「我が社はこれぐらい上げる」と言った企業のトップがたくさんあって、安倍政権下の官製春闘の時代とはすごく変わったと思っているのが1つ。それからもう1つ、コロナが終わって経済が正常化し始めたら、びっくりするぐらいのスピードで人手不足が始まっているということなんですよ。数年前に、人手不足なのになぜ賃金が上がらないのかという議論が行われた時に、女性と高齢者の労働参加率が高まったからだということが言われて。これ(女性や高齢者の労働参加)が止まると本格的に物価が上がってくる。それを「ルイスの転換点」(=労働力の供給が出尽くした後に労働力の不足状態となり、賃金率の上昇が起きること)と呼びますが、最近のデータ見ると、「ルイスの転換点」は本当に来たんじゃないかという印象があります。

(共同声明をどうすべきか)

河村:

共同声明自体は、けっこうよく書いてあると思うんです。2%の目標をもう少し柔軟に追えるように少し微修正はした方がいいかなと思うんですけど、それ以上大きく踏み込む必要もないんじゃないか。これを直さなければ動けないとおっしゃる方は、今の金融政策が絶大な効果を上げているということを前提に議論されている気がして、私は決してそうじゃないと思うんですね。効果については海外の中央銀行なんかも面と向かってはおっしゃらないでしょうけど、FOMC(=米連邦公開市場委員会。アメリカの金融政策を決定)の公表資料などを見ても、シビアに議論されていますよ。日本のマイナス金利政策は全然インフレ期待の上昇につながってないとか。イールドカーブコントロールについてもそうですね。共同声明を見直さなければ日銀が金融政策を一切動かせないということにはならないんじゃないかなと思っています。

(日銀の独立性をどう考える)

早川:

これも非常に複雑な問題だと思っています。一時期、中央銀行の独立性がものすごく強調される時期がありました。もともとインフレがテーマになっている時は中央銀行の独立性がすごく重要なんだけれども、逆にゼロ金利制約みたいなのが重要だった時には、必ずしも中央銀行の独立性だけ言っていればいいというものではないので、その辺は少し時代の変化に合わせてものを考えていく必要がある。ただまた世界的に金利が上がり始めましたから、流れはまた変わりつつあるのかもしれません。

(日銀の役割は? 市場との対話や国民への説明責任をどう考える)

河村:

市場主義経済の中で日本経済は生きているわけですね。そのことを再確認して、金利は上がっては困る、ゼロ金利でなければやっていけないというわけにはいかないのが市場経済であって、そのことを新総裁に発信していただきたい。金利も低ければ低いほどいいということでもない。産業の新陳代謝を阻害していた面というのもあったと思いますし、そういうことをきちんと国民に説明していただきたい。そして期待したいのは政府との関係ですね。日銀は、黒田総裁が就任される前からだと思うのですが、すごく政府に対して及び腰だったんですね。財政に対してリサーチも全然やっていない。他の中央銀行はもっとやっていますよ。もっと厳しくあるべきです。日銀のご出身の総裁とか財務省ご出身の総裁ではできなかったのであれば、ぜひ植田先生がもし新総裁になられたら、学者出身ということで政府との関係を立て直していただきたい。赤字国債はゼロコストだと思って平気で出していられるような状況じゃないんだ、しっかり財政再建をやってくれぐらいのことを中央銀行の側から言っていただけるように、政府との関係を立て直していただきたいと思っております。

片岡:

日銀は誰のものかという議論がありますけれども、私は国民のものだと思います。日銀は何をミッションにしているかと言うと、物価安定目標を達成することをミッションにしているんですね。そのことを通じて経済を安定化させるということです。これまでずっと90年代以降、目標を達成できてなかったわけで、そのことを達成することによって自らの存在意義をしっかり確立することが大事だと思います。物価に関して言うと、物の価値が上がるというときに、物の価値とは何かというと人の価値です。人の価値とは何かというと賃金です。賃金がしっかり上がるような経済を目指しているというのが2%の物価安定の意味ですから、それをしっかりやるということが大事だと思います。

早川:

市場とのコミュニケーションに関して言うと、僕は黒田総裁がずっと下手だったとは思わないんだけれども、去年はいろいろな意味で、コミュニケーション崩壊が起こってしまったので、新しい体制にはそこの立て直しというのが大きなテーマになってくると思っています。

岩田:

河村さんは盛んに国際マーケットが混乱したとか、そんなことばかりおっしゃっているのですけど、イールドカーブをコントロールすると、債券価格があまり動かないんですよ。だから債券の売買で儲ける人は儲からないので文句言っているんです。だけど債券市場のために金融政策をやっているのではないんです。国民のためにやっている。雇用とかそういうことのためにやっているんですよね。それから銀行がイールドカーブコントロールに反対しているんですね。これも利ざやが稼げないからなんですよね。2%の安定になってくれば、長期金利が上がってきますから、利ざやが自然に出てきます。だから銀行は2%を早く達成する方法を実は考えるべきで、利上げなんかやったら銀行はつぶれちゃいますよ。

早川:

いろいろな意味で賃金が重要だというのは同じ意見です。岩田先生たちは、マネタリーベース(=日銀が市中に直接的に提供するお金のこと)を増やせば全てうまくいくと考えていた。我々はむしろ賃金が上がらなくなって物価が上がらなくなったんだと考えています。

岩田:

逆ですね、それは。デフレになったから賃金が上がらない。世界でデフレなのは日本だけだよ。