2022年12月18日「原発・エネルギー政策を問う」①“方針転換”どう考える

NHK
2022年12月22日 午後3:29 公開

日本の原子力政策が、大きな転換点を迎えようとしています。12月、経済産業省は、従来の方針を転換し、原子力発電所の運転期間の実質的な延長や、次世代型の原子炉の開発・建設を進める方針案を示しました。東京電力福島第一原発の事故から11年と9か月、“方針転換”の是非と今後のエネルギー政策について、西村経済産業大臣と専門家が徹底討論しました。

このあとの議論は⇒「②運転延長 次世代原子炉は」

【出演者】(左から)

橘川武郎さん(国際大学 副学長) エネルギー産業論が専門

松久保肇さん(原子力資料情報室 事務局長) 経済産業省 審議会の委員も務める

西村康稔さん 経済産業省大臣   

竹内純子さん(国際環境経済研究所 理事)  エネルギー政策の研究や提言を行う   

こちらは2021年度の電源構成です。内訳を見ますと、原子力は6.9%。火力は72.9%。火力に多くを頼る状況が続いています。11年前の福島第一原発の事故以降、政府は、原子力発電への依存度を可能な限り低減するという方針を掲げてきましたが、今年、原発を最大限活用するとした新たな方針を打ち出しました。

具体的に見ていくと、これまで政府は、原発の運転期間は最長で60年、新増設・建て替えについては「想定しない」としてきました。一方、今回経済産業省が示した方針案では、運転期間について、実質的に60年を超えて運転できるようにし、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発と建設を進めることなどが盛り込まれました。政府は12月22日にもこの方針案を受けた原発の活用のあり方をまとめることにしています。

(方針案はなぜ 狙いは)

西村:

ロシアのウクライナ侵略によって、エネルギー情勢は一変いたしました。電力の需給がひっ迫する、あるいはエネルギーの安全保障が各国で脅かされる。そういう状況の中で、私どもも責任を持ってエネルギー、電力を安定供給していく。これを果たしていくということ。あわせて、長年の課題でありますが、これだけの災害が起こる気候変動への対応。まさに脱炭素化、カーボンニュートラルを進めなければならない。その両立のためには、再生可能エネルギーを最大限導入していくと同時に、原子力についても活用していく。責任を持ってエネルギーの安定供給を果たしていくために、今回、原子力を推進すると主張される方もおられれば、慎重な立場の方、さまざまなご意見を伺いながら、最終的に原子力の活用という方針を打ち出しているところであります。

松久保:

これまでの日本政府の方針としては、原発の寿命は最大60年で、新増設は考えていないというものだったと思います。つまり将来的に脱原発をすることが前提になっていたと思います。ところが今回、原発の最大限活用という方針に転換されたわけです。私は、この検討を行った原子力小委員会の委員も務めているんですけれども、この委員会、21人の委員がいますけれども、脱原発を訴える人は2人しかいないという状況になっています。他は、原発に非常に積極的な方々ばかりということになっています。この状況は長年変わっていないわけですけれども、しかも、議論を3か月という短期間でやってきたわけですね。国民の意見を問わずに決めたというわけです。福島第一原発事故後、原発の利用に関しては、国民世論は非常に二分される状況になってきたと思います。少なくとも民主党政権時代には、国民世論を聞くために、意見聴取会やパブリックコメント、討論型世論調査という丁寧なやり方をやってきたと思います。今回、こういった丁寧なやり方をやらなかった。わずか3か月間で話を決めてしまったということは、非常に問題だと思っています。

西村:

昨年から、コロナ禍から世界的に需要が回復して世界経済回復に向かっていたわけですね。その中で既に昨年の段階からエネルギー価格が上昇し、そしてさまざまな需給逼迫も考えられるということで、実は昨年の末からさまざまな検討会を始めておりまして、30数回、1年にわたって議論をしてきています。そしてこの総合資源エネルギー調査会ですべてフルオープンにして、インターネットで中継をしながら賛成反対のさまざまなご意見も伺ってきました。特に、慎重な方のご意見を伺う会も2回設けてヒアリングを行ってきておりますので、そういう意味では、私どももかなりの回数を重ねて議論をしてきたということであります。そして、適切なタイミングでパブリックコメントを実施したいと思いますので、国民の皆様にも丁寧に説明しながら、またご意見をいただきながら進めていきたいと考えております。

竹内:

今日は、原子力政策を問うということなんですけれども、この問題は、エネルギーの安定供給、安全保障、経済政策全体で議論すべき話だと思います。今エネルギーは、“第3次オイルショック”と言うべき状態だと思います。第1次オイルショックは、原油価格が70%引き上げられた、これが契機だったわけです。いま日本が輸入するLNGの価格は2018年からの2年間で3倍に、石炭は4倍強に上っています。こういった資源価格が非常に高騰している中で、さらにこうした状況が2030年ごろまで続くという予想もある中で、高い資源を買い続けることは、日本の経済の失われた何十年を伸ばすことにもなります。気候変動問題も含めて、やはりエネルギー自給率を高めるという点でも、再生可能エネルギー、そして原子力という海外の燃料に大きく依存せずにエネルギーをまかなうことのできる技術を最大限活用するというのは、これは当然のことであろうと思います。

橘川:

まず、方針転換という聞き方をされていますけど、そうはなっていないと思います。8月に、西村大臣が司会をされる会議で政府は2つのことを言いました。原子力政策が遅れているので、次世代革新炉の開発・建設、それと古い炉の運転期間の延長について、年末までに政治決断する。そのあとどうなるか注目していました。この2つは、論理的に矛盾する側面もあるのです。ところが、新しい炉を建てるとしたら(候補地は)福井県の美浜あたりだと誰もがわかっているわけですが、(政府からは)美浜の「み」の字も(福井県)敦賀の「つ」の字も出てこないで、具体的な方針は出て来ていません。一方、運転延長のほうは、かなり具体的な方向が出て来ました。(延長される期間は)福島の原発事故後の部分(原子力規制委の審査などで停止していた期間)だけの延長なんですが、今後、事故以前に停止していた期間も延長になる(延長期間として考慮される)と思います。電気事業者は、1兆円かけて新しい炉を作るよりは、延長できるならば、もう新しい炉はつくらないと考えると思いますので、実際には今度の新しい方針は、次世代革新炉の建設を遠のかせたものだと思います。そういう意味で政策転換とは言えないと思います。

(議論の進め方について原発立地自治体は)

橘川:

延長にしろ建設にしろ福井が主要な舞台になると思うんですが、11月7日に福井県議会の全員協議会で意見を述べさせていただく機会がありました。質疑応答があったんですけど、私はどの方が自民党議員で、どの方が共産党の議員がよく分かりませんでした。というのは、皆さん、怒っていらっしゃるんですね。方針が大きく変わる前に地元の声が聞かれてないと。たしかにそのあと西村大臣が(福井に)行かれたんですけども、本来であれば方針を決める前に地元の声を聞くべきだったのではないかと。

西村:

私は大臣に8月に就任して以来、多くの自治体、20数自治体になると思いますけれども、随時私のところに来られてさまざまな意見書提言書をいただいておりますし、私自身もできるだけ足を運び説明をし、あるいはご意見を聞くということで、福井県あるいは青森県、茨城県などですね。それ以外にもそれぞれの地域、ブロックごとに経済界から意見を聞く中でさまざまなご意見をいただいてきておりますので、丁寧に進めてきておりますし、また先ほど申しましたように30数回議論をやってきていますが、インターネットですべてオープンにしてやっておりますので、そうした中で、その議論も聞きながらいろんなご意見もいただいております。そして、それぞれの自治体の声、また国民の皆さんの声にしっかりと耳を傾けて、そして丁寧に説明しながら進めておりますし、今後もそのようにしていきたいというふうに思います。

方針案には、原発の再稼働を進めることも盛り込まれています。

福島第一原発の事故のあと、国内にある原発33基のうち、原子力規制委員会の審査に合格し、地元からの合意を得るなどして再稼働した原発は10基に上っています。

政府は、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギーの安全保障に対応するため、来年の夏以降、原発7基の再稼働を追加で目指すとしています。今回の方針案では、安全性の確保を最優先に再稼働を進め、地元の理解に向けて国が前面に立った対応を行うとしています。

(再稼働の方針について)

竹内:

日本は、以前は温暖化政策のために急速に新増設を進めるとしていた方針を原発事故後に転換しました。しかしながら、脱原発を法定化するということはしなかったわけです。なぜかといえば、エネルギー安定供給や電気代といったところからの影響が大きすぎる。それは現実的ではないということで、(原発を)使わないのではなく安全に使うということで、安全対策の投資を促してきたところです。これまで我々の電気代で莫大な安全対策投資をしてきた原子力発電所、これが規制基準に合致するのであれば、逆に言うとなぜ動かさないかということが問われることになると思います。当然、安全対策をないがしろにするということはあってはならないわけですが、国がやろうとしていることは、安全規制を変えるといったようなことではなく、地元自治体の避難計画の策定の支援とか、事業者と地元自治体のコミュニケーションのある意味第三者としての仲立ちというところだと理解を示しています。

松久保:

竹内さんのおっしゃるとおりで、これまで原発の維持費に莫大なお金を電力会社が投資してきたことは事実です。電力会社の投資した金額は、当然ながら電気料金に加算されて私たちが負担しています。総額を計算したんですけれども、2011年から2020年までに17兆円、私たち原発の維持費に払っているわけですね。これは運転していない原発も含めて17兆円ということで、運転していない分だけだと大体11兆から12兆円ぐらいということになります。同じ期間のFIT(再エネ固定価格買取制度)の賦課金は13.6兆円ぐらいですが、私たちは動かない原発の維持費を払っている分、電気代が高くなっていたとも言えると思います。今回、需給逼迫で問題になっている点は、10年に一度の猛暑などの際に不足するピーク時の電源の話になってくるわけですよね。そういうことを考えると、原発の再稼働よりも、むしろディマンド・レスポンス(消費者が賢く電力使用量を制御することで電力需要パターンを変化させる仕組み)みたいな形の需要削減の対策を取ったほうが適切な対策なんじゃないかなと思います。

(再稼働の実現性は)

橘川:

再稼働は、独立性の高い原子力規制委員会が決めることであって、政府が決めることではない。ただ、(来年の夏以降に再稼働を目指すとした)この7機はすでに規制委員会の許可が下りていますので、可能性はあるのですが、実際には来年中に間に合うのは、高浜の1・2号機だけだと思います。柏崎刈羽は東京電力の不祥事で許可が凍結されていますし、東海第二は裁判で止まっている状態です。ほかの2か所は工事が間に合わないという状況なので、本気で政府がこれを来年までに動かすんだったらもう既に動いていなければならないと思うんですけれども、具体的な動きが感じられません。だから実際に電力不足だから原子力を使うという話はよくわかるんですけれども、来年の電力不足には原子力は間に合わない。結局火力で乗り切ることになるのではないかと思います。

西村:

このエネルギー需給のひっ迫、この数年が最も厳しいと予測されますけれども、さらにロシアのウクライナ情勢をはじめとしていろんなことが起こり得ますので、まだしばらく続く可能性があります。そういう意味で、当面、10基動かせるということは確保しておりますが、いまお話のあった7基は、世界で最も厳しいといわれる基準を満たした規制委員会の許可を取った7基でありますので、この7基の再稼働を目指して地元の皆さんの理解を得るべく全力を尽くしていきたいと思っております。その中には、東京電力の不祥事もありましたので、もう徹底してそうしたミスがないよう緊張感を持って取り組んでくれということを、会長、社長にも私から強く申し入れをしているところであります。その上でさらに審査中のものが10基あります。これは規制委員会が審査をしてくれておりますので、電力会社の事業者の方も真摯に対応し、またコミュニケーションをしっかりとって審査に対応し、その上で稼働も目指していくということで、エネルギーの安定供給の観点からぜひ再稼働を目指していきたいと。安全性の確認できたものは再稼働していく、こういう方針で臨んでおります。

(住民の避難計画については)

西村:

避難計画につきましてはそれぞれの自治体で対応してくれておりますけれども、私ども国も前面に立って、全面的に協力しながら、さまざまな経路の設定あるいは必要な支援策も含めて対応しているところでありますし、これからも自治体、そして地域住民のさまざまな皆さんの声を聞きながら対応していきたい、こういうふうに考えております。

このあとの議論は⇒「②運転延長 次世代原子炉は」