2023年4月16日放送①「広がるAI=人工知能」①私たちはどう向き合う?

NHK
2023年5月8日 午後0:00 公開

急速に進化するAI=人工知能。言葉で質問すると、会話をするように自然な答えを返してくれる対話式AI「ChatGPT(ちゃっと・じーぴーてぃー)」の登場が世界に大きな衝撃を与えています。私たちの暮らしや社会を大きく変える可能性がある一方で、教育や雇用などへの影響を懸念する声も上がっています。私たち人間は、AIとどう向き合えばいいのか、様々な分野の専門家が議論しました。

この後の議論は⇒「②働き方は・雇用は」

【出演者 右から】

東京大学大学院教授 松尾豊    日本におけるAI研究の第一人者

駒澤大学准教授     井上智洋   AIと経済・雇用の関係を研究

教育評論家       尾木直樹   AIが子ども・教育現場に与える影響について発言

山口大学教授      小川仁志   専門は政治哲学・公共哲学

東京大学大学院教授 板津木綿子  ジェンダーやマイノリティの観点からAIを研究

●AIは社会をどう変えるか

いま急速に普及する対話式AIはどんなものなのか。「ChatGPT」に、例えば「『桃太郎』の読書感想文を書いて」と入力すると…

このように、即座に人間が書いているかのような自然な文章を作ってくれます。

このChatGPTは、人間の脳の仕組みをヒントに作られた「ディープラーニング」という技術を応用しています。

インターネット上などの3000億語以上ともいわれる膨大なデータを学習していて、学べば学ぶほど、より精度の高い判断ができるようになります。これによって、文脈まで考慮した、まるで人間が書いたかのような文章を生成することができるようになっています。

(最新のAIはどこまで人間の知能に近づいている?)

松尾:この対話型AI、非常に高い能力を持っていまして、従来の自然言語処理、要するに言葉で聞いて言葉で答えてくれる、そういった性能を非常に飛躍的に向上させています。どこまで人間に近づいているか。これはなかなか難しい質問ですけれども、従来よりは、だいぶ人間に近付いている。言葉で会話する、言葉でいろんなタスクを行うという範囲においては、もう相当人間に近いところまで来ている。あるいは、クリエイティビティー(創造性)が高くて、そういった観点からはもう人間を一部超えていると言ってもいいかもしれないという状況だと思います。

(社会への影響は)

インターネットの登場とかコンピューターの登場、あるいは、内燃機関、自動車の登場。かつては印刷とか農耕技術とか、そういったものに匹敵するような人類史上でまれに見る発明の1つではないかなと思います。

(AIの普及による社会への影響は)

尾木:これは本当に絶大っていうかね、測ることができないぐらい社会への影響は大きいと思いますよね。僕らは教育の領域だけ見ても、例えば、役に立てる事で言えば、特別支援学校、そこの教育はもう飛躍的に強化された。目で追っかけていくだけで、ちゃんと文字を出してくれたり、音声を出したりとかね。それから悪いほうでいうと、LINEが登場してからほとんど子どもたちの生活をLINEが支配するようになって、今いじめの事件なんかもですね、ほとんど8、9割LINEの中ですね。だから、親とか学校の先生、見ていても見えない世界でやられてしまう。そういう状況があったりして、甚大です、これは。

小川:私はそれほど大騒ぎすることではないのではないかと、いまは思っています。少なくとも、きょう、私の代わりにAIが来ているということはないですし。つまり人間に匹敵するような意識を持った自立型のAIはまだ登場していませんよね。中騒ぎぐらいしたほうがいいかなと思っている。それはどういうことかと言いますと、かつてフランスの哲学者パスカルが、「人間は考える葦だ」と言った。(AIは)「考える葦もどき」くらいにはなったかなと思っていまして、先ほど松尾先生も言われていましたけど、考えるという点において、かなり人間っぽくなってきているわけですね。それがきっかけとなって、今、人間の価値って一体何なんだろうか、「考える」ということが強みだったのに、それはどうしたらいいのだろうかということが大きく問われるべきだという意味においては、ちょっとくらい騒いだほうがいいかなというふうに思っています。

板津:私もかなり期待していいところはあるんじゃないかなと思っています。過去にもChatGPTのようなチャットボットはいくつかありますけれども、それと比べても、ヘイトスピーチを学ばなくなっている、そういう人権を尊重するような仕組みがちゃんと埋め込まれているというところが非常によいと思いますし、そういった安全性が高まることによって、さらに使用が広まるかなと思っている一方で、松尾先生が今おっしゃったように、やっぱり人間側が正確に言語化して、AIにやってもらいたいことを伝えなければならないという意味では、人間の言葉の力もこれから試されていくかなと思っています。

井上:2016年のAIブームの時に、AIが人々の仕事を奪うようになるのではないかと言って、そんなわけないだろうと叩かれたんですけども、その危険というのが現実のものになってきたと考える人が増えてきているかなと思います。ただ、ChatGPTにしても、人間のようにものを考えているわけではないと私は思っていまして、ただ表面的に言葉を組み替えているだけ、というふうに私は思っているんですが、それでも一部、人間を超えるような能力を発揮し始めたということで、働いている人たちにとっての脅威というものが現実になっているかなと思います。

(いまのAIにできることは?できないことは?)

松尾:このChatGPTがどのぐらい影響を与えるか、いろんな意見があると思うんですけれども、ひとつは、学習の仕方は人間と違うんだけれども、相当、人間と近い概念を学習してしまっている、ということです。これが例えば「上司とつきあうにはどうしたらいいか」であるとか、あるいは「書類を作るにはどうしたらいいか」、数学の概念、そういうのも含めて相当なところまで学習している。一方で、やっぱり人間と違う面もありまして、人間のように、こういう実世界で何か活動するのは、ロボットじゃありませんからできないんですよね。それから例えば、上司と仕事をするといっても別に上司と話したこともないし、ペンを握ったこともないわけです。そういった、やっぱり言語の空間だけの知能であるというところは違うということだと思います。

(AIが「できること、できないこと」をふまえて、どう対応すべき)

尾木:入力したり聞いたり、人間が言語を通してやるわけですね。そこの力量が相当問われるだろうと。先ほどの桃太郎の感想にしても、「小学1年生なんですけど」という条件を設定すると、また全然違う答え方になってきますし。それが「60歳の高齢者で、何回も今まで感動しているんだけど」と入力すれば、また違ってくる。そういう条件設定でも変わってきますから、聞くほう、相談する側の力量が相当影響してくるなと思っています。

●教育現場・学びへの影響は

急速に進化するAIとどう向き合っていけばいいのか。教育現場ではChatGPTの利用について影響を懸念する声が出ています。東京大学は、学内向けのホームページで見解を発表。「学位やレポートについては学生本人が作成することを前提としているので、生成系AIのみを用いて作成することはできない」などとしました。

また上智大学は「レポート・小論文・学位論文等において使用が確認された場合は、厳格な対応を行う。教員の許可があればその指示の範囲内で使うことは可」などとする方針を示しました。

こうしたなか、文部科学省は、国内外の事例を集めた上でChatGPTをはじめとするAIの学校現場での取り扱いを示す資料をなるべく早い段階で作成する方針です。

一方、開発したアメリカのベンチャー企業のCEOサム・アルトマン氏は、NHKのインタビューで「ChatGPTは教育を破壊するという指摘もあるが、教室で禁止すべきではないと思う。新しいツールを使用すれば新しい方法で学ぶことができる。電卓が登場した時のように、その使い道を考えるべきだ」と述べています。

(教育現場での懸念をどう考えるか)

尾木:成果物だけで評価するとか単位を認めるとか点数をつけるという方式は、もう成り立たなくなると思います。特に通信教育なんかは大変だと思いますよね。全部、成果物ですから。ChatGPTで聞いていけば、もう即座に答えが出るわけですから、それ提出しても分からないわけですから。それを評価する側の先生方の力量も当然問われてくると思うんですね。だから、評価の仕方を工夫しないといけないなと思います。例えば、そのプロセスを全部報告することとか、あるいは、資料とか何かを読解しなければできないような問題を与えるとか。だから大学の入試問題とか、いろいろ小さなテスト類も相当変わってくる。今までと同じようにマンネリズムでやっていると、教授の方が学生に置いてきぼりになると思いますね。

板津:多少、パニックに陥っている方もいらっしゃれば、そうでもない方もいらっしゃれば、本当にいろいろだと思います。けれども、私の授業に関して言うならば、学術的な倫理を守れるような範囲で、AIあるいはChatGPTを使ってもよいというふうに伝えています。具体的な使い方に関してはこれから一緒に相談していこうっていうふうな、そういうスタンスで今おります。

井上:AIを使いこなしていくべきだという考えの人と、AIを使わずに自分で考えるべきだという人と、両方いると思うんですけれども、私は両方正しいと思っています。電卓の話がさっき出てきましたが、電卓にしても電卓を使いこなせることは大事ですけれども、それとは別にちゃんと九九を覚えたり、手で計算するということもわれわれはやっているわけですから。大学のカリキュラムの中で「この授業はもうAIを徹底的に使いましょう」、あるいはこの授業の場合には、例えば期末テストとかであれば「持ち込みは全部不可です、全部自分の頭で考えて論述問題をやってください」というふうに、自分の頭で考えて答えを出すということも一方で必要かなと思っております。

小川:特に大学レベルの教育になると、基本的には、いかにその既存の知識や考え方を超えていくかということが問われてくるわけですね。ですから、ChatGPTとか生成AIを使うというのは、パソコンを使うのと同じぐらいのレベルで、それをいかに超えるかというところを私たちは教育していかないと。これを使ってはいけませんというのは、もう教育の敗北だと思いますね。だから、私とかだったら例えば、ChatGPTが出した答えを1回見せて、「はいじゃあこれを超えてください」という風にやるわけですね。それはやっぱり人間というのは、それができる能力があると思うんですね。私たちがちょっと今そこを軽視しているだけで、論理的にものを考えるということだけが考えるということではないわけですね。私、哲学が専門だから特にそういうことを意識するんですが、それはもう浅い思考であってね。私たちはもっと深くてぬくもりのある思考をしていかないといけないと思いますね。

松尾:短期的にはいろんな問題が出てきますし、きちんとルールを作っていかないといけないということだと思いますね。ただ中長期的に考えると、教育の現場がAIを活用することで、もっともっとよくなっていくと思います。例えば私の研究室で、学生はこれ非常にエキサイトしていて、このChatGPTでいろんなものを作れちゃうと。例えば授業のスライドを入れると、瞬間的に確認問題を作ってくれるというようなアプリを作っているんですね。そうしますと、確認問題、演習問題って教員にとって結構作るのが大変なんですね。それを全部、毎回講義の終わりに自動的に作ってくれれば、その時点で理解度をチェックできる。それからChatGPTに今度教えてもらう、自分が分からないところ、分からない概念も含めて教えてもらうことができますから、従来に全然ない教育の仕方というのができる可能性もあるということだと思います。

(情報の信頼性、再現性のなさは)

松尾:再現性は、実は確保しようと思ったらできます。(ChatGPTは)わざとランダムな要素をシステムに入れていまして、それで毎回違う答えが出るようにしていますので、そこは今後、例えば「これは教育目的に使う、それで再現性が大事だ」というふうになれば、技術的には可能です。それから、内容の正しさが確保されていないことがある、嘘をつくって言いますけれども、ここも技術的にいま一生懸命、いろんな人が開発しています。いずれよくなってくるとは思います。ただ一般的には、こういったAI。使う側がしっかりリテラシーをあげて、正しい情報が必ずしも含まれているわけではないということを理解した上でしっかりチェックしていくことが必要だと思います。

(人間が身につけるべき能力は)

井上:私は、アイデアは即プロダクトっていう言い方するんですけれども、いま例えばこういう絵本を作りたい、こういうアプリを作りたいというアイデアがあれば、それをすぐ形にできる。AIを使って形にできる、そういう時代に今なってきている。そうすると、アイデアを出すところがかなり重要になってくるということなんですね。画像生成AIなんかもありますので、その絵本に必要な絵だったら画像生成AIで作れるし、絵本の文字、文章の方はChatGPTで作れますということで、組み合わせるとすぐに絵本が、30分ぐらいで出来てしまう、そういう時代なんですよね。アイデアが大事だということがひとつと、あと今のAIの延長上では、意思とか体験とか価値判断というのが基本的にはできないと私は思っているんですけれども、そういうものを育んでいくということが必要かと思っています。

板津:知識の獲得という意味では、コンピューターと人間だけでできることが結構あるかもしれませんけれども、やはり学校とか大学という現場で、人々が集まって何か議論するということは非常に大事なことでして、そこに批判的な思考の養いですとか、あるいは民主主義国家における市民教育といったようなことは、AIと何かするという事では学べないことだと思いますので、そういう意味では、そういった力ですとか、あるいはディープフェイクの問題がありますよね。AIが作ったものが本当かどうか分からないという問題がありますので、そういったものをちゃんと人間の方が評価できる、調査できるという、そういう力が必要になってくるかなと思っています。

小川:可能性ということで言うと、ますます人間が人間らしさを追求していけるきっかけになるのではないかなと思っているんですね。で、人間らしさって何なのかということを考えた時に、私はさっき、「深くてぬくもりのある思考」っていう表現をしたんですけれども。それは皆さんが言われているような、知識を超えて批判的に考えるとか、あるいはさっき井上さんが言われたように、人間しか持っていない経験とか体験とか、意思とか意欲とか、そういったものを活用するということだと思うんですよね。これも板津先生も言われましたけれど、人間が多様な経験の中で、人間らしい生活の中で、コミュニケーションを通して、あるいは失敗を通して学んでいくことなのではないかなと思います。

(体験や経験 教育現場では)

尾木:実は2020年からの学習指導要領では、そこへシフトしたんですね。しようとしたんですけれども、コロナの影響で足もとをすくわれて、時間数だけとか形だけにとらわれる傾向がちょっと強くなっていて、この新学期からはまた戻っていけるのではないかなと期待していますけれども。だからやっぱり、体験とか経験とか、文部科学省的な言い方で言うと「アクティブラーニング」という言葉を使っていますけれども、本当にアクティブに、自分一人だけではなくて仲間たちと、あるいはパソコンも使ったりして、いろいろ幅広くリサーチしていく、そして新しい価値を生み出すと。これまでの検索で出てくるような答えではなくて、新しい価値、新しい概念を出していこうというのが国際的にも新しい学力だと位置づけられている。

この後の議論は⇒「②働き方は・雇用は」