5月31日、北朝鮮が軍事偵察衛星を搭載したロケットを発射し、失敗。日本政府は2回目の発射が近くあるものと警戒を強めています。北朝鮮の思惑をどう考え、拉致問題を解決しなければならない日本はどう対応すべきか。前半は今回の“軍事偵察衛星”発射から見えてきたものを専門家が読み解きます。
【出演者】(左から)
江藤名保子さん(学習院大学教授)中国政治や日中関係が専門
伊藤俊幸さん(金沢工業大学虎ノ門大学院教授)元海将
平岩俊司さん(南山大学教授)朝鮮半島の政治外交が専門
道下徳成さん(政策研究大学院大学教授)アジア・太平洋地域の安全保障が専門
藤崎一郎さん(元駐米大使)
このあとの議論は ⇒⇒「徹底分析・北朝鮮 “軍事偵察衛星”のねらいは(後半)」
北朝鮮は5月29日、31日から6月11日の間に衛星と称する弾道ミサイルを南の方向に発射することを予告、31日午前6時27分に予告した方向に発射しました。しかし異常が発生して朝鮮半島西側の黄海に墜落し打ち上げに失敗したと発表しました。北朝鮮は原因を調査し可及的速やかに2回目の打ち上げを行うとしています。
北朝鮮は、1990年代から宇宙の平和利用という主張のもと人工衛星の打ち上げと称して事実上の長距離弾道ミサイルの発射を繰り返してきました。2012年には発射に失敗した8か月後に再び打ち上げました。さらに前回2016年の発射の際には、国営テレビで特別重大報道として打ち上げ成功を大々的にアピールしました。これについて韓国国防省は、何らかの物体が地球を周回する軌道に乗ったものの、信号は確認されていないとしていました。
平岩:
2021年の第8回党大会で北朝鮮は国防力強化の方針を打ち出しておりまして、具体的には国防5カ年計画がそこからスタートするんですけれども、その中で今回打ち上げをしたという偵察衛星は重要な目標の1つだったわけですから、今回それを成功させたかったんだろうと思います。ちょっと注意しなければいけないのは、これまで衛星という形で打ち上げたものは、全て平和利用、宇宙の平和利用という名目で自分たちの行動を正当化してきたんですけれども、今回は「アメリカとその追随勢力が敵対的な行動を行っていることに対する対応である」という軍事面を強調した形で自分たちの行動を正当化するというところがあり、北朝鮮自身が去年ぐらいから核の先制使用も含めて、攻撃的な部分を出しているので、その辺りとの連携で非常に気になるところだと思います。
藤崎:
北朝鮮は体制維持ということが一番大事ですから、そのために虎の子というか、核戦力を持たなきゃいけない。そのために弾道ミサイル、核弾頭、そしてこの今の軍事衛星、これはもうとにかく作ろうということで進んでいるんだろうと思います。なぜかというと1つはトランプ政権がもし出てくるとやりにくくなってしまう。予測困難で抱きついてくることもあるしあるいは怖い面があるかもしれない。バイデン政権の場合、かなり予測できますよね。もう1つは、米中ロ関係が良くないために今国際社会から何の制裁も受けない。今まで11回安保理決議出ていますけど、今回何にも出ない。そういうことは見越していると思います。それがメインではないと思いますけどね。
伊藤:
ミリタリーの側面から見るとこれは2年前の5か年計画を淡々粛々とやっていると。政策部門としてはですね。ですから特に軍事衛星、偵察衛星が入っているので、これを今回は打ったという事だと思います。
先ほどあったように、人口衛星と称して4回沖縄のほうに打っているんですね。ですからこれまでも3回やっているわけですよ。私、現役の頃もそこはウォッチしていましたし、実際にあのときは2012年は1回失敗してすぐ打ち直して、その後16年は一応軌道に乗せたと、上から音楽が聞こえるとかですね、よく分からないようなこと言っていましたけど、まあ1回は成功しているんですね、軌道に投入するのを。だから今回もそれを狙ったんでしょうけど、2段目の発射で点火しなかったということですので、失敗したということだと思います。
(これまでの発射との違い)
伊藤:
一番の違いは本当に軍事偵察を打とうとしているということだと思います。よく皆さんがこれは長距離ミサイルのためだっていうんですけど、そんなの前から当たり前の話であってずっとやっているわけですよ。でも今回は本当に衛星を軌道に乗せようと思って打っているということだと思います。
道下:
私はやはり目的は2つ程度あると思っておりまして、1つは軍事偵察衛星の打ち上げということで、話によっては北朝鮮の偵察衛星というのはGoogleマップより解像度が悪いんじゃないかという見方もありますが、やはり独自の衛星を持つということは、自分が見たいものをちゃんと見ることができる。もちろん中国やロシアにくださいと言って写真をもらうことはできますけど、くれるかどうかわからないので、やはりそこは重要な目的だったと思います。もう1つが、実は軍事的にはより重要なんですけれども、衛星打ち上げロケットは事実上かなりICBMという大陸間弾道ミサイル、アメリカの本土を攻撃できる可能性があるミサイルの飛翔実験に似たような側面を持っておりますので、今までは遠くまで飛ばしていなかったんですね。日本海とかに落としていたものを遠くに飛ばすというのは、これはかなりアメリカにとってのメッセージにもなるということだったと思います。
(どの程度の脅威か)
道下:
軍事偵察衛星1基だけですと非常に見られるものも見られる頻度も限られていますので、それだけが日本や韓国にとっての脅威になるということはありません。実際、私もアメリカの専門家にこの打ち上げがあった後話したんですが、衛星自体ははっきり言ってあまり脅威ではないと、けれどもこのロケットをICBMの飛翔実験と似たようなことを行ったと、それが重要なんだという見方をしておりました。
(中国の受け止めは)
江藤:
中国はミサイル発射実験のときから一貫しておりますが、北朝鮮の安全保障上の懸念を理解すべきだという擁護の姿勢を見せております。この点に関して加えて、アメリカと北朝鮮の信頼醸成に失敗しているじゃないかということで、アメリカの責任に言及する発言というのも明らかに出ておりますので、これはロシアとウクライナの問題で、ロシアを擁護する際に中国が用いる言説に非常に似通った部分がございます。国際社会におけるアメリカの責任というのを、この問題に乗せて追求している部分があるかと思います。
(失敗の原因は)
伊藤:
先ほどありましたように、今まで2回軌道に投入成功していますので、一応2段ロケットを噴射する能力はあるんだと思うんですね。ところが今回失敗したということは、そこの信頼性が低いということだと思います。あるいは今回、固体燃料を新たに使ってやろうとしますから、その実験をしているのかもしれませんし、いずれにせよ今まで2回投入はできるんで、成功はしているんですけど、今回失敗したのは、技術が確立していないということがあると思います。今回はどうも韓国の報道などを見ると、早くやれと言うことを金正恩から言われて、本当は軍部は6月入ってから打つつもりだったのが、5月中に打ってしまったということで、しっかりした燃焼試験をやっていなかったんじゃないかと言われていますね。
(2回目の発射は)
平岩:
2回目に関しては、伊藤先生からご指摘あったように、2012年4月に1回失敗をして、その後技術改良をして、その12月に成功させているんですけれども、それぐらい時間かかるものなんだろうと思うんです。ですから仮に今回の失敗を前提として、改良して次の発射というと少し時間かかるはずなんですけれども、同時に幾つか準備をしているという可能性もあるし、今通告している期間内にやれば、国際社会あるいは関係機関への通告も必要ないということになるのかもしれないですけどね。
道下:
本当にどうなるかわかりませんが、例えば2回目の実験を早めにして失敗するというようなことが起こったとすると、ひょっとしたら政権内で何らかの政治的なプレッシャーがあって、本来であればもうちょっと技術的にしっかり詰めてから再度発射するというのを急いでしまっているということが分かるかもしれませんし、そういう意味でも2回目の発射のタイミング、そしてそれが成功するか失敗するかっていうのは今後非常に興味深い点だと思います。
伊藤:
一説によると、今回2発用意していたというのもありますので、そうであっても普通1回失敗すると、数か月研究するんですけど、あの国ですから、やれと言われたらやるということで、もしかしたら準備していた2発目を打つという、別のところの発射台がもう動き出しているっていう話もありますので、可能性はあるんだと思いますね。
(バイデン政権の受け止めは)
藤崎:
2017年の火星15号っていうのがICBMになりましたね。1万3000キロとか、東海岸にも届くという状況になってから、トランプ、バイデンと本気になってきたんだと思いますね。正直言うと、中距離ミサイルとか短距離ミサイルであれば自分とこには来ないと思ったけど、もう届くようになってきたんで、この政権も極めて熱心だと思います。そして北朝鮮との間で、CSIS(戦略国際問題研究所)のレポートなんかでは、20回ぐらい協議を申し入れているけど、北朝鮮側が相手にしてないんだっていう話ですよね。ですからこの問題は放置できないなと考えていると思います。1ついい点は、よく日本側と協議してくれるということで、やっぱり前の政権ではクリントン政権のときもあるいはブッシュ政権のときも、北朝鮮と協議してからブリーフしてくれるっていう形でしたけど、今は先に日米韓でやっていこうと機運ができているのは非常にいいなと思っています。
(ムン政権は)
平岩:
もちろんアメリカ、日本と同じように、北朝鮮の行動に対して警戒をし、なおかつその日米韓の協力関係ってものを強めて強化していかなければいけないという、そういうような受けとめ方なんだろうと思います。ただ同時に、韓国は実際にその北朝鮮が発射したもの、失敗したものを回収していますので、これを技術的にどれぐらいのレベルにあるのかっていうことを今一生懸命精査しているところなんだろうと思います。実際、韓国は、5月ですか、自分たちも偵察衛星を打ち上げていますので、その比較で北朝鮮とのその技術の比較にも関心があるようですし、専門家はもちろんそうですけれども、一般の受け止め方としても、やはりそういう自分たちは成功したけれども、北朝鮮は失敗したんだというような、そういう受け止め方をしているように思いますね。
(中国の受け止めは)
江藤:
安全保障上の日米韓の結びつきが強まるということに関しては、その背後に北朝鮮の背後に中国を見ているだろうということで警戒感を強めていると思います。また同時に、シャングリラ会合(アジアや欧米の防衛担当の閣僚らが参加するアジア安全保障会議)においても日米はオーストラリア、フィリピンとも会合やっておりますので、いっぺんにアメリカ側からの枠組み作りが進んでいるようにも受けとめている部分があるかと思います。中国からしてみれば、北朝鮮に対する擁護は中国ロシア一体となってやっておりますので、これはアメリカとの関係を見据えた上での国際戦略上の動きであるととらえることができると思います。
(北朝鮮の戦略は)
道下:
戦略という大きい話はちょっと分からない部分もあるんですが、今後の手といいますか、打ってくる手という可能性を考えますと、今回はですね、ある意味非常に挑発的な行為ではあるんですが、ちょっと寸止めしている部分もありまして、それはどこかといいますと、ICBMを本当にミサイルとして弾道っていうか爆弾がついている部分も搭載したミサイルを太平洋側に飛翔実験をしているわけではないということですね。ですから今回のミサイルを使って攻撃はできないわけですね。ですからそこはまだ少しアメリカを刺激しないようにしているという面があります。ただですね、これはですから抑制されているとも見えるんですが、逆に言うとですね、次の一手がまだあるということで、それは何かというと、本当に爆弾を載せることのできるICBMを太平洋側に例えば向けて日本を越えて打つとかですね、それが来るとかなりの脅威が上がるということになってくると思います。
(北朝鮮の国内事情・経済状態は)
平岩:
そうですね。国連の制裁で外国に送った労働者の賃金を本国に送ることも制限されていますし、地下資源を外国に輸出してその資金を得ているということが言われているんですけれども、それを国連は制裁で止めようとしているんですけれども、やはりなかなかうまく止まってない部分というのがあって、依然としてそういうような外国からの資金流入があるというのが一点と、それから最近の特徴では国連の報告などによると、IT技術者を海外に派遣して国籍を偽って、その資金をまた本国に送っているというようなこともあるようですし、さらに一番問題なのは、サイバーなどで非合法の形で資金を得ていると、そういうような形で得た資金をミサイル発射に使っているということなんだろうと思います。いずれにせよ、北朝鮮の人たちは随分被害に遭っているということになるだろうと思いますけどね。
(中国の支援は)
江藤:
中朝間の技術、軍事力の支援というのは明白にわからないところがあるんですが、1つはっきりと統計上も現れていることは、昨年来、中国は食料支援を北朝鮮に大量にしております。この1月から3月期というのは特に穀物ですね、米、小麦などの穀物、非常にたくさん北朝鮮に輸出していたという貿易、国境貿易の結果が出ておりますが、それが4月にはどうも減ったらしいと、4月の総額としては増えているけれども、そのうちの食料が占める割合は減っているということで、おそらく北朝鮮の食糧事情がやや落ち着きを見せているのではないかということが考えられております。こうした形で、中国が北朝鮮を経済的、社会的に支えている側面は考えられるんだと思います。
(金総書記の体制は)
平岩:
今の金正恩総書記のおじいさんの金日成であるとか、あるいは父親の金正日総書記の時代とは随分体制がこう変わってきていて、失敗に対して懲罰を与えるというよりは、むしろその成功に大切な褒美を与えるような形に変わってきている部分があると思います。同時にご指摘の例えば娘さんであるとか、あるいはその妹の金与正さんなんかが表に出てくるというのは、北朝鮮の政治体制を考えるときに、そういういわゆる権力構造と同時に、いわゆる権威の部分というのが必要で、いわゆるこれ白頭の血統といってですね、金日成、金正日、金正恩とつながっていく血統ですよね。ここの部分が非常に重要ですので、これを前面に押し出した体制ということになるんだろうと思います。例えば軍に娘さんを連れていくということも、これは我々からすると少し違和感があるんですけれども、でも恐らくその北朝鮮で言えばいわゆる軍に対する慰問のような意味合いもあるんだろうと思います。
6月2日から4日までシンガポールで開かれているアジア安全保障会議。これに合わせて3日に行われた日米韓3か国の防衛相会談では、ミサイル発射に関するデータをリアルタイムで共有する仕組みについて、年内に本格的な運用を開始することで合意。
さらにミサイル防衛などの訓練を定例化させることや、アメリカが核戦力を含む抑止力で同盟国を守る拡大抑止の必要性についても確認しました。
一方2日に開かれた国連の安全保障理事会の緊急会合では、今回の発射について各国から安保理決議の違反だと非難する意見が相次ぎましたが、中国とロシアは周辺地域で軍事的な緊張を高めているのはアメリカだと反発し、今回も一致した対応を取ることはできませんでした。
道下:
中国の脅威ですとか、北朝鮮の軍事的な脅威度が増す中、日米韓の安全保障協力が強化されているというのは、大変幸いなことであると思っております。具体的に申しますと、去年からかなりもう具体的な協力のための動きがありまして、昨年の8月には、ハワイの近くでミサイル防衛のための訓練を日米韓、そしてオーストラリアとカナダも参加して実施しておりまして、さらには9月には、日本海で対潜水艦戦訓練という、潜水艦をやっつけるための訓練もやっております。今回合意が発表された、年末まで北朝鮮のミサイル発射情報の即時共有も、既に議論されていたことなので、このタイミングで、よいタイミングでの合意を発表することができたということだと思います。
(中国は)
江藤:
中国側からしてみますと、中国の論理の一貫性、これを壊すことなく自分たちが国際社会の中で、特に国連の機関の中で、ある種の正義というものを打ち出していくんだということも目的としております。その議論の中における、この北朝鮮の安全保障上の懸念を考えるべきだ、あるいは軍事演習をしているのはアメリカと韓国ではないか、あるいはアメリカは、原子力潜水艦をオーストラリアに撤去することによって、核の拡大をやっているではないか、こういった指摘は、事実ではあるわけですね。ただその、議論の立て方が、中国というのはその前に北朝鮮がミサイル発射をたくさんやっているからこそ演習をしているんだという形では論理を組み立てないと。こういった中国独自の論理を国際社会に納得させるための便法として使っているわけですが、誰がどのようにこれを受け入れるかということは、パワーの問題、力が強い方の意見がくみ取られると考えている部分がありますので、力の競争と言説の競争というものをいっぺんに進めている状況です。
(国連の機能不全は)
藤崎:
これは今の国際状況ではやむをえない、中国とロシアがね、全くアメリカと協力しないわけですから。ただ、かつては中国もね、6者協議の議長をやりましょうとか、朝鮮半島の非核化賛成ですということ、立場を貫いているんですよね。ですから、どうしてこんなに北朝鮮、続けられるんだろうっていうのは、北朝鮮の貿易の9割が中国から来てるわけですね。中国が本気になってしめ上げてはいないわけで、やっぱり中国が協力してくれるという体制に持ち込まないといけないんだろうなと。そうでないと北朝鮮はいつまでたっても、それはこっちが、自分の自由で行動すると、ますます今、そういう状況になってきているということじゃないかなと思いますね。
(日本の役割は)
藤崎:
僕はね、今日本の役割ってこの場合大きく2つあって、1つは非核化のメッセージを出せましたね。もう1つはね、アジアの民主主義ですね、これについて、アメリカは少し厳格な形の民主主義サミットをやっていますよね。例えば、韓国も共同ホストでやっているんですけれども、タイとか、あるいはシンガポールも呼ばれない恰好、そういうことに対して、日本はもっと包摂的なというか、もっとみんなに開いた形の民主主義っていうものを訴え続けていくために、日本の役割というのはかなり大きいんじゃないか。おそらく、日本はそういうイメージ出せているんじゃないかなと思います。この前のサミットを通じても。
(北朝鮮への圧力と対話は)
伊藤:
私はまさにそこが一番問題だと思っていて、本来、圧力と対話ですね、右手で握手しながら左手で銃を構えると、これが大国の外交なんですけど、どうも最近は圧力だけで、こちらの握手がないんですね。で、私は先ほどの意見とちょっと違って、ICBMがアメリカに届くなんて、アメリカは誰も思ってませんよ。そんなこと。軍人は特に。それだけ本気で交渉に臨む気がないような気がして、その部分が危ないんですよ。バイデン政権もそうです、前のオバマ政権もそうですから、2010年ですか。延坪島とか天安というコルベット艦(軍艦の艦種のひとつ)が攻撃されるという挑発が起きたんですけど、私はああいったことが起きるんじゃないかという心配があるんですね。要するになにもアメリカがとらない結果、その時に戦略的忍耐といって何もしなかったということの結果、挑発行動によって韓国人が亡くなるという事件になったので、私は非常に危険だというような気がします。
(北朝鮮の挑発への対応は)
平岩:
今のユン・ソンニョル政権のいわゆる外交安保方向の姿勢を見ておりますとですね、北朝鮮の挑発行為に対して1歩も退かないと、むしろより強硬に対応するというような姿勢が見えておりますので、若干危険なのは、そういう緊張がエスカレートしていく可能性、危険性というのはあるわけで、伊藤先生ご指摘のように、その先にかつての哨戒艦沈没事件のような問題が起きたり、あるいはご指摘の延坪島砲撃事件、あのときは民間人まで被害が出たわけですから、そういうような緊張が高まっていく可能性というのが、ないとは言えないんですけれども。今回はですね、日米韓で、とりわけ日本がかなり大きな役割を果たしておりますので、日本側がそこら辺も含めて調整役に回っていって、もちろん圧力は必要なんだけれども、過度にその緊張が高まらないようにするということなんだろうと思いますね。
(アメリカの関わりは)
藤崎:
私は薄れているとは思いません。むしろやっぱり、だんだん延伸が、ミサイルが伸びてくると、届く距離がグアムに来る、ハワイに来る、アメリカ本土に来るということで、やっぱり脅威感は増えるんじゃないかなと思いますから、むしろ冷戦のときに比べるとですね、例えば冷戦時代、ヨーロッパでね、ロシアが「SS20」っていう中距離ミサイルを東欧諸国に配備するというと、西側の国は、それはアメリカに届かないから困るといって、じゃあ自分たちのところに、アメリカ、中距離ミサイルを置いてくれという話があったように、むしろ、やっぱり距離はかなり大きな意味があって、私はアメリカにとっては、かなり今、だんだん北朝鮮の問題は本当には放置できない問題になっている。昔は移転の問題ととらえていたけど、やっぱりだんだんそうはとらえられなくなっているということじゃないかなと思いますけどね。
(北朝鮮との対話は)
伊藤:
先ほど藤崎先生はですね、アメリカはトライしているけど北朝鮮側が受けないというようなお話があったんですけど、私は実はニューヨークに国連がありますので、そこに北朝鮮の国連大使がいるんですね。そこがアメリカとのパイプの役をずっとしていて、私がまさに駐在武官をやっていたころはそこでの動きがよく見えたんですけど、ここ最近、バイデン政権が全く見えないというのがあって。もう1つは中国にお願いしているという感じがあってですね、自ら進んで動いているようにはどうもなかなか見えないっていうのがあるのかなと、私は今思っています。
(中国は)
江藤:
中国はここ最近ニュースで皆様ご存じのとおり、調停外交というものを進めておりまして、ロシア、ウクライナの問題、アフガニスタンの問題、ミャンマーの問題といったところで、自分たちが対話によって平和を構築する役割を担うんだということを申しております。ですので、恐らく日本が北朝鮮との関係性、あるいはアメリカが北朝鮮との関係性を議論したいといったときに、中国はそれをサポートする用意があるとは答えるとは思います。また北朝鮮に対して、先ほど申し上げたように、経済的な影響力がございますので、その能力もある程度持っていると思います。しかし、それをこのタイミングで、中国が介在するということは、国際的にどういう意味を持つかということを考えた場合には、当面は難しいというのが実情だと思いますね。中国が恐らく介在した場合には、北朝鮮寄りの、ロシアに見られたような、北朝鮮をサポートする形での対話ということを導こうとすると思いますので、それが必ずしも地域における望ましい結果を導くとは考えにくいところだと思います。