2023年5月14日放送「G7広島サミット “核なき世界”への道は」(前半)

NHK
2023年5月19日 午後3:23 公開

5月19日から開かれるG7広島サミットは、核の脅威がかつてなく高まる中で開催されることになりました。番組では、サミット開催を前に、核兵器の廃絶に向けどんなメッセージが出せるのか、そして核軍縮を進めるために何が必要か、議論して頂きました。前半のテーマはサミットへの期待と課題、そして核兵器めぐる世界の現状をどう考えるかです。

【出演者】※左から

中村涼香さん(KNOW NUKES TOKYO代表)

川崎哲さん(核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員)

木戸季市さん(日本原水爆被害者団体協議会 事務局長)

樋川和子さん(大阪女学院大学大学院教授)

佐々江賢一郎さん(日本国際問題研究所 理事長)

このあとの議論は ⇒⇒ 「“核なき世界”への道は」(後半)

●広島サミット 期待と課題は

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア。プーチン大統領は9日、第2次世界大戦の戦勝記念日に合わせて演説を行い、欧米側を厳しく非難。記念の式典では、核兵器の搭載が可能なICBM(大陸間弾道ミサイル)「ヤルス」などの核戦力も披露されました。

ロシアは核軍縮に逆行する動きを続けています。今年2月、アメリカとの核軍縮条約「新START」の履行停止を一方的に発表。3月には同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を明らかにしました。

こうした状況の中で開催されるG7広島サミット。政府は、サミットの首脳宣言とは別に、核軍縮・不拡散に関する成果文書の発表を検討していて、核廃絶に向けた強いメッセージを打ち出したい考えです。また最終調整が進められているのが、各国首脳そろっての原爆資料館の訪問です。G7メンバーのうちアメリカ、フランス、イギリスは核保有国で、実現すれば初めてのこととなります。さらにこの訪問に合わせ、館内で被爆者との面会の機会を設けることも検討されています。

(被爆地・広島でサミットが開催される意義は?)

佐々江:

世界の安全保障の状況が、特に核をめぐって非常に厳しい情勢にある中、G7の首脳たちが危機認識を共有するということが第一だと思います。ひょっとして核が使われるかもしれないという、難しい安全保障状況にあることを認識した上で、しっかり現地で資料館を見たり、被爆者の方々と対話するなど実情に触れながら、決意を新たにしてもらうことが重要だと思います。その上で、じゃあ何ができるのかということを議論する。ウクライナの問題であれ中国であれ北朝鮮であれ、国と国との信頼関係が崩れてきているわけです。それを取り戻すにはどうしたらいいのか。安全に対する備えをしながら対話をし、関係をどうやって前進させるか。そのことも合わせて議論しないと、決意だけでは十分ではないと思うわけです。

(今回のサミットをどのような機会にしたい?)

木戸:

第2次世界大戦は原爆投下によって終わりましたが、もし第3次世界大戦が始まるとしたら核戦争で始まるのではないかと、非常に恐怖を抱いています。そういう中で、課題として3つほどお話ししたいことがあります。1つはG7に核兵器をなくすという議論が本当にできるのかという問題。2つ目は、核兵器とは何かということを日本被団協、あるいは被爆者がどうやって明らかにしてきたかという問題。3つ目に、世界の紛争を解決するのは武力ではなくて対話だということ。こうしたことを今日お話できたらと思います。

(原爆資料館の訪問や被爆者との面会については?)

木戸:

それについては日本被団協はすでに岸田首相に文書で要請しています。要請したのは、1つはとにかく核兵器廃絶についてきちんと議題を設けて議論してほしいと。もう1つは、資料館をじっくり見てほしいと。10分や20分ではなく、半日あるいは1日かけて、原爆が投下されたその下で何が起こったかをきちんと見てほしい。3つ目は、被爆者の話を聞いてほしいと。8月6日と9日には総理大臣が被爆者と懇談するのですが、広島では広島の、長崎では長崎の被爆者団体と話をする。全国の被団協の代表とは話をしない。だから全ての被爆者の声をきちんと聞いてほしいと思っています。

(広島サミット、期待と課題は?)

川崎:

核兵器が使われたら何が起きるのか。核兵器の非人道性ということを核の議論の中心に据える。そしてその認識に基づいて核兵器を全廃するんだと。そのために行動を起こす絶好のチャンスになると思います。重要なのは、G7のうち3か国が核兵器を持つ国だということです。残りの4か国も“核の傘”の下にある国ですから、7か国とも核兵器に依存した国なんですね。この7か国自身が今の政策を転換するということが重要であると思います。このサミットに招待されて来る国が8か国ありますが、このうち5か国はすでに核兵器禁止条約に署名、または批准している国なんですね。こういった国々としっかりと議論をして、世界に向かうべき方向を示してもらいたいと思います。

中村:

広島という土地は、核兵器がどういう帰結をもたらすのかということを最も深く知ることができる場所だと思っています。その場所に首脳たちが集まって、何を見、何を考えるのか。核の非人道性に焦点を当てた議論で5か国の首脳たちが足並みを揃えることが可能になると思っています。これだけ厳しい安全保障環境の中、核の非人道性に焦点を当てるのは意識してやっていかないと難しい。今回のG7サミットは、被爆の被害が直接目に見える所で行われるので、そういったところに期待したいと思います。

樋川:

G7には核兵器国と非核兵器国が両方入っている。それだけでなくて、第2次世界大戦の戦勝国と敗戦国が入っている。G7は本来は経済問題を話し合うためにできたグループですが、今回岸田総理のもと広島で開催されるということで、核軍縮・不拡散の問題が大きくハイライトされることになった。その意義は非常に大きいと思います。ウクライナ戦争が起こって一番懸念しているのは、世界が分断されていることです。必ずしも世界は一枚岩ではなくて、ロシアを非難する国だけではない。そういう中にあって、かつての戦勝国と敗戦国、核兵器を持っている国と持っていない国が集まったG7の場で、分断ではなく対話によって物事を解決できるのかというのを話し合う良い場だと思っております。私の期待は分断ではなくて対話。G7プラス小・大国で議論をすることができればいいなと考えております。

●核兵器をめぐる現状は

世界の軍事情報を分析するスウェーデンのストックホルム国際平和研究所によりますと、各国が保有する核弾頭の総数は去年1月時点で1万2705発。最も多いロシアは5977発、アメリカは5428発と、両国で世界全体のおよそ9割に上ります。中国は350発ですが、今後10年で大幅に増える可能性が指摘されています。これについてアメリカ国防総省は、2035年までにおよそ1500発を保有する可能性があるとしています。研究所は、『世界の核弾頭の総数は冷戦終結以降、減少傾向が続いて来たが、今後10年で増加に転じる』という見方を示しています。

(核兵器をめぐる現状をどう見る?)

川崎:

「終末時計」というものがありまして、人類の終末を午前0時に見立てた時に今何分前かというのを世界の科学者たちが第2次大戦後から毎年出しているのですが、今年ついに「90秒前」ということで、針が最も0時に近づいたんですね。1万2000発の核兵器がある中で、使われる危険性が高まっているということです。総数でいえば40年ぐらい前はもっとあったんです。6万~7万発。それは減ってきたのですが、核を持っている国々の指導者が、本当に信用できなくなってきているわけです。ロシアのプーチン大統領もそうですけれども、アメリカでもトランプ前大統領は連邦議会の襲撃を扇動したというようなことで、こういう人に核のボタンを持たせておいていいのかという議論がアメリカ国内でも起きている。核保有国の振る舞いをきちんとコントロールする枠組みが必要になってくると思います。

中村:

核兵器は不確実性が伴う兵器だと思っております。これまでにキューバ危機をはじめ核兵器が使用の寸前までいったケースは歴史の授業で学んだりしています。それ以外にもミスコミュニケーション(認識の相違)など偶発的に使用の寸前までいったケースはこれまでに14件ほどあると調査で出ております。そういったものに完全に対処することはできないと思っています。1万2000発以上の核兵器があり、これだけのリスクに直面していることを考えると、すごく恐ろしい状況だなと思います。ロシアがウクライナに侵攻しているという危機的な状況の中で、こういったリスクをどうやって減らしていくのか。これが非常に重要になってくると思います。

樋川:

総数としては現在の1万2705発というのは1950年代の数まで下がっているわけです。レベルはものすごく下がっています。それでは今その核兵器が使われる可能性が高まっているのか。今回プーチン大統領が核兵器の使用をほのめかして、それによって核兵器が使われるのではないかという不安が高まっているということだと思うのですが、私はそこまで悲観的には見ておりません。プーチン大統領が核兵器の使用をほのめかしたのは、ウクライナにNATOやアメリカなどを関与させることを防ぐためでした。それはまさに「核抑止」で、そのために核兵器があるわけで、使うために核兵器があるというよりも、むしろ「抑止」のためにあるわけです。そういう意味で私はそれほど悲観的に見ていない。むしろ逆で、我々が議論するきっかけを与えてもらったと思っています。

木戸:

私は5歳7か月で被爆しました。(爆心地から)2kmの路上でしたから、顔をやけどしたんですね。あのとき1発の原爆で何が起きたのか。原爆を投下する側から見るのではなく、原爆を受け地上で何が起こったかということをぜひ見てほしいと思うのです。何もなくなった真っ黒な長崎。被爆地に近づいていくとゴロゴロ死体が転がっていた。そして水を求める人の群れ。これが、核兵器がもたらす世界なんだと。原爆を空から見るのではなくて、その場で、その街で何が起こったかというその姿を見てください。何発という問題ではなくて、1発でも、あの広島、長崎の原爆はすごい威力だったわけですから。とにかく人を殺してしまうんだという、そこに立って考えていただきたいと思います。

佐々江:

これまで米ロ間ではたくさんの核兵器がありましたけれども、実際の配備数を規制することによって、関係の安定性が築かれたわけです。さらに継続してレベルを下げていこうという段階的な削減が大いに期待された時期もありましたけれども、両国の関係が悪くなると話し合いも難しくなってくる。それに加えて中国のような国が、米ロに匹敵するような核戦力を持とうとする。なぜ持とうとするのかを考えると、自分たちも力に対する力を備えないと外交も安全保障もできない。そういう考えに基づいているわけですね。これが現実なわけです。どういうふうに国家間の信頼関係を醸成するのか。アメリカ、中国、ロシア、この3つの核大国がお互いの関係をどういうふうにして前に進めていくのか。もちろん核兵器の非人道性については、みんな知っていると思いますし、これをアピールすることは非常に重要だと思うわけです。だからこそ広島の意義はあると思いますけれども、同時にどうしたら関係を元どおりに戻していくことができるかという点についても光を当てないと、ただやめろというだけでは、なかなかやめられないという状況があると思います。

●「核抑止」は効いているのか

(現在「核の抑止力」は効いているのか?)

川崎:

核の抑止力ほど不確かなものはないですね。核の抑止力というのは、いわば核兵器の使用の準備をすることですね。準備する態勢を強めれば結果として核兵器が使われなくなるだろう、結果として戦争は防げるだろうという理論なのですが、これは検証しようもないわけであります。実際に何が起きているかを見れば、ロシアは自分たちが核兵器を持っていることを力にして侵略戦争を開始し、進めているわけです。核兵器というのは、戦争を止める力にはなっておらず、戦争を進める力になってしまっているということだろうと思います。

樋川:

「抑止」といった場合には2つあって、「核兵器対核兵器」の抑止と、戦争そのものの抑止。おっしゃるように、戦争そのものを抑止することはできません。ただ「核戦争を起こらないようにするための抑止が核抑止」というのが私の理解です。そういう意味では核抑止は効いています。ロシアが核兵器をちらつかせたことによってNATOがウクライナに参戦しなくて、それ以上戦争は拡大していないという意味では、核抑止が機能していると思います。これがいいのか悪いのかとなると、それはまた話が別だと思います。

中村:

私は核の抑止力も十分に被害として捉えるべきと思っております。昨年の8月にニューヨークで行われたNPT(核拡散防止条約)の再検討会議で、ウクライナの少女が「私たちは核の脅しの被害者だ」ということをスピーチしたんですね。核の脅しを受ける心理的なストレスは非常に大きいですし、木戸さんはじめ被爆者の方々というのは核兵器の恐ろしさを知っていて、その上で核兵器が使われるかもしれないという状況下に置かれるというのは相当なストレスがかかると思います。ということを考えると、核の抑止ということも私たちの生活に危害を与えているという感覚を持つべきなのではないかなと思っています。

佐々江:

私は、核兵器がなく、あるいは核抑止に頼らなくても済むことが理想だと思います。ですから究極の目標として、これを目指していくべきだというふうに思いますが、同時に現実世界においては核の均衡、核も含めた力の均衡によって安全が保たれているということも現実です。このことに目をつむって抑止力に依存している国、あるいは核兵器によって自らを守っている国との間の関係を一足飛びにやめて平和が訪れるかと言えば、むしろ危険にさらす可能性もあるということです。私はやはりステップ・バイ・ステップ、少しずつお互いの関係を維持しながら良い方向に向かっていくことが正攻法だと思います。もちろん(核兵器を)すぐ禁止せよ、という考え方の方も世の中にたくさんおられると思いますが、核を持っている国々がそれに参加しない限りは、私は難しいというふうに思います。

●今後の「核抑止」をどう考える?

(今後の「核抑止」をどう考えていくか?)

川崎:

核兵器の使用や威嚇は、いかなる国も、いかなる場合でも許されないという規範をしっかり作る必要があります。実際、威嚇と抑止を区別することはほとんどできないですね。そもそも武力による威嚇行為というのは国連憲章違反でありますから、核兵器の威嚇というものを禁止するということをまずやって、その上で具体的な措置に入っていくべきだろうと思います。

(核をめぐってアメリカは、韓国との間で情報共有のための協議を新たに進める方針を示している。こうした動きをどう見るか?)

川崎:

非常に危険な動きだと見ています。日米韓で核兵器をどう使うか、核戦争のシミュレーションをするような動きになりますよね。そういうことを日米韓がすれば、それを脅威だと思う国々も同じように核軍備を強化しますから、核軍拡競争になって危険性は高まってくると思います。

(アメリカの“核の傘”の下にある日本の核の抑止力は?)

佐々江:

私は効いていると思いますし、これからも効き続けるべきだと思うわけですね。我々が善意で軍縮をしていけば相手も軍縮するだろうと期待するわけですけれども、実際のところ中国やロシア、あるいは北朝鮮なんか特にそうですけれども、我々の意思と関係なく、核戦力あるいは軍備力の増強に走っているわけですよね。そういう相手に対して、われわれが一方的に抑止力、あるいは抵抗力を弱めることが何を意味するのかということについて、やはり冷静に現実的に判断する必要があると思うわけです。韓国では、北朝鮮の核の脅威の増大に対して、アメリカの核抑止力を強化するための協議を行う方向に動いているし、日本も核の脅威に対抗するためには抑止力が必要で、核の抑止力を強化することによって、相手に攻撃の誘因を与えない努力をするということを求められていると思うわけですね。

川崎:

核の抑止力を強化するということは核の使用準備態勢を高めていくということですから、核戦争が起きるリスクは高まると思います。何も一方的に軍縮しようと主張しているわけではなくて、例えば核兵器禁止条約であるとか、あるいは地域の非核兵器地帯条約のように、地域の国々を巻き込んで一緒に軍縮をしていくという道があるので、そういった方向を追求していくべきだと思います。

佐々江:

核抑止の禁止派と呼ばれるグループは規範的なアプローチ、つまり「みんながこれをしなければいけない」ということを掲げますが、現実的には核を持っている国々がそれを許容しない、受け入れないという立場に立っている以上、他の国々がいくら禁止をしても、それは実効性を持たないですよね。むしろそれは亀裂を深めて、お互いが現実的なステップを踏んでいく上で私はマイナスだと思うわけです。

木戸:

先ほど「現実的」ということを言われましたが、それは「現状維持」なんですよ。核兵器から人間を守ろうとするときに「現実的」というのは、僕はちょっと納得できない。私は2009年にNPT(核拡散防止条約)の準備会に行ったのですが、そこでオバマ大統領が「核兵器をなくそう」という発言をした。そのときは非常に国連の場が明るかった。そしてその年にノーベル平和賞の受賞者が声明を出しました。「核戦争が起こらなかったのは歴史の偶然ではない」と。「被爆者が訴え、それを支持した世界の人々の運動によって核戦争が起こっていないんだ」と言っているんですね。そのことをきっちり受け止める必要があると思います。

樋川:

先ほど核の抑止が効いているという話をしましたが、ただそれでいいのかというと、もちろんよくない。長期的に考えた場合、やはり核の抑止に頼らない、核兵器に頼らない世界を作っていく必要があると思うんです。その時に、先ほどの規範的なアプローチ、これが効くかというと、過去の歴史を見てみると効かないわけですね。CTBT(包括的核実験禁止条約)はいまだに発効していませんけれども、それはなぜか。インドが入らないからですよね。インドに色々な圧力を国際社会はかけましたが、でも入りません。それはやっぱり理由があって、インドは自国の安全保障を考えた時に入れないから入らないわけです。それを見ますと、新しい国際条約を作っても、結局圧力では他の国を入れることはできないわけです。私は規範的アプローチでは核兵器がない世界を実現するのは難しい。「だけでは」ですね。他の取り組みが必要だというふうに考えます。