ことしG7の議長国をつとめる日本。5月には広島でサミットが開催されます。ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぐなか、日本外交が果たすべき役割は。
侵攻から1年となるのに合わせて記者会見した岸田総理大臣は「ウクライナ問題に対する結束をG7の議長国として主導していくとしたうえで、日本の強みをいかし、ウクライナの人たちに寄り添った支援をきめ細かく実施していく」と述べました。
ウクライナの人たちは日本に何を期待しているのか。
市民への意識調査は、「復興支援」が33%で最も多く、
「欧米からの軍事支援の強化を促進する」が27%、
「ロシアへの制裁強化」が19%、「停戦交渉の仲介」が13%となりました。
(G7・議長国としてどう動く)
林:
やはりこの世論調査に表れているように、我々は支援をしていくということを今までもやってきたところであります。総額で15億ドル、財政的な支援も含めてやって来たところですが、今回、岸田総理からも、新たに55億ドルという額の表明もあったところでありまして、引き続き我々としてできる限りの支援をしていくと、これがまず1点です。それに加えて、やはりG7の議長国としてG7の結束を図る。そのことが、G7も結束するし、その他の同志国も結束していくと。やはり2年目に入って来て、この支援疲れだとかそういう声も上がってきている中で、これにいかにこの結束を引き続き維持してくか。これは議長国としてしっかりやっていくべきことだと思っております。
(岸田総理大臣のウクライナ訪問は)
林:
まさに首脳会談が行われて、先方から招請もあったわけですから、この調整をいま進めているところであります。一方で、国会会期内であれば国会のお許しを得ていくですとか、いろんな条件をクリアしていかなきゃいけないと。こういうところもありますので、やはり前向きに、しかし失敗のできないことでもありますから、慎重な検討をしっかりしてくべきだと思います。
(G7広島サミットへゼレンスキー大統領の招待は)
林:
まだサミットにどなたをお呼びするかということはまだ検討中ですから、何か決まったことはないわけでありますけれども、いろんな選択肢を幅広く検討すべきだと思います。
(日本外交が果たすべき役割は)
廣瀬:
日本はもちろん、現状やっている人道援助、そして復興援助、特に復興ですと、地雷を除去するための援助、カンボジアなどとも協力してやっておりましてこれ非常に重要だと思うんですけれども、やはり同時に一歩踏み込んで、日本は停戦合意でも非常に大きな役割を果たしていただきたいと思っております。先日、国連で林大臣が、ロシアの領土を譲るような形で和平交渉を始めるような不当な平和を許さないというメッセージを出してくださいまして、それは非常に重要なメッセージだと思っております。というのは、現状ウクライナとロシアの和平を進めようとしている国でも、一部ウクライナに領土を諦めて、譲歩した形でロシアと交渉しろというようなことを暗に勧めている国というのも多々あるわけですけれども、それは現状をさらに後に問題を先送りするだけであって、問題を繰り返すと思うんですね。やはり小国の主権、そして領土を守ってあげるような形の和平が行わなければ、今後の不安定な状況がずっと世界中で続くと思われます。
東:
今年G7も5月にありますので、林大臣もおっしゃられたように、核廃絶というのは長期的な目標として掲げることは重要だと思うんですけど、それプラス、やはり広島、長崎以来ずっと核兵器自体は使われてこなかったわけですよね。だからこの規範は絶対守らなきゃいけないというメッセージを広島から出すことは、すごくこのタイミングで重要だと思います。2つ目は、アメリカも一部、これを「専制主義対民主主義の戦い」として位置づけるときがあるんですけれども、世界の55%ぐらいはまだ専制主義というか非民主的な体制ですので、あまりそれを打ち出すと、非民主的な体制の国がロシアと一緒にされているのではないかということで、非常に引いてしまうというか、敵に回してしまうリスクまでありますので。これまで日本は、一方的な力による現状変更は認めない、国際秩序に対する根源的な挑戦であるからこれは許されないというラインでずっと言われまして、それによってロシアを批判する国を増やそうとされていると思うんですけど、やはりそのラインは堅持して、G7でも声明を出したりすることは非常に重要じゃないかなと思っています。
中西:
戦争ですので早く終わるに越したことはないわけですけれども、やはりいろいろな状況を考えると早期の停戦が見込めないということを前提に、この戦争の長期化に耐えるような支援や役割を果たしていくことが必要ではないかと思います。すでに人道支援、地雷除去なども含めてやっておられますけれども、避難民がヨーロッパに800万人出ているわけですので、そうした避難民を受け入れている国への支援といったようなことも必要だと思いますし、また復興について、戦争が続いている中でもウクライナの経済支援は必要である。ウクライナについては、昨年のGDPが30%程度減っているわけですから、経済的に大きなダメージを受けていますので、日本が直接支援するだけではなくて、支援国会合といったようなものを主催して、ウクライナの長期的な復興に向けた道筋をつけてあげるといったようなことにも配慮が必要かなと思います。
東:
非常に防衛環境が悪くなる中で、日本はある程度の防衛力を整備するというのが必要だと思うんですけど、だからといって、これまで続けてきた第三世界への非常に寄り添った、しかもその人たちの自立を助けるような日本が行った支援を減らしたりしてはいけないとすごく思いましてですね。というのは、それについての信頼とか評価はものすごいやっぱり高いですよね。私もいろんな国に、中東やアフリカに行きますけれども、そういった国々に、いろんな体制の違いはあるけれども、こんなふうにある国が勝手に軍事的にほかの国を攻め込んで領土を増やしたりすることが普通になってしまったら、世界の秩序はもう無茶苦茶になっちゃうじゃないかと。だからこれはいろんな立場はあるけど、やっぱりロシア軍にいったんはウクライナから撤退してもらうようにみんなで呼びかけていきましょうということを、粘り強く日本が言い続けること。しかもG20の議長国はことしインドですので、そういったところとも連携しながら、世界全体でそういう機運を作っていくことは、僕は日本が一番実はできるんじゃないかというふうに思っています。
中西:
今の東先生のご意見に賛成で、昨年ウクライナに対するロシアの侵攻が始まってから、日本はG7を1つの軸として、ヨーロッパのNATOであったり、EUと日本を近づけるということをやって、これにはかなり成功したと思います。また安保3文書も作って、日本の安保防衛体制をかなり大幅に強化するという方針も打ち出されました。それはいいことだと思うんですが、ことしは、やはりG20をはじめとするグローバルサウスの意見も聞いて、その立場とG7やNATO、EUといった西側といかに近づけていくか。そういう双方向に向けた外交力というのが問われる年になるんじゃないかなというふうに思います。
林:
お三方から大変すばらしいお話をいただいたと思っておりまして、やはり日本を分かってくれているなと、きめ細やかに。価値がこういうふうにならなきゃいけませんよということではなくて、段階を踏んで歴史を踏まえながらですね、理解をしてもらえると。それ私も、非常にいろんな国行って感じるんですね。それは我々の先達がそういうことをしっかりと積み上げて来てくれた日本外交のアセット(財産)だと思っておりますので、そのことを引き続きしっかりやっていくと。そういう事によって、G7の議長である、G7っていう先進国の仲間とそういう国のいわば「つなぎ役」になるということだと思います。そういう意味では、やはり今お話があったように、このG20との連携、G20インドですから、QUAD(日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国でつくる連携や協力の枠組み)の一員でもありますし、ここと通じてさらにそういうことを広げていくと、この努力を外交的にやっていくということだと思います。
(アジアの情勢 中国は)
廣瀬:
日本は今、周辺国がかなり核も持っている中で、非常に日本の安全保障も脅かされている状況になってまいりますけれども、この中でロシア、中国が結託する事によって、アジアの安全保障を脅かすような状況を看過してはいけないと思うんですね。日本としては、やはりアジアのほかの諸国との連携も深めつつ、また欧米との関係も深めつつ、国際的な安全保障のハブになるような形で中ロの結託を防いでいく。そういう役回りも、日本にとっては求められていると思います。
林:
(アメリカの)ブリンケン国務長官もミュンヘンで王毅さん(中国で外交を統括する政治局委員)と会談しているんですが、ここで中国がロシアに対して、殺傷性のある支援の提供を検討していることに関する懸念、これを中国側に伝達した旨述べたと、こういうことなんですね。したがって、そういうことに対する懸念というのを中国がしっかりと説明してもらわなければいけないということだと思いますが、一方でいろんな課題や懸案、特に日中の間、隣国ですからありますけれども、あればこそやはり対話をしっかりと続けていくと。で、去年バンコクで日中首脳会談が行われましたけれども、こういうあらゆるレベルで対話を重ねていく。そこで日中の安保対話や外交当局対話、経済パートナーシップ協議、何年かぶりに再開させることで合意できましたので、実際に始まっております。こうしたことを積み重ねていく、これが大事だと思っております。
(日本外交が果たすべき役割は)
東:
日本は第三世界、グローバルサウスから多大な信頼と評価を得てきましたので、そのことを財産にして、今回の防衛力強化は必要かもしれないけど、そのために人道支援とか開発支援とかそういったお金は減らさないという政治的なメッセージをきちんと出すことは、日本の外交を考える上でも大事だと思います。こういったことをすることが日本の味方を増やして、日本の味方の国が増えれば日本の安全も高まりますので、ここは今、岸田政権にきちんと頑張っていただきたいところだと思っています。その上で、中国とのことですけれども、やっぱり外相からもありましたように、今年は中国との対話のタイミングになっていると思うんですね。その中でいろいろな日中の懸念もありますけれども、同時にやっぱりこのロシアのウクライナ侵攻を一刻も早く終わらせるために、先ほども言ったように、中国は一応、領土の一体性とかそれは守らなきゃいけないと言っていますので、そのラインでまずはロシア軍から撤退してもらうように、ウクライナから撤退させるように協議を続けていくということも、非常に重要じゃないかなと思っています。
廣瀬:
ウクライナ支援というのは主に欧米中心に行われていますけれども、日本はその中においてアジアの中心である国なわけです。で、アジアの中でウクライナ支援を最初に行った国として、ウクライナからも尊敬されているという面もありますんで、やはりアジアをまずまとめる、そして、まとめたうえでグローバルサウス、そしてヨーロッパとも連帯して、社会の平和を維持していく。そういう立場で日本の外交力を発揮していくべき時だと思っております。
中西:
日本として、安倍政権のときに「自由で開かれたインド太平洋」という概念を打ち出して、それが現在の岸田政権にも引き継がれているわけですけれども、インド太平洋というのは単に中国に対するものだけではなくて、やはりこれからの世界を考えたうえで、世界の中心になっていく地域であると思います。そこをどのようにまとめていくのか。特に地球環境問題など長期的な課題というのは、今回のウクライナ戦争にもかかわらずやはり存在しているわけですし、とりわけグローバルサウスの国にとっては、実際国家の生存にかかわるような脅威になり得る問題なんですね。そういう問題についても長期的な視野から取り組んでいくということを忘れないことと、現在の直近の大問題であるウクライナへの対応と、いかに結びつけていくかというところが重要だと思います。
林:
今年はサミットが広島で開かれます。日程をにらみながら、ウクライナ、それから核軍縮、不拡散、そして、今日はあんまりテーマになりませんでしたけれども、経済安全保障と。こういったものをしっかりと、ここで議論をしていかなければならないと思っております。それに加えて、こういうウクライナの事態があるから、じゃあ地球温暖化は待ってくれるかと、パンデミックが止まるかというと、そんなことはないんですね。こういう地球規模的な課題、これをしっかりとリードしてくと。こういう事がやはり大事なことになってくると思います。