2023年11月5日放送「超・人手不足時代 危機を乗り越えるには」(前半)

NHK
2023年11月14日 午後1:24 公開

今回の日曜討論は、NHKスペシャルと連動!

10月21日放送のNHKスペシャル「超・人手不足時代 危機を乗り越えるには」では、深刻な人手不足の実態に迫りました。日曜討論に向けてご意見を募集したところ、放送当日の朝までに352件の声をいただきました。

浮かび上がった課題や視聴者の声をもとに、どうすればこの危機を乗り越えることができるのか、新藤経済再生担当大臣と専門家が徹底討論しました。

⇒寄せられた”あなたの声”はこちら

【出演者】(左から)

今野晴貴さん(NPO法人POSSE代表理事) 

首藤若菜さん(立教大学教授)

廣濵泰久さん(中小企業家同友会全国協議会会長)

新藤義孝さん(経済再生担当大臣)

冨山和彦さん(経営共創基盤グループ会長)

NHKスペシャルでは、人手不足の実態をめぐって「業界平均を超える給与で従業員を募集しても思うように採用できず、仕事の一部を断らざるを得なくなっているケース」や、「地域の中で人手不足が同時多発的に発生し、日常生活にも影響が表れ始めているケース」についてお伝えしました。

視聴者の皆さんからも深刻な人手不足を訴える声をいただきました。

(人手不足の現状について)

新藤:

まさに切実だと思うんですね。失業率は低水準、有効求人は高止まりですから、本当に人がいない状態になった。それはやっぱり我が国の人口構造が完全に少子高齢化、そして人口減少の局面がさらに如実になってきて、今後さらに深刻化すると思います。これから人をどう確保するか、そのための賃上げが必要です。それとともに今の体制で事業を維持できる、そういった新しい省人化の投資(少ない人手で業務を行えるような設備投資)とか、事業形態そのものの工夫をしていかなければならない。私たちが今回、物価高対策とともに、新しい省人化投資をする場合に、従来は補助金をいただくのにすごく煩雑だったんです。難しい計算が必要でした。カタログ式と私が名前付けたんですけど、この機械を選んでくれたらいくら補助金が出ますという、簡単に選んで、また申請できる、そういう仕組みを入れて、そして人手不足の分野、厳しい分野ほど省人化投資をさらに入れられるように、そういう工夫をしていきたいと思っています。

廣濵:

私のところでも四半期ごとにアンケートを取っているんですけれども、実はコロナ以前から人手不足は結構厳しくなっていました。コロナのときに一旦逆に良くなったんですけども、今になってみるとまた厳しくなってきていまして、特に建設、それから介護も含めたサービスの関係が非常に厳しい。地域的にも色んなバラつきはありまして、今のところアンケート見ますと、一番厳しいのが北海道、東北、それから次が九州・沖縄というような形になっているのが現状です。

今野:

私どものところには全国からたくさんの労働者の方の相談が寄せられているわけですけれども、ブラック企業と呼ばれるような過酷な労働を強いる会社、実際に過労死してしまうほど働かせる会社、先が見えないような不安定雇用で働く非正規の方々、たくさんの相談を受けてきました。私が今回のテーマでやはり思うのは、これまでの日本が人を使い捨てたり使い潰してきたということにあまりにも慣れた経済構造を作ってきたのではないかと。もう一つ関連して現場から見える話で言いますと、特に非正規雇用の方々がなぜ働き続けられないのかというと、評価基準等が全然無い。これまでは働き続けることでモチベートされるような年功賃金とか色々な仕組みがあったはずなんですが、非正規雇用がものすごい数になってきた中で、頑張っても評価されない、その仕組みがない。こういう労働市場の仕組みのところで全然機能しない、働き続けることが難しい状況が広がっていると感じています。

首藤:

現在の人手不足感は、日銀短観の雇用人員判断指数に基づきますと、もうコロナ禍前を超えている。有効求人倍率はそこまで高くないですけれども、非常に強い人手不足感が起きているという実態だと思っています。ただ、労働人口は減っていますけれども、就業者数と雇用者数で見ますと、まだ減少に入っていませんので、これから本格的な人手不足が訪れると思っています。その人手不足感と賃金水準というのは強い相関関係があることが分かっていて、賃金水準が低いところで人手不足感が非常に強い。日銀短観によりますと、非製造業とか中小企業で人手不足は非常に強いわけですけれども、産業で見ますと、建設や運送業のところで非常に強い。この人手不足が強いところは離職率も高い傾向にあって、採用してもすぐ辞めてしまうから、さらに人手不足になってしまう。やはり賃金を上げて労働環境を整備していくことが何よりも求められていると考えています。

冨山:

これ本当に皆さんおっしゃるように、構造的なんですよね。多分ほぼ恒久的にこの状況が続きます。とすると、やっぱり社会の構造や、経済、色んな社会保険とか税制とかの仕組みを、基本的には労働者にとってエンカレッジする(応援する)仕組みにしていかないと人手不足は続きます。かつ、思い切って色んな自動化が進むような仕組みを作っていかなきゃいけない。(これまでは)どちらかと言うと低賃金労働に依存する経済構造だったんですよね。長時間で低賃金で働いてもらう。デフレだからそうなっちゃうんですけどね。だから、そこを本当に180度転換していかないと、多分この問題は解決しない

新藤:

人手不足感の強い企業として、運輸や建設、介護、それから宿泊やサービス業、こういう分野が出てきます。一方で、省人化投資が少ない業種って何かを調べると、この分野(人手不足感の強い企業)はみんなそうなんですね。人手が足りないので人を増やそう、どこかから探してこようということを一生懸命やっているんですが、今の人で維持できる、また運営できる、そういう業態に変えなきゃいけない。そうすると、DXや新しい設備を入れたならば、その設備を使いこなせるスキルを持った人を雇用する、もしくは今の社員の方をそういうスキルを持った方として研修する。だから、私たちはリスキリング、それから職務に応じた給料、ジョブ型のですね。このきちんとした自分の力にふさわしい報酬が払われるような、そういう中で、人手不足(対策)は(人を)増やすだけではなくて、必要十分な事業形態を作ると、これと抱き合わせでやらなきゃいけないんじゃないかなと。

⇒このテーマについてあなたの声を聴かせてください!

『NHKスペシャル』の取材で見えてきた打開策の一つが、生産性の向上です。デジタル化を徹底したことで、人手不足への対策だけでなく収益アップにもつなげた旅館の取り組み。また、AIを活用することで、限られた人手で地域交通を維持しているバス会社の取り組みについてお伝えしました。

生産性の向上による人手不足への対応についても様々な声が寄せられました。

(生産性の向上について)

冨山:

先ほどのバス会社はうちのグループの会社なんですけど、我々も交通機関、宿泊、それから医療機関も実はグループで経営していまして、8000人近い雇用があります。典型的な人手不足の業界ばかりなんですが、結局カギは、生産性を上げて、賃金上げて、いい働き手を確保したところの勝ちなんですよ、今。従来のデフレ型と全然変わっちゃっている。もう10年前から実は地方では変わっているんですけど。大事なことは、どうやって労働生産性を上げられるか。労働生産性というのは「付加価値」を「労働時間」で割ったものですから、まず分母の「労働時間」でいうと、どれだけ自動化・機械化を進めて、余計な仕事をしないようにするかという部分。分子の「付加価値」の方は、ちゃんと稼げる仕事をするということなんですね。この組み合わせです。そういった意味で言うと、これをちゃんとやっていくと給料上げられるので、会社も成長するし、働き手もより良い環境で少ない労働時間で働くことになるんで、Win-Winになるんですね。少なくともこれをちゃんとやっている会社は、地方でも人手不足の業界でも伸びています。いまそれが間違いなく起きているところですね。

廣濵:

この生産性を考えるときは、いま冨山さんからもお話ありましたけど、一つは「付加価値」の部分と、あともう一つは「効率」の部分と、両方あると思うんですね。まず「付加価値」の方で言いますと、自助努力の部分も絶対必要で、どんな事業領域を選び取っていくか、差別化するかとか、あるいは価格競争力の持てる会社にしていくか。一方で、やっぱり多重下請け構造というのがあって、そもそもそんなお金もらえてないよということだったり、公に基準があってこの分しかもらえません、みたいな、そういう業種もあったりする。必要な収入が無いというケースがあるので、それが片面。

もう一つは「効率」の部分。これも自助努力の部分と構造的な部分と両方あるなと思っていまして。やっぱり自助努力の部分では、一人一人の力量を上げていくとか、あるいは色んな仕組み、作業方法を改善していくとか、改善の余地はいくらでもあるというのが一つなんですけど、もう一方では、そもそも自動化できるような効率化できるような仕事は中小企業には回ってこないという、そういう側面もある。面倒くさい仕事しか来ない。で、非常に生産性を上げにくいというところもあります。そういう中で、一方でAIとかロボットとか上手く活用すると、そこは強いよということは言えると思います。

冨山:

いまどきのDXツールは劇的に安くなって使いやすくなっているんですね。そういった意味では、中小企業もいまアクセスできるようになっているのは良い流れだと思います。他方で、さっきおっしゃった多重搾取構造みたいな、ちょっと言い方悪いんだけど、大企業のホワイトカラーの人が色んなとこにはさまって、ちょっと搾取しちゃって、みたいな構造があるんですね。この辺、産業構造全体の問題で、これも実はデジタル化が進んでくると、あんまり中間にいる必要が無いんですよ。だから、これも本当は中抜きしちゃった方がいい(中間にいる企業は無くなった方がいい)んですね、産業論的に言っちゃうと。そこは色んな意味で、価格転嫁の問題含めて、是非とも政府の方で応援してもらえるといいかなと。

(政府の経済対策は)

新藤:

やはり生産性向上させるためには省人化投資だと。先ほども申しましたが、カタログ式の補助金は、簡単に手続きができて、そしていくら補助金が出るのか明示をして、そして省人化を促進しようと。その省人化は、ゼロか100かで全部ロボットとか全部自動化ではないんですよね。人が介在しながら、例えば旅館であれば、客室に入ってお膳を下ろすのは仲居さんがやると。でも、お客さんに見えないところではロボットが運び、洗ってとかね。要するに業務の棚卸しをしていくということで、どこの部分を自動化できるか、そしてデジタル化できるか。そこの効率を高めていくことがとても重要であると思っています。ですから、今度の私たちの対策には、まず賃上げをできるように。それは赤字の企業であっても賃上げをして、そしてそこの社員の皆さんが安心して暮らしていけるように、また可処分所得を控除してくださいと。赤字で賃上げをして減税しますと言っても、赤字法人は税金払っていませんから。その企業が業績を上げるようになって黒字化されたらば、その分を繰越控除としますよと、こういう新しい制度を入れて、まずは稼ぐ力を強めながら省人化投資をして、そして生産性を向上する。こういう仕組みを今回の対策の中には入れているわけなんです。

首藤:

もちろんデジタル化をしていって業務の改善をしていくことはすごく大事なんですけれども、やはり私は、労働生産性を上げていくために、先ほど冨山さんが整理していただいたように、「付加価値」の部分をどう上げていくのかということも考えていかないといけないと思っています。「付加価値」がやはり上がらない、特にいま人手不足感が非常に強い建設とか運輸という部分は、やはりその上がらない理由の最大のものは多重下請けの構造にあると思っています。多重下請け構造へのメスがどこまで入っているのかということなんですけれども、例えばトラックで言いますと、海外では2次下請け以下を規制するなど、やっぱり政府の規制を強めることによって、それを是正するというような国もあります。ですので、もちろんデジタル化によって中抜け部分を取り除いていくことも技術的な問題としてあると思いますけれども、やはりまともにきちんと働いているのに稼げないという状態を是正していくことは、労働生産性の向上に非常に直結する話かなと私は思っています。

今野:

ずっとこの労働生産性の問題というのは議論されていると思うんですが、私が思うには、そもそもなぜ労働生産性が低くなるかというと、先ほども話が出ましたように、低賃金のままに使える構図。これが業態を変えていくことを阻んでいるということがずっと続いてきている。したがって、先ほどのような政策というのが前向きに無駄を減らしていくことは非常に分かるんですが、それを本当に実行していくためには、まず最低賃金を上げるとか、経営上どうしてもそうしなければならないんだというような制約を、しっかり労働者の生活の観点から立てていかないと、(経営者の)中には目先の使い潰しを続けた方が確実に利益を得られるということで動く経営者も少なくないのが現実だと思うんですね。ですから、そこは労働者側の生活とか賃金というところから、しっかりと改善の圧力をかけていかなければならない。

新藤:

今のとても重要なポイントだと思うんですけど、例えば多重の受注構造、これも実は同じグループでありながら一つ一つの受注発注、請求書、伝票、全部別々ですよ。ですから、これを統合することによって効率化が図れる。たとえば先ほど首藤先生、トラックのこともおっしゃいましたけども、トラックも自分の系列の、あらかじめどなたに運んでもらうかということが決まっていて、そこで足りないと待たせる、もしくは荷物が来なければ空車。だけど、荷物は大量に自動運転で運び、それを今度はそこで空いている人たちがどなたでも自由に運んでいける。そういうDXによる伝票を一括整理して、そして受発注したらどうだ?と、今回の経済対策の物流ライフラインの改革でそういうことを入れているんです。ですから、結果的にそういった、間の無駄を省くことによって効率の良いものができていくんではないかなと私たちは期待したい。

冨山:

これ、色んな手立てはある。上げる余地、実は中小企業ほどあります。我々のグループも中小企業の集合体みたいなところから始まっているので、実はこの10数年で劇的に生産性を上げています。ただ問題は、それができる経営者とできない経営者がいるんです。中小企業は400万社あるんですね。これだけあると、やっぱり能力的なバラつきがすごいんですよ。そうすると、現状は安易な、過去の延長線上で経営しちゃう人少なくないんですよね、現実問題として。やっぱり、ある程度、新陳代謝を促していかないと。よく「よそ者・若者・バカ者」って言いますよね、こういった人たちがもっと地域の会社、中小企業に入っていって、新しい発想で事業やっていく。むしろ給料を上げることで競争力つけるというモデルに転換していかないと難しいので、やっぱり新陳代謝も恐れず促すということを政府としてやっていった方がいいと思います。

(賃上げについて)

新藤:

私たちが申し上げている構造的賃上げ、それは何を指すかと言うと、物価上昇率を超える賃金上昇。そして実質賃金はいま減少していますが、これをプラスにしていく。こういう構造がどう成り立つかと。それにはまずは世の中が、先ほどからご指摘されているような、働きにふさわしい賃金を出すと。でも、その賃金を出すためには、それを出せる事業の経営体質を強化しなければなりません。これ両方同時にやっていかなきゃならないことだというふうに思うんですね。いま冨山さんおっしゃったこともとても重要で、私も地元が川口で中小企業の町ですから、中小企業経営者の中で、果たして経営計画を作って自分の生産している品物の原価計算ができる経営者がどこまでいらっしゃるかと言うと、やっぱり後継者のためのリスキリングっていうか、これも今回拡充したいなって思っているんです。

廣濱:

いま新藤大臣がおっしゃった通りで、我々も4万7000名会員がいるんですけど、基本は経営の勉強のために自主的に集まっている。もっと勉強して、それを実践して良い会社にしようじゃないか、もっと社員にも良い給料払える会社にしようじゃないかって思って集まって勉強している。そういうふうにすると、いまおっしゃった通り、もっと改善できる余地はたくさんあるし、勉強しなきゃいけない経営者がたくさんいるなということを感じてはいるんですね。と同時に、一生懸命、勉強するんだけど、どう頑張っても報われないっていう、そういう社会的構造も無くはない。それとあわせて運動を進めていくということが必要かなと考えているところです。

今野:

(最低賃金は)近年上がってはいるんですけれども、他国の現状とか、日本の今の経済の状況を考えても、やはりペースが遅すぎるのではないか。もっとこれは引き上げなければならないと思います。さらに言いますと、最低賃金というのは割と非正規の本当に最下層のところにだけ通用しているものだというふうに誤解されがちなんですが、実はその最低賃金の上に何割かは波及していくということが明らかになっていますし、さらに言うと、この間、正社員の人事制度というのもかなり時給を意識したものに変わってきているんです。いわゆる限定正社員ですとか、時給単価で計算しているような労務管理というのは広がっていますので、実は最低賃金を上げると、かなり大きな幅で影響が出てくると考えられます。

冨山:

春闘ってそれなりに政治的に大事なイベントなんですけど、あれって結局、基本的には大企業・正社員の世界の話なんですよ。これ実は勤労者の2割しかカバーしてないんですね。今日の議論は、まさに残りの8割なんですよ。中小企業で働いている人たち、あるいはサービス業とか非製造業の世界なんですよ。ここの賃金が日本は上がってないんですよ。これが最大の問題で、かつこっちの方が生活的には苦しい生活をしている方が多いので、ここの賃金上がってこないと、消費盛り上がらないんですよ。要するに、割とお金持っている人にお金出しても預金になっちゃうので。まさにこの最低賃金含めて、その外側の8割の世界はどう賃金上げるかということが大事で、ここはもう今日言われたことを全部やらないと上がらないです。だからこれは急がないとダメですよ。だって、日本ってちょっと異常な国で、先進国で一番人手が足りない国なんですよ。他の先進国はむしろ賃金が先に上がって、インフレが後を追っかけているんですよ。日本の場合、インフレの方が先に行っちゃって、賃金が追いつかないから実質賃金マイナスになっているわけでしょう。これ異常な状態で、構造が何か欠陥があるんですよ。今日皆さん指摘されたことは、これ全部急いでやっていかないと、この逆転現象なかなか収まらないですよ。

首藤:

もちろん価格転嫁はすごく大事だと思っていますけれども、私は発想の転換もすごく大事だと思っています。先ほど新藤大臣が、賃上げをしていくために事業を強化しなければならないというお話がありました。本当にその通りだと思っておりますけれども、一方で、賃上げが事業強化を促すのではないかと思っているんですね。事業が強化されないから、価格が転嫁されないから賃上げはできないという時代から、賃上げをして、それゆえに価格を転嫁しなければならない、事業を強化しなければならないというふうに発想を変えていかなければいけない。いま冨山さんおっしゃった通り、今年の春闘の賃上げも、連合発表は3.58%ですけれども、一般の労働者の平均賃金はそんな上がっていません。ですので、やはり組合が無いところは賃金が上がっていないということも統計データでも確認されると。これ中小企業でも、組合があるところは3.23%賃上げしていますので、組合が無いところでは賃金が上がらないというような実態があるんだと見ています。

新藤:

今のとても重要なポイントで、同時並行でどっちが先かはそれぞれの企業によってあると思うんですけど、いずれにしても両方が上がっていかなければダメだということですね。今回のこの春闘で、私、賃金を構造的に上昇させるためのもう一つの鍵は価格転嫁だと思っているんです。この価格転嫁も、現状は物品費の価格転嫁は進んでいるんです。ところが労務費、賃金が上がったからそれを価格に転嫁してくれということが極めて少ないんですね。ですから、ここの実態をきちんと公正取引委員会が調査をして、そしてどうすればこの物品費プラス労務費の価格転嫁ができるか、こういうガイドラインを作って公表しようと思っています。それによって、まさに価格転嫁の構造も変えていかないと、ただ単に上げてくれと言っても、これはきちんとした根拠が必要なので、特にこの労務費の単価を上げること、賃金上昇する、それによって価格も転嫁する。でも、結果としてそうした企業は業績が伸びますということを、それぞれの業態別にきちんとガイドラインを作れたらどうかなと思っているんです。

(賃上げと年収の壁は)

廣濱:

特に最低賃金の場合で言うと、時間給で働いているパートさんとかの場合は、典型的に年収の壁があります。最低賃金がこのように上がると決まった途端に、ちゃんと計算するんですよね。計算して、あと何日働けるかみたいな、そういう形になっているのが実態なんですね。もっとたくさん働いてもらいたいのに賃金が上がることによって働く時間が減ってしまう、本人にとっても収入が増えるわけではないというような形は、ものすごく大きな影響を受けております。

新藤:

今のも本当に重要だと思うんです。それを私は丁寧に説明しなくてはいけなくて。今回私たちは、年収の壁を超えた場合には、その部分を企業が補ってくれるならばそこに補助金出しますよと、106万円の壁の対策を打ち出しました。でも、本来あるべき姿は、106万を超えると今度は年金保険料がかかるので、可処分所得は減るんですけど、実は125万を超えると可処分所得は上がる。ですから、賃金が上がる、時給が上がる、そして働きたいだけ働いたならば、可処分所得が減らなくてもいいような状態まで働けるようにすべきだと思っているんです。この106万の場合は、この壁を越えて今の3号(被保険者)という扶養者から厚生年金に入れれば、将来自分が受け取れる年金も増えるわけです。無理に扶養の立場で106万で収めないで、それならばこの際125万を超えて所得を上げるようにできるようなことを後押ししていきたいと。ただ当面の間、まずそこに行く前に、働くのを少し躊躇するようなところについては支援をしたいということで今回の対策には入れていますけども、これは抜本的な改革をきちんと出したいと。

(3号の扱いは)

新藤:

これも、今度は130万の壁なんですね。従業員が少ない企業ですけども、3号の被扶養者が130万超えると今度1号(被保険者)になって、基礎年金に入るだけ。年金の保険料は増えるけれども、将来受け取る年金は変わらないと。これこそ本当に困ると思います。どういう働き方をして社会保障をどのように確保していくか、根本的な議論をこれから2年ほどかけて、しっかり次の見直しに向けて、まずは実態調査をする。その上で、こうあるべきだという構造がここまで変わってしまった日本の社会で、どうやって働いて自分の今の満足と老後の安心を保てるか、これはきちんと議論したいと思っています。

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