ウクライナ情勢をめぐって国際社会の分断が深まる中、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国が存在感を高めています。こうした国々は何を考え、どう動こうとしているのか。5人の専門家の方々に分析していただきました。
【出演者】左から
大野 泉さん(政策研究大学院大学教授) 新興国や途上国の経済協力に詳しい
大庭三枝さん(神奈川大学教授) 東南アジアの政治・外交に詳しい
伊藤 融さん(防衛大学校教授) インドや南アジアの政治・外交に詳しい
福田 円さん(法政大学教授) 中国の政治・外交に詳しい
細谷雄一さん(慶應義塾大学教授) 国際政治・外交史に詳しい
このあとの議論は ⇒ 『グローバル・サウス』から見た世界(後半)
●国際社会のカギを握る「グローバル・サウス」とは
そもそもグローバル・サウスとはどのような国々なのでしょうか。明確な定義はありませんが、アフリカやアジア、中南米など、広い地域の振興国や途上国が含まれます。「サウス」とは、こうした国々が南半球に多いことに由来しています。またインドやブラジル、南アフリカ、インドネシアなど一部の国々はG20=主要20か国のメンバーにもなっています。中国をグローバル・サウスに含めるかどうかは議論があります。
こうした国々が注目を集めるようになったきっかけの一つがロシアによるウクライナ侵攻です。ことし2月の国連総会では、ロシア軍の即時撤退とウクライナでの永続的な平和などを求める決議案の採択が行われ、中国、インド、南アフリカなど32か国が棄権しました。グローバル・サウスの国々には、欧米側とロシア側のどちらにもつかない行動をとる傾向が見られます。
存在感を高めているグローバル・サウスの国々。ことし1月に開催された「グローバル・サウスの声サミット」には、世界の国のおよそ3分の2にあたる、125か国が参加しました。
(なぜこうした国々が注目を集めているのか?)
細谷:
私は普段は「グローバル・ノース(北側)」のほうから世界を見ているのですが、かつてG7は世界経済全体のだいたい60パーセント強を占めていたわけです。ところが現在では40パーセント程度まで低下してきている。かつては世界の重要な課題をG7、欧米や日本が決定していたのが、今はそれだけの国では決められない。今日取り上げるこのグローバル・サウスの声というものが世界の行方を大きく決定する。そういう認識が今世界で広がっているのだろうと思います。
大庭:
先進国以外が経済的な力をつけたということは非常に大きいと思います。ただ経済発展したというだけではなく、グローバル化の中でさまざまなサプライチェーンや、国境を越えた生産ネットワークといったものにうまく自分たちを組み込ませることで発展してきたのが東南アジアを中心とするアジアの国々です。単に経済的なボリュームが大きいというだけでなく、多国籍企業を持って、東南アジア諸国にサプライチェーンを広げている先進国にとって、グローバル・サウスおよびアジア諸国がどのような行動を取るかということが非常にカギになってきていると思います。
(インドがグローバル・サウスのサミットを開催した狙いは?)
伊藤:
現時点でもグローバル・サウスの経済力というのは大きいわけですが、これから先の世界、2050年の世界の予測を見ると、インドがアメリカや中国にかなり接近していくということが見込まれています。その後にインドネシアとかブラジル、メキシコ、トルコ、ナイジェリアといったような国々が続いていくという予測になっています。そういう中で非常に自信をつけていて、こういう国々がどちらに動くかによって自分たちの地域、世界の経済秩序、政治、軍事秩序というものも決まってくるという自信が裏にあると思います。
(中国は自らをグローバル・サウスの一員と考えている?)
福田:
中国は伝統的に長らく自国を途上国でもあるし大国でもあるというふうに定義してきたんですね。両者を文脈とかいろいろな場合によって使い分けてきた。グローバル化の中で中国は急速に存在感を高めまして、今はどちらかというと途上国を援助する側になろうとしているのですが、それでもさまざまな政治的な立場から途上国の一員でもあるということをアピールしていて、曖昧な存在であると言えます。
(グローバル・サウスの国々の特徴は?)
大野:
開発途上国の問題から見ると、昔から南北問題というものがあって、冷戦構造の中で、西側先進国・自由主義経済の「第一世界」、旧ソ連・東欧諸国などの「第二世界」、それから「第三世界」というのは前からあったんですね。ただ冷戦が終わって第二世界というのが実質的に弱くなってきて、第三世界という言葉もあまり使われなくなった。けれどもグローバル化の中で経済成長を遂げ始めた国が非常に力を持つようになった。まさに今、経済力、それから世界の秩序にも影響を与えている。人口でも中国、インド、アフリカも14億ありますので、それだけでもう世界の半分ぐらいを占める割合になっています。それと同時にそうした国が抱える地球規模の問題、例えばコロナとか、気候変動とか、そういったことも含めて考えたとき、グローバル・サウスの役割というのは非常に強くなっていると思います。
●「グローバル・サウス」はどのようにして力を持つようになったのか
現在「グローバル・サウス」と呼ばれている新興国や途上国が国際社会で力を持つようになった“原点”ともいえるのが、1955年に開かれたアジア・アフリカ会議、いわゆる「バンドン会議」です。東西冷戦のさなかにインドネシアのバンドンで開かれたこの会議には、アジアやアフリカの途上国の指導者らが参加しました。この会議で、米ソのいずれにも属さない第三世界の結束が確認され、政治的にも経済的にも力が弱かった、アジア・アフリカ諸国の存在感を高めることになりました。
その後、こうした国々は徐々に経済力を高めていきます。2008年、リーマンショックによる世界的な金融危機に対処するため、先進国だけでなく、新興国も加わったG20の初めての首脳会議が開かれました。さらに翌2009年には、経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取ったBRICsの初めての首脳会議が開かれました。2011年には南アフリカが加わり、5か国による会議が続けられています。
(グローバル・サウスはなぜ影響力を持つようになったのか?)
大庭:
単純に数が増えたということもあると思います。バンドン会議のときに参加した国は29か国。日本も入っています。しかし今、世界銀行の基準でいう“高所得国以外の国”というのは140を超えています。数が非常に違うということがまず一つです。今はグローバル化の中で先進国と新興国、途上国の経済が連動して発展していく時代です。先進国も途上国や新興国の意向を無視できないということがあると思います。それから3番目に、グローバル化が進行する中で、食料やエネルギーそして気候変動といった問題がクローズアップされて、グローバル・サウスの意向が無視できなくなっていると。さらに4番目として、中国やインド、インドネシアのように、自分たちは途上国の代表だというような立場をとる国々が、そのことをアピールすることによって自分たちの影響力を拡大しようとしている。こうした面でグローバル・サウスというものの注目度が非常に高まっていると思います。
(東西冷戦下での「第三世界」との違いは?)
細谷:
かつては「第三世界」、あるいは南北問題での「南側」というふうに呼ばれていたわけですが、まず冷戦が終結したことによって、第二世界、共産主義圏が事実上消えたわけですね。したがって第三世界という言葉は使われなくなった。もう一つは南北問題というのは基本的に南側と北側が固定されていたわけです。搾取されている南側が貧しいということが前提だった。ところがグローバル化が進み、グローバル・サプライチェーンによって安い賃金によって多くの工場、生産拠点、つまりかつての南側がグローバル・サウスに移ってきたわけです。かつての南側の国々がグローバル化に取り組まれることによって豊かになり、デジタル化によってハイテクの生産拠点になってくる。より先端的な技術を持ったことによって、かつてない影響力を国際経済においても国際政治においても持ち始めているというのがかつてとの違いだろうと思います。
(インドはなぜ今のような影響力を持つようになったのか?)
伊藤:
冷戦時代、インドはバンドン会議の主導者だったわけですね。ところが冷戦が終わって、共産圏がなくなって、「非同盟」(※特定の国との関係に偏らないインドの外交方針)の持つ意味というのは低下していくわけです。それはインドも十分自覚してきたわけです。さらに特に今世紀に入ってからインドの経済が急成長していく中で、途上国としての意味というものも、南北問題というものも、インドにとっては重要な問題ではなくなってきたというところがあったわけです。ところがモディ政権に入ってから、途上国との関係はかなり軽視される一方、先進国、西側先進国との関係を強化してきたのですが、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、再びこのグローバル・サウスの問題がインドにとっても重要なイシュー(問題)になってきたということだと思います。
(グローバル・サウスはなぜ影響力を持ったか?)
大野:
グローバル・サウスの中も多様で、例えばアフリカの国などは54か国ありますけども、その半分ぐらいはずっと低所得国のままで、そこでコロナの問題とか、ウクライナ危機による食料エネルギー価格の高騰が起き、(海外に)依存している国にとっては非常につらいわけですね。そういう声を聞いていかなければいけないという思いがインドや中国といったグローバル・サウスの大国の中にもある。それと同時に、グローバル・サウスの残された国の中で、自分たちとしても大国の論理に振り回されないで、自国の実利を取った形で、どういう形でいろんな国とパートナーを組んでいくのかということをしたたかに考えているんですね。
途上国の側から見ると、植民地だった歴史があり、その後東西冷戦になって、ソ連側、それから欧米側による援助競争みたいなこともあって、どちら側につくかといったことになった。そのあとの開発援助の潮流を見ても、貧困削減を重視しましょうとか、インフラを重視しましょうとか、世界の潮流が変わっていく。そういう中で途上国側としては、どちらかというと、そういった大国の論理になんとなく追従させられてしまったというところがあって、だからグローバル・サウスやG20の力が上がってきた中で自分たちの声も出していきたいと、したたかにやっていきたいという気持ちがある。そこをインドや中国がうまく取り込もうとしていると思います。
(中国はなぜ影響力を持つようになったのか?)
福田:
中国でも最近ようやくグローバル・サウスという言葉が中国語に訳され始めて、これは何なんだということが議論されていますが、そこで注目されているのが、従来の西側先進諸国、あるいは先進民主主義諸国が掲げるような価値観に対するオルタナティブ(代案)や、もう少し急進的になるとアンチ(対抗や排斥)みたいなものが注目されているんですね。中国の研究者の分析によれば、グローバル・サウスの最大公約数というのは、一つは「反・西側」、それからもう一つは「反・干渉」。これは内政干渉とかそういうことを示すと思います。それから「発展の追求」であると。そこに中国は寄り添っていくという姿勢でこのグローバル・サウスの問題を捉えようと。そしてそこに関わっていこうとしているのだと思います。
(グローバル・サウスの国々は先進国をどう見ているのか?)
細谷:
ちょうど先月、アメリカが主催した第2回目の民主主義サミットがオンラインでありました。かつてであれば欧米の価値観、欧米の考え方というものが国際社会のスタンダードになるべきだといった認識は広く浸透していたんだろうと思います。ところがアメリカや日本を含めた国が、例えば民主主義であるとかそれぞれの価値観というものを世界に浸透させたいと考えるのに対して、今グローバル・サウスから非常に強い反発が起きていると思うんですね。ウクライナの戦争でも、ロシアを勝たせてはいけないということで制裁に同調するよう求めているわけですが、グローバル・サウスの多くの国からしたら、自分たちが十分に発展をするためには、相手がロシアであっても、エネルギーであるとか食料であるとか、こういったものを輸入したいんだと、こういう声が上がっている。この考え方の亀裂というものがウクライナ戦争の今後の行方を決めていくのだろうと思います。
●影響力を増す「インド」と「中国」 今後どう動くのか?
グローバル・サウスに対する影響力を高める「インド」と「中国」。両国は今後、どう動くのでしょうか。ことし1月、「グローバル・サウスの声サミット」が開催されました。呼びかけたのはインドです。モディ首相は、「われわれは新型コロナや気候変動、ウクライナ紛争の影響にさらされている」とした上で、「インドがG20の議長国の今年、グローバル・サウスの声を大きくしていこうとするのは当然だ」と述べ、自らがこうした国々を牽引する姿勢を示しました。
一方の中国も、他の国への働きかけを活発化させています。先月、中東で長年外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランの関係正常化を仲介。これをきっかけに、中東地域への関与を拡大させていくことに意欲を示しました。
(グローバル・サウスに対するインドの戦略は?)
伊藤:
今回、「グローバル・サウスの声サミット」を開きましたが、その中から見えてきた戦略があります。それは、自分たちの声が十分に反映されていないという不満がグローバル・サウスの国々の中に広がっているということをインドがうまくすくい上げているということですね。特に重要なのはロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、西側は侵攻自体を非難しますが、グローバル・サウスの立場からすると、それ以上に直面するのは制裁の結果です。そもそも制裁の前からコロナの問題で非常に経済的に苦境になっていて、さらに燃料価格や肥料の価格が上がっているということで、自分たちが最も大きな被害を被っているんだと。そのことに目を向けてほしいということを訴えて、支持を獲得しようという発想があるだろうと思います。
(中国はどう対抗する?)
福田:
表面的には中国の立場は、インドとの間に対立や競争はなくて、グローバル・サウスサミットについても事前にインドから聞いていて、自分たちは応援しているという姿勢なんですね。ただ潜在的にはやはり互いを警戒したり、牽制するようなところもあると思います。中国はこれに先んじて、3つのイニシアチブというのを出しています。「グローバル発展イニシアチブ」、「グローバル安全保障イニシアチブ」、そして最近、「グローバル文明イニシアチブ」というのを出して、国連の開発目標などとも結びつけるような形で、グローバル・サウスの国々に対して自分たちのビジョンや構想を示そうとしています。
(それに対してインドは?)
伊藤:
明らかに中国を意識していると思います。近年、中国が自分たちの地域に影響力を拡大しているということに非常に危機感を覚えてきたわけですね。そういう中でインドはこのグローバル・サウスの支持を集めることによって対抗しようということだと思うんです。明らかに中国を排除しているわけではないのですが、今回の「声サミット」にも、通告はしたけれども中国を招かなかった。建前上は「G20以外のグローバル・サウスを招いたんだ」と言っているわけですが、他方でモディ首相はサミットの冒頭の演説の中で、「グローバル・サウスの人口は世界人口の4分の3を占めている」と発言しているんですね。これは中国を除いた数ということなんだろうと思います。中国を入れればもっと多いわけですから。明らかにインドの認識の中にはグローバル・サウスに中国は入りませんよ、ということを言っているんだと思います。
(中国は、インドとグローバル・サウスの関係をどう見ている?)
福田:
まさにその点が中国が一番警戒しているところだと思うんですね。インドとグローバル・サウス諸国の関係が発展すること自体は、今は割と寛容な姿勢なのですが、その背後に米国とか日本との関係、ないしはQUAD(※日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国による枠組み)とか、より広い関係があるのではないかということはすごく警戒していまして、そうなってくると、中国としては話が違うということになると思います。
(インドと中国の関係が国際社会に与える影響は?)
細谷:
もう10年ほど前から、新興国の台頭ということでBRICsもそうですし、インドや中国の台頭というものが世界にとって大きなインパクトとなったわけですね。それがオバマ大統領の時代にG20が始まった大きな理由だったと思うんです。今注目されている理由としては、ウクライナ戦争の行方です。思った以上に2つの大国である中国とインドが、少なくともロシアに対する制裁というものに対しては非常に抵抗を示していると。戦争が長期化するということになり、インドや中国がもしもロシアを支えるということになれば、もともとインドも中国もロシアとの関係は良好ですので、戦争が非常に長引いてしまうということになるわけですね。ロシアに対する制裁、あるいはこの戦争の行方ということを考えても、中国とインドがどう関与するかということがこれからのウクライナ戦争、もっと言えば、その後の世界秩序を決めていくという認識が今の欧米諸国にはあるんだろうと思います。
(中国による途上国支援への支援をどうみる?)
大野:
中国はアフリカを含めて多くの途上国に対して、特に2000年ぐらいから経済協力を強化しています。昔から南と南の連帯といったことで、1950~60年代からアフリカを含めて援助していますが、やはり貿易・投資・援助が結びつく形で、インフラを含めてやっているのは中国なんですね。欧米の国際協力の潮流としては、インフラなどは支援すべきではないという時代も昔はあったんです。ただ、そこで中国が出てきて歓迎されたと。ただ債務の問題なども2000年前後で問題になって、欧米諸国は一致して債務救済をしたのですが、その後に中国が入ってきて、今、多くのアフリカの国が債務の問題を抱えています。(彼らにとって)中国の存在はありがたいところもあるのですが、債務負担能力とか、あるいはガバナンスとか、汚職の問題とか、そういったことも考えていかないと非常に難しい。しかも今、多くの途上国の債務の問題というのが、中国の公的機関からの債務となっている上に、中国の場合は西側諸国のようにルールを決めて債務救済を議論するような枠組みがまだないんですね。そういったことも考えると、中国がどのように動いていくのかということは大きいと思います。ただ、グローバル・サウスから見れば、自分たちは発展する権利があると。そのためには実利を考えながらいろんな国とパートナーを結んでいきたいというのは、中国とかインドのような大国でないグローバル・サウスの本音だと思うんですね。
(中国自身は途上国支援をどう考えている?)
福田:
まさに中国でも「一帯一路」(※アジアとヨーロッパを中心に陸上と海上で東西をつなぐ中国の経済圏構想)は曲がり角にあると考えられていると思います。ただ今年は「一帯一路」が提起されて10周年なので、何としても再度軌道に乗せていきたい。その中で「グローバル発展イニシアチブ」というものが出てきて、開発ということについて、国連の「2030アジェンダ」とか、そういうものも重視していくということを打ち出したわけです。さらについ先日、フランスのマクロン大統領やフォンデアライエン欧州委員長が中国を訪れていましたが、そこでもEUの「グローバル・ゲートウェイ」(※途上国などへの投資を増やすEUの戦略)という対外援助・投資の構想と、「一帯一路」は矛盾はしないんだということを確認した上で、今年たぶん3回目の一帯一路サミットをやろうと考えているのですが、そこにマクロン大統領も出席してもらうというような形で、何とか国連とか他の先進国の援助・開発構想とも親和性のある形で「一帯一路」を仕切り直していきたいというところだと理解しています。
(東南アジアの国々はインドや中国とどう関係を築こうとしているのか?)
大庭:
どちらとも関係をきちんと築いていこうというのがASEAN(=東南アジア諸国連合)流だと思います。ASEAN諸国に限らず、一方だけから援助をもらうということはないのがグローバル・サウスなのだろうと思います。特にASEAN諸国の場合は、援助もそうですが、市場と投資ですね。自分たちも市場となっていますが、ASEAN諸国にとっては中国市場、中国からの投資は非常に大事。一部の国があまりにも中国に依存するといったことについてはもちろん警戒感がありますし、それ自体が多方向の関係を築くといった彼らの方針には反するわけですけれども、しかしながらインドや、あるいは他の先進国との関係を強化して、バランスをとりながらどこからも取るというのが彼らの行動であるし、そういった行動をとることで国際秩序や地域秩序自体が簡単に2つの陣営には割れないという結果を生むのだろうと思います。
(インドは今後の戦略は?)
伊藤:
今年がG20の議長国ということで、千載一遇のチャンスだというふうに見ていると思うんですね。特に、「一帯一路」に伴ういわゆる“債務のわな”(※途上国が2国間の融資で債務超過となり、支援国の意向を無視できなくなること)の問題を、援助の受け手側も深刻に捉え始めている。特にインドの足元のスリランカの経済危機というのは、しばしばインドが引用します。中国に依存すると危ないですよ、ということをインドはいろいろな形でアピールしている。同時に西側先進国の側も、中国経済とのデカップリング(※経済的なつながりを切り離す動き)を始めているというところがあるわけですよね。そういう中でインドはG20の議長国としてグローバル・サウスという概念を持ち出して、自分たちが中国に取って代わるんだという姿勢をアピールするということでグローバル・サウスの代弁者として振る舞い、先進国側にグローバル・サウスの要求をのませることができれば、自分たちの国際的な地位の向上にも寄与するという思惑があるんだろうと思います。
(後半へ)