2021年12月19日放送「自殺対策 いま何が求められるか」①

NHK
2021年12月27日 午後6:25 公開

去年自殺した人の数は、リーマンショック後の2009年以来、11年ぶりに増加。新型コロナの影響が長期化する中、特に女性や若い世代の自殺が増えています。なぜこうした事態が起きているのか。自殺を防ぐために何が求められるのか、専門家や支援者の方々に議論していただきました。前半は、自殺増加の背景に何があるのか、そして女性の自殺をどう防ぐかです。

出演者

いのち支える自殺対策推進センター代表          清水康之 さん

若者自殺対策全国ネットワーク共同代表          石井綾華 さん

NPO法人くにたち夢ファーム理事             遠藤良子 さん

日本自殺予防学会常務理事                森山花鈴 さん

<自殺の現状をどう見るか 背景に何が>

清水:

日本の自殺者数は1997年までは、大体2万人台の前半で推移していたものが、98年に年間の自殺者数が3万人を超えました。その後長らく3万人を超え続けたわけですが、2006年に自殺対策基本法という法律が作られ、その法律に基づいて全国各地で自殺対策が展開されるようになってきた。2010年からは自殺者数、減少していました。ただ昨年、新型コロナの影響を受ける形で、社会的に弱い立場に置かれがちな女性、子どもの自殺が増加に転じてしまった。男性の自殺は昨年も減少していますので、特に社会的に弱い立場の人たちに影響が及んでしまったということだと思います。

(著名人の死が社会に与える影響は)

清水:

著名人の自殺および自殺報道は自殺の増加を招きかねないということで、昨年11年ぶりに年間の自殺者数が急増に転じたということの背景にも、7月と9月に有名な俳優さんが相次いで自殺で亡くなった。その報道が行われ、情報が一気に拡散した中で、精神的にもともと不安な状況を抱えている方や、若い人たちが影響を受けて、自殺で亡くなったということが、データからも明らかになっています。自殺とみられるという報道に関しても、報道する側がしっかりと事実に即して、センセーショナルに報道しないということが大事ですし、そうした情報をSNS等で見かけた時に、拡散させないということも非常に大事です。また報道に触れて、少し心がざわつくとか気持ちが落ち着かないといったときには、報道を見るのを控える、そうした情報から離れるということも大事ですし、さまざまな相談窓口がありますので、そうした所に連絡をして、ぜひ声を聞いてもらいたいというふうに思います。

自殺者の推移を男女別にみると、女性が前の年よりもおよそ15%増えています。

遠藤:

ここへ来て女性の自殺が注目されていますが、長い間女性のさまざまな困難に対する支援をしてきた中で感じるのは、潜在的に女性の困難というのはずっとあって、それが表面化していなかっただけなのではないかという気がします。特にコロナが始まって以降、在宅勤務とか学校もお休みになる。お母さんもパートの仕事はなくなって、一日中おうちにみんながいる。そういう中で、何となく曖昧になっていたストレスやいらだちが煮詰まってきて、ぶつかり合って、どうにもならなくなるということが生まれてきているのではないかと思います。

石井:

NPO法人ライトリングという団体でも活動していますが、コロナ以降、特に大きく私たちが感じていることは、コロナ前までは「何となく死にたい」「生きている価値がない」という子たちが多かったのですが、具体的な理由を持つ希死念慮者の方が増えました。例えば、家族が経済的困窮に陥っているために高校進学を諦めなくてはいけないのではないかなど、生活課題を持った上に、希死念慮を抱える子たちが増えているということが実態です。専門家や相談員が、傾聴のみならず、生活課題を解決する伴走者になることが特に求められているとともに、身近で話を受け止める者たちの存在も、非常に大事になってきていると思っています。私たちの活動にはゲートキーパーと呼ばれる、身近で支える子どもたちが集まって来てくれていますが、その子どもたちの中には、自死遺族の方々や、友達を自殺で亡くしてしまった方が増えているのも実態です。3次予防も子どもたちや若者にとって必要な状況にあるということを、現場としては強く感じています。

森山:

今回、女性の自殺が増えているという点と、若者の自殺が増えているという点で、これまでどちらかというと、中高年の自殺対策が中心に行われてきたと思います。特に男性の対策というのが行われてきたと思うのですが、実は、女性は援助希求といって援助を求めることが、比較的得意だと言われるのですが、実際は、なかなかこのコロナ禍で相談ができなかったり、相談窓口自体も閉まっている時もあって、なかなか行けなかったりということがあったと思いますので、今後女性の方の自殺対策についても視点を持つことが大事だと思います。

<女性の自殺をどう防ぐか>

遠藤:

いま女性が助けを求めるのがなかなか難しいと言っていたけれども、やはり歴史や社会構造の中で、女性というのはいつもケアする側に置かれているわけです。幼い時からいい娘であり、いい妻であり母であるという中で、自分のことは自分でする。そして家族や周辺に何かあった時には、自分が助ける側だという意識がとても強い。だから自分のことだけではなく、家族のこともちゃんとできない母親はダメだとか、妻はダメだという意識が強いので、他に助けを求めることはとても困難です。また家族の中の問題というのは、どうしても密室の中で行われることなので、外に出すのは恥ずかしいという恥辱感みたいなものが強くて、社会に向かって自分の困難を発信することがとても下手です。昔ならコミュニティの中で相談する人もいたけれども、今はもうコミュニティも家庭もほぼ崩壊していることも多いので、女性が自分の苦しさを発するということは、とても難しい社会になっているのではないかと思います。

石井:

私たちが活動の中でよく聞く内容としては、パートタイムやアルバイトの女性が、実質的に失業している状態が増えているという背景です。2020年12月時点で、4人に1人がコロナでシフトが減少しているというデータも出ています。シフトが減ることによって、暮らし向きが苦しいと感じることが増え、6割強の方々が経済的状況を理由に気持ちが落ち込む、更に金銭的理由で、この先生きていくのが難しいと感じることが増えている人も、2人に1人に及んでいます。特に6割の方が食費の支出を減らしたり、貯蓄を削ったりして生計の維持を図っている。さらに子どもの教育費の支出を減らしているというところが、大きな課題の1つではないのかと実感しています。

森山:

自分から悩みを打ち明けることや、援助を求めることはとても難しいので、ゲートキーパーという概念があり、悩んでいる人に周りが気付いて声をかけて、話を聞いて、必要な支援につなげて、見守ることができる人のことを言うのですが、そういう方が周りに少しでも増えていくことも大事だと思います。

清水:

自殺で亡くなる人というのは、平均すると4つの悩みや課題を抱えていたということが、私が代表を務めているライフリンクというNPOの調査によって分かってきています。そのきっかけになりがちな問題というのは経済的な問題。これが暮らしの問題や仕事の問題に転嫁されていって、更にそれが家族の問題や心の健康の問題に転嫁されていった、その先で自殺が起きているケースが多い。つまり自殺は何か特定の1つの問題、悩みで突然起きるということよりも、社会的な状況が悪化する中で、それが家庭の問題や人間関係の問題に転嫁されていって、その先で個人の問題、命の問題にまで及んでいるという状況ですので、どれか1つをやればいいということではなく、それぞれの段階、タイミングでしっかりと対策を取っていくということが大事だと思います。

(女性の仕事や生活の支援は)

遠藤:

なかなか行き届いてないと思います。女性自身も、特に子供がいたりすると教育費の足しにするとか、生計の足しにするという考え方が強くて、自分が働く主体として、主人公として意気込んで働いていくことはなかなか難しい。それは、そういう環境がないこともあると思いますが、女性はお手伝い的に働くという意識がなかなか拭い去ることができない。そういう中で、それに甘んじる雇用条件だったりする。この双方の問題があって、女性自身が生き生きと働ける環境作りと女性自身の意識というのも、とても大きいと思います。

石井:

給付金の存在を知ることができない方々や、給付金の存在を知ったとしても、それを申し込む事に躊躇してしまう人たちが多いことを実感しています。自分がその給付金の対象に当てはまらないと思っていたので、給付金の存在は知っていたけれど、申請できなかったという人も多くいます。就労支援とともに、そういった国の制度を使いやすくするような支援というものも重要ではないかと感じています。

清水:

国の制度を整えていくことは大事です。そういう意味で言うと、就労支援も大事ですし、あと住居の支援ですね。住居を失うと生活の基盤が一気に失われてしまうわけなので、住居の支援というのは、低所得者だけでなく中間層も含めて、ヨーロッパの主要国みたいにやっていく必要があると思います。加えて、そうした制度を整えるだけでなく、その制度が使えるように、それを必要としている人たちに情報を届けていく。行政は、そうした人たちに対して情報を届けるのが苦手な部分もありますから、現場に近い所で活動している民間団体や、さまざまな相談窓口でキャッチした、その支援を必要としている人に、的確な情報を的確なタイミングで届けていく。制度とそれを必要としている当事者の間に溝がありますで、その溝をしっかりと埋めていくことが大事だと思います。

森山:

今まで自殺対策は男性視線というところがあった。それは今後も続けていく必要があると思いますが、そもそも女性がどういう悩みを抱えているのかや、実際どういう相談が多いのかということも、今まであまり分析されてこなかった。官民の連携も大事なのですが、できれば学の部分も入って、我々のような大学の教員であったり研究者も入りながら、一緒に、例えば相談窓口の情報であったりとか、どう広めればいいのかということと同時に、どういう悩みが多いのかというところもきちんと分析をして、対策に生かしていくことも重要なのではないかと考えています。

石井:

私たちNPOで活動する者としては、大きく限界というものを感じています。やはり女性の問題一つとっても、女性だけの問題ではなく、背景に子育ての問題であったり育児の問題であったり、そして女性がストレスがたまった時に子どもに愚痴を吐いてしまうような状況もあって、子どもがその気持ちを聞くことに疲れてしまったというSOSを聞くことがあります。背景にさまざまな社会課題が連なっている状況がある中で、1つの行政窓口でそれを解決しきるということは困難です。連携をする態勢も必要ですし、行政だけでは行うことが難しく、官民学と連携する事で、本当の支援が行われていくと考えます。

清水:

実態の把握というものが非常に重要で、その実態というのは単なる統計ではなくて、日常的な暮らしをしている段階から、どういうふうにして自殺に至ったのか、追い込まれていったのかという、プロセスを明らかにしていくということですね。自殺というと、特別な人が特別な悩みを抱えて突然亡くなるというふうに誤解されがちですけれども、本当にまさかという中で、多くの自殺は起きています。死ぬつもりがあって死んでいるわけでもなく、生きることを望みながら、生きることを選択したいと思いながら、それが選択できない状況に、徐々に追い込まれていく中で自殺で亡くなっていく人が多いので、そのプロセスを明らかにしていく。とりわけ女性のそのプロセスがどういうものなのか、これは類型化できると思いますので、そうした類型化を図りながら、それぞれのタイミングで、どういう立場の人が、どういう支援を提供すればいいのか、あるいは情報提供すればいいのかといったような総合的な戦略を練った上で介入していく、生きることの包括的な支援を行っていくことが大事だと思います。

遠藤:

私たちのところに相談にみえる方は、もう死にたいと言って電話をしてくる方が多いです。例えばDVがあったり、子どもが虐待を受けたりしているから何とかしたいと思うけれど、お金はない、住む所はない、頼る友人も親戚もいないと。一人で何もできませんと。もう死ぬしかないんです、という声はかなりあります。そのときに、とりあえずはいらっしゃいと。行くところがなかったら、一時的に支える場所はあるし、ご飯も食べられるし、ともかくいらっしゃいと言って来て頂いて、お話をよく聞くところから始まります。その後、行政の支援がないと民間だけではとても難しい。一番簡単なのは生活保護の申請をして、受けていただいて、お部屋を作るという形になりますが、なかなかご本人自身が女性の場合は、生活保護の申請をしたくないという方もいるんです。私たちはこの辺がすごく課題だと思っていて、恥ずかしいことだというスティグマ(間違った認識)がとても女性には多い。人に助けてもらう事は恥ずかしいと思われる方が多い。

<相談窓口>

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