2023年4月16日放送「広がるAI=人工知能」②働き方は・雇用は

NHK
2023年5月8日 午後0:01 公開

「言葉」を操る能力が急速に進化しているAI。ビジネスの現場は、どのように変わるのか。私たちの働き方はどうなるのか。人の仕事を奪う可能性はどれほどあるのか。日本経済や雇用への影響を考えました。

この後の議論は⇒「③規制・ルール作りは」

●雇用・経済への影響は

オックスフォード大学の論文で2013年に提示された「あと10年~20年でなくなる職業と、残る職業」の予測です。

(その後もAIは進化を続けているが、私たちの仕事はどう変わる)

松尾:今までは、「AIによって仕事がなくなる」と言われていたんですけれども僕は「そんなことないよ」と言ってきました。ただ、今回のChatGPTの技術は「結構なくなるかもしれませんね」というふうに言うことが多いですね。これは、必ずしもネガティブな意味ではなくて、仕事が非常に効率化される。自動化される。それによって人間が集中すべきところに時間をとれるという意味を込めてですね。なぜかと言いますと、言葉を使っている仕事というのが非常に多いんですね。今までは画像認識とか、そういった技術でしたので、画像を判断する、画像を見て判断する。これは、わりと限られていたわけです。ところが、ほとんどの仕事の人が今、言葉を使って仕事をしている。ここの技術が一気に良くなった。そうすると、仕事によっては自動化・効率化できる範囲が非常に広がっているということです。

(雇用に与える影響は)

井上:ChatGPTが「汎用目的技術」なのではないかという論文がありまして、これは「蒸気機関」とか「電気」とか、いろんな用途に使える技術のことをいうんですけれども。まさにChatGPTが汎用目的技術であって、蒸気機関と同じぐらいと先ほど松尾先生もおっしゃいましたけれども、そういうインパクトのある技術であると。かなり広範囲にわたって仕事が、一部では減るし、あるいはその敷居が低くなるということもあるかと思っています。例えば私は絵が下手で、漫画家になりたかったんですけど、なれなかったわけですけれども、いまAIを使って漫画家になれるんですよね。実際AIだけを使って絵を書いてそれで漫画を作ってしまった人っていうのもいらっしゃるわけで。そういうふうにクリエイターの敷居がすごく低くなったっていう、そういう時代かなと思います。

板津:雇用に関しましては、もちろん自動化が進むことによって、無くなる仕事も出てくるかもしれませんけれども、同時に新しい仕事も出てくる、そういう過去の傾向があります。加えて、週休3日という制度の議論がさらに拍車がかかるのではないかと思います。もし、期待されている生産力がそのまま維持されるので良いということであれば、人間がやるべきことが少し少なくなり、週3日休み、週4日働く、そういう形になれば、余暇産業は逆にちょっとプッシュがされる。さらに活発化されるかもしれませんけれども、人間としては労働に対してどういうふうに考えていったらいいのかというようなこと、あるいは余暇の過ごし方はどういうふうに過ごしたらいいのか。それから、先ほど小川先生がおっしゃったように、私は人間として何を目的に生きているかという議論にもつながっていくと思っています。

小川:世の中の人たちがちょっと勘違いしている部分があると思っていて、それは、こういうAIが出て来たから、進化したから、私たちの生活とか仕事が変わるのではなくて、実は人間がAI化してきたから、今のようなものを生み出しているんだと思うんですよね。つまり、効率性を追求して、何でも量だけをこなしていく、そういうことを仕事の中でもやってきたことによって、それに取って代わる技術を生み出そうと。技術とかテクノロジーというのは人間の鏡ですからね。そういう意味では、私たちがもっと考え方を変えて、余暇を大事にするとか、人間の目的をもっとしっかり考えて生きていくとか深く考えて生きていくとか、ぬくもりを大切にするとか、そういう価値観になっていけば、自然とそれを補うようなテクノロジーが出て来たり、仕事が生み出されたりしていくんだと思うんですよね。そんなふうに逆に考える必要があるんじゃないかなと思う。

尾木:やっぱり教育の領域で言いますとね、教えというのが非常に価値が低くなるというか、相対的な位置が低くなって、むしろコーチングする、サポートしていく、そういう力量が求められる。だから塾産業だとか家庭教師業とか、そういうとこら辺も、ChatGPTを使ってね、パパパッとやれば、家庭教師の先生よりいいのが出てくるし、今もいろんな写真を撮って解き方を教えるようなものもありますしね。それ使えば、本当にいらないです。だからそこら辺の職業の方は気を付けた方がいいわよっていう感じがしますし。それから何よりも子どもたちが、僕はこれまでの10年刻みぐらいで変化してきていると思いますけども。見ていくと子どもたちは、もう自分たちで本能的に学んでいて、使いこなしていくと。もちろん悪いこともいっぱいありますから警戒は必要なんですけど。だから基本的に僕は子どもたちに話を聞くとか、いろんな苦情も聞いてみるっていうのが一番大事かなと思っています。

(日本経済にとっては)

井上:私はチャンスだと思っていまして、AIの開発という面では、日本は少し遅れていた部分もあるんですけども、このChatGPTや画像生成AIを使いこなしている人が、もしかしたら世界で一番割合としては多いかもしれない国なんですよね。しかも、ヨーロッパが規制の方向に動いているのに対して、日本政府は今のところ規制しない、規制を検討していない。ということは、もう使い放題ということですね。私はそっちの方向でさしあたり良いと思っていまして、日本人の労働者の多くの人がChatGPT、あるいはその延長上の技術を使うことによって、かなり労働生産性を上げられると思っています。これまで「失われた30年」ということで、経済停滞があり、さらに生産性がかなり相対的に他の国と比べて低下していた日本の実態があったわけですけども、ここで逆転して、むしろ生産性を爆上げできるのではないかと思っています。

松尾:私も井上先生と同じで、日本にとって非常に大きなチャンスだと思います。やっぱり日本は、これまでデジタル化が言われてはいるものの、なかなか進んでこなかったんですね。私はある意味で「リープ・フロッグ=蛙跳び」のように。これ有名な話で、アフリカで固定電話が入らないのに携帯電話がいきなり入ったと、これリープ・フロッグなんですね。日本もデジタルが進まないんだけども、いきなりChatGPTによって色んな業務が効率化したというふうにできるのではないか。ChatGPTのインパクトが、私はまだまだ過小評価されていると思っていまして、得意なのは「情報の変換」なんですね。何かインプット(入力)があった時に、それを出力に変換すると。実は人間の仕事というのも、多くの場合、情報の変換で仕事というのができていて、上手く使えば全体を自動化・効率化できる。そうすると、まさに人間の書類の仕事とか、多くの人が残業をしないといけないというのは、そこで時間を使っているわけですから、より人間らしい時間、余暇とか人間らしさとか、そういったところに時間を使っていけるのではないかなと思います。

(懸念は)

板津:私たちの身の回りでもう既に出てきている「おすすめ機能」というのがあります。何か買い物をした時の履歴が残っていたり、あるいは動画配信サービスを見た時に、次にこんな映画見たらいいですよというようなおすすめがあります。ああいうふうに私たちの購買履歴っていうものがかなり蓄積されている。AIが得意としているのは、そういった過去の私たちの行動をもとに、何か新しい、次に出てくることを推定する、私たちの次の行動を推定するということだと思います。そういったものが、例えば商業芸術・大衆芸術の中で使われるようになってくると、「投資をした額に対してちゃんと人々が見てもらえるだろうか」そういうような予測をAIにしてもらうということが出てくると思います。そういった売上げ予測に基づいて企画会議が通るかどうか、そういう話になってきますと、資本がだんだん集中していって、売れるものにだけ行くというようなこともあり得るかなと思います。例えば小さなアート系の映画とかにちゃんとお金が回るように行くのかなということなど気になりますし、投資の判断に関しての多様性というものが、これからももっと求められていくのかなと思います。

小川:マンデヴィル(イギリスの思想家)の『蜂の寓話』という有名な話がありますけど、人間というのは、自分がちょっと悪徳とか私欲とかを追求することによって世の中全体がよくなるという話なんですけれども。こういう生成AIとかも悪い面もありますけど、自分が楽をしたいとか、それを追求することによって社会全体が経済的に発展していくということは、絶対あることですから。しかし、そのマンデヴィルの話も、それを受けて経済理論というのが色々できてきて、アダム・スミスも市場の論理をつくっていったわけですけど、そのアダム・スミスが同時にやっぱり道徳は必要だということを論じていたわけですね。だから、私たちもいいことだというだけでなくて、他方で道徳的なこと、倫理とかそういったことも同時に真剣に考えていかないといけない。これは必ずしも上からの規制とは違う話だと思う。

尾木:すごく重要だと思いますね、倫理のところ。やっぱりSNSが登場して使われるようになってくると、そこのところが曖昧になってしまう。ユーチューバーを目指す子どもたちも今すごく多いんですけど、小中学生・高校生問わずね。例えば放送局や新聞にしても、情報を発信する方はコンプライアンスをすごく厳密にやっているわけですよね。ところが、子どもたちが発信するのは、そこはもうノーマークで、どんどん自由自在にできてしまっている。そこで求められるのは、やっぱり倫理の力、モラルだと思うんです。特に日本の教育の中ではモラル教育とか、道徳教育はやっているんですけども、生活の中でのモラルをどう高めていくのか、リテラシーも含めてですけど、ほとんどなされていない。だから、ここら辺はこれから求められる。倫理のところは家族の中でも一緒にやりながら高めてほしいなと思いますね。

(企業倫理や歯止めは)

井上:私は「AIデバイド」という言い方をしているんですけれども、要するにAIを使いこなす人と使いこなせない人でかなり今後、格差が拡大していく可能性もあって、それで仕事を失ってしまったりするとか、あるいは貧困に陥る人も出てくるかもしれないんですけども、その時に弱い立場の人、AIとかITを使いこなせない人の立場も考えて社会、国というものを形成していく。弱い立場の人に対する同情心ということを、先ほど道徳と皆さんおっしゃっておりますけども、そういう部分がより必要になってくるかと思います。あるいは、AIを障害のある方とか病気を持っている方の生活を向上させるのに役立つような、そういう応用のされ方というのを社会全体でもっと追求していくべきかなと思います。

松尾:技術の非常に大きな変革期ですので、それにともなって色んなルールづくりとか議論が必要になってくるんだと思います。井上先生がおっしゃったようなAIデバイドに関して、今回の技術で面白いのは言葉だということです。言葉を入れると出てくるので。言葉はみんな使える。あと、高齢者も含めて得意な方がいっぱいおられる。しかも、日本は俳句とか短歌とか、言葉にやたらこだわってきたというような文化的背景もあって。そういった意味からは、かなり多くの人に使えるものになっていくのではないかという気もします。一方で、先ほど礼儀正しい公序良俗に反しないようなことをChatGPTは言うと言いましたけど、実はその教え方も本当は問題があって、そういった画一的な見方だけでいいのかとか、もっと多様性を重視した会話ができるようになってないといけないんじゃないかとか、そういった部分は、議論の余地がある点かなと思いますね。

この後の議論は⇒「③規制・ルール作りは」