2023年7月16日放送「新型コロナ感染拡大は 5類移行でどう向き合う」(前半)

NHK
2023年7月25日 午後6:15 公開

新型コロナの感染者の全国的な増加傾向は、再び感染拡大の波につながるのか?感染症法上の位置付けが5類になってからおよそ2か月となる中で、この状況をどう考えこれまでの教訓をどう生かせばいいのか?最前線に立ってきた専門家や自治体トップの議論から「現在地」が見えてきました。

出演者 左から

髙口光子さん(元気が出る介護研究所代表)

坂本史衣さん(聖路加国際病院感染管理室マネージャー)

村井嘉浩さん(宮城県知事)

中空麻奈さん(BNPパリバ証券GM統括本部副会長/経済財政諮問会議議員)

尾身茂さん(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)

このあとの議論は⇒⇒「新型コロナ感染拡大は 「5類」移行でどう向き合う」(後半)

●「5類」移行後の感染者増加 現状は

「5類」への移行後、感染の流行状況の把握については、指定した医療機関に週1回報告してもらう定点把握に変更されています。7月3日から9日までの1週間では、一医療機関あたりの平均患者数は、前の週の1.26倍の9.14人。45の都道府県で前の週より増加しています。厚生労働省は、特に九州や中国・四国では前の週より増加幅が大きい県が多く、引き続き感染状況を注視したいとしています。

尾身:

たしかに新規の入院者も増えているし重症者も増えているんです。一体何が起きているのかをみんな知っておくことが必要だと思うんですけど。まずは、5類に変更してから社会経済の動きが徐々に元に戻っていて、人の接触が多くなっていますよね。それから夏になって部屋の中で過ごす時間が多くなっている。自然感染、あるいはワクチンを打ったことによる免疫が時間と共に少しずつ下がっているんですね。最後は、いわゆる免疫を逃避する、くぐり抜ける新しい株がだんだんと増えてきているっていう。そういった理由で、どこまで今の波が行くか分かりませんけどもう少しこの状況は続くと考えていた方がいいんじゃないかと思います。

(定点観測でわかるのか)

尾身:

それはもう5類に行く時に、ある程度正確な感染者数は分からないっていうのは織り込み済みのことですよね。しかし、それだと困りますから。一般診療も困るし、対策を打つ行政の責任者も困るんで。そういう意味では、この定点っていうのが1つありますけど、実はこれだけではなくて、色んな複合的な技を使っているんですよね。一番大事なのは今感染がどんどん増えているのか減っているのか、絶対知りたいですよね。ただ、それを補うという意味で、下水のサーベイランス(下水中のウイルスを検査・監視することにより感染状況の把握や対策につなげようというもの)など様々な複合的なサーベイランスして、なるべく実態に合うようにしようっていうことです。

坂本:

一般市民としての医療従事者も定点報告になったことを受けて、感染状況が分かりづらくなっているということがある一方で、病院に来られる外来の患者さんですとか入院患者数って、大体地域の動きとこれまでも連動しているので、増えてきたという感覚はより鋭敏につかみやすいということがあります。5月中旬以降から現在まで、急激の増加という感じではもちろんないんですけど、上り続けるエレベーターみたいな感じで、ずっと感染者数が上がっている。そして、最近は高齢の方の感染がやっぱり多いので、入院される方が、恐らくこれまでの経験を踏まえると、今後増えてくるのかなという予測をしています。

(沖縄県では知事が呼びかけ どう見る)

村井:

沖縄県で起こることは、必ず全国に広がると思っています。実は沖縄県は、第8波の時は比較的落ち着いていたんですね。病院の使用率が46パーセントぐらいで、全国的には落ち着いていたんですけれども。その時に私は、恐らく集団免疫が沖縄でできてきたのかなというふうに安堵していたんですが、ここに来て病床使用率が70パーセントを超えているということで、間違いなく第9波といってもおかしくない状況です。コロナにかかった方の定点観測を見ますと、80歳以上の方、沖縄では全国の4.5倍ということでありますので、高齢者の方がコロナに罹患すると、病院に入院する可能性が非常に高くなってしまうということでありますので、そこに特に注意を要するなと思っております。

尾身:

沖縄に多少特殊な状況はあるんですよね。人と人の密が非常に緊密ですよね。それともう1つは、沖縄のワクチンの接種率がちょっと低かったのもあるんです。しかし、それだけでは説明できないんで。今知事がおっしゃったように、実は一番大きな影響があるのは、その地域の住民の免疫のレベルが違ってきますから。沖縄の場合はちょっと前の波の時に少なかったということがあるので、なかなか地域によって差がありますけど、大きな傾向を言うと、今の沖縄・九州からだんだんと北の方に行くということは、十分考えておいた方がいいと思います。

髙口:

全数報告などが毎日のようにテレビで報告されていた時はすごい不安感も強かったと思いますが、今は随分現場は落ち着いてきました。断続的に感染の報告やクラスターの報告などが出てきますけれども、以前のような悲壮感とか焦りとか、そういうのは無くなってきたと思います。第9波が来ると言われても、来る時は来るというような構えが今現場にはできたような気がします。

(経済への影響は)

中空:

今髙口先生がおっしゃったように、来るものは来ると思っていて。経済の方で何かこの第9波に予期して準備しているかというと、それは全く無いなというふうには思っているんです。ただし、中国がそうですが、ゼロコロナ対策をやってしまうと、やっぱり経済がストップすると大変なことになるということは十分分かっているので、これから先第9波がもっと大きなことになったとて、完全に経済を止めるのは難しいのではないかというのは私たちが思ってるところです。ですので、今の現状がどうかっていうのは非常に難しくて、専門家の方々がもうちょっと注視しなければいけないよということを今聞いていて、ちょっとだけドキドキしてきたんですが、こういう状況が続くと、今度は策がとれているのかとか、そういうことを考えながら経済への影響を考えていかなければいけないと思っています。

(変異の実態は)

尾身:

変異は、残念ながらウイルスは人間の状況を勘案してくれないですよね。そういう意味では、はっきり言って変異はどういう方向に行くか分かりません。第8波からずっと見ていても、これは研究者は誰も予想できなかった、こういう変化の仕方は。ゲノム解析はこれからもずっとやっていますので、新しい変異株がどうなるかは、これは当然厚労省中心にフォローしていると思いますので、それについては分かり次第広報しているということだと思いますね。

(集団免疫は)

尾身:

イギリスの例をとると非常に分かりやすいんですけど、イギリスは前半に(感染率が)80パーセント、今はもう80パーセント超えていると思います。しかし、そうすると、いわゆる集団免疫でもうゼロに近くなるだろうと、そう考えたいですよね。ところがイギリスでも、だんだんと死亡者の上下の幅は狭まっていますけど、まだ死亡者がまた増えている時期もあるんです。イギリスがこれだけ死亡者が出てきて、それだけもう免疫を持った。それでも、死亡者がこれでどんどん減ってゼロになるっていうことはなくて、山をまた繰り返しているんですね。ただ、山の上下の幅が少なくなっているということは言えるんで、日本の場合はまだ感染者が40パーセント強ですよ。したがって、これからさっきのワクチンの肝はもう時間と共にということで、残念ながらこれがすぐにゼロに向かうということは無いということだけは、みんなで認識しておいた方がいいと思います。

(医療提供体制は)

村井:

基本的にはインフルエンザと同じ対応ということになっておりますので、病院の入院が調整がつかなくなった時に行政が出ていくということになっていますが、まだそこまで至っていません。ただ、いずれ沖縄のようになる可能性はあるだろうと思って、心の準備はしておかなければならないと思っています。今回一つ尾身先生に問題提起させていただきたいと思っておりますのは、そういったものを全国比較するためには、客観的なデータをしっかり取っておくということが、私非常に重要だと思うんですね。例えば定点の病院、宮城県の場合91なんですけれども、内科と小児科が1000あるんですが、その中の91を選んでいるんです。その1000の中で、コロナの患者をしっかり面倒見ますという病院が750。250はまだ意思表示をして下さってないんですね。その91の定点観測の病院を750の中から選ぶのか、1000の中から、この250も入れるのかによって、だいぶ患者の出方の数が変わってくるということです。基本的には、どの都道府県も恐らくインフルエンザと同じ病院を定点観測の病院に指定しています。宮城も91、その場を選ぼうとしたら、3病院がすぐ協力できないということだったので、それを抜きまして、コロナの患者を看るという病院を3つ入れて91にした経緯があります。そうしてない県もあるということで、そうなってくると、だんだん患者の数に差が出てくるということで、今後の医療の調整をする上で、全国同じ基準で患者の数をカウントするように、そういうふうにぜひ政府の方に提言していただくとありがたいなというふうに思っています。

尾身:

おっしゃる通りで、標準化した方がいいですよね。ところが、難しいというか現実は、各地域によって医療体制が違うので、どうしても定点に選ばれる病院が一定していないんですよね。だから、そういう意味では定点というのは、その県の中での動向は非常に分かりやすいけれども、県を比較するとなかなか難しいんで、これについては少しずつ標準化の方に向かう、すぐにはできないんで、医療体制と非常に密接に関係している、そういうことだと思います。

(子どもに広がる感染症は)

坂本:

今年が去年と違うのは、去年はRSウイルスが突然上がって下がったというような状況もちろんあったりインフルエンザがはやったんですが、今年はRSウイルスやコロナ以外にも、ヒトニューモウイルス、ヘルパンギーナ、様々なウイルスによる気道感染症のお子さんが増えています。外来も受診者が多くて厳しいんですが、特に入院医療、関東圏では例えば入院先が見つからずに、10軒15軒と探し回らないと受け入れ先がないといったことが起きています。背景は複合的でしょうけど、感染者が急増したということだけでなくて、医療体制という観点で見ますと、もともと小児病院の数というのがここ10年で4割ほど減っていることですとか、診療報酬の額が少ないので、高い専門性が必要なスタッフが育成・配置が難しいといったことがあります。少子化にはなってきますが、やっぱり質の高い小児医療って求められていますので、今回のようにサージ(感染増)が起きた時にも柔軟に提供できるような体制、そして日常の体制を充実させておく、これは少子化対策に含める必要のある重要な医療課題だと思います。

(医療体制に何が必要か)

尾身:

2つの面があるんですね。この3年間、これは厚労省もそう、自治体もそう、医療関係者、かなり無理をしてコロナ病床を増やしてきたんですよね。しかし、実際に我々現実を見なくちゃいけないのは、日本の医療の場合にはそもそも余裕がないんですよね。そういう中で、こういうサージキャパシティー(感染拡大時の病院の受け入れ能力)が無い。だから、ちょっと急激な需要があると、なかなかそれに対応できないんですけど、それでも必死の医療関係者等の努力で何とかしてきたわけですけど、私はベッドを増やすということをずっとやってきたんだけど、それとは同時に、やはりもう少し本質的なサージキャパシティーをどうするかというのをそろそろ今のうちに考えておく必要があると思います。

大手旅行会社によりますと、7月15日から8月末までに国内旅行に出かける人の数は7250万人で、新型コロナの感染拡大前の2019年と同じ水準まで回復する見通しです。

日本を訪れる外国人旅行者も増加傾向が続いています。5月には189万人余りが日本を訪れ、2019年の同じ時期の7割程度の水準となっています。

中空:

これ自体は本当に良いことだと思います。しかしながら、5類に移行するのも遅かったですけれども、経済再開ということを決定したことも日本は遅かったとは思うんですね。諸外国では2021年6月ぐらいには割とリオープン(再開)だという話が出ていて、「もうマスクも外しましょう」になっていたと思うんです。私たち、日本でマスクを外すのに抵抗無くなったのはつい最近のことかなというのを考えても、やっぱり相当差は大きかったと思います。ですので、結果どんなことが起きたかというと、経済回復がやっぱり他の国よりも日本は遅かったということが起きてしまったわけですよね。ですので、この今のリオープンは大変良いことだと思いますが、そこに急にまた第9波って来てしまうと、そして先ほど先生方がおっしゃったように、ちょっとやばそうだって話になってくると、これまた経済が止まってしまうのかっていう不安にはなりますよね。止めないようにする努力、どうやってウィズコロナでいくのかっていうのは、もうそろそろ上手くできてないといけないなというふうには思っています。

(介護現場にとって緩和は)

髙口:

これはとても良いことで、介護は人間関係、中でも体や心のご不自由のある人の人間関係を守るのが私たちの仕事なので、時に心にストレスを抱えやすくなります。その中で、職員たちは自分たちが感染源になっちゃいけないって思い一つで、外出やあらゆることを制限してきた中で、周囲の目というのもすごく厳しかったものがありました。しかし、今回5類になったことで、周囲の目とか、また自分たちの罪悪感とか、そういうことから解放されて、どんどん開放的に旅行に行ける、おいしいものが食べられるというのは、結果的に利用者さんにも良いことだと思います。ただ、気が付くと、いまだに人の集まる場所には行かないでくださいみたいなことを施設長さんとか理事長さんが端々に言うような施設も、事業所もあるって聞いているので、職員は解放されたいと思っているし、実際それでいいはずなんだけど、経営者側とか事業者側と一部ズレもあるようには聞いています。

坂本:

街の様子を見たりしていますと、様々な行事が行われるようになったのは本当に素晴らしいことだと私は思っています。私もエンジョイしている部分はあります。一方で、感染者が急増した沖縄を見ますと、ホテルの予約がキャンセルされてしまったりとか、医療がひっ迫したことで他の病気でも医療にかかりにくくなったというような、色んな経済も医療も共倒れになりそうな状況っていうのもあるんですよね。なので、5類になったっていうことが発信された時に、伝わり方が、ウイルスが消えたとか、増えなくなった、重症化しなくなった、もうこれからはあんな波は来ないんだというようなイメージを与えるような伝わり方があったのではないかと考えています。感染対策はやっぱりメリハリなんですよね。上手く付き合いながら波を乗り切っていけるような感染対策の行い方を楽しみながらやっていく。そういう上手い伝え方をしていかないといけないんじゃないかなというふうに思っていますね。

村井:

当然感染拡大が広がって、また亡くなる方増えてまいりますと、いつか来た道にまた戻らなければならなくなってしまう可能性もありますので、そこは非常に慎重にしなければならないと思いますがしかし、国民のこういった感情というのも非常に重要でして、今お話のあったように、もう一度当初のような状況にしてほしいと思っている国民はまず恐らくいないと思いますし、かなり知見も集まってまいりましたから、やはり今と同じようなことをしながら、感染が広がらないように手を打っていくということは非常に重要だと思います。官公庁のデータ見ましても、5月のデータですけれども、コロナ前と比較してもう2.5パーセント減ぐらいで、ほぼ観光客の数は回復しております。資材高・物価高というのはあるんですけれども、経済は非常に今上手く回っておりますし、税収も上がっておりますから、私はこの状況を維持しながら、インフルエンザと同じような対応をしながら、適時適切に必要な情報をどんどん流していって、注意喚起をしていくというのは重要だろうなというふうに思っています。

(インバウンドの回復と水際対策は)

中空:

水際対策、遅かったとは思うんですね、日本をオープンするのは。なぜならば、日本に来たいという外国人の方が非常に多かった、そのチャンスを全部逃してしまった面はあると思っています。他の国に比べて日本だけ異常だということもよく言われました。「日本だけ鎖国しているのか」という言葉も、私なんかの同僚からはよくあったんですよね。なので、基本的にはやっぱりリオープンで行くしかないんだと思いますが、ただし本当にすごい波が来ているんであれば、経済なのか命を守ることなのかと言われたら、やっぱり命が大事ですから。どこがせめぎ合いで、どこが重要なポイントかということを適正に判断していただき、その適正な判断の下、また経済を止めますよと言われたら、それは従うような仕組みっていうのも作らなきゃいけないなと思います。日本の場合は決めても強制力がなかなかないので、どういう時にそれを発動すればいいか分からない。そうすると、水際対策の時もあったんですけども、不満になってしまう。ここを解消していく必要があると思います。

(判断どう見る)

尾身:

やっぱり経済と感染、この両立というのは当然大事で、私は今の状況はすぐに行動制限なんていうことをする時代ではないと思います。むしろ社会を少しずつ、今そういう傾向にあるんで、それを私は非常に良い方向だと思います。その上で、あまり急にパニックと、すぐにまた安心しちゃうというのを繰り返す傾向があるんだけど、実は今何が起きているかという一番大事なことは、致死率は下がっているんです。間違いなく下がっている。ところが、感染の伝播力は非常に強くなっている。したがって、恐らく多くの人は知らないと思うんですけど、日本の死亡者の絶対数は第1波から第8波で間違いなく増えているんです。これは、致死率が低いにも関わらずなぜ死亡者が増えているかというと、それは伝播力は極めて高くなっているという。ただし、良いことは、若い人は感染してもほとんど重症化しない。今亡くなってる人はほとんど高齢者です。このことを非常にしっかりと理解する必要があるんで、ここが最初の第5波とかああいう時と全然違うウイルスになっているんですよ、デルタ株。だから、そういう事をしっかり踏まえて、私は経済を、あるいは教育を回していくのがいいんじゃないかと思います。