2023年4月9日 徹底分析『グローバル・サウス』から見た世界(後半)

NHK
2023年4月14日 午後5:55 公開

揺らぐ国際秩序の中で存在感を高める「グローバル・サウス」の国々。番組後半は、こうした国々と先進国の関係は今後どうなるのか、そして日本はこうした国々とどう関わっていくべきか、議論していただきました。

ここまでの議論は ⇒ 『グローバル・サウス』から見た世界(前半)

●先進国側はどう動く?

アメリカのバイデン大統領は先月、およそ120の国や地域を招き、民主主義サミットを開催。中国やロシアを念頭に民主主義国家の結束を呼びかけました。

(参加した国々の受け止めは?)

大野:

多くの国が参加しましたが、共同声明には必ずしも全ての国々が署名しなかったと覚えています。(いくつかの国は)民主主義については大事だと言いながらも、具体的なロシアに対する非難などについては留保するといった形で対応しています。アメリカは「民主主義対専制主義」といった形で非常に振りかざしていますが、やはり民主主義といってもいろいろな形があるわけですよね。その国その国に合わせた政治の形態をつくっていく、それから貧困の問題などを直していかないと、不安な社会になってしまう。そういった中で、どういう政治のあり方がいいのかというところでみんな苦労しているところだと思うのですが、そこを民主主義国家かそうじゃない国なのかといった形で白黒つけられてしまう。その辺について非常に冷めた見方というのがあるのかなと。

(開催したアメリカ側の狙いは?)

細谷:

(民主主義サミットは)やっぱり国内向けだと思いますよね。民主党の中の特に左派、リベラルな勢力からの、バイデン政権が十分にアメリカのリベラルな価値というものを尊重していないという不満に応える非常に内向きな行動だったと思うんです。バイデン大統領は就任以来一度もアフリカを訪問していませんし、アフリカや中東を取り込もうとする努力が明らかに後手に回っていると。その中で、こういったオンラインで120 か国以上を参加させたわけですが、韓国・タイのような世界のいろいろな国を共催国として、これはアメリカ一国で開いているわけではないんだという演出をしたわけです。しかしアメリカの価値観というものを世界に押しつけたということで、結局は70か国程度しか最後の共同声明に署名してない。アメリカを中心に一つの価値観で束ねるというアプローチに対して、むしろ逆効果、非常に強い反発が生まれていると思いますね。

(東南アジアの国々はどう受け止めた?)

大庭:

それはもう冷めて見ていたとしか言いようがないと思います。個人的には、なぜ2度目の民主主義サミットを開いたのか分からない。おそらくこれは内向きの発想から来たものであろうと考えております。たしかに東南アジアの国々は、選挙はやっていても、その前に野党を解党したりとか、いろいろな問題がある権威主義の国が多く、民主主義を装っている国が多いのは事実です。しかしながら、それでも定期的に選挙をやっている。そういう意味では彼らは民主主義という体裁を整えようと思っているわけです。こういった権威主義と民主主義の“ハイブリッド型”の国家というのは、ASEAN諸国の一部だけでなく世界にたくさんあって、そういう国々がそれぞれ努力している中で、不要な線引きをすると。二項対立的な世界というのを世界に押しつけるという結果になってしまったことについて、ASEAN諸国も、グローバル・サウスの多くの国々も冷めた目で見ているのではないかと考えています。

(参加したインドの本音は?)

伊藤:

インドは、ASEANだとかその他の国とは違った部分があると思うんですね。インドは世界最大の民主主義国だということを自認してきたわけですし、またそれが西側との関係強化の礎でもあるわけですね。実際インドは共同声明に署名したわけですが、いくつも留保をつけているわけです。ロシアについて言及したところは留保ですし、プーチンの責任を追及するというところも留保ですよね。それからインターネットの自由だとか、そういったところもインドは飲まないわけですね。これは自分たちが規制するのだという途上国としての立場といいますか、治安のためにコントロールはできるんだというところはしっかりと主張するということだと思います。ただ民主主義という看板自体は絶対に否定しないというところがインドの特性だと思います。

(中国の受け止めは?)

福田:

民主主義を押しつけないでほしい、というのが中国がグローバル・サウス諸国に働きかける時に一番強調している部分です。中国としては一貫して批判的というか、完全に距離を置いた立場ですし、民主主義サミットがあまり好評ではないということは、逆に見れば、中国から言うとチャンスであるということになるのではないかと思います。

(今後、グローバル・サウスと先進国との関係は?)

細谷:

トランプ政権の時代には、アメリカ第一主義、自国第一主義というのがありました。また世界金融危機以降、欧米諸国は非常に内向きになっていったわけですね。そういった意味では、過去10年間、アフリカ、アジアの多くの国々を先進国は見捨ててきたと。あくまでもポピュリズムが台頭する中で、国内問題を最優先していた。その間に経済力を拡大して、あるいは政治的な影響力を拡大したロシアや中国やインドが、こういった国々との関係を深めていったわけですね。ですから欧米諸国がグローバル・サウスとの関係を強化するというものがやや手遅れになりつつある。3月にマクロン大統領が「われわれがグローバル・サウスからの信頼を失ったことに衝撃を受けた」ということを述べたわけですね。ですから自分たちの影響力が低下している中で、いわばG7を含めて、日本を通じてこういったグローバル・サウスの国々との関係を強化したいというのが、アメリカやヨーロッパの一つの意向というふうに見ることもできると思います。

(ASEANと先進国との関係は?)

大庭:

ASEAN諸国は先進国も非常に重要だと考えております。まず中国については、もちろん中国・ASEAN経済圏はもう彼らにとって前提ですけれども、他方で南シナ海問題など、安全保障上の脅威についての懸念もあります。そうすると、アメリカの継続的なコミットメントというのはやはり彼らにとって非常に重要で、そこはちゃんと手当てしていくと思います。それから先進国市場というのも彼らにとってはとても重要ですから、やはり先進国ともきちんと関係を築いていくだろうと思います。しかしながら、ASEAN諸国はアメリカがいつまでこの地域にコミットメントをするかということについては、非常に冷静だということです。彼らがよく例に出すのは、アフガニスタンから結局アメリカは撤退していったと。もちろん東南アジアへのアメリカの関与というのは非常に深いものがありますから、そんなに簡単に撤退はしないかもしれませんけれども、東南アジアの目から見たアメリカは、日本などよりも冷静なところがある。もう一つ、ヨーロッパ諸国なんですけれども、中国とアメリカがどんどん対立を深めていく中で、第三国というのが非常に重要になってくる。その中で、もちろん日本に期待する声もあるんですが、実はヨーロッパ諸国への期待もとても高い。だからヨーロッパ諸国とも関係を強化していくということが今の彼らの動きだというふうに考えております。

(インドは?)

伊藤:

同じようにインドも先進国との関係は極めて重要だしと思っていますし、同時に自信もあって、中国を西側が脅威と見なしている限り、われわれが見捨てられることはないはずだというところはあるわけです。インドはもちろん西側先進国との関係を維持しながら中国の問題に対処していく。特に海洋の問題では、西側の先進国との関係は非常に重要だと思っているわけです。ただそれだけでは不十分で、アフガニスタンからの撤退についても、所詮アメリカは大陸の問題には関心を持っていないんだということをインドは十分分かっているわけですね。ですからロシアというカードは依然として重要だということになるわけですよね。いろいろなところから支持を引き出していこうという戦略は今後も維持されていくと思います。

(グローバル・サウスの国々は地球規模の課題とどう向き合っている?)

大野:

今抱えている課題といえば、やはり新型コロナによる社会的な危機、コロナ感染症の問題、そういったことがあると同時に、そこからの回復途上にこれだけのウクライナ危機が起こってしまって、食料価格の高騰とか、エネルギー価格の高騰、それが肥料とかそういったことにも影響しています。例えばエジプトなどは、小麦などを非常にたくさんウクライナ・ロシア両方から輸入していたわけですよね。そのためインフレが起こっていて、そういうことがいろいろな国であります。また気候変動のような中長期的な課題についても、中国とかインドといった国々がCO2の排出量の削減に効果的に取り組むこと自体が、問題の解決に重要なきっかけを持つといったことがあると同時に、発展途上の国というのは、気候変動の影響を受けていて、例えば干ばつが起こったり、東アフリカでも大量のバッタが発生して食料生産に影響を受けたりしている。グローバル・サウスの国が抱える問題を解決してくためには、世界的な協調というものが必要じゃないかと思います。

(中国は地球規模の課題とどう関わっていくのか?)

福田:

グローバル・サウスとの関係の文脈では、中国も地球規模の課題にしっかりと関わっていくということなのですが、実際の温暖化の問題などでは、国際的なパワーポリティクスであるとか、自国の国益を優先してしまうような場面がまだまだ目立つんですね。そこがこれからのグローバル・サウスとの関係や、地球規模の課題への取り組みを考えた時に、中国の大きな問題になってくると思います。そして経済開発の問題では、中国は近年非常に力を入れてたくさんのお金や技術を提供しているんですけれども、ガバナンスの問題を考えた時に、民主主義を否定するのはいいのですが、中国の問題はそれに対する代替案を持っていないところです。ただ「民主主義を押しつけるべきではない」「多様性を認めた方がいい」と言っているところで終わっている。長期的に中国がグローバル・サウスの国々をまとめて地球規模の課題に取り組んでいくのかということを考えた時に問われてくる問題だと思います。

(先進国側は、グローバル・サウスが直面する課題にどうアプローチしていくか?)

細谷:

例えばEUも、過去5年ほどの間にかなり積極的にインド太平洋政策という形で積極的な関与を続けてきました。これからはインド太平洋地域が非常に活力がありますし、またいわゆる“環インド洋”、東アフリカ、南アジアはこれから人口が増え、経済的にも非常にダイナミックな地域であるということで、日本もEUも非常に関心を持って関与しています。これらの地域が発展するためには、欧米・日本などの資金、投資も必要ですし、技術も必要です。また多くの人たちがこういった地域からアメリカやヨーロッパの大学にも留学して、いろいろなことを学んでいるわけです。そういった意味で、コロナで一時的に断絶しておりましたけれども、おそらくまた再びグローバル化という形で先進国とグローバル・サウスは結び付くということが、お互いにとっての利益になると思います。そういった意味では、欧米諸国がどれだけ謙虚にこういった声に耳を傾けられるかということがカギになってくるのではないでしょうか。

(地球規模の課題にASEANは?)

大庭:

グローバル・イシューに関しては、一番関心が高いのは気候変動であるというふうに考えております。「グローバル・クライメート・リスク・インデックス」という指標によりますと、いくつかのASEANの国々が、リスクが非常に高いトップ10に入っているということもあり、気候変動に対しての関心は高い。ASEAN諸国10か国のうち8か国がすでにCO2の排出量の実質ゼロにコミットしていて、そのうち4か国は主体的に気候変動への解決に関わろうという姿勢が見られる。非常に面白いのが、彼らはこれをある種ビジネスチャンスとも捉えていて、脱酸素化に舵を切る世界経済の中での産業育成も非常に盛んだということです。例えばマレーシア、ベトナムは中国に次いで太陽光パネルの産出国でありますし、インドネシア、ベトナムはEVメーカーを育成しております。例えばベトナムの自動車メーカーは、ビンファストというところが既にアメリカに対してEV車を輸出するということになっています。彼らはもちろん支援や協力が必要なところもあるけれども、自分たちで主体的にその問題に関わろうともしていて、その誰と組むのとかと。アメリカ、あるいは日本、中国、インドなどいろいろあると思いますが、彼らはそういう形で様々な問題に対応しようとしている姿勢が見られるということだと思います。

(インドは?)

伊藤:

モディ首相が「グローバル・サウスの声サミット」で掲げた地球的規模の問題というのが、新型コロナ、気候変動、テロ、それからウクライナ戦争、この4点だったんですね。自分たちが起こしたものではないが、自分たちグローバル・サウスが被害を一番ひどく被っていると主張したわけですね。しかも解決策にわれわれの声が反映されていない。われわれの声を反映させるということがG20の最大の課題だという位置付けだと思うんです。気候変動の問題でインドがこれまで主張してきた“共通だが差異ある責任”、つまり先進国と同じ責任は負わされるべきでないというのが、インドの基本的立場だというふうに思っていいと思います。

●日本は「グローバル・サウス」とどう関わるか

日本は長年にわたりアジアやアフリカの国々への経済協力や支援を続けてきました。ASEAN=東南アジア諸国連合と日本は1973年に友好関係を結び、今年で50年となります。この間、日本はASEANを対等なパートナーとして緊密な協力関係を築いてきました。またアフリカの国々と日本は1993年以降、TICAD=アフリカ開発会議を開催。日本は経済関係の強化や開発援助などを続けてきました。

こうした国々への支援に活用されて来たのがODA=政府開発援助です。これまで190の国や地域に対して支援を行ってきました。ただその予算は今年度は5700億円余りと、1997年度のピークに比べ半減しています。

(日本はグローバル・サウスとの関係をどう築いていくか?)

大野:

日本は国際協力・開発協力というのを長年やっておりまして、そこで培ったいろいろな国の人たちとの信頼関係があると思うんですね。中国を含めたアジアの発展、ASEANの発展、それに対して日本は戦後ODAと投資・貿易・企業活動を連携しながら、非常に重要な貢献をしたと思っています。それからTICADについても、1993年、最初のTICADが開かれていた時は、東西冷戦が終わって、旧ソ連でも欧米でも援助疲れというものが起こり、アフリカに対する支援への関心が非常に減った。そこで日本がG7でも力をつけてきて、日本として国際的な課題にアフリカを含めて関わるといったことで開催をし、いろいろな国際機関と一緒にやっていこうとした。そうした取り組みはとても重要だと思うんですね。日本は多極化する世界の秩序の中で、いろいろな理念を実現するために、いろいろ寄り添ってやってきた。そうしたとても重要な役割を持っていると思います。日本自身の経験を見ても、援助を受けながら援助をしていった。そういった意味で、いろいろな国を学びながら、途上国の立場にも立ちながら協力をしていく。これまで培ってきた信頼関係をこれからも重視しながらやってくべきだと思います。

大庭:

グローバル・サウスと言っても、たぶん2種類ありまして、1つがグローバル化によって恩恵を受けて、これをチャンスとして発展しようとしている国。もう1つはグローバル化によってしわ寄せを受ける国、この両方があると思います。それぞれ(日本がとるべき)アプローチが違いまして、前者については日本が対等の立場で、あるいはあちらに教えてもらうというような立場で関わっていくべきでしょうし、後者については、開発支援の今までの蓄積を活かした対応が必要だろうと考えています。

福田:

中国との関係では、どうしても日本では中国との競争みたいな議論になりがちなんですが、規模で勝っていくのは難しいので、例えば提案型のODAを導入するであるとか、そういう方法ですね。それから他国との協力とか、そうした新しいやり方を模索しながら、場合によって中国とも協力をしながら、多様な援助のやり方というのを考えていくべきかなと思います。

伊藤:

グローバル・サウスといっても一枚岩ではなくて、いろいろな受け止め方があると思うんですね。ただ南アジア地域、インドを含めて、バングラデシュだとか、パキスタンとか、スリランカ、こういった国々の特性を申し上げますと、歴史問題のようなものも、東アジアや東南アジアと違って、日本との間にないわけですよね。そういった意味で、日本は有利な立場にあるとは思うんです。相対的な国力としては、これから日本が低下していく傾向は否めないわけですよね。そういう中で、日本の技術力っていうのは非常に高く評価されていますので、そういったところで入り込んでおくという必要があるだろうと思います。

細谷:

ことしは日本がG7の議長国で、来月には広島でG7サミットが開かれます。それに向けて林外務大臣は1月に南米諸国を回りましたし、また岸田総理は3月にインドを訪問して、モディ首相と非常に広範にわたる意見交換をしました。そういった形で日本がいかにしてG7にグローバル・サウスの声を取り組んでいくか。さらにはG20の議長国であるインドとどのように課題を共有できるか。この1月にも岸田総理は「グローバル・サウスに背を向ければ、われわれは少数派になって政策課題の解決がおぼつかない」ということを述べていました。世界の問題をG7、G20、さらにはグローバル・サウスの国と協力して解決するということがカギになってくると思います。

◆『グローバル・サウス』についての関連記事はこちらでも(『キャッチ!世界のトップニュース』より)