2022年8月7日「日本外交の役割は」③核軍縮へ いま何が必要か?

NHK
2022年8月10日 午後8:16 公開

ここまでの議論は→ 「①米中対立の行方は?」

          「②核軍縮めぐる国際社会の現状は?」

“核なき世界”を目指すという理想と、核軍縮が進まない現実。その中にあって、いまできることは何なのか。そして唯一の戦争被爆国である日本だからこそ、できることとは?日本外交が果たすべき役割を、あらためて5人の専門家に聞きました。

●日本が果たすべき役割は

今回の再検討会議で岸田総理大臣は、核兵器廃絶を目指す日本の現実的な行動計画として、「ヒロシマ・アクション・プラン」を表明しました。具体的には、核保有国に核戦力の透明化を促すことや、核兵器を減らすため米ロや米中の対話を後押しするなどとしています。

(アクション・プランをどう評価?)

藤崎:

これは大事なことだと思います。こういう具体的なものを出していかないと、抽象的なことを言っていてもだめなんで、これまでも日本が何度も行動計画を出して、それが取り入れられて合意文書になっていったことがありますから、今回もこういうものが合意文書の中に入っていくといいなと思っています。

吉田:

(アクション・プランの)多くのものは残念ながらこれまで日本がしてきたことの延長線上にありますので、新味がないと思いました。ただ既にやっていることも、さらに続けるという意味もありますので、具体的に「アクション・プラン」と名付けたわけですから、実施することが大事だと思います。第1点目に「核兵器不使用の継続」というのを最重視しているということは改めて指摘したいと思います。これはやはり世界にとってのボトムライン。最低限一致できるかどうかがNPTにとっても大事だと思います。もう1点は「中・ロとの対話を後押しする」。これはとても大事で、おそらく首脳からこの言葉がNPTで出たのは初めてだと思います。昨今の台湾をめぐる情勢も考えても、北東アジアでの軍縮軍備管理の枠組みをどう作るかというのは、日本の安全保障に直結する問題ですから、NPTにとっても、核なき世界を目指すにしても、日本の安全保障にとってもカギを握るポイントですので、ぜひ具体的なアクションをして頂きたいなと思うところですね。

(軍縮を進める上で、防衛費の増額をどう考える?)

吉田:

防衛費増強そのものは全面的に悪いとは思っていません。ただ、どこにお金をかけるのかがポイントで。また大きな船を造るんですかというと多分違う。あるいは攻撃能力をただ高めればいいのかと、これも違う。軍備増強の行く先には軍縮というのが重要で、それが外交の重要な課題であって、その大きな枠組みの中に安全保障を見ていくという観点がどうしても必要で。軍拡の行き着く先は必ず衝突になりますので、歴史的に見ても軍縮のない軍拡はやはり危険極まりないですから、そのポイントは忘れないで頂きたい。

(アクション・プランの評価は?)

神保:

核兵器を取り巻く世界には少なくとも5つぐらいレイヤー(層)があって、ロシア、中国、インドパキスタン、北朝鮮、イラン、そして核テロとか核関連物質をどう管理するかという、こういう問題なんですが、それぞれのレイヤーで核軍縮を進めていく論理というのは、個別具体的でなければいけないと思っています。ですからこのアクション・プランの中で、具体的に米ロ米中の対話という項目が出てきたということは大変いいと思います。ただ米ロと言ってもウクライナで戦争中ですから、どのような形で当事者同士が2026年の新START条約の改定に向けて協議をするのか、なかなか難しい。中国の透明化という問題は、実は日米首脳会談の共同声明でも触れられた岸田総理が非常に重視している点なんですが、中国がこれから核兵器を増やしていく段階において、そろそろ透明化措置というものに手をつけて、米ロの文脈に中国も加わって軍縮ということに責任を持った対応すべきでないかと、これを促していくことが非常に重要だと思います。

(米ロの対話をどう進める?)

廣瀬:

これは非常に難しい問題ですが、いま新STARTは、米ロ間で唯一の核軍縮条約となっています。新STARTを新たな形で改定するのは、世界の平和にとって極めて重要なところですが、いまロシアにとって核というのは最後の砦とも言えるもので、ロシアは軍事大国の体を装っていますが、軍事予算でいくとアメリカの8%強ぐらいの軍事費しかない。そういう中で一点豪華主義的なスタイルで軍備をやっています。すなわち核搭載型の兵器を強化して、あと極超音速ミサイルなどを強化し、ミサイル防衛システムを強化するということになってくるわけで、そうなるとなかなか核を減らすのはロシアにとって厳しいわけです。しかし核をどんどん増やすとなれば、軍事費を圧迫することになってきますので、ロシアとしてもここで軍縮をアメリカと進めることは決して悪いことではないんですね。ですので、ロシアも積極的に何らかの対応はしていくと思われます。

(中国にはどう働きかけるか?)

江藤:

非常に残念ながら難しいと思います。中国からしてみれば、アメリカを抑止できる、台湾で何か有事が起きた時にも、アメリカと戦火を交えない形で台湾統一に歩を進めることができるかもしれないという大事な手段になりますので、やはり核抑止の力というのは持ちたいと強く思っています。もう1つ大事な点は、中国では軍事力が強くなったことを喜ばしいことと捉えている節が非常に強くて、その結果、周辺国に対して脅威を与えているという認識が非常に弱いんですね。ですので、そこの認識の転換を図ってもらう外交的な働きかけをするということが第一歩になるのではと思います。

(核軍縮の議論を進めるために何が必要か?)

神保:

軍備管理が非常に難しいのは、交渉を進めることによって、それに参加する国が一方的に不利になる状況を作ることはできないんですね。だから全員が集まって軍備管理が国益にとってプラスなんだという状況を作らなければいけない。場合によっては、中国がどの程度の核兵器の量だったら戦略的に十分と言えるんですかということを確認しながら進めていかないと、なかなか軍縮交渉は先に進まないのではないかと思います。

(日本として被爆の実相をどう伝えていくか?)

吉田:

グテーレス国連事務総長が広島に来て「日本こそ核軍縮を、あるいは核廃絶を強く言う最もふさわしい国だ」という趣旨のことをおっしゃっています。これは日本として世界に貢献できる重要なソフトパワーで、これだけ核リスクが世界中に拡散している中で、一番貢献すべきところだと思います。こういうタイミングで岸田さんが総理になられて、来年広島でG7のサミットも開かれるという大きな転換がありました。この機会を生かして、核抑止というのは一体何をしようとしてるのか。すなわち相手を脅していざとなったら核兵器を使用すると言っていることは、広島や長崎のようなところを何百も作るぞということを言っているわけです。そこについてのモラルの問題とか、コストの問題、リスクの問題というのを指導者あるいは市民が気付いたうえで、冷静に議論できる土俵を作れるのが被爆地だと思いますので、是非たくさんの方に行ってもらったうえでG7でも成果をあげてほしいと思います。

(核軍縮に向けた日本の役割は?)

藤崎:

被爆国として実相を見てもらうというのは日本の大事な役割だと思います。そして、やっぱりNPTをしっかりやっていくこと。核禁条約についてはどの核保有国も入ってくれない。だけど日本だって将来、条件が整えばオブザーバーとして参加することはあり得るだろうと思うんですよね。1つだけこの機会に申し上げると、実は今、日本のこれまでの外交の正しさが証明されている。同盟というのはいるのかね、と言っていたら、スウェーデンだってフィンランドだって同盟を欲しがってNATOに入った。G7なんてもう古いんじゃないの、と言っていたら、いまG7がリーダーで、その中で日本が役割を果たしている。今持っている日本の力を利用しながら、韓国との関係もよくしていき、中国との関係は少し辛抱しながら、日本が果たせる安定的な役割を担っていくことが一番大事だと思います。

(核軍縮の議論を進めていくためにも、まずはウクライナで続く戦闘を

 終わらせることが重要。事態の打開に何が求められるか?)

廣瀬:

現状、ウクライナとロシアの戦闘自体が非常に膠着していて、さらにロシアの戦闘は南部に集中し始めています。背景にあるのは、9月上旬にロシアが南部と東部の4州で住民投票をやろうと考えている。そのためになるべく急いで状況を整えたい。他方でウクライナは南部をなるべく取り返したいというところで、非常に戦況が厳しくなっている。この住民投票を絶対にやらせてはいけないという状況があると思います。住民投票をやらせてしまうと、2014年のクリミア併合の時のように、ロシアも法的偽装を用いて東部南部の4州の人たちが望んで独立を決め、そしてロシアへの併合を望んだというふうにお膳立てをして、そして併合してしまうと思うんですね。併合してしまうとロシアの実効支配が非常に強まってしまい、クリミア同様、国際社会が手出しをすることが非常に難しい状況になります。ですので、住民投票を阻止する事に国際社会はまず注力すべきだと思います。

(アメリカやNATO=北大西洋条約機構はウクライナの情勢をどう見ている?)

神保:

いまウクライナ東部、南東部で戦闘が続いていますが、徐々に焦点が南部のザポリージャからヘルソンに至る一帯に移ろうとして、しかも戦線が膠着する兆しが見えている。NATO、アメリカとしては、これをウクライナ軍が有利な形で押し返す展開に持っていかなければいけない。そのためには火力、機甲戦を可能にするような戦力が不十分な状態にあるという、ここをどうやって打開していくのかが重要なポイントであると思います。ウクライナ政府は常々、2月24日の戦闘開始以前の状態まで持っていくのが目標だと言っていますが、もし戦線が膠着して住民投票が実施されてしまうと、そこで状態が固定化されてしまう懸念がある。これを何とか回避したいというのがNATO側の姿勢だと思います。

(事態打開に必要なことは?)

藤崎:

一つ頭の体操として考えておかなければいけないのは、プーチンが急に「もう戦争目的は達したと。だから終わります。撃ち方やめにします」と言ったらどうなるんだと。そうなると今でも400万の難民がいる。ドイツやフランスはインフレが大変厳しい。どこまでみんなで支えられるか。また死者が毎日出ているのに、ウクライナ人も戦い続けるのか。ずっと膠着というふうに思わないで、そのことを頭の片隅に置いておいた方がいいと思っています。

●あらためて、”日本外交への提言“

江藤:

日本外交がビジョンを持っているということが非常に大事なことであろうとまず思います。2段構えで、長期的なビジョンとして核軍縮であるとか、アジアの地域の安定、こういったビジョンを打ち出す姿勢を見せつつ、短期的、2段構えの2段目で、短期的には、中国、北朝鮮、ロシアの軍事力拡大や経済的威圧にどのように対応するのかということに対して、具体的な対応措置というのを粛々と進めていく。その際に大事なことは、ヨーロッパとか、あるいは東南アジアの中での協力できる国々との連携をきっちりとつないでいく。さらにルールベースという日本の持っている大事な価値、国際社会で認められている価値というのを中心に据えていくこと。こういった点だと思います。

廣瀬:

まず欧米との、そして国際社会の広い連携を進めていく必要があると思います。今まで日本は日米同盟に比較的頼りがちであったわけですけれども、今年NATOのサミットに岸田総理が行ったことは非常に重要なことですし、それにとどまらず、ヨーロッパ、アジアと広い連携をしていくというのはとても大事だと思います。その一方で、いま非常に問題となっているのは価値の問題です。例えば国連におけるロシアの非難決議などを見ても、その価値をめぐってロシアをサポートするか、ないしは非難しないような国の存在が目立っています。日本の価値外交、価値に寄っただけの外交で果たせる役割というのにも限界があるということを感じざるを得ません。やはり技術、教育などの供与とか、ソフトパワーを利用した形の展開というのも重要になってくると思います。

神保:

ロシアのウクライナ侵攻が歴史的な失敗であったと位置づけられるように努力することが大事だと思います。そのためにはG7の結束、ウクライナ支援、経済制裁をフル動員して、ロシアにウクライナ支配地域からの撤退を最終的に促せるような状態にもっていくことが1つ。もう1つは今回ロシア制裁に加わっていない多くの国々、中には必ずしも今回の戦争を自分事として捉えていない国々もたくさんあるわけですよね。そういった国々にも日本は丁寧な外交をしていくことが大事だと思います。

吉田:

こういう混迷の時代は、中長期的な目標を見ながら進めていく。その上で目の前のものにも対応するという姿勢が大事。参考になるのが、今年5月の日米首脳会談の共同声明で、地球規模課題、新たな時代の人間の安全保障の実現ということをうたっているんですね。その中にはパンデミックの問題があったり、気候変動の問題があったり、核のない世界を目指すということも入っています。そういう意味での人間の安全保障を中長期的に日本が目指す、そういう主導国になるんだという問題意識と、その下で個別の政策ということを積み上げていく、具体化していく、実行していくと。こういう国であるということを世界に示すことが大事だと思います。

藤崎:

アメリカは残念ながらちょっと仕分けが好きなところがあって、民主主義か民主主義でないかとか、サミットにはこういう国を呼ぶとか、そういうところがございます。日本はあまりそういうところがないので、もちろん民主主義という価値は大事にしつつ、できるだけ多くの基盤を持って仲間にしておいておくというのが大事。日本はこれまでも、例えばキューバともイランともミャンマーともずっと外交関係を持ってきた。それが場合によってはアメリカにとっても役に立つことがありました。そういうふうに今、広い国との関係を良くしていくという、これを続けていくことじゃないかなと思います。