2021年12月19日放送「自殺対策 いま何が求められるか」②

NHK
2021年12月27日 午後6:26 公開

去年自殺した人の数は、リーマンショック後の2009年以来、11年ぶりに増加。新型コロナの影響が長期化する中、特に女性や若い世代の自殺が増えています。なぜこうした事態が起きているのか。自殺を防ぐために何が求められるのか、専門家や支援者の方々に議論していただきました。後半は、若い世代の自殺をどう防ぐか、そして孤独・孤立対策の課題についてです。

<若い世代の自殺をどう防ぐ>

去年20歳から29歳で自殺した人は、2521人。19歳以下は、777人となっており、いずれもおよそ2割増加しました。

なぜ自殺に至ってしまうのか。警察庁のデータをもとに、厚生労働省がまとめた20歳未満の人の自殺の原因や動機です。「学校」や「健康」「家庭」などの問題が上がる一方で、一番多かったのは、原因がはっきりしない「不詳」でした。

森山:

原因が分からないというところが大きいのですが、例えば遺書に明確に書かれていない場合もあれば、遺書自体がなかったりする場合もある中で、特にコロナで最近だとなかなか人と接する機会もなかったりすると、知人からどういう状態だったかというのを聞くのも難しかったりということがあります。自殺の原因が多岐にわたるので、若者の自殺というと、いじめ自殺がよく浮かぶと思うのですが、それはそれで痛ましい問題なんですけれども、本当にいろいろな問題が絡むということもありまして、なかなか表に上がってこないということがあるのではないかと思われます。

清水:

自殺の原因、動機というのは決して単純化できませんので、多くの場合は複合的な問題が絡んでいる。NPOライフリンクとして行っているSNSや電話の相談、特にSNSについては、相談者の約15%が中学生か高校生なんですね。そうした児童、生徒、高校生以下の子どもたちからの相談で多いのは、学校にも居場所がないと、家庭にも居場所がない。どこにも居場所がないというような、そうした自分が生きていていいとも思えないし、実際に生きていける場所もない、関係性もない。ただ死にたいというよりは、もう消えてしまいたい。いなくなってしまいたい。生きるのをやめたいというふうなことを言う子が多いです。積極的に死を望んでいるのではなくて、もう常に周りの顔色をうかがいながら、おびえながら生きている。これまでいいこともなかったし、これから先もいいことなんてありそうにないと。社会を見れば暗いニュースばかりで、生きていく自信もないと。もうここで生きるのをやめたい、消えてしまいたいと、そう訴える子が非常に多いので、これは何か問題を解決すれば、それで子どもの自殺が解決するということではなく、そもそもこの社会は生きるに値する社会だというふうに、子どもや若者に思ってもらえるような社会にしていかなければならない。本当に社会づくりとしてやっていかなければならないと痛切に感じています。

学校でもなかなか弱音を吐けない。あるいはちゃんとしなければならないといった中で、相談もできない。例えばスクールカウンセラーの所に行ったら、あいつ何かあったみたいだと指を指されるような状況になってしまったり、あるいは先生に相談しようにも、先生も場合によっては、スクールカーストの中で割と強い立場にいる人たちのほうに寄ってしまってというようなこともあったりもします。なかなか子どもが安心して相談できる環境というのがないと思いますので、誰にどうやって助けを求めればいいのか、家庭で相談できないんだったら学校、学校でも相談できないんだったら、地域でこの人に相談してねというふうな、例えば地域の専門家の保健師さんが学校に出向いていき、子どもたちに対して、いざとなったら私のところに相談に来てねというふうに、SOSの出し方をしっかり伝えていくことも大事だと思います。

石井:

私たちの活動の中ではそういった異変に気づくことができる子供、若者、ゲートキーパーの育成支援を行っています。その中で私たちが感じることは、微細なSOSに周りの友人や知人は気付いていることがあるという事実です。例えば外見の変化や言葉の量、口調や表情、行動、食生活、所持品、睡眠。この大きく6点から気付くことがあります。またSNSで、既読のサインが出るまでに時間がかかっているとか、さまざまな微細なSOSに周りの人は、実は気付いている。人間関係の中で異変に気付いているが、どうしていいか分からないということで悩んでいるのが特徴的なんです。したがって専門家や支援の方々と、そういった周りに気付いた人たちと、連携する体制も必要ではないかと思っています。気付いた子どもたちが「専門機関を使ってみたら」というふうにつなげることで、自分の中で躊躇があったけれど、友達が相談に行ってみたらと言うのなら、使ってみてもいいかもしれないという気持ちに、同世代は同世代の影響を受けやすいので、そういう関係性を、学校現場で教育したり、身近な関係から、専門機関につなぎやすいような体制を作ったりすることが求められていくというふうに思っています。

森山:

支援者側で頑張っている方や、悩んでいる方の身近にいる方は、本当に気遣いをしながら自分にできることをされていると思うんですね。特に自殺が起こってしまった時に、どうして救えなかったのだろうと思うこともよくあると思うのですが、私の調査で、自殺をされる方はその直前には、いろんな方にその要素を見せず、例えば2時間前とか1時間前には、逆に隠そうとしたりもするので、ご家族からすると、あの時気付けたんじゃないかと思うと思うのですが、実は気付くことは直前期には難しいということがあります。よく自殺対策だと家族が何とかしなければならないと言われがちですが、逆に近いがゆえにできないこともありますので、少しでも多くの方が関わっていくこと、あとは支援者の方自身のケアというのも本当は重要ではないかと考えています。

遠藤:

特にDVなどは隠そう隠そうとなさっていて、外に見えない。だけど近くの人でお友達だったり、ご家族だったりが何となく変だなと思う。思った時に「何かあった?」と一言聞くことがとても大事だと思うんです。私たちは地域の中でずっと活動してきていますので、今やっている団体も地域の仲間で作っています。お互いの信頼感が何となくある。いろんなことを知っている。細かいことまで言わなくても、何となくあそこの家族がこんな感じだねというのも、分かっている。何となく分かっている関係性の中で、ちょっといつもと違うなと思った時に、声をかけたり助け合ったりできる、そういう地域でのつながりというのを、これからたくさん作っていかないといけないと思います。

(支援する人材の育成について)

石井:

まずは専門家側の課題です。子ども若者の支援対策においては、チャット相談やSNS相談が主流になってきていますが、高齢化されてしまっている専門家の方の中には、それに対応することができていない方も多く存在しているのが実態です。支援者の質の担保は非常に課題であると考えています。私としては定期的にそういった方々の支援が、相応しい支援になっているのか、チェックをするタイミングも必要ではないかと考えています。また身近な人たちの存在にも目を向けてほしいと思っています。死にたいという声を受け止めている子どもたちや若者たちも少なからず存在する。彼らへの支援がまったく届いておらず、本人への支援は少しずつ広がっていると思うんですが、周りで受け止めている子たちが少なからずいるという実態がまだまだ社会に知られておらず、ゲートキーパーとして話を受け止める子どもたちに対して支援を届けていくということが、非常に重要になってくると考えています。

森山:

支援者側の方々の相互での、自助でのケアというものもあるとは思うのですが、組織としてももう少し、相談員として動いている方々へのケアに着目して頂きたいと思います。行政の方も民間の方も、それぞれ現場で真摯に向き合っているので、まずはそういう方がいるということも我々は知る必要があると思いますし、その上で組織としての対応や、それぞれの方々のケアにも、視線を向けて頂けるといいと思っています。

清水:

実態がどうなっているのか、その情報をしっかりと関係者間で共有をして、その実態に基づいて総合的な対策を立案し、その中で誰が何を担っていくのかということを確認し合いながら、足並みを揃えて支援に入っていくことが大事だと思います。また子ども若者の自殺対策で重要な視点としては、1つは精神疾患に関する教育をしっかりやっていくということも大事だと思います。来年度から、高校では精神疾患に関する教育が始まります。ただ、精神疾患を発症する年齢というのは平均で14歳という研究もありますので、高校になってから教育を始めたのでは遅いと思います。中学の頃から、場合によっては小学校の高学年ぐらいから教育を始めて、それで精神疾患に対する理解を深め、かつこのスティグマを排除し、何か疾患によって気持ちが落ち着かなくなるとか、あるいはそれによって勉強集中できないとか、人間関係が築けないとか、その精神疾患が問題となって、二次的な問題が発生し、それによって自殺に追い込まれていくということは、起きてしまっているのが現状なので、本人も理解する、周囲も理解する。精神疾患をしっかりと早期に治療する事によって、自殺を防げるし、その後の二次障害も防ぐことができるようになりますので、中学の頃からしっかりと義務教育で精神疾患に関する教育をやっていくことも大事だと思います。

<自殺のない社会へ 孤独・孤立対策は>

政府は新型コロナの影響などで、社会的な孤独や孤立の問題が深刻化しているとして、今年2月、初めて担当大臣を置きました。そして今年度内には、NPOなどが連携して情報共有や政策提言を行う、プラットフォームの設置を目指しています。また今月からは、実態を把握するための全国調査を始めています。

清水:

誰もが孤独孤立に陥りかねない。望まない孤独、あるいは社会的な孤立という状況に陥りかねない、そういう時代、そういう社会の状況なので、これを社会全体でどう捉え、どう対策を進めていくか。これまでやって来た枠組みを参考にしながら、この対策も進めていく必要があると思います。その際に、共通の問題意識と、共通のビジョンを描くということが非常に重要になってくると思いますので、それぞれの分野でバラバラの問題意識やイメージを抱いていたのでは、足並みは揃いません。大規模な調査も必要ですし、調査の結果に基づいた戦略を立てて、国が主導する形で、民間団体やあるいは研究者の方たち、いろんな専門家の方たちも巻き込んだ総合的な社会づくりとしての対策を進めていくっていう必要があると思います。

森山:

孤独孤立も自殺も、本当に特別なことではない。スティグマについて偏見をなくしたりするような教育であったり、人材育成もその辺りに焦点を当ててやっていく必要があるのではないかと思います。

石井:

予防対策が何より重要ではないかと考えています。そもそも孤独や孤立に陥らない社会をつくっていくということです。また、イギリスやシンガポールでは義務教育の中に人間関係を作ることが教育として盛り込まれています。友達を作るということ自体も、自己責任や家庭の問題ではなく、社会全体のテーマということで取り上げられています。日本でもそういった形で、家庭によらず、社会全体で子どもたちの人間関係を作る力を養成していくことが必要ではないか。義務教育の中に、身近な人間関係を作る力を育成することが学べる環境があるということが重要になっていくと考えています。あわせて今、実態把握調査が行われますが、何が問題なのか、何が対象の焦点なのかを明らかにすることが大切であるというふうに考えており、声を上げることが難しい孤独孤立の状態の人たちが悩み事を解決するものになっているのか、当事者の声を反映することが非常に大切になるのではないかと考えています。

森山:

当事者の方に対してもそうですが、当事者の周りにいるご家族に対する支援も大事だと思っています。望まない孤独という時、本人は望んでいる孤独であってもご家族が困難を抱えている場合というのもあるので、その辺りにも視点を当てて、全体的に社会を挙げて対策に取り組んでいく必要があると思っています。

遠藤:

今、私は特に女性の支援をしているので、女性の問題というのは個人的な問題だという捉え方がとても強いと思います。家族の問題、個人の問題。そうではなくて、女性の問題は社会的な問題なんだということを捉え方として、社会全体が考え直してほしいと思います。家族の自己責任、女性の自己責任ということではなくて、自分に起こっている問題が社会的な問題から来ているんだというふうに、女性も捉える必要があるし、社会もそういうふうに受け止めてほしいと思ってます。DV防止法が出来てまだ20年ですけれども、それまでは家庭内暴力は犯罪ですらなかった。そういう時代がすごく長いので、そこを変えていくのに年月もかかると思いますが、ぜひ家庭内の問題を、個別の問題ではなくて社会問題だという認識を多くの方に持っていただきたいというふうに思います。

清水:

若者の自殺が昨年増加したということがありましたが、15歳から19歳。および20代30代の死亡原因の第1位が自殺なんですね。子どもや若者が自殺で亡くなっていく社会というのは、私は社会の未来が失われている、社会の持続可能性が問われているんだと思っています。正直者が馬鹿を見るような社会にはしない。真っ当に生きようとした人が、その人の人生をしっかりと生きられるような、そういう社会にしていく必要があると思います。財務省の近畿財務局の職員の方が決裁文書の改ざんを強いられる中で、自殺で亡くなりました。その裁判に関して国が認諾ということで裁判を、ある意味お金で解決しようと打ち切った。そういうようなことは社会に伝わり、子どもたちも見ています。正直者が馬鹿を見るというような、そういうことをひとつひとつ潰していく。いろいろ人生あるけれども、でも捨てたもんじゃないよということを子どもたちにどう伝えていくか。これが重要だと思います。

<相談窓口>

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