2022年6月12日「各地で梅雨入りへ 災害から命を守るには」(後半)

NHK
2022年6月13日 午後9:03 公開

近年、各地で大雨による甚大な被害が相次ぎ、犠牲になる人が後を絶ちません。本格的な雨の季節を迎えた今、私たちの命を守るためには、どうしたらいいのか。気象や災害の専門家、地域の防災に携わってきた皆さんに議論していただきました。後半は、どこに、どうやって避難するか、そして地域の防災力をどう高めるかについてです。

●「どこに」「どうやって」避難するか

小池:

洪水や氾濫の水深と流速によって、人が動ける能力は限られているんですね。そうしますと、どのくらいのところまで自分は動けるのかということを把握しておかないといけない。それはなかなか難しいわけで、そういうことが今、数値的に全部計算した上で、町の風景の中にそれを再現するようなこともできて、仮想に体験することができますので、そういう道具を使いながら皆さんに学習していただくと、どこに、どのタイミングで行けば確実に逃げられるかとか、それを超えると逃げられないので家の中でできるだけ高い所に逃げるほうがよいとか、そういうような判断につながっていくのだと思います。

西澤:

ひざ上50センチぐらいの雨になってしまうと、もう危ないですよね。その場合には垂直避難しかないと思うんですけど。避難する場所については、長沼地区内には一時避難場所がないんですよね、実質は。(ハザードマップで)見ていただくと真っ赤っかですから。だから少なくとも1時間でも何十分でも早く、浸水したときには外へ出なければいけないんです。そこで判断を誤ると、例えば車で出てしまうと、車が水没したらドアが開かないですからね、水圧で。危険ですね。

(人口の多い地区の避難場所は)

野澤:

垂直避難という形で、高い建物の上に逃げていくことはあるんですけれども、一番心配なのは日本の大都市に多いゼロメートル地帯といわれる広域の低地ですね。そういったところではやはり1回浸ってしまうと、なかなか水がひかないという状況になってしまいますので、やはり広域避難が必要になってくるというのは皆さんもご存じだと思うんです。広域避難の場合には、知人宅であったり、親戚のお家であったり、ホテルであったりということが選択肢に入ってくるんですけれども、最近、大都市にどんどん人口が集中している関係で、子どもとか若い人が増えてきているので、田舎がない。だからどこか広域避難したくても、なかなか頼れる実家が田舎にないというようなことも出てきていますので、そういった意味でこれから本当に広域避難をどうしていくかというのは、かなり考えていかないといけない問題だと思っています。

阪本:

それぞれの人がいざという時に自分がどこに逃げるのかというのを考えておく必要があると思います。地域の指定避難所という選択肢もあると思いますし、遠いけれど車で行けば行ける知り合いとか家族の家、そのほうが長期間避難しやすいだろうと考える方もいらっしゃると思います。また、一時的には安全を確保するために、高い所にある駐車スペースみたいな所で避難することもあると思います。ですが、まず普段からちゃんと考えておかないと、いざという時に迷うことになると思います。

●高齢者の避難をどうする

(高齢者施設の避難は)

西澤:

(3年前の台風19号のとき)一応マニュアルでは2つの(高齢者)施設に連絡が行くはずだったんですけど、結局行ってなかったんですね。平屋建ての所は水平避難、二階建ての所は垂直避難しましたけれど、手元に資料があるんですけど、水平避難した所は、避難準備を開始したのは11時頃、(避難を)決断したのは夜8時、そこから約5時間かかって、夜中の1時までに避難完了して。先ほど言いましたけど、警戒レベル3が出ると思って待っていましたけど、出なかったから。それは現場の判断だと思いますね。

阪本:

(高齢者施設の避難をどうするかは)大変難しいですよね。豪雨災害は夜間に発生することが多いですが、夜間に高齢者福祉施設で勤務している人の数は少ないので、支援にあたれる人が限られているという大きな課題があります。また介護の関係もあって一階部分で生活している方も多くいらっしゃいます。夜間浸水が始まってエレベーターが止まってしまうと、自分たちのところの職員だけで上層階に避難させることも難しくなります。ですので、やはり地域の方との協力体制をつくるとか、行政の方との協力体制を事前につくっておかないと、自分たちだけで避難は難しいです。

小池:

平成29年の水防法改正で、要配慮者施設での避難計画の策定が義務化されました。令和元年の台風19号の時に、川越の特別養護老人ホームで100人の入居者がおられたんですが、全員無事に逃げられました。ところが、先ほどもお話のあった令和2年の球磨川の水害では、避難計画を立て、避難訓練をされ、地域の方々の支援がある体制で、しかも必死になって避難をされましたけど、結局14名の方が亡くなられてしまいました。やっぱり難しいです。一つは、間違いなくこういう避難態勢、避難訓練を強化することが重要なことは間違いないんですが、ますます少子高齢化する社会の中で、一人の高齢者を支える、生産年齢人口、15歳から64歳の人口が減ってきておりますので、そういう施設をどこに作るかということは根本的に考えないといけない。先ほどの川越の特別養護老人ホームの場合は移転されまして、水害の危険の無いところで今年の2月から開所されております。法的にもそういうような枠組みが作られてきておりますので、これからこういう施設をどこに作るかということそのものも大きな課題と考えております。

野澤:

まさにおっしゃる通りでして、なぜそういった高齢者施設が災害リスクの高い所にたくさんあるのかというのは、都市計画の観点から見ますと、実は2006年の都市計画法の改正までは、市街化を原則抑制すべき区域とされる市街化調整区域に、高齢者施設などの公共公益施設を作る際に、開発許可もいらなかった時代がございました。その頃までにたくさん作られている。農地で、安くて、広くて、駐車場もたくさんとれるというようなことで作られたんですね。ですが、これからは少なくとも災害リスクが非常に高いエリアについては、こういった高齢者施設などの公共公益施設は立地を抑制していくというようなことが必要じゃないかと考えています。ちなみに、土砂災害のレッドゾーンではもう法改正がありまして、こうした社会福祉施設の開発は原則禁止になっているんですけれども、次のステップとして、これだけ水害がたくさんあるという中で、浸水想定区域というようなところは、少し法改正も含めて考えていくべきではないかというふうに考えています。

(一人暮らしの高齢者など、支援が必要な人の避難は)

西澤:

高齢者の施設も大事ですけど、在宅介護されているお宅もありますよね。その情報がきちんと、どれだけ大勢の方がつかんでいて、どれだけ共有できているか。そこがやっぱりポイントになると思うんですね。個人情報保護の観点があって、特に行政が握っている情報はなかなか共有できないんですけど、そこをなんとか横のつながり、少なくともネットワークをきちんとして、いつでも対応できるようにしておく。やっぱり一人ひとりの生命、財産を守っていくわけですから、情報の壁はありますけど、そこをなんとか垣根をできるだけ取っ払えるものは取っ払って、ネットワークを作っていった方がいいと思います。実際はなかなか難しいですけれど。

阪本:

災害が起こるたびに、高齢の方の被害ということが指摘されています。避難が難しい高齢者もいますし、自ら情報を取りに行くことができない高齢の方もいらっしゃいます。そういう方の避難を後押ししてあげるような仕組み作りを地域ぐるみでやっていかなければならないと思います。両隣の方、あるいは向こう三軒の方で、いざという時に一緒に逃げましょうと声をかけてあげられるとか。あるいは、ご自分だけで避難が難しい方であれば、玄関先までは出ておいて頂いて、そこを周りの人が誘って連れに行けるような、そんな仕組み作りができるといいと思います。

●地域・まちの防災力をどう高めていくか

(川の流域全体で水を受け止める「流域治水」の考え方について)

小池:

「流域治水」という言葉、なかなかイメージするのが難しいんですが、三つの柱があります。一つは流域全体で水を貯めるという考え方。それから、被害を受けやすいところから移転をするという柱。その土地の利用の仕方を変えるということですね。それからもう一つは、もうまさに議論しましたように、避難です。命を守る。また命を守るということは、災害から復旧復興する担い手は被災者ご本人ですから、そのご本人が健康できちっと動けることが、復旧復興を早める一番大事なことになります。そういうことから、避難によって復旧復興を早める、あるいはいろいろな施策を組み合わせて復旧復興を早めるという、こういう三つの施策を推進する必要があると思います。

野澤:

都市計画的な取り組みとして、やはり土地利用規制というものを少し見直していくということが必要になってくると思います。今回NHKの「全国ハザードマップ」の分析で、例えば信濃川・筑後川・北上川というところは、水系全体は3メートル以上のリスクのあるエリアでは、人口が減っているんですね。ところが、局所的に見てみると、ほとんど人が住んでいなかった農地が宅地開発されて人口が増えている。全体の人口が減少しているからといって、浸水リスクが高いエリアだからといって、新規の宅地開発がないというわけではない。やはり水系全体の市町村がきちんと足並みを揃えて、せめて浸水深さ3メートル以上のリスクエリアに残る農地等は水を貯める、まさに貯留機能があるものですので、そういった自然の機能をきちんと生かしながら、流域全体で災害がひどくならないようにするような、そういった仕組みも流域治水の一つとして非常に必要かなというふうに思っています。

西澤:

手元に『流域治水の基本的な考え方』という資料があるんですけど、「気候変動を踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う総合的かつ多層的な水災害対策」と書いてある。この「あらゆる関係者」の中には、リスクの高い地域、氾濫域に住んでいる住民も入っているんだから、住民の方の十分な理解と合意の上で、100パーセント納得は無理かもしれませんけど、進めてほしいと思います。基本的には賛成ではありますけど。

小池:

二つ申し上げたいと思いますが、一つは浸水想定区域から皆さん移転しましょうということを言っているわけではなくて、そういう浸水想定区域にあるということをご理解いただいたら、命を守るための避難の仕方を合わせることによって、そこの安全性を保つという、その認識を皆さんで共有しようということが大事です。もう一つは、この「流域治水」は、持続的な開発ということを旨としているんです。要するに、その地域全体がこれで発展していくんだということですね。あらかじめ計画を立て、それを進めようとしていくことが大事だと思います。

(災害に強いまちづくりのため 何が必要か)

阪本:

その地域に住んでいる人達が、自分たちの地域の特徴を知って、そして災害と上手く付き合って住んでいくということだと思います。東日本大震災の後に災害対策基本法が改正されて、地区防災計画という仕組みが入っています。これは、地域にお住まいの方が自分たちの地域の防災計画を考えて作って、それを行政に提案するというものでして、西澤さんの地区もこの地区防災計画を豪雨災害の前に策定されていた地区であります。こういう自分たちの地域の住まい方を考えて、いざという時にどう行動するかということを地域の人たちと共有しておくことが大事だと思います。浸水リスクのあるエリアに住んでいる人、4700万人もいるんですよね。皆さんがそれぞれの地域のリスクというのをちゃんと捉えて、どうやって住むか計画を作って、それを実行していただければと思います。

西澤:

防災の主人公は、やっぱり住民自身なので。住民自身が主人公になれるかどうか、ここにかかっていると思います。

野澤:

災害に強いまちをつくるには、流域治水という考え方が大事になってきますが、今から20年ほど前に地方分権一括法というのができて、都市計画の権限というのは、ほとんど市町村に下りているんですね。そうしますと、市町村はそれぞれやはり人口が欲しいという事で、農地を宅地化したいというような思いというのは、まだあるという状況です。流域治水という観点で全体最適を目指していけるような、広域的な視点からの実効性ある土地利用のコントロールみたいなところも、これだけ時代が変化している中では必要になってきているのではないかというふうに考えています。

中村:

将来のまちづくり、それから流域治水を計画する上で、過去のデータ、それから将来の気候シナリオ、この両方を備えておかないといけない。今回のハザードマップは、実は過去のデータから想定しているわけですよね。ですから、それをいかに充実させるかということが重要だと思っています。今、文部科学省の支援の下で、気象庁との共同研究で、解析雨量といって、1キロメッシュで1時間ごとに雨量を出しているんですね。これはレーダーと雨量計のデータを合わせたものですけども、これを更に遡って充実させようというプロジェクトをやっています。そうすることによってこれまで取り逃がしていた強い雨、そういうものがもう一回拾えるようになると。そういうアルゴリズムができますと、今後の予報の精度の向上にも使える。それから警報の出し方、これもまた変わってきますので、そういうことを総合的に、まさに温故知新ですね。そういう考え方で流域のまちづくりを進めていくが良いのではないかと思います。

小池:

地域が発展するということは、その地域の文化とか産業とか、歴史、そういうものを地域の方々がプライドを持って言えるというのが大事だと思うんです。水害に強いということが、地域のブランドになる。そうすると、そこに皆さん集まってきますよね、人が。そういう地域の魅力になるような、そういう地域作りをすることが、結果として災害に強いまちづくりになるという。流域治水はそういう考え方で進めておりまして、皆さんのご協力をぜひいただきたいと思っております。

(大雨の季節を前に 必要な備えは)

中村:

過去の経験はもう通用しないと。ここ40年で、実は水蒸気の量、これがもう10%増えているんですよ。その分だけ雨が増える可能性がある。ですから、「昔大丈夫だったから」という考えはもう通用しません。ですので、ぜひ10%、これは(雨量が)420mmで耐えられた山の斜面が440mmになるともう崩壊するという、そういうリスクをはらんでいるということをよく認識していただいて、行動すべきだと思います。

阪本:

毎年のように6月下旬から7月にかけて、梅雨前線の停滞などによって被害が発生することっていうのが多いように思います。ですので、いつもと違う雨の降り方だな、何かおかしいなと思ったら、情報を見て、必ず立ち退き避難をするようにして頂ければと思います。