東日本大震災から12年。3月12日放送の「日曜討論」では、後半で岩手・宮城の復興の現状と課題について議論しました。
震災で10メートルを超える津波に襲われ、人口の約8%にあたる1200人以上が犠牲となった岩手県大槌町。この町で震災後、町民自身が知りたい情報を町民自ら伝えようと「大槌新聞社」という“ひとり新聞社”を立ち上げたのが菊池由貴子さんです。それまで新聞づくりの経験はまったくありませんでしたが、取材・編集から営業・事務までを1人でこなし、約10年間、大槌町内の全戸に配布してきました。今は取材活動のかたわら、語り部や震災を語り継ぐイベントなどの企画もしています。道路や住宅といったハード面の復興が進んだ一方、これから地域が真のにぎわいを取り戻すには何が必要なのか。日々、行政を取材し、住民の声に向き合う菊池さんが描く、これからの“復興”とは。
菊池由貴子さん
一般社団法人「大槌新聞社」代表理事
岩手県大槌町出身。獣医を目指していたが、大病をわずらい断念。震災後、「大槌新聞」を創刊。大槌町民向けに復興に関する情報を、震災の翌年から2021年まで、町内全戸に配布してきた。現在は取材活動に加え、語り部やイベント開催など震災を語り継ぐ活動を行う。震災後の地方創生の新たなモデルとなる取り組みに贈られる、復興庁「新しい東北」復興・創生顕彰(令和元年度)を受賞。
●進む人口減少 復興の現状と課題は
震災後、大きな課題となっているが人口減少です。総務省によりますと、震災前の2010年から去年までの人口の減少率は、全国では1%だったのに対して、岩手県と福島県は10%、宮城県は3%となっています。
NHKがことし2月、被災地に住み、現役世代の中核を担う20代から50代を対象にアンケートを行ったところ、将来にわたって今の街に「住み続けたい」が41%、「どちらかといえば住み続けたい」が36%となり、合わせて8割近くにのぼりました。また、若い世代が住み続けられる街にするために足りないと思うものを複数回答でたずねたところ、「仕事や産業」が61%、商業施設が42%などとなりました。
菊池:
人口減少の問題や産業・仕事の場の確保やお金の問題など、課題は本当にたくさんあります。ただその課題を考えるそもそもの前提として、「復興」とはそもそも何だったのかっていうところを、ぜひ再考していただければと思います。
よく震災12年で、“宮城・岩手は福島と違って、ハードは終わりました。これからは心の復興だ”って皆さんおっしゃいます。報道もそうです。でも、そうじゃなかったはずなんですよね。というのは、復興基本法には、復興の理念がちゃんと書かれています。「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策」「新たな地域社会の構築」「21世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと」「行政の内外の知見が集約され、その活用がされるべきこと」と明記されています。
つまり「復興」というのは、被災したインフラをもとに戻すだけじゃないんだと。被災地以外の英知を集めて日本全体が抱える課題、そういったことを根本的に解決する策を見いだし、それを全国に還元する。そういうことで初めて復興が終わったって、言われると思うんです。被災地を震災前よりいい街にするということは、日本をよくする。そういった原点に立ち返っていただきたいと思います。
(産業・なりわいの再生は)
大槌町でもサーモン養殖に取り組んでいます。またジビエだとか、クレソンなどの新しい品種にも取り組んでいます。本当に小さな取り組みなんですが、大企業じゃなくても、地元に根づいた新しい産業が芽生えてきています。町内の水産加工業者が協同組合をつくって、新たに商品開発してネットで販売しているのもあるんですが、やっぱり人材が大事で、営業や開発など、町外の人にもお手伝いしてもらえるかたちができればなと。復興庁にはそういったソフト事業も、ぜひとも力を貸していただきたいと思っています。
(人口減少への対応は)
今は全国的に、町外から人を呼び込むことにかなり多額の予算を使って躍起になっていますが、地元に残りたくても残れない人を重視すべきじゃないかと思うんです。関係人口(※)、交流人口とよく言いますが、それももちろん大事なんですが、地元の人が残れる、そういった対策を行えばおのずと外から人が入ってくると思います。例えば被災地で、津波が来ない高台に団地を作って、そこに被災者が移り住みました。そうしたら、街灯がないとか、バスが通っていないということなどが起きています。高齢者は坂の上り下りが大変だし、暗くて転んでケガをしたっていう話も聞きます。特効薬はないですが、実は目の前にある、やるべきことってたくさんあると思います。そういったのを確実に解決していくことが、人口減少の対策になるんじゃないかなと思います。
※関係人口・・・移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉。
●震災の教訓をどう生かす これからの復興は
菊池:
私は去年、知って驚いたんですが、地元の大槌高校の1年生が、震災の時に津波がどこまで来たか知らない。きょう・あす来るかもしれない津波から助かるのかなって、すごく不安になりました。中身、そこが形骸化しないように、震災前に戻らないように。そういった大事なことを伝えるのが、これからの大人の責任かなと思っています。
それには結論から言うと、つらい事実、そうしたことを伝える事が一番大事だって思っています。私も震災の教訓を伝えようと思って、講演や語り部をしています。なぜ震災であれだけ多くの犠牲者が出たのか、どうすれば1人でも多くの命を助けることができたのかということを伝える事が、一番重要だと私は思います。震災といえば、心の復興って話や、どっちかというと、かわいそうだったり美談だったり、あとハード整備が無駄だったんじゃないかっていうような、どうもパターン化しているような気がするんです。やっぱりそういうことをしているから、風化するんじゃないかと思います。今後、起こりうる災害で、被災地以外の方が命を落とすことがないような、そういったことを真剣にやって伝える。そのために検証も必要ですし、検証しなければ何が悪かったのかもわからない。震災のつらい事実を伝えることこそが本来、必要じゃないかなと思っています。