漫画家イエナガの複雑社会を超定義

なぜ地震って予知できないの?

初回放送日: 2023年9月1日

気になる「地震予知」を俳優・町田啓太が15分で超速解説。巨大地震を予知できる手立てはあるの?手がかりはスロー地震?難しいことを漫画CGで学ぶ! 漫画家イエナガ(町田啓太)が編集者(橋本マナミ)にプレゼンする今回のテーマは「地震予知」。現在かなり高い確率で起こると言われる南海トラフ巨大地震。「いつ」「どこで」「どのくらいの規模で」天気予報みたいな精度であらかじめ分かることって可能なの?さらに、注目のスロー地震とはいったい?地震観測の最前線と現在地に迫る!そして、僕たちは日ごろから地震にどう備えていればいいのか?人類に残された超難題を超速解説

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  • 地震予知はどこまで進んでいる?

地震予知はどこまで進んでいる?

関東大震災から100年 迫りくる巨大地震とは?

2023年は関東大震災から、ちょうど100年に当たります。そんな今、かなり高い確率で起きると言われているのが、ニュースでも話題の「南海トラフ巨大地震」です。想定するマグニチュードは9クラスで、各地を震度7の激しい揺れや大津波が襲って、日本の総人口の半数が被災するかもしれないと言われています。政府は「南海トラフ巨大地震」の発生確率を、ここ30年以内に70~80%と予測しています。またマグニチュード7クラスの「首都直下地震」も、東京都はこの30年以内に約70%と予測しているのです。さらに南海トラフ巨大地震と連動して「富士山噴火」、という恐ろしい可能性も指摘されています。

そんな日本は、震度1以上の地震が年に約2000回も起こる地震大国です。実は世界の地震の約2割は日本で起こっているのです。そこで「地震予知ができたらいいな〜」なんて思いませんか?実は緊急地震速報のような地震を知らせる技術は、日本が格段に世界をリードしています。一方で南海トラフ巨大地震の「30年以内に70%」のように、地震が「いつ」「どこで」「どのくらいの規模で」来るのか、天気予報のような精度で予測するのはまだ難しいのが現状です。地震予知は人類に残された超難題で、地震研究の第一人者で日本地震学会の会長でもある東京大学地震研究所の小原一成教授は、「地震予知は不可能です。何月何日の何時ぐらいにどこそこで地震が起きる、なんてことは絶対に言えない。言えないというか分からないです。」と語っています。

それでも最新の研究では、スロー地震というわずかな揺れを徹底調査したり、AIを使って分析してみたりして、あの手この手を使って人類はこの超難題に挑んでいます。テクノロジーが進化したこの現代で、なぜ地震予知ができないのか?じゃあどこまでならわかるのか?地震の謎を知って、いざ巨大地震がきた時の最善の備えを考えてみませんか?というのが今回のテーマです。

地震予知の定義

Q、そもそも地震予知の歴史って?

地震予知の定義

地震予知には定義があります。「いつ」「どこで」「どのくらいの規模で」地震が起きるのかを、科学的根拠を基にして、発生の直前にあらかじめ知らせることです。

2022年に南米チリで、約3800年前に起きた人類史上最大の巨大地震の痕跡が発見されました。マグニチュードは9.5に及び、地震によって発生した津波は約9000km離れたニュージーランドに壊滅的な被害を与えました。つまり巨大地震は太古から起こり続けていたということです。では人類はどのようにして地震を観測してきたのでしょうか。

世界最古の地震計「候風地動儀」(こうふうちどうぎ)

地震観測の始まり

西暦132年、中国の張衡(ちょうこう)という科学者が、世界最古の地震計「候風地動儀」(こうふうちどうぎ)を発明したのですが、これが実にユニークな代物でした。巨大なつぼの周りに玉をくわえた8匹の龍が付いており、地震が起きると、揺れた方向の龍が玉を吐き出し、それを下で待ち構えたヒキガエルがくわえて鳴き声をあげ、地震の方角を知らせるという仕組みになっています。揺れた方向を知ることから地震観測は始まりました。

本格的な地震観測ができるようになったのは19世紀のことです。イギリスの学者・ユーイングやミルンらが、振り子の原理を使って、揺れを精度よく記録する、実用的な地震計を日本で開発しました。ユーイングーグレイの円盤式地震計は、3つの針で東西・南北・上下の揺れを記録する水平動3成分円盤式の地震計です。

地震学をリードした、東京帝国大学の2人の研究者

地震学を大きく発展させた東大の研究者2人

「いつ」「どこで」「どのくらいの」地震が起きるのか?その謎に迫ったのが、20世紀はじめに世界の地震学をリードした、日本の東京帝国大学の2人の研究者でした。

P波とS波

ひとりは大森房吉教授で、当時アラスカで起きた巨大地震を、なんと東京でハッキリ記録したという“地震観測の魔術師”みたいな人でした。そんな大森教授が目を付けたのは、地震が起きた時に地震計でまずわかる、ギザギザギザッという小刻みな縦揺れのP波と、その次にやってくるギ~ザァ~ギ~ザァ~という大きな横揺れのS波です。P波が届いてからS波が到着するまでの時間は震源地からの距離に比例しており、大森教授は2つ以上の観測点で記録した2つの波の時間差を基にして、地震が起きた震源地を割り出す「大森公式」を編み出しました。実はこの「大森公式」は現在の緊急地震速報にも応用されていて、P波をいち早く感知して、S波到達の前に、地震の情報を私たちに伝えようとしています。

もうひとりは大森教授の教え子の今村明恒博士です。彼は巨大地震が起きる「周期」に注目し、古文書を読み解きながら次にいつ巨大地震が起きるか、「長期的予測」の観点で地震予知に挑戦しました。1905年、今村博士は「相模湾を震源とする大地震が今後50年以内に襲ってくる」と雑誌に論文を発表します。すると大衆紙が「大地震襲来説、東京大災害の予言」とあおってしまい、東京は大パニックに陥ります。さらにこのとき地震は来なかったので、博士は「大ボラ吹き」とののしられてしまいました。

ところが論文発表から18年後の1923年9月1日に、関東大震災が博士が言っていた通りの場所で発生し、死者・行方不明者は推定約10万5千人と甚大な被害をもたらしました。

関東大震災によって今村博士は「地震の神様」と呼ばれ、地震周期説は現在でも南海トラフ巨大地震の発生確率などで重宝されています。2人の研究者のおかげで地震学は大きく発展することになり、地震予知の可能性も広がっていきました。

1965年、日本は『10年かけて地震の観測網を整備すれば予知の可否が判断できるかも』と「地震予知研究計画」を始め、国家的事業として地震予知の実用化に取り組みました。ところが観測網の整備は予定通りに進まず、地震予知の研究は一向に進みませんでした。

プレート・テクトニクス理論

地震学のターニングポイント プレート・テクトニクス理論

そんななか1968年に海外で、地震研究の大きなターニングポイントが訪れました。それがプレート・テクトニクス理論の発表です。ウィルソンら世界の地質学者たちが、地球の表面を覆っている10数枚の岩盤(プレート)が、私たちの気がつかないうちにジワジワジワと、ずっと押し合いへし合いしていることを発見しました。このプレート同士が接着している部分は、ストレスが相当溜まってしまいます。そして『もう耐えられない』と、ある日突然ボカ〜ン!とプレートが弾けるように大きくズレてしまう、これが「地震」のメカニズム、とわかったのです。

断層

立ちはだかる地震予知の壁 

プレートの動きに注目していれば巨大地震は予知できるかもしれない、そんな期待が膨らむなか、日本地震学の研究者たちにとって思いもよらないことが起こりました。それが1995年の阪神・淡路大震災です。この地震を引き起こしたのは、断層でした。断層とはプレートの上のすり傷みたいな割れ目のことで、プレートが常に動いてれば、その上の断層にも当然ストレスはかかってしまいます。阪神・淡路大震災では、断層が突然動いてしまいました。この出来事に、研究者たちは地震予知の限界を知ったのです。

さらに2011年の東日本大震災も、研究者たちの想定外の場所と規模で発生しました。翌年、日本地震学会は『時間を指定した短期的な予知は現在の技術では困難』『科学的に検証され確立された地震予知手法はまだない』と公式に表明しました。

地震予知ができない3つの理由

Q、なぜ地震予知ができないの?

地震予知が確立しなかった理由をまとめると、そこには大きく3つのワケがあります。

  • ① 物理的に困難

1つめは物理的に難しいということです。日本には断層が陸地だけでも約2000もあります。それに加えて海底と考えるとなおさらで、そこに全部センサーを設置してデータを集めて、、、というのは不可能に近いのです。

  • ② データ不足

2つめはデータが圧倒的に不足していることです。巨大地震はだいたい何百年に1回などのペースで起こっているのですが、過去の精密な地震データはせいぜい20年分ぐらいしか残っていないため、科学的な検証すらまともにできないのです。

  • ③  地震のメカニズムが複雑

3つめは地震のメカニズムが複雑に絡み過ぎてわからないということです。プレートや断層にどんな変化があれば地震が起こるのか?その破壊の条件は?規模は?サイクルは?など皆目わかっていません。

スロー地震

最新の研究で見つかったスロー地震

ここまで聞くと、地震予知ってもうお手上げと思いませんか?しかし阪神・淡路大震災や東日本大震災をきっかけに、日本の地震学は大きく発展しました。“短期的な予知”から“長期的な予測”に路線を変更して、観測網も陸地を中心に世界最高峰のレベルにまで張り巡らせていったのです。

そこで近年わかったことの1つが、スロー地震です。スロー地震はプレート境界で発生している、人が感じない程の微弱な揺れのことです。数年間ずっと揺れ続けていたりもしています。そしてこのスロー地震は実は日本だけではなく、巨大地震が頻繁に繰り返されているアメリカやチリ、ニュージーランドでも確認されていて、「巨大地震と因果関係があるのでは?」と言われているのです。

東京大学地震研究所・日本地震学会会長 小原一成教授 インタビュー

スロー地震に注目することで、巨大地震を予見できないか?スロー地震を最初に発見した東京大学地震研究所の小原一成教授は、南海トラフ巨大地震の想定震源域近くで、現在もスロー地震を観測しています。一体どんなことが今わかっているのか、聞いてみました。

東京大学地震研究所・日本地震学会会長 小原一成教授

「南海トラフ巨大地震の想定震源域はスロー地震の震源地に挟まれています。そこでスロー地震が起きると、南海トラフ巨大地震の発生の可能性がちょっとずつ高くなっているのではないでしょうか。ただそこは因果関係がまだ明確ではないので、スロー地震をもっと精度よく根気強く観測していくということが重要だと思っています。」

そんな中、東京大学地震研究所の長尾大道准教授らは今、AIを使ったスロー地震の解析を進めています。地震研究におけるAI活用のメインストリームは緊急地震速報の精度を高めることです。しかし長尾准教授たちは研究所の倉庫の奥にしまいこんでいた大量の昔の地震計の記録から、AIを使ってスロー地震の貴重な痕跡を数多く見つけ出しました。こうしてデータ不足を補うことで、巨大地震の真相に迫っているそうです。

Q、いま巨大地震が来たら、私たちどうすればいいの?

地震予知ができないのならば自分で備える必要がありますよね。実は100年前の関東大震災の死者の8割強は火災によるもので、阪神・淡路大震災の死者の約9割は建物の倒壊によるもの、と言われています。多くの命が、地震の揺れそのものではなく、実は私たちが築いた文明が破壊されることで失われているのです。

私たちは日頃からどんな準備をして、どんな心構えでいればいいのか、東京大学地震研究所・小原一成教授に聞いてみました。

東京大学地震研究所・日本地震学会会長 小原一成教授

「どういう地震でその場所が揺れるのかというのは結構地域によって違うので、ハザードマップを見て、それぞれの備えは出来ると思います。地震が来たら、いざという時にはパニックになってしまう。どこに避難したらいいか、どういう経路で避難すべきなのかは、心に余裕があるときに少し地震に思い巡らせると、いざという時の行動がスムーズにできるのではないかと思います。」

地震の備えリスト

私たちは普段からどんな備えをしていればいいのでしょうか?リストにまとめてみました。よければ身の回りを確認してみてください。

地震の備えリスト

人類の夢でもある地震予知について、かつて関東大震災を予見して『地震の神様』と呼ばれた今村博士はこう言い残しています。

『元来地震は地殻の振動であり、人力で制御することはできない自然現象だ。一方、震災は造営物に対する地震の影響が主であり、人間が自ら招く災禍である。努力次第では防止することができる人為的行為だ。』

今も地道に進んでいる地震研究の数々が、もしかしたら謎を解き明かす糸口になるかもしれません。地震予知ができる、その時が来るまで、私たちには災害を未然に防ぐ日々の備えと心構えが必要なのかもしれませんね。

地震予知の相関図