漫画家イエナガの複雑社会を超定義

「空前!ネコブームの秘密をひもとくニャンの巻」

初回放送日: 2022年10月28日

ネコ愛が爆発する現代を俳優・町田啓太が15分で超速解説!ネコの飼育頭数がイヌを抜いた!?ブームのワケを“ネコ三賢者”が徹底分析!漫画やCGで楽しく学ぶにゃー あなたはネコ派?イヌ派?今回漫画家イエナガ(町田啓太)が編集者(橋本マナミ)にプレゼンするテーマは「ネコブーム」。にゃんと!ペット界の絶対王者イヌを抜きネコの飼育数がトップに。経済効果も驚きの年2兆円!嫌われ者だったネコはなぜ愛されるように?歴史学・社会学・認知行動学の3人の賢者の知力を結集…時代ごとに変化する人間社会の姿がおそろしいほど分かっちゃう!?イヌ派も納得?のネコブームの真実を徹底解説!

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  • なぜネコを“愛しすぎて”しまうのか? 「ネコブーム」のワケを深掘り!

なぜネコを“愛しすぎて”しまうのか? 「ネコブーム」のワケを深掘り!

日本を席けん!空前のネコブーム到来中!?

今、まさに社会を埋め尽くす、ネコの時代が到来しています。ネコカフェ、ネコ本、ネコ動画、ニャーチューバーなる超人気カリスマネコも登場して、リアルもネットも「ネコ」コンテンツで大渋滞が発生しているのです。統計上でもネコの飼育頭数が伸びていて、ペット界の絶対王者、イヌを逆転しました。そんな中、近年誕生した言葉が「ネコノミクス」です。なんとネコによる経済効果はおよそ2兆円という試算も出ています。もうネコは日本経済をうるおす、招きネコですね!

いったいどうしてこんなにもネコのとりこになる人が増えているのでしょうか。調べていってわかったのは、ネコが…「真実の愛の持ち主」で、「永遠の赤ちゃん」で、「自由の象徴」!?ネコを愛してやまないネコ三賢者(取材協力してくださった大学教授のみなさま)の教えです。このネコの歴史やブーム最前線を見ると、私たち現代人の価値観の移り変わりや、明日を生きるヒントが満載かも!?って話なのです!

Q、ネコはどうして日本人に愛されるようになった?

港町を歩くネコ

最初は嫌われていた!?

いきなりですが、ここでクイズ!イヌとネコ、大昔はどちらに人気があったと思いますか?

答えは、江戸時代まで圧倒的にイヌです!それもそのはず、イヌはおよそ1万年以上前から、狩りなどの仕事を人間とともにしてきた相棒でした。

一方で、ネコは大切なお米をネズミから守ってくれるものの、夜行性で目が糸のように細くなってピカッと光ることから怖がられていました。化け猫とか、猫又(ねこまた)といった妖怪として描かれることも多かったのです。江戸時代終わりには、ネコは怖がられるというよりも、嫌われる存在になってしまいます。

頼山陽(らいさんよう)が書いた「猫狗説(ねこいぬせつ)」

それがよく分かるのが、頼山陽(らいさんよう)という幕末の歴史家が書いた「猫狗説(ねこいぬせつ)」です。

「犬は忠義があるが、猫は恩知らず。にもかかわらず、かわいい容姿や声で人にこび、いい思いをしている」と自分勝手なネコを嫌い、イヌに比べて道徳的に劣ると批判しました。そのネコの自由勝手な性格への嘆きは人々の共感を集めました。

明治に入り、忠義を重んじる時代の中、猫狗説は教科書にも取り上げられ、「ネコは不道徳だ」と、まさに国を挙げてのネガティブキャンペーンが行われました。一方で義に厚いとされたイヌは人気で、明治天皇が溺愛していたり、西郷隆盛の愛犬が一緒に銅像になっていたりと、人気には大きな差がありました。

嫌われモノが一転 飼い猫が増えたワケ

明治の中頃、ネコの立場が変化しはじめます。その様子が明治38年(1905年)に連載開始した、かの名作、夏目漱石の「我が輩は猫である」に描かれていました。

「人のとったねずみを皆んな取り上げやがって交番に持って行きあがる。交番じゃ誰が捕つたか分らねえから其(その)たんびに五銭宛(ずつ)くれるぢゃねえか。」

作中に登場する黒猫が語るのは、ネコがとったネズミを人間たちが交番にもっていき、お金をもらっているというエピソードです。この頃の日本で何が起こっていたかというとペストの流行。国は、ペスト菌を広げるネズミを退治するとしてネコを飼うことを奨励していました。内務省は各府県にネコの飼育を普及するよう通達して、警察官が家庭を一軒ずつまわり、飼育を呼びかけるほどの徹底ぶりでした。これを受けて、ネズミを捕まえたらお金が手に入るということで、ネコの需要は急上昇したのです。

それまでネコと言えば野良猫が当たり前でしたが、明治41年(1908年)9月22日の新聞の朝刊には、東京浅草に飼い猫販売所が設置されたと書かれています。値段も1匹5円、10円と高騰していきました。伝染病をきっかけに、ネコは不道徳な存在から一転し、役に立つ存在として一目おかれるようになったのです。

かわいらしいネコ

ネコとの距離がぐっと近づいた戦後

時は流れ、戦後。このころからネコと人間の距離がぐっと近づいてきます。暮らしが豊かになるにつれ、「日本ネコの会」「日本猫愛好会」などの団体が次々と設立されました。そして、ネコの魅力にとりつかれた人々が猫の写真集や、百科事典を自費出版するようになりました。これにより一般の人にもネコとの暮らし方やその魅力が徐々に知られていくことになったのです。時は流れ、戦後。このころからネコと人間の距離がぐっと近づいてきます。暮らしが豊かになるにつれ、「日本ネコの会」「日本猫愛好会」などの団体が次々と設立されました。そしてネコの魅力にとりつかれた人々が猫の写真集や、百科事典を自費出版するようになりました。これにより一般の人にもネコとの暮らし方やその魅力が徐々に知られていくことになったのです。

1970年代になると、ネコを飼うこと自体がファッション化し、一大ネコブームへと発展していきます。有名人の飼いネコやショーの情報が満載のネコ専門の商業雑誌「キャットライフ」も創刊され、ネコが一気にキラキラと輝く存在になりました。東京にできたネコ専門ショップには高額な洋ネコが現れ、さらに美容コーナーまで作られました。ネコはお金をかけてかわいがる存在へと変化したのです。今回徹底的に調べたところ、当時のブームを物語る、面白いモノを発見しました。「ねこ そのすばらしき世界」(1977)というレコードです。なんと子ネコの鳴き声だけが22分にわたり、収録されていました。

Q、どうして私たちはネコを愛してしまうのか?

専門家によるネコが愛されるおうになった理由の解説

ネコは自由の象徴!? 戦後日本人の価値観の変化

しかし、なぜネコは急激に愛されるようになったのでしょうか。そこには戦後日本人の価値観の変化があるとネコ三賢者のひとり、歴史学者の早稲田大学教授の真辺将之さんは言います。

早稲田大学教授**_ 真辺将之さん(愛猫の死をきっかけに「名も無きネコたちの歴史を残したい」とネコの歴史研究を開始)_**

「戦後になると、わりと“自由”というようなものが尊重されるようになってきます。猫が用がある時寄ってくるっていうふるまいも、わりとかわいく思えたりっていうような、価値観の変化が人々の中にあって。それが猫が愛されるようになった1つの背景にあったんじゃないかと思います。」

ネコは「自由の象徴」ということです。さらに真辺さんによるとそれだけではなく、人の暮らしの変化も大きく関わっていると言います。

歴史学者の早稲田大学教授 真辺将之さん

「高度成長期ぐらいから非常にコンクリートとか、プレハブ住宅とか、非常に壁が多い密閉された空間に家が変わっていきますので、ほとんど外から汚れた猫が入ってくるっていうことはなくなります。不潔とか、泥棒猫とか、そういう人に嫌われるような要因も減っていくということがあると思います__。」

日本人の価値観と人の暮らしの変化で、家の中でネコを飼う人が徐々に増加しました。さらに1980年代、マイカーブームの到来でネコの交通事故が増え、安全のため、家の中だけで暮らすネコがより増えました。それで心の距離も近づいていき、次第にネコのことを「家族」の一員だと考える人も出始めてきたのです。

専門家によるネコブームの解説

でも、本当にネコのことを家族と思っているのでしょうか?そこに日本人の家族観の変化も影響していると分析しているのが、もう1人のネコ賢者、ネコ社会学を研究する東京大学教授の赤川学さんです。

東京大学大学院 教授 赤川学さん(3匹の愛猫と暮らす 2021年「ネコ社会学」を立ち上げ、ゼミではネコ調査実習を行う 

「時代を経るごとに核家族化とか少子化が進んでいきまして、同居の要素とか、血のつながり、血縁の要素っていうものが徐々に、家族の定義から薄らいでいきまして、で、愛していれば、みんな家族なんだっていうふうに考え方が変わっていったと。その中に、人間だけじゃなくてペットとか猫も入るようになっていったっていう原因かなと思います。」

「愛情があれば家族だ」と考えられるようになった“家族観の変化”がポイントということですね。実際に今では、ネコを飼う人の9割以上が「ネコを家族」と思っているというアンケートもあります。

専門家によるネコのかわいさの解説

ネコは永遠の赤ちゃん!?かわいさの秘密

しかし、そもそもなぜネコに愛情を注いでしまうのでしょうか。3人目のネコ賢者、ネコ認知行動学者の上智大学准教授・齋藤慈子さんに聞いてみました。

上智大学准教授の__齋藤__慈子さん(中学生の頃から大のネコ好き 多忙な研究生活の中でもネコを飼いたいと__愛猫家の夫と結婚)

「猫は人が飼いたい思う見た目をしています。特に犬との違いとしては、犬というのは大人になってくると鼻面が伸びてくるんですけれども、猫は大人になっても顔の形があまり変わらずに、幼いままの特徴を持っているので、これはネオテニーというふうにも言ったりするんですけれども。そのためにかわいいというふうに感じるのではないかと思います。」

私たちがカワイイと感じるのは、“永遠の赤ちゃん”だからなんですね。ほかにもネコは人間をとりこにする赤ちゃんパワーを使っているというのですが、何だか分かりますか?

それは「にゃ~、にゃ~~」という鳴き声です。実はネコの祖先である野生のヤマネコは大人になると単独行動していて、「にゃ~」という鳴き声を使うのは、子どもがお母さんに甘える時だけなのです。しかし私たちと一緒に暮らしているネコたちは、「にゃ~」って鳴きますよね?これはつまり私たち人間に、赤ちゃんのように甘えているのです。

「にゃ~」という鳴き声で、人間は「あーめっちゃかわいい、よしよし、お世話しちゃおう」となって、ネコはエサをもらって遊んでもらって「幸せだにゃ~」となる、お互いWin-Winな関係ですね。

専門家によるネコの気まぐれな性格の解説

ネコこそ純愛の相手!? ツンデレこそが愛おしい

でもちょっと待ってください。ネコってたまに無視してきたり、わかりあえたかと思ったら攻撃してきたり、スーパー気まぐれ屋さんな一面がありますよね。いったいどういうことなのか、ネコの心理について研究したネコ賢者の齋藤さんに聞いてみました。

上智大学准教授 齋藤__慈子さん

「私たちが行った研究では、猫は、飼い主の声と見知らぬ他人の声というのを、きちんと区別しているということが明らかになりました。猫は飼い主のことをきちんと分かっているんですけれども、それでも呼びかけに対してきちんと応えるかというと、そういうわけではないということになります。分かった上で無視しているのかもしれないということですね。」

まさにツンデレですね!ネコ社会学を研究する東京大学教授の赤川学さんもこのツンデレ感がネコを愛してしまう本当の理由じゃないかと言います。

東京大学大学院教授 赤川学さん

「愛しているというだけの理由で続いている関係っていうのを、純粋な関係性っていうふうに呼んだりするんですけども、人間同士の場合はなかなかそれが成立しないっていうのが一つよくなされている議論なんですね。人間が完全に純粋に、純粋な関係を結べるのはもう猫との間にしかないんじゃないだろうかっていうふうに思っております。」

純愛なんて恋愛映画の世界だけのものかと思ったら、まさかネコがそれを経験させてくれていたのです。これはたまりませんね。

Q、ネコの経済効果って?

ネコをモチーフにしたアスキーアート

アスキーアートやYouTuber(ユーチューバー)まで 進出

そして、そんなネコの魅力を爆発的に拡大させたのが、インターネットの世界です。2000年代以降、ネット空間でネコが増殖していき「モナー」や「ギコ猫」といったネコをモチーフにしたアスキーアートが匿名掲示板で流行しました。また和歌山電鉄貴志駅の駅長に就任したネコ「たま駅長」もネットで人気に火が付き大ブームになりましたよね。動画投稿サイトでも、誰もが気軽に自分の家のネコのかわいさを発信できるようになり、その結果ユーチューバーとして活躍する「ニャーチューバー」なんてネコも登場したのです。

ネコ関連グッズの市場規模

ネコはいまや「巨大市場」に!

リアルでも猫カフェの店舗数は、2005年の3店舗から10年間でなんと100倍以上の314店舗まで増えています。ネコがたくさん暮らす全国各地にある「猫島」も旅行会社が観光ツアーを組むほどの人気となりました。

この人気にあやかろうと各企業もこぞって、ネコの自動水洗トイレやマッサージに家具といった、ネコ関連商品を開発しています。ネコ関連市場はいまや2兆円の巨大規模になり「ネコノミクス」という造語まで誕生したのです。

そしてついに、飼育頭数で、ネコがイヌを抜き去る事態になります。コロナ禍の巣ごもり需要も相まって、新規飼育頭数も高い水準で推移しています。

「スコティッシュフォールド」

ネコブームの陰 人間のエゴとどう向き合うのか

ネコの人気品種ランキングで10年以上首位をキープする「スコティッシュフォールド」。ご覧の通りめちゃくちゃかわいいのですが、その裏にひそむ問題をぜひ知ってほしいのです。スコティッシュフォールドの特徴はその名前の由来にもなっている、「折れ耳」(フォールド)です。でも、この折れ耳の子は、生まれながらにして骨軟骨異形生成症という関節の病気になる遺伝子を持っています。痛みを抱える子が多く、のんびりとした動きやスコ座りもそのためと言われていますが、繁殖や販売が続けられているのです。世界ではこのことを問題視していて、2021年、ベルギー北部のフランドル地方ではスコティッシュフォールドなどの折れ耳の猫の繁殖と販売を禁止しました。

保護ネコの現状

もうひとつ忘れてはいけないのが、「保護ネコ」のことです。捨てネコがいたり飼い主が面倒を見られなくなったり、そうした理由から引き取られるネコは、2020年度の統計によると、日本で年間およそ4万5000匹に及びます。さらにその約半数の2万匹が殺処分されているのです。そのため2022年6月からは、ペットショップやブリーダーが販売する際、飼い主などの情報を記録したマイクロチップをネコやイヌに装着することが改正動物愛護管理法で義務化されました。

いくらネコがかわいくて人を癒やすとしても、自分たちのエゴが行き過ぎていないか、常に考える必要がありますよね。時代ごとに人間に翻弄されながらも、けなげに私たちのそばにいて、変わらぬ「愛」をくれるネコたち。この先、ネコがもっともっとハッピーになれば、私たち人間社会もより豊かになるのかもしれませんね。

ネコブームの相関図