漫画家イエナガの複雑社会を超定義

知らなきゃ損!?行動経済学でベストチョイス!

初回放送日: 2023年6月9日

人生が変わる!注目の行動経済学を俳優・町田啓太が超速解説。この考えを知って“自分の無意識”が分かれば買い物も絶対失敗しなくなる?難しい事をマンガCGで楽しく学ぶ リノベした編集部で漫画家イエナガ(町田啓太)が編集者(橋本マナミ)に新作のテーマ「行動経済学」を超速プレゼン。“今だけ”“限定”“割引”魅惑の言葉に誘われ「買わなきゃよかった」「なぜあんな選択しちゃったの」そんな経験ないです?その非合理な行動の理由を、経済と心理の面から明快に解き明かす!ナッジやスラッジ、行動経済学の考えを知れば、買い物などいろんな選択を間違えなくなり“損しない人生”が送れちゃう?

  • 番組情報
  • その他の情報
  • 詳細記事

目次

  • その選択、損していませんか?
  • 「ゲノム編集」 オリジナル漫画&MAD動画

その選択、損していませんか?

みなさん、買い物で後悔したなぁ…と感じることありません?ちまたで目にするアレコレをなぜか魅力的に感じてしまい、「ついつい無駄遣いしてしまった…」なんて経験があるのではないでしょうか?実はこれ、「行動経済学」で説明できるんです。

行動経済学の実績はものすごくて、ノーベル経済学賞を3回も受賞しています。期待を集めているのが、「ナッジ」という仕組み。バイアスによって歪められた私たちの選択を自然と修正してくれる超すぐれものです。社会的な課題の解決にも応用できると、世界各国200以上の機関で政策にも導入されています。

一方で問題なのが、行動経済学を悪用した「スラッジ」という仕掛けです。あの手この手で私たちを陥れようとしてきます。情報があふれ、選択肢が多様になる現代、「どんな選択をすればいいの?」って迷っちゃいますよね。だからこそ行動経済学の考え方を正しく知ることで、不利な選択を減らし、この先、損しない人生を送りませんか?

Q、行動経済学って?経済学と何が違う?

「行動経済学」は、私たちの普段の選択や意思決定が、どんな心理によって行われるのかを明らかにする、経済学に心理学を取り入れたハイブリットな学問です。実は、確立されたのは20世紀後半と結構最近です。で、『伝統的な経済学』とどこが違うのかというと、「こういう人が経済活動をしているだろうな~」という『人間像』の違いです。 伝統的な経済学が前提としているのが、実はすごい人で、その名も『ホモ・エコノミカス』。得られる情報すべてを利用して、自分の利益を最大化できるような意思決定を行う人物がモデルです。常に最善の一手を超速計算して、即断即決するパーフェクトヒューマン!?という感じですね。でもこんな人リアルにいるのでしょうか…?

同じ疑問を持ったのが、心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーです。「人間は時に非合理的な経済活動をしてしまう、これは伝統的な経済学の理論じゃ説明がつかないじゃないか!」と一緒に研究を始めました。人間が選択するとき、どんな心理が働いているのかを明らかにするために「どっちが得する?損する?」みたいな、直感で判断する質問を作って実験していきました。

2択クイズ!こんな時どうする?

試しにちょっと出題!あなたは1000ドルを受け取ったとします。

【A】を選べば、50%の確率でさらに1000ドルもらえる。

【B】は確実に500ドルもらえる。

さあどちらを選びますか?

実験ではなんと回答者のうち、84%が確実にお金を得られる【B】を選択したのです。

さらに、もう1問。

あなたは 2000ドルを受け取ったとします。

【C】を選べば50%の確率で1000ドル失う。

【D】は確実に500ドル失う。

今度はどちらを選びますか?

結果は回答者のうち69%が、イチかバチかの【C】を選択したのです。

この結果、実はちょっと不思議なことになっています。いったいどういうことなのか、現在生じている状況を数式で整理してみます。AとB、それぞれを数式で表し、同じようにCとDも数式に変換してみましょう。

するとご覧ください!同じ式になるではありませんか。実は1問目と2問目はお金をもらったり失ったりする順番が異なるだけで、同じ質問なのです。

本来ならばAを選ぶ比率とCを選ぶ比率は同じになるはずですが、パーフェクトじゃない人間は、“お金がもらえる”とポジティブに表現されている場合は確実な方を選ぶことが多くなります。一方で、“お金を失う”とネガティブに表現されている場合はギャンブルを選ぶことが多いという、偏りが出る結果になりました。

同じことでも選択は変わる

人間は、実際には同じことだとしても、損を強調するか、得を強調するかという表現のされ方で、意思決定が影響されることがあります。

さらに損を嫌い、確実であることを特に重視していることが明らかになりました。1979年、ふたりはこの結果をまとめ『プロスペクト理論』として発表しました。

合理的な選択を阻む「バイアス」

どうして人間は意思決定にブレが出てしまうのだろうと思いませんか?

ふたりはその原因も突き止めていました。『バイアス』です。

バイアスとは、自分の直感や経験から、無意識のうちに非合理的な行動を選択してしまう心理現象のこと。心の中で無意識に生じる判断基準の歪みで、私たちはホモ・エコノミカスと違って、瞬時にすべての情報を利用して正しく計算して判断することがなかなかできません。だから私たち人間は直感的に答えを予測しがちですが、この時に『バイアス』が生じてしまうのです。

こうしたバイアス20個以上はあります。知っておくと選択に役立つバイアスがこちら。

① 損失回避バイアス

人は得と損では、損の方を2~3倍ほど大きく評価してしまうというものです。

② 現在バイアス

将来の選択では、忍耐強くお得な選択を選べるのに、直近の選択ではせっかちな選択をしてしまうこと。これもやっかいなバイアスです。

例えば、今すぐに1万円もらうのと、1週間後に1万100円もらうなら、どっちを選びますか?すぐにもらいたくならないでしょうか。では、1年後の1万円と、1年と1週間後の1万100円だったらどうでしょう。なんか、そんなに先の話なら、1万100円を選びたいって気がしませんか?

よくよく考えると「1週間で1%も利益が出るなら断然お得ではないか」という感じで、いつだって100円増える方を選ぶのがいいはずです。遠い1年後なら1週間待てるのに、『今』って言われると、つい目先の出来事にとらわれてしまう。これが「現在バイアス」です。

海外旅行のために貯金しようと思っても、ついスマホゲームに課金しちゃって後悔!なんていう「先延ばし行動」にも「現在バイアス」が関わっています。

③ アンカリング効果

最初に見た数字に選択が左右されてしまうものです。例えば、5万円の腕時計を高いと感じても、もしその腕時計が5万円のところ1万円割引きと表示されていると、「安い、お得だ」と感じてしまう、というものです。

④  サンクコスト効果

過去に投じたコストを取り返せると誤解して判断を誤ってしまうものです。例えば、クレーンゲームで1万円課金しても商品が取れなかったら、「こんなにお金をかけたんだから、次こそ取り返せる」と誤解し、さらにお金を使い続けてしまうのも、このせいです。

もはや私たちの行動はバイアスに左右されているのかもしれないですね。こうして研究が進んでいくにつれ、伝統的な経済学の理論では説明がつかなかった、返済不可能なほど借金をしてしまう行動や、バブル経済などの非合理的な現象も行動経済学で説明できるようになりました。

そして2002年、プロスペクト理論を提唱したダニエル・カーネマンが、経済学に心理学を取り入れた功績を評価されてノーベル経済学賞を受賞し、多くの人に行動経済学が知られるきっかけとなりました。

Q、社会課題を解決に導く「ナッジ理論」とは?

2017年、ノーベル経済学賞を受賞したのが、リチャード・セイラーです。彼が提唱した「ナッジ理論」がとても面白いのです。自発的に「望ましい行動」をとれるように、そっと後押しする仕掛けを「ナッジ」と呼びました。

例えば、「海外旅行の貯金ができない」っていう現在バイアスは、こんなナッジで対策できます。”自分で貯金の目標達成日を紙に書いて計画する”とか、「今年の夏はハワイに行くぜ!」と”友だちに公言する”のも効果的です。他にも、”自動的に給料から定額を貯金にする”などもありなんです。

ナッジは社会課題を解決する力があると、政策にも応用されています。イギリスでは税金滞納者を減らすため、督促状の呼びかけに「10人に9人が期限内に支払っています」、「あなたは納税を完了していない極めて少数の人です」といった納税する気にさせるナッジを取り入れることで納税率を向上させました。日本でも風しんワクチンの定期接種がなかった年代の男性に、無料クーポンで接種するための効果ある呼びかけを分析して、チラシを作成したりしています。

他にも、2022年、渋谷にタバコのポイ捨てをなくすために「投票型灰皿」が設置されました。なんとこれ、吸い殻量が見えるようになっており、吸い殻で投票できる仕組みになっています。その結果、ポイ捨てが9割も減ったそうです。

こう見てくるとナッジは万能なの?と疑問を浮かぶ人もいるかもしれません。本当にそうなのか、大阪大学特任教授の大竹文雄さんに聞いてきました。

大阪大学特任教授 大竹文雄さん

「ナッジの種類によっては、一部の人にしか効かないものもあります。例えば、地域によっては文化が違います。ある一部の人たちはそこにボトルネック(課題)があって、そのナッジで解決できるけれども、別の人たちは別のところにボトルネックがあると、全員が思う課題解決にはならないのです。うまくいかなかったら、また別のところ、あるいは一部の人は解消したら、次の人に対してまたナッジを考えていくということが重要かと思います。」

不利益な選択に誘う「スラッジ」にご注意

実はいま、専門家が注意を呼びかけているものがあります。それが『スラッジ』です。ナッジがバイアスを修正して僕らの行動を正しい方法に導く良い目的のものだとするならば、スラッジはバイアスを悪用して不利益な選択に誘うものです。

例えば、有料サイトを解約しようとした時に、まったく解約ボタンにたどりつけないとか、

解約がオンラインではできず実店舗に行かなくちゃいけないとか、手続きがとにかく煩雑になっているのもスラッジです。「解約また今度でいいや~」って思わされてしまうのです。また実際は閉店の予定がないのに、「まもなく閉店!」「売り尽くし」など嘘をついて買わせようとするのもスラッジの一種です。

このようにスラッジは忍び寄って来るため、みなさんも知らないうちにひっかかっているかもしれません。そんなスラッジに対処するには、どうしたらいいのでしょうか?

大阪大学特任教授 大竹文雄さん

「スラッジに対する対策はまず行動経済学の基本を知ってもらうということだと思います。例えば損失を強調した表現だったら、それを利得を強調した表現に変えてみるとか、そういった表現の仕方、同じことを違う表現で考えてみて、自分は同じ選択をするのかどうかということを、少し思考実験をしてみると対策になるのかなというふうに思います。」

こうして見てくると行動経済学は、バイアスを修正して社会の課題をも解決できるものである一方、使う人の心次第では人をはめてしまうワナにもなりかねません。

多様化し、デジタル化する社会で生きる私たちは、小さなものから大きなものまで、判断や選択を迫られることが無限にあります。そんな時、行動経済学の知恵を生かして、より良い選択をすることができれば、後悔のない納得のいく人生を送ることができるのかもしれませんね。