いま話題の「Web3」って?
Web3とは、現在構想されているウェブの将来像のことです。GAFAMなどの巨大IT企業や、国家に依存しない「全く新しいウェブ」で、個人情報を自分で管理しながら、他のユーザーとやりとりできるとされています。暗号資産にも使われる技術「ブロックチェーン」を利用したものです。
Q、Web3の前はあったの?
Web3以前には「Web1.0」と「Web2.0」があったとされています。
Web1.0
1990年代から2005年頃までのウェブのこと。当時インターネットは、ホームページを見るのが主な使い方で、ユーザーとサーバーの1対1の通信がほとんどでした。
Web2.0
今のウェブのこと。インターネットを通して誰もが発信者になれる時代で、情報の流れはより複雑になりました。
そして、次にやってくると言われているのが、Web3です
Q、「Web3」は誰が言い始めた?
「Web3」という未来像を提唱したのは、イギリス出身のソフトウェア技術者、ギャビン・ウッドです。
ウッドは、2014年に「Web3とは何か」というブログ記事を投稿しました。ここから今言われる「Web3」という言葉が広まりましたが、ウッドはそのブログに、現代の情報社会について「私たちの情報をどこかの組織にゆだねるのは、根本的に破綻したモデルだ」という、大きな危機感を綴っていました。
ウッドがこう書く背景にあったのは、当時世界を揺るがしていた、「ある告発者の証言」です。
それは、アメリカの情報機関に勤めていたエドワード・スノーデンによるもので、彼は「政府は一般市民のインターネット通信を世界中で監視している」と暴露し、さらに大手IT企業9社がそれに協力していると主張しました。これには世界中で監視をやめるよう怒りの声が上がりましたが、ウッドは少し違う考えを持っていました。ウッドは、こうした監視社会が生まれてしまう原因は、監視する政府やIT企業にあるのではなく、情報が一部に集中する、「ウェブの仕組み」そのものにあるのではないか、と考えたのです。
Q、ウッドが提唱する「Web3の仕組み」とは?
ギャビン・ウッドは、もっと情報が分散して管理されていて、巨大な中央を持たないウェブを実現するべきだと考えました。
今、私たちがウェブを利用する際には、いわゆる「GAFAM」のような巨大IT企業のサービスが欠かせないものとなっていますが、一部の企業に情報が集中していると、そこになにかトラブルがあったり、情報が悪用されたりした際に、ウェブシステム全体が大きな問題にさらされることになります。
そこでギャビン・ウッドは、ユーザーが個人情報を自分で管理し、直接他のユーザーと繋がりながら、ビジネスやコミュニケーションができるウェブ(Web3)の必要性を唱えたのです。
Web3に不可欠なのが、「ブロックチェーン」という革新的な技術で、これはビットコインのような暗号資産にも使われているものです。ブロックチェーンとは、簡単にたとえると、ユーザー間のあらゆる取引を記録する“一冊の記録帳”のようなものです。
これは特定の国や企業が管理するものではなく、世界中のユーザーに共有されているため、悪意を持ったユーザーが記録を書き換えようと思っても、世界中のコンピューターをハッキングする必要があるため、改ざんが事実上不可能になっています。
Q、なぜブロックチェーンでWeb3を実現できる?
Web3の重要な要素となるのが、「スマートコントラクト」と呼ばれる技術です。これは、ブロックチェーン上に、資産のやりとりだけではなく、プログラムを書き込むことができるというものです。
例えば、ある商品の売り買いが行われる際、「買い手がお金を送ったら売り手が商品を送る」という契約を、事前にプログラムとしてブロックチェーンに埋め込んでおきます。このプログラムは条件が満たされた時にだけ自動的に実行されるため、売る側も買う側もズルをすることが絶対にできません。従来の取引では、巨大IT企業のような第三者が取引を仲介することで、私たちは契約が実行されると信じることができていました。しかし、スマートコントラクトによって契約が確実に実行される仕組みになっていれば、初対面の信用できない相手とも、安心して直接取引することが可能になります。
この仕組みが広まれば、単純な商品の売買だけではなく、より広範なビジネスや社会活動を個人と個人が直接つながって行えるようになると考えられています。
2021年頃から、「Web3」という概念は、大きな注目をあびるようになり、バズワードになっていきました。GAFAMを始めとする巨大IT企業に情報が集中する状況への危機感が社会に広まり始めていたこともあり、それを打破する存在として大きな期待を集めたのです。
Dapps、DeFi、SBTなど、スマートコントラクトを活用したサービスが紹介され、Web3の具体的なイメージが共有されはじめています。
ブロックチェーンの研究者、ジョージタウン大学研究教授の松尾真一郎先生によると…
「Web3という形で新しくキーワードとしてあがっているんですけれども、もともとのサトシ・ナカモトに繋がる技術開発は1970年代からずっと流れて続いてきたものなので、歴史を長く見る必要がまずあって、Web2.0というのも、もともとは単一障害点を取り除くとか、あるいは分散化させていくという事を目指していたんだけれども、人間の経済原理というのは、効率を求めるので、結局は集中化してしまうという事になって、結果として現在のような状況になっているんだと思います。そういう意味ではWeb3.0自身はいわゆる再挑戦に近い形かなと思います。」
Q、Web3で社会はどう変わる?
先ほど紹介したスマートコントラクトによって、私たちが日頃参加しているあらゆる組織やコミュニティのあり方も変容する可能性があります。その一例が「DAO」です。DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの頭文字を取ったもので、「自律分散型組織」と訳されます。
試しに、「ある漫画雑誌を作るDAOができたら」っていう仮定で説明してみると、まず、「100万部売れる雑誌を作ろう!」っていう「旗揚げ」をする人がいます。でも、この人がリーダーになるわけではなくて、あくまでDAOのメンバーの一人。会社の社長のように方針を決める人がいないから、参加者ひとりひとりが、編集者役だったり漫画家役だったり、自分の得意な能力を生かして、DAOの仕事を担当します。
そのうち漫画が完成すると、どの漫画を雑誌に掲載するか、みんなで投票。運営の全ては民主的に行われます。そして、雑誌を売って得た収益は、メンバーそれぞれの貢献度に応じて、暗号資産で配られるのです。こんなふうに平等なメンバーたちが各自の考えで行動して、それでも組織全体は一つの目的に向かって進んでいる。権限が分散されているのに、自律的に動く組織。だから自律分散型組織って言われるわけです。
DAOでは、まずスマートコントラクトを用いてDAOの目標やルールを、始めにプログラムとしてブロックチェーンに記載します。ブロックチェーンは改ざんが不可能であるため、このルールは一部の人間によって変更されることはなく、組織の方向性を示し続けます。従来の会社組織などでは、社長が変われば方針が変わる、ということがあり得ましたが、DAOはそのような個人に依存した組織形態ではありません。
さらに、DAOに貢献した人への報酬をスマートコントラクトとして事前にプログラムしておけば、この報酬体系はメンバー全員に公開されているので、各メンバーが独自の判断でDAOに貢献することが可能になります。他にも、メンバー自身がDAOの経営への投票権を持っていたり、DAOに自由に出入りできたりと、従来とは異なる組織になるとされています。
すでにDAOは世界中で作られ始めていて、リアリティ番組の企画・配信を行うDAO や、メタバース上での「香り」を研究するDAO など、目的は様々です。
Q、Web3の今後は?
ブロックチェーンの研究者、松尾真一郎先生によると…
「Web3.0という言葉とか、ラベル自体に価値があるんじゃなくて、やりたいことに価値があるんだと思う。結局いくらお金を投じても、技術を作る人もソフトウェアを作る人も、運営する人も人間なんですね。最後の最後は人間が責任を取るから人は社会としてうまく動くわけで、だからこそ人の育成、あるいは若い人が高校や大学、そのあとの社会で暗号(ブロックチェーン)をどう使って世の中をよくするのかということを考え続けることがこれから求められていくんだと思います。」