漫画家イエナガの複雑社会を超定義

「驚き!サブスク最新事情の巻」

初回放送日: 2022年6月3日

気になる社会情報を俳優・町田啓太が15分で超速解説する教養番組。今回のテーマはサブスク。なぜ定額で利用するサービスが日本だけでなく世界中で人気なの?楽しく学ぶ! 今日も漫画家のイエナガが、出版社へ新作の持ち込みにやってきた。テーマは、世界中で新たなビジネスモデルとしてブームとなっている「サブスク」。そのブームのはじまりは、スウェーデンの若き起業家が生み出した画期的な音楽配信サービス!今やベンチャーも大企業も続々とサブスクビジネスに参入!日本や世界の驚きのサービスを一挙紹介!さらに、知っておきたいサブスクの歴史や利用者急増の背景、秘密を一気に解説します!

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  • 「サブスク超進化!生活はどこまで豊かになる?」#7

「サブスク超進化!生活はどこまで豊かになる?」#7

動画や音楽だけじゃない!進化するサブスク

サブスクと言えば、動画配信サービスを思い浮かべる人が多いと思いますが、実はいま、サブスクは動画や音楽だけではなく、ちょっと前には考えられなかったものも、サブスクになっています。

例えば、世界36カ国どこでも泊まれる、旅のサブスク。日本だと1017カ所以上の宿泊施設から選び放題なんだそうです(2022年時点)。最近では、住宅総合機器メーカーが、全国に配備したトイレを会員になればいつでも使える「トイレサブスク」を計画中です。さらには、東京で、もうひとりのお母さんを持てるサブスクも登場。ベテラン主婦が、家事や掃除、人生相談まで、まるで親子みたいな関係でなんでも手伝ってくれるのだそうです。このようにサブスクの市場規模は年々拡大中で、2025年にはおよそ50兆円に達するという予測もあるほどの一大ブームになっているのです。

画期的な音楽配信サービス「Spotify」

Q、サブスクが広まったきっかけは?

若き起業家が音楽サービスに描いた夢

「サブスク」の始まりはおよそ400年前に、ドイツの出版社が、百科事典を月ごとに発行したことだと言われています。定額で定期的に届く新聞や牛乳の配達も、実はサブスクなのです。そうした昔ながらのサブスクを、「サブスク1.0」と呼び、2010年代から流行ってきたものを「サブスク2.0」と呼んでいます。「サブスク2.0」流行のきっかけは「Netflix」と「Spotify」と言われていますが、中でも画期的だったのが、スウェーデンの若き起業家ダニエル・エクが開発した「Spotify」です。

エクは8歳でプログラミングを覚え、自分で作ったゲームで遊んでいたっていう、いわゆる天才少年でした。その頃の夢といえば、「ビル・ゲイツよりビッグになること」だったそうです。そんな彼の先見の明は半端なく、インターネットが登場するやいなや、「いずれ会社も個人もホームページを作りたくなるのでは?」と考え、友達とウェブデザイン会社を立ち上げ、10代のうちに数億円の資産を築いていました。

エクは19歳の時、運命的な出会いを果たします。それは、アメリカ生まれの「ナップスター」という音楽ファイル共有ソフト。その頃、音楽を聴くにはCDを買うのが当たり前でしたが、ナップスターはネットを介して自分の持っている音楽データと他人の音楽データを無料でダウンロードし合えるという信じられない仕組みでした。しかし、このソフトは著作権無視の違法なものでした。それでも、タダで世界中の音楽にアクセスできるというので、人気はウナギのぼりで、海賊版や違法ダウンロードがネット上にあふれていました。CDの売り上げが激減して大打撃を受けた音楽業界はナップスター社を訴え、サービスは停止になったのです。このいきさつを見ていたエクは、「消費者とアーティストの双方にとってプラスになる、ナップスターを超える音楽配信サービスを作ろう!」と一大決心をします。

ナップスターの弱点

Q、何が画期的だったのか?

実はナップスターのヘビーユーザーだったというエクは、大きな2つの弱点に気づいていました。

① 手間がかかる

ナップスターは仕様上、「音楽を聴くまでの手間」がかなりかかりました。ある曲を聴きたいと思うと、まずダウンロードしますが、数日かかることもザラで、ようやく落とせたら、次はMP3に変換しなくてはなりませんでした。Siriに頼むだけで曲がかかる今と比べたら、その面倒さは想像しただけでも…。そこで、エクは、「ダウンロードせずとも、音楽が聞けたらいいな」と考え、クリックしたら0.2秒で高音質の曲が再生される画期的なストリーミング技術の開発に成功したのです。

その技術をフランスパンに例えて説明しますね。音楽データをフランスパンだとすると、それまでのストリーミングは、タテにぶつ切りにして、切った順に送るというやり方でした。すべてがお皿にそろわないと、音楽が再生できなかったのです。1つでもブツ切りがちゃんと送れていないと、音楽が止まってしまいます。そこで、エクは、横に薄くスライスして、データを送ることで、途切れることなく音楽を聴けるようにしたというわけです。

② 違法性

もうひとつは著作権無視の「違法性」。合法的なサービスにするには、レコード会社からライセンスを取得する必要がありましたが、それには膨大なお金が必要でした。その問題を解決するべく、広告を聞いてから、音楽を聴けるようにする「広告収入戦略」をレコード会社に提案します。「このビジネスモデルを試させてくれたら、1年分の収益を保証する」と口説いたとか。2年以上かけてレコード会社との交渉をまとめあげました。

エクは配信サービスを生み出す過程でこれらの弱点をクリアし、2008年にヨーロッパで「Spotify」をスタートさせます。

「Spotify」は世界一のユーザー数を誇る

世界一の音楽配信サービスに急成長

ここで新しかったのが、無料でユーザーを集め、有料会員なら「広告なし」という、フリー(Free)とプレミアム(Premium)を合わせた「Freemium(フリーミアム)」というビジネスモデルを採用したことです。この有料会員の部分が今でいうサブスクのはしりで、音楽業界に新しい稼ぎ方をもたらすことになりました。ユーザーにとっても良いことずくめで、5000万曲もの音楽をいつでも・どこでも・好きなだけ楽しめて、それまで触れることがなかった音楽にも出会えるという画期的な体験でした。そんな新しい音楽体験を可能にしたSpotifyは、全世界で3億5千万人を超えるユーザーを持つ世界一の音楽配信サービスに成長を遂げました(2021年時点)。「Spotify」や「Netflix」を皮切りに、デジタルコンテンツの分野で、定額で使い放題を売りにしたサブスクサービスが大流行していくことになります。

どうしてこんなにサブスクが世界的に受け入れられるようになったのか、その理由をサブスク業界に詳しい宮崎琢磨さんに聞いてみました。

サブスクリプション総合研究所 代表取締役 宮崎琢磨さん

「やっぱりスマートフォンが出てきたことによって、みんなの考え方も変わってきますし、消費する(所有する)ことが当たり前でない世代っていうのが、現在生まれてきている。ある程度匿名性を持ったまま、インターネット上で契約が完結するっていうところだと、人々の意識、僕も含めて消費者の意識、サービスに加入する抵抗っていうのは、すごく下がる」

「所有」から「体験」へ 消費行動の変化

所有から体験へ サブスクが変えた消費行動

消費者の新しいニーズを追いかけるように、日本の企業も続々とサブスクサービスを導入し始めました。例えば、税金や車検代から任意保険まですべて込みで車が使える「カーサブスク」やいつでも最新家電が借りられる「家電サブスク」が話題になったりと、その裾野は拡大しています。

ちなみに、サブスク先進国のアメリカで人気なのが、サブスクボックス。毎月ワインとかコスメなどの商品がランダムで届くようですが、何が入ってるのか毎回わからないため、「プレゼントが届くような体験」と「思わぬものと偶然出会うセレンディピティ」が堪能できるんだそうです。さらには、毎月新たな血のりやメイクグッズが届く「ゾンビメイクサブスク」やインストラクターのライブ配信を見ながら、会員同士で応援し合う「フィットネス動画サブスク」、本格的な実験キットが届く「科学実験サブスク」などもあるそうです。

こうして見てくると、消費者が所有するための「モノ」を売るのではなく、新しいものに出会ったり、興味を満たしたりするような、消費者一人一人の「体験」を提供するように、「所有」から「体験」へとサービスが変化してきていることがわかります。こういった体験や利用に定額料金を払うビジネスモデルを「サブスク2.0」と言っています。そして、この先サブスクは2.0から、「サブスク3.0」へと進化しようとしているのです。

「サブスク3.0」がやってくる?

体験をもっと豊かに?「サブスク3.0」の登場

今は膨大なモノやコンテンツの中から、自分に合ったものを選んで体験してますが、その時に「選んで⇒体験」「選んで⇒体験」「選んで⇒体験」と手間が掛かっています。「選んで」を省けたら、「体験」「体験」「体験」「体験」という感じで、ずっと刺激を受けられるようになるわけです。より個人に焦点を当てるという「サブスク3.0」を予感させるサービスが、今アメリカで大成功を収めています。

スティッチ・フィックスが始めた「ファッション・サブスク」です。最初にユーザーが体型や好み、予算などの85個もの質問に答えると、AIとおよそ4000人のスタイリストが嗜好(しこう)に合わせたアイテムを厳選し、届けてくれるというもの。これだと、自分がふだん選ばないような服も届き、新たなコーディネートにも挑戦できるわけです。創業者のカトリーナ・レイクは「モールを見て回ったり、サイトから服を探したりする面倒を、テクノロジーで省略したいと考えた」と語っています。着実にユーザー数を伸ばし、2018年にはおよそ270万人が登録、売上高は12億ドルを超えたのだそうです。

サブスク2.0のパイオニア、Spotifyも3.0を目指しています。「マルチソース・レコメンデーション」という機能で、AIがユーザーの視聴履歴、聴く時間帯や順番のみならず曲の拍子、音程、テンポ、音量に至るまで細かく分析することで「これ、あなたの好みの曲でしょ?」ってオススメしてくれるのだそうです。こういったレコメンド機能は昔からありましたが、今はそれ以上に細かくパーソナライズ化が進んできているのです。これを突き詰めた先にある「サブスク3.0」が当たり前になると、私たちはもう商品を選ぶことがなくなるのかもしれません。

Q、サブスクで私たちの生活はどうなる?

今後、私たちとサブスクの関係はどうなるのか。その未来について再び宮崎琢磨さんに聞いてみました。

サブスクリプション総合研究所 代表取締役宮崎琢磨さん

「特定のサービスだけを使い始めると。サブスクを提供している事業者が扱っているものしかユーザーは受け取ることができないんですよね。つまりマイナーなコンテンツとかマイナーな商品とかの発掘力が、消費者側としては落ちてしまう。なので相対的にサブスクリプションサービスが何を扱うかっていうことが支配的になって、経済活動の中で支配的になってきてしまって、これが別の社会的な課題を生み出していくような気がしますね。」

サブスクがオススメしてくるもので生活が満足してしまうと、自分にとってサブスクにない商品は存在してないのと同然!という時代が来るのかもしれません。

若き起業家ダニエル・エクが開発した音楽配信サービスから始まったと言われるサブスク旋風。世の中の消費行動は、モノを「所有する」より「利用したり体験したりする」ことへと進んでいます。その先に待ち受けるレコメンドの嵐の中で、いつかまた私たちは自分で選んで所有することの煩わしさに、楽しさを感じるのかもしれません。

「サブスクの巻」相関図