「私はぶどうの木、あなたがたはその枝である。 人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実をむすぶ」 　これは、今回取材させていただいた坂本家の皆さんが大切にしてきた「ぶどうの木」の聖句です。坂本家と出会ったのは２年前のことでした。「ここは生まれた家も名字もばらばらな子どもたちと家族になる場所なの―」。里親の洋子さんはそう言って、子どもたちの賑やかな声であふれる家の中へ招き入れてくれました。里子は原則１８歳になったら里親のもとを離れ自立する決まりです。“血のつながりがなくても、家を離れてもずっと家族”。ぶどうの木の言葉にはそんな願いが込められていることを知りました。 　坂本家ではこれまで１８人の里子が育っています。今回の番組では、その中でもすでに自立した３人が取材を受けてくれました。血縁はありませんが幼いころから共に育ち、自立後も枝と枝でつながり続ける“きょうだい”です。 　取材を進めていくと、３人にとって「ぶどうの木」はまたべつの意味を持っていることを知りました。きょうだいの自立後の暮らしは三者三様。新たな居場所を求めて九州の離島に飛び込んだ方もいれば、家に残って子どもたちを支えることを選んだ方、人が怖いと感じながらも社会の中で闘っている方…。みんなそれぞれが選んだ場所で、自分の力で“枝を伸ばそう”としていました。 　そこで番組では、「ぶどうの木」に込められたもともとの願いである“家族のつながり”だけではなく、彼らの“枝の先”を見つめたいという思いで撮影に臨みました。３人はひとりひとり、枝の伸ばし方も、幹である坂本家との距離感もまったく違っていて、自分なりの枝を思い描きながら目の前の日々を一生懸命に生きていました。そんな“ぶどうの木の子どもたち”の姿と言葉をノーナレーションで大切に紡がせていただきました。 　３人のごきょうだいとは私自身も年齢が近い同世代です。取材を通して、たくさんの刺激をいただき、「自分にとってのぶどうの木はどんな形だろう？今どんな風に枝を伸ばせているだろうか」と考える機会をもらったように思います。坂本家のみなさんに出会い、その枝に触れる機会をいただけたことに心から感謝しています。 (番組ディレクター 生田 晃子)