残暑厳しいきょうこのごろ。夏のスタミナ不足に欠かせない食べ物と言えば、そう、うなぎです。ただ、絶滅のおそれがある生き物なので、食べるのにちゅうちょする、という人もいるのでは。
そんな中、すべて植物由来の原料で“うなぎのかば焼き”を開発した食品会社が三重県内にあると知りました。
それはすごい!でも味はどうなの?早速、取材しました。
(津放送局 鈴村亜希子)
うなぎはおいしい!でも絶滅危惧種だよね…
NHK津放送局のある津市は、かつて総務省が行った調査でうなぎの1世帯あたりの消費額が全国1位になったことがある「うなぎ好きの街」。
「土用のうしの日」が近づくと、市内の専門店にはずらりと行列ができます。
一方で、うなぎは資源量が激減。8年前の2014年には、国際自然保護連盟がニホンウナギやアメリカウナギを絶滅危惧種に指定しています。
うなぎは確かにおいしいです。
日本の文化です。
でも、絶滅が心配されているのに、スーパーマーケットにも飲食チェーン店にも、たくさんのうなぎのかば焼きが売られているのって、どうなんだろう…。
本当にこのままでいいのだろうか。
大学時代、水産学部に所属していた私は、毎年この時期になるとそんな思いにかられていました。
植物由来の原料で“うなぎ”!?
そんな私が驚くような出来事が、土用のうしの日も近づく、ことし7月にありました。
「植物由来の原料でうなぎのかば焼きを再現しました」
そういって、三重県菰野町にある食品会社「あづまフーズ」から、サンプルが送られてきたのです。
さっそくあけてみると…。
なにこれ、めっちゃ、うなぎ!。
なにこれ、すごい。
これは取材しないと。
さっそく会社にお邪魔しました。
見た目はもう本物ですっ!
「かなり見た目は本物に近いかなと思いますね」
そう胸を張って、“うなぎのかば焼き”について紹介してくれたのは、開発担当の市川直樹さんです。
かば焼きは、おもに乾燥させた大豆でできています。豆腐を加えることでふんわり感を出しているそうです。
形がそっくりなのは、鹿児島県産の本物のうなぎのかば焼きでとった型を使っているから。ぷっくりと肉厚で、本当においしそう。タレをつけてバーナーで焼き目をつけると、うなぎのかば焼きの香りが開発室いっぱいに広がりました。
もっとも苦労したというのが、皮の部分の表現です。
わかめや昆布などの海藻を使うことで、見た目をかなり近づけることができましたが、破れてしまい、皮と具がくっつかないなど、完成に至るまでには何度も失敗を繰り返したと言います。
試行錯誤の末に完成した「うなぎのかば焼き」。
この夏、100枚限定でインターネットで販売すると、健康志向の人たちの間で話題となりました。(※8月24日時点で完売)
“植物由来”に力を入れるわけ
実はこの会社、もともとは「たこわさび」など海産物を使った珍味を作っていましたが、現在はグループ会社全体で売上の3分の2を、欧米など海外での販売が占めています。
販売事業本部長の杉浦吉啓さんは、アメリカの支店で営業を担当していた当時、ベジタリアンの人がかなりの割合でいると実感する機会が多く、これはビジネスになると思ったといいます。
近年では、健康志向やSDGsへの意識が高まる中、ベジタリアンの中でも、卵や乳製品も食べない「ヴィーガン」の人も増えていて、海外のこうした人たちをターゲットにした食品に力を入れることになりました。
そこで会社が最初に手がけたのは、大豆を原料にした「照り焼きチキン」や、「牛肉のしぐれ煮」など肉の代わりとなる商品。
海産物の珍味製造で培った臭みを消す技術で、臭みのない製品づくりが得意なんだそうです。
さらに、海外での日本食ブームに合わせて、刺身のシリーズを台湾の会社と合同で開発しました。
こんにゃくが原料となっていて、こちらの“サーモン”と“マグロ”はもはや本物と見分けがつきません。
「目で楽しむ、目で食すという文化が日本食にはあるので、見た目にはこだわっているんです」
開発チームに細かく指示を出した杉浦さんはそう話します。こだわったポイントは刺身の白い筋。色の違うこんにゃくを使うことで表現しました。
原料に魚の成分は全く使っていないのですが、見た目の効果もあって食べた人からは「サーモンの香りと味がするように感じた」という声も寄せられたといいます。
“サスティナブルな会社でいたい”
では、なぜうなぎのかば焼きが開発されることになったのでしょうか。
きっかけの1つには、2014年、国際自然保護連盟がニホンウナギやアメリカウナギを絶滅危惧種に指定したときに、杉浦さんがアメリカ国内で目撃したことにありました。
指定されるやいなや、うなぎがスーパーマーケットの食品売り場から消えたのです。
「レストランでは残っているんですけど、スーパーマーケットからは消えました。アメリカの消費者のもうなぎの味を覚えているので、戻して欲しいけど、サスティナブル(持続可能)じゃないから食べられないよねと話していました。こういった植物由来の商品を作ることで、消費者の満足に応えられるのではないかと思っています」
開発された植物由来の「うなぎのかば焼き」を私も食べましたが、味はおいしいものの、まだ正直なところ「うなぎと全く同じ」とは言えません。
ただ、今後も食感を中心に改良を重ねていくということで、ゆくゆくは海外でも販売したいと杉浦さんは考えています。
「従来ある本物の食材と共生というか、共存ができる品質のものを作れるような、次世代シーフードが選択肢のひとつになれるような挑戦をしている。サステイナブルな食品を製造できる会社でいたいですね」(杉浦さん)
大量消費には違和感がありますが、季節になったら専門店で、ちょっとぜいたくをしてうなぎを食べる、という食文化は個人的にも大切にしてほしいと思っています。
でも、本物のうなぎでなくてもいいかもという場面では、植物由来の「うなぎのかば焼き」を食べて雰囲気を味わう、そんな選択肢もありそうです。
私たち消費者1人1人少しでも意識が変われば、うなぎの未来も明るいのかも知れないと思いました。
(鈴村亜希子 うなぎを絶滅させたくない水産学部出身記者)