午前0時も近い、深夜の高速道路。運転していると、たくさんのトラックの列が…。
「あれ、なんでこんな時間に大渋滞?」という経験したことありませんか。
実はこれ、「0時待ち」と呼ばれる現象なんです。
中には死亡事故につながったとみられるケースまで…。
「0時待ち」の謎を追います。
※NHK事件記者取材noteに2022年7月28日公開の記事を再掲
(津放送局記者 周防則志)
平日午前0時の大渋滞
7月26日午後11時50分、東名高速上りの東京料金所付近。
トラックが続々と料金所の近くまでやってきます。
そのまま料金所を通って高速を降りるのかと思いきや、車線を外れ、駐停車が禁止されている路肩に駐停車。
わずか3分後には、同じようなトラックが次々やってきて、本線上にあふれ出すまで増えました。
辺りはトラックで大渋滞に。
やがて午前0時を過ぎると、止まっていたトラックは次々と出発し、料金所を通過していきました。
「0時待ち」の理由とは
何が起きているのか。
実は、これらの車、いずれもETCの深夜割引が適用されるのを待っていたとみられます。
深夜割引とは、ETCを利用する車が午前0時から午前4時までの間に高速道路を通行していれば、料金の30%が割り引かれる制度です。
たとえば、割り引きが受けられるのは…
●午後10時に高速道路に乗って走行し、午前2時に降りたケース
●午前1時に乗って午前3時に降りたケース
●午前3時に乗って、午前10時に降りたケース
●午後10時に乗って、午前8時に降りたケース
逆に割り引きが受けられないのは…
●午前0時より前に高速を降りたケースや、午前4時よりあとに高速に入ったケースなどです。
午前0時から午前4時の間に高速道路上にいれば、高速料金が3割引きとなる制度なんです。
もともとは、日中の時間帯の混雑を緩和するため、交通量の少ない深夜の料金を安くして、分散させる目的でNEXCOの申請に基づいて始まったこの制度。
30%という大きな割引率の影響もあり、切り替えの時間帯を中心に大きな混雑を生むという逆の状況が起きているようにもみえます。
あと少しでパーキングエリアなのに…
深夜割引によって渋滞が起きるだけでなく、死亡事故につながってしまったとみられるケースまで起きています。
ことし4月28日の早朝。
三重県桑名市にある伊勢湾岸自動車道の湾岸長島パーキングエリアの入り口手前付近で、道路脇の右側に寄せる形で駐車していた大型トラックに、別のトラックが追突。
追突したトラックを運転していた男性が死亡しました。
最初に、警察から事故発生の発表があったとき、私(記者)が思ったのは「なぜこんな場所にトラックが止まっていたのか。もうちょっと進めばパーキングエリアなのに…」ということでした。
この点について、警察に取材すると。
「大型トラックの運転手は、『休憩のために止まっていた』と話している」とのこと。
休憩?
本線でないとはいえ、高速道路の脇で?いったい、どういうことなのか。
さらに詳しく質問しましたが、それ以上のことはわかりませんでした。
「あの事故な、『0時待ち』や」
疑問が残ったままだったので、別の警察官に取材しました。すると、事故の背景について次のように説明してくれました。
警察官:実はあの事故な、「0時待ち」や。知っとる?
記者:「0時待ち」ですか…
警察官:深夜の時間帯になると、パーキングエリアがいっぱいになるから、止めちゃいかんところに、車がばーっと並ぶんやわ。実際に1回行って見てみたら。
そのとき初めて聞いた「0時待ち」という言葉。
なぜ、深夜になると車がいっぱいになるのか。
すぐに調べてみることにしました。
深夜割引を待つ車でPAが満車に
取材したのはNEXCO中日本です。
記者:パーキングエリアなどで起きている「0時待ち」について聞きたいのですが…
NEXCO中日本:「0時待ち」ですか?
記者:午前0時ぐらいになると、駐車場がいっぱいになるという話を聞きまして
NEXCO中日本:あ、深夜割引を待って時間調整のために止まっている車がいることは承知しています。深夜の時間帯は、管内のどこのパーキングエリアやサービスエリアでも、休憩する車でいっぱいになる状況が今起きています。
NEXCO中日本によると、この割り引きを受けようと、午前0時前から未明にかけてパーキングエリアやサービスエリアで休憩する車が増えて、多くの場所で満車になっているというのです。
同様の現象は、全国各地で起きているといいます。
冒頭に紹介した、東名高速道路の東京料金所もパーキングエリアではありませんが、同じ理由と考えられます。
「休憩のために止まっていた」というドライバーの説明。
「実はあの事故な、『0時待ち』や」という警察官の話。
これまで取材した結果をもとに、もう一度警察に取材したところ、大型トラックの運転手が話していたという詳しい内容がわかりました。
「午前1時前に到着した。休憩をとろうと思ったがこの時間は駐車場がいっぱいなので、今回も駐車できないと考えて、この場所に止まった」
と話していたというのです。
午後10時に現場に行くとすでに
ということは、いつまた次の事故が起きてもおかしくないのかもしれない。
事故から3週間ほどがたったある日の夜。私は、取材クルーとともに事故が起きた湾岸長島パーキングエリアに向かいました。
午後10時ごろにパーキングエリア近くの事故現場付近を通過。
この時点ですでに、現場となった道路脇には2台のトラックが止まっていました。横をすり抜けて通るにも、圧迫感があります。
パーキングエリアまでは1キロ弱の距離があります。つい速度を出したまま走ってしまい、追突してしまう可能性は十分あり得る、そう感じました。
会社からの指示も…ドライバーの本音
この時間でパーキングエリアはすでに満車状態。休憩のため立ち寄ったというトラックのドライバーたちに話を聞きました。
その話から、多くのドライバーが会社から深夜割引を使うよう指示されていたことがわかりました。
ふだんから「0時待ち」をしているという50代の男性の話です。
「なかなか駐車場が空いていないので、ここもダメかなと思って入ったけど、たまたま空いていてよかったです。私の会社は高速料金を使った分が売り上げから引かれるんです。そうなると、少しでも高速料金は減らしたい。だから午前0時までは待つことになりますね」
また、30代の男性は。
「合流するための車線などに止まっている車はよく見ますね。私も深夜割引を使って高速道路に乗るよう会社から言われているので、気持ちはわかるんですが、やはり危ないと感じますよ」
さらに、ドライバーの中には、実際に違法な場所で車を止めて休んだことがあるという男性もいました。
「割り引きは使わないといけないし、寝る時間も確保しないといけない。悪いのはわかっているけど、自分たちの給料にも響くし、休憩をとらずに連続で走り続けたら会社にも迷惑がかかる※。この先どうなるんやろうね。僕らも言われるままにしか動けないから」
※厚生労働省の基準で運送業などのドライバーは連続運転時間は4時間で30分の休憩が必要と定められている。
「0時待ち」の割り引きを受けなければ、自分たちの給料にはね返ってきてしまう。厳しい労働条件の中で少しでも料金を抑えたいと考えるドライバーたちの本音が見えてきました。
運送会社は
運送会社側はどう感じているのか。
三重県内で90台ほどのトラックを所有し、自動車部品や薬品を運んでいる運送会社の社長に話を聞くことができました。
率直に、「0時待ち」や深夜割引について聞くと。
運送会社の社長:
「早く帰れるときには深夜割引を待たずに高速を降りていいと言っているけれど、そうでなければ使うように言っています。正直、3割引きは大きいですよ。経営側としても魅力的ですから」
「割り引きを待って駐車場がいっぱいになっていることも認識しています。社員には駐車スペース以外には止めるなと言っているけれど、ほかの会社にそういうドライバーがいるのは仕方ないかもしれませんね、正直。うちは、決めた範囲内であれば高速代を負担しているけれど、会社によっては高速を使った分、まるまる給料からひかれるところもあるだろうし…」
「労働時間を短くしたい、早くドライバーに帰ってもらいたい、といっても、深夜割引が今のままだと変わらないでしょうね」
各地で同様の事故が発生か
三重県、愛知県、岐阜県、静岡県の警察によりますと、「0時待ち」が死亡事故につながったとみられるケースは去年までの5年間に、ほかにも2件起きているということです。
こうした状況にNEXCOは、パーキングエリアなどの駐車スペースを増設したり、違法な駐車が確認された場所へポールなどを設置したりといった対策を進めてきたということです。
ただ、これで完全に防ぐことは難しいと話しています。
NEXCO中日本 桑名保全・サービスセンター 工務課長:
「徐々に改善の兆しが見えてきてはいるが、まだ充分ではありません。高速道路はどうしても一般道よりもスピードを出して走るので、違法に駐車をしていると重大な事故を起こす可能性が非常に高いです。
パーキングエリアなどに止められないからと行って、入り口や出口付近などに止めるのは絶対にやめてほしいです」
また、警察も夜間にパトロールを行い、駐停車が禁止されている場所を見つけ次第、移動するよう、取り締まりを行っています。
こうした対応で、一時的に違法駐車が減ることはあるものの、結局、別のパーキングエリアに集まってしまうなど、いたちごっこの状態が続いているといいます。
取材後記
パーキングエリアで取材していたときにドライバーの1人が次のように話していたのが印象に残りました。
「割り引きの対象になる時間がもっと広がればいいな。僕らも別に遊びに行っているわけじゃないから」
確かに、特定の時間帯に集中するのでこうしたことが起きてしまうということもありそうです。
新型コロナウイルスの影響などでインターネット通販が広がったことなどから物流の中心を担うトラックの重要性はますます高まっています。
私たちの暮らしが便利になることと、ドライバーたちが安心して荷物を運ぶことができること。その2つがうまく共存できる仕組みづくりが求められると感じました。