周央サンゴさんとコラボ!愛が“ガラガラ”テーマパークを救う!?

中野七海・周防則志
2023年3月24日 午後10:13 公開

「世怜音女学院中等部1年演劇同好会所属『にじさんじ』も所属…周央サンゴです!」

Vチューバー(バーチャルユーチューバー)の周央サンゴさんと、「アトラクションの待ち時間ほぼ0」でガラガラといった自虐PRで話題を呼んだ、三重県内のテーマパーク「志摩スペイン村」とのコラボが話題を集めています。

コラボが始まるやいなやツイッターでトレンド入りを果たし、「すいていた」テーマパークにも続々とファンたちが。

なぜ、ここまでの盛り上がりを見せているのか?

取材すると、そこには周央さんの、ファンの、そしてテーマパークの、あふれる“愛”があることがわかってきました。

(津放送局 中野七海・周防則志)

「すいているテーマパーク」が長蛇の列!?

3月のある土曜日。

三重県南部、志摩市にあるテーマパーク「志摩スペイン村」では開園10分前から、入り口に長蛇の列ができていました。

“夢の国”や“ハリウッド映画のテーマパーク”なら当たり前の光景かも知れませんが、ここでは違います。ありえない事態です。

「志摩スペイン村」といえば、4年前、「好き空き」「アトラクションの待ち時間ほぼ0」などと、混んでいないから楽しめるという自虐PRで話題を呼んだテーマパーク。

東京からだと、新幹線や近鉄特急を乗り継いでおよそ4時間で最寄り駅へ。そこからさらにバスに乗り換えてやっとたどりつける存在。

都会からのアクセスも悪さも影響し、「すいている」テーマパークの代表とも言える場所です。

ただ、三重県民にとってみれば、お気に入りのアトラクションから降りたら、すかさず乗り口へ、そしてすぐにもう1回乗る、というのを何度も繰り返してしまうこともできる、魅力たっぷりのテーマパークです。

それが長蛇の列なんて…。信じられない!というのが最初の印象でした。

トレンド入りも!救世主は「Vチューバー」

訪れた人たちに話を聞いてみると…。

「周央サンゴちゃんのコラボがあったから来ました」

「周央サンゴさん目当てです!」

みんなが口にするのが※Vチューバーの「周央サンゴ」さん。

(※Vチューバー:バーチャルユーチューバーの略。動画投稿サイト「YouTube」で、仮想空間のキャラクターが動画の投稿・配信などを行う)

期間限定で周央さんとのコラボが行われているのを目当てに訪れる人たちがたくさん訪れていたのです。

きっかけは、おととし12月、周央さんが「三重県にはスペインがあるんです!」などと、テーマパークの魅力を熱く語った動画を配信したことでした。

去年5月に再びテーマパークへの愛を語り尽くした動画を配信したときには、ツイッターで「志摩スペイン村」がトレンド入り。

こうした動きがテーマパーク側の目にとまり、周央さんがテーマパークのおすすめポイントを紹介するコラボ動画も公開されました。

こうして両者の間で継続的な交流が続いた上で、満を持して2月11日から始まったのが、周央さんとテーマパークのコラボイベントです。

テーマパーク内には、周央さんの等身大パネルが設置されたり、キーホルダーやマグカップなどのコラボグッズが販売されたり。一部のアトラクションには、周央さんの副音声が流されることも。

多くのファンが訪れ、イベント初日にはテーマパークの名前が再びツイッターのトレンド入りする事態になりました。

周央さんが「世界一うまい」と動画で紹介していた菓子のチュロスの売り上げは、例年の25倍に。

そしてイベント開始から先月末までの来園者数は、例年の2倍以上になったといいます。

「人がいないままじゃもったいない」

こうした反響について、どう思っているのか。周央サンゴさんご本人に直接話を聞いてみたい!ということで連絡をとってみると、インタビューOKの返事が!

インタビュー当日。周央さんとオンラインでつながると…。

「世怜音女学院中等部1年演劇同好会所属『にじさんじ』も所属…

周央サンゴです!」

おおっ!いつもの早口でのあいさつが!早速、今回のコラボについての感想を聞きました。

「正直、こんなに大盛況になるとは思っていませんでした。インターネットで動画を見て『楽しそうだね』って、ツイッターとかで発信するのと、いざ現地に足を運ぶのとでは、使うエネルギーにすごく差があるので、現地まで行ってくれる人は少ないんじゃないかという心配もありました。たくさんの人に足を運んでもらえてありがたいです」(周央サンゴさん)

テレビCMや「すいている」というPRが話題になったことで、以前からテーマパークについては知っていたという周央さん。

おととし、初めて訪れた際、その仕事の丁寧さに感動したといいます。

「例えば花壇を整えるとか、スタッフの来場者への対応だとか、そういうひとつひとつをすごく丁寧にしているテーマパークだなと感じて、人が来ないから手を抜いちゃおうとか自分なら思っちゃいそうですけど、行ったときにはそんなことを一切感じませんでした。

それなのに本当に人がいなくて、でも人がいないままじゃもったいなさ過ぎるって強く思ったので、動画で語ったのを覚えています。スペイン村がより1人でも多くの人に知られるきっかけになったならすごくうれしいです」(周央サンゴさん)

立地ハンデを乗り越える「コンテンツへの愛」

コラボが始まって以降、テーマパークでは大きな変化も起きています。

今まで多かったファミリー層に加え、若い世代のグループが増加。

さらに来園者の多くはこれまで東海や関西からでしたが、九州や東北などから訪れる人も増えたといいます。

これはもしかしたら、すごいことが起きているのかもしれない。

調べてみると、観光学が専門で自身もVチューバー(!)という専門家がいらっしゃることがわかり、すぐに連絡を取ってみることしました。

今回の状況について説明してくれたのは、ゾンビ姿のVチューバー「ゾンビ先生」としても知られる、近畿大学の岡本健准教授。

岡本准教授は、今回のコラボはVチューバーによる「※コンテンツツーリズム」の新しい形態だと評価します。

(※コンテンツツーリズム:一般的には、映画のロケ地やドラマやアニメの舞台となった場所などを訪ねる観光のこと)

「コンテンツツーリズムで非常に重要なのは、そのコンテンツへの愛なんです。通常の観光ではアクセスが厳しくてお客さんが行かない場所でも、ファンが来てくれて立地の不利さを解消するということがある。今回のコラボに至った経緯も、まさにコンテンツツーリズムという感じがしていて、ファンがただ『面白いな』と思うだけではなく、その場所に行ってみたいとか、その場所に行かねばならないと思うのは、やはり周央サンゴさんへの愛というところが非常に強いと思います」(岡本准教授)

なるほど“愛”ですね。確かに、志摩スペイン村で話を聞いた皆さんは、「周央サンゴちゃん」とか「周央さん」と親しみを込めて話されていたり、パネルと写真を撮っている時の表情も生き生きしていて、愛情を感じました。

岡本准教授は、今回のようなテーマパークとの長期間の本格的なコラボでうまくいった事例は珍しいとしたうえで、次のように話しています。

「仕掛ける側が、そのコンテンツに愛を持っているファンたちを大事にすることも忘れてはいけません。今回、志摩スペイン村が特製のグッズなどを用意して、本気でコラボする姿勢で大々的にやっているからこそ、志摩スペイン村がこんなことをやってくれて本当に素晴らしい、そこに恩返ししたいといった気持ちで現地に足を運んでいるファンもいると思います」(岡本准教授)

推しへの“愛”からチャンスをつかめるか?

一方で気になるのは、周央さんとのコラボイベントが終わったあと。

また元の「空いている」テーマパークに戻ってしまうのではという心配もあります。

岡本准教授は、今回のコラボをチャンスと捉える必要があると指摘します。

「一般的にコンテンツツーリズムでは、最初はコンテンツへの関心で現地に来るんですが、これはチャンスであって、悲観的に捉える必要はありません。

お客さんがどういったものに関心があるのか、どういうことをすると満足してもらえるのか、どんなことをしてもらいたいと思っているのかをしっかりと捉えることが、もう一度行こうと思ってもらうために非常に重要だと思います」(岡本准教授)

今までのコンテンツツーリズムの事例をみると、当該の施設だけでなく、周辺の集客にも波及効果がある場合が多いといいます。周央さんも、イベントをきっかけに三重県全体にも関心を持ってもらえることを期待しています。

「志摩スペイン村、それに周辺の観光、私もまだまだ知らないこともあって、かなり初心者、“三重にわかマン”ですが、志摩スペイン村ひいては三重全体を応援していけたらなぁみたいな気持ちでいます!」(周央サンゴさん)

取材の中では、周央さんのテーマパークへの愛、テーマパークの来園者への愛、そして来園者からの周央さんやテーマパークへの愛。たくさんの愛を感じました。

観光業の盛んな三重県。これまで、コロナ禍での苦しい状況を取材してきました。この愛が三重県全体へと広がっていくのか。さらにはVチューバーによるコンテンツツーリズムの先駆け的な存在となるか、今後も注目していきたいと思います。