ごみ袋に名前を書く?! 「ごみ捨てルール」の意外な事情

石塚和明・周防則志
2023年4月21日 午後3:53 公開

皆さんが住んでいる地域では、ごみ出しの際に「ごみ袋に名前を書く」というルールありますか?

「聞いたことない…プライバシーもあるし、ちょっとそれはいやだなぁ」

「うちの町では普通。毎回名前書いていますよ」

意見を聞いてみると賛否両論さまざま。なぜこうしたルールがあるのか、どういう経緯で始まったのか、三重県内の状況を調べてみました。

(津放送局 石塚和明・周防則志)

“ごみ袋に名前書きます”

今回、ごみ袋に名前を書くルールについて調べるきっかけになったのは、NHKが「長野県では9割以上の市町村で指定のごみ袋に名前を書いてごみ出しするよう求めている」という内容の放送をしたことでした。

全国各地から賛成や反対、さまざまな意見が寄せられました。中には、東員町にお住まいの方からの投稿も。

東員町でも、指定のごみ袋に名前を書くよう求められるそうですが、「ずいぶん前からそうだけれど違和感は全くない」とのこと…。

「プライバシーを気にする人もいるんじゃないか」「本当にみんなに受け入れられているのだろうか」

このルールを経験したことがない私たちからすると、違和感は全くないというのはにわかには信じ難いのですが…。ということで、東員町で取材してきました。

事前にすべての袋に記入!

東員町ではふだん、どのようにごみ出しをしているのか。

町内に住む伊藤良子さんのお宅でお話を聞かせてもらえることになりました。

町指定のごみ袋を見せてもらうと…、おお!世帯主の氏名を書く欄が!

伊藤さんはごみ袋を買ってくると、毎回、書き漏らすことがないよう、あらかじめすべての袋に世帯主である夫の名前を書くそうです。

そして、回収日に名前を書いたごみ袋でごみ出しをします。

「記名でごみ出し意識変わった」

町によると、少なくとも30年前には、このルールが導入されていたといいますが、その頃のことについて聞くと。

「最初は抵抗感がありましたね。なんか自分の所のごみが他の人にもわかってしまうようで…」(伊藤さん)

やっぱり、そうですよね…。

でも、伊藤さんによると、ルールが導入されたことで、ごみ出しへの意識に変化があったと話します。

「可燃ごみの中に、プラスチックごみが混ざっていたりして、分別が守られていないと回収してもらえないことも。そうなると、取り残されたごみ袋が絶対自分のものだと、周りにも分かります。なのでちゃんと分別して出すようになりました。

以前、四日市市に住んでいる知人に『ごみ袋に名前を書く』と話したらびっくりされましたよ。でも私からしたら『書かなくてもいいの?』という感じで、今では当たり前になっています」(伊藤さん)

“記名ルール”賛成の町民多数

慣れてしまえば、いい点も多いということなのかもしれません。

ただ、やっぱり違和感があるんですよね…。

ルールについて、町内の公園でほかの住民にも聞いてみました。

「いつも書いてますよ。書くことによって、みんなちゃんと分別するのでいいんじゃないかな」(東員町在住・30代男性)

「やっぱり自分の出すごみには責任を持った方がいいので、いいと思います。私は昔の人間ですから、そもそもごみを分別するという考え自体があまりなくて、昔は生ごみだろうがプラスチックごみだろうがいっしょに出していましたからね。それを考えると、ちゃんと分別するようになったのでいいと思います」(東員町在住・60代男性)

やはり、住民の中では肯定的な人が多いようです。

そんな中、3年前に県外から引っ越してきたという人にも出会いました。

初めはびっくりしました。私の地元ではそういうルールはなかったので、『えーホントに?!』という感じで、抵抗感がありました。引っ越してきて最初のごみ出しの日に、収集所まで行って、みんなが本当に書いてるのか確認しに行ったくらいです(笑)。でも本当にみんな書いていて、今では慣れましたし、ちゃんと分別したり汚れたごみは洗ってから出したりするようになりましたね」(東員町在住・30代女性)

今回の取材で話を聞いてみた東員町の人は全員がルールを受け入れているという結果に。

中には「ルールができる前は、分別を守っておらず回収されなかったごみを自治会の掃除当番の人が代わりに処理せざるを得ず困っていたが、名前を書くようになってそれがなくなった」という声もありました。

町としても、名前を書くよう呼びかけているのは、家庭から出すごみに責任感を持ってきちんと分別して出してもらう狙いがあるということです。

一方、町外の人の反応は…

公園には、東員町以外に住んでいる人もいたので、話を聞いてみると。

「そんなルールがあるなんて知らなかったです。びっくりしました。書かないといけない理由があるのならいいんですが、私はふだんからちゃんと分別して出してますしね…。ちょっと抵抗感があるかもしれないですね」(桑名在住・女性)

正直なところ名前を書くって、嫌ですよね。中身を見られるかもしれないし。私が住んでいる地域は今のところそこまで求められていないですが、ごみ出しのマナーが悪くなったら、そうなっちゃうんですかね」。(いなべ在住・30代男性)

ルールがないところではやはり受け入れがたいという感想が多いようです。

では、ほかの自治体の状況はどうなっているのでしょうか。

県内の状況は…

県内29のすべての市町に聞いたところ、名前を書くよう求めているのは東員町だけで、

ほかに市や町として記入を呼びかけているところはありませんでした。

ただ、中には自治会レベルで記入を求めるルールを設けているところもあるとのこと。こうしたことから、東員町のほかにも、桑名市や鈴鹿市など10の市と町では指定のごみ袋に記名欄を印刷しています。

地域でのルール導入 背景には

一方で、紀北町のある地域で、以前、自分たちの住む地域だけで独自にルールを設けていたという情報がNHKに寄せられました。

早速紀北町に向かい取材を始めると、町内に住む西村重之さんが当時の経緯を教えてくれました。

西村さんの地域では10年ほど前、引っ越してきた人が増え、ごみ出しのマナーが悪化

分別されていないごみが回収されずに数日間放置されたままになることもあったといいます。

「収集日ではない日にごみを持ってくるなどマナーが悪くなっていって、『これはなんとかせないかん』となりました」(西村さん)

そこで西村さんは、ごみ袋に名前を書くことを提案。呼びかけは次第に広がって多くの人が名前を書くようになり、それとともにマナーは改善していったといいます。

そして、名前を書くというルールがなくてもきちんとしたごみ出しができると判断し、およそ1年後にルールはなくなりました

「名前を書くようになってからは、みんなごみ出しに責任を持ち、きちんとマナーを守るようになりました。今となってはみんなにちゃんとしたごみ出しが習慣づいています」(西村さん)

マナーが悪化するなかで対策がとられたけれども、改善したことで必要がなくなり廃止した、という珍しいケースだといえそうです。

マナー向上だけじゃない? 意外な効果とは

「ごみ袋に名前を書いて出す」というルールについて、家庭ごみの事情に詳しい東洋大学の山谷修作名誉教授に話を聞きました。

山谷名誉教授によると、こうした『記名制度』の導入はかなり古く、「いつからどこで始まったのかというのは分からない」とのこと。

また、ルールとして強制する自治体は少なくなっているものの、協力ベースで住民に呼びかけている自治体は現在も多くあるとのことでした。

その上で、この『記名制度』の導入によって、分別の適正化、ごみ出しマナーの改善のほかにも、ごみの減量という意外な効果があると指摘しています。

三重県内で記名欄がないごみ袋を使っている18の自治体では、1日あたりに1人が出す生活ごみの量は平均741.1グラム。一方で、記名欄があるごみ袋を採用している11の自治体では、平均686.1グラムで、記名欄がない自治体よりも少なくなっているといいます。山谷名誉教授は、このデータが記名による「減量効果を示唆している」指摘しています。

「分別をきちんとしなければ注意されるかもしれないという心理的なプレッシャーもかかると思うし、きちんとしたごみ出しをするために、生ごみの水切りをちゃんとするとか、そもそも家庭によけいなごみを持ち込まないといったことにつながり、減量にもつながっているのではないか」(山谷名誉教授)。

記名欄があるとさまざまな利点があるのは分かりましたが、やはり気になるのはプライバシーの問題です。

山谷名誉教授は、ルールとして強制する自治体が少なくなっている背景には、個人情報への意識の高まりも影響していると話します。

そして、仮に『記名制度』を運用していくのであれば、

①メリットなどをきちんと住民に説明して理解してもらうこと

②プライバシーに配慮した柔軟なルールで運用すること

が大切だとしています。

「例えば性別が分からないように名字だけを書くというのも1つの方法。また、いくつかの自治体がやっている方法で、家庭に割りふった番号や記号を、自治会長などが把握していて、分別が不適正であるというような場合に行政が指導ができやすいようにするという工夫もある。記名というのは、ひとつのツールであり、ごみの“自分ごと化”や“見える化”につながることが非常に重要だ」(山谷名誉教授)。

記名という方法は有効な手段ではありますが、プライバシーへの配慮から受け入れられないという人はこれからも増えていくことが予想されます。

とにかく大切なのは、しっかりルールを守って分別を行うなど、ごみ捨てのマナーが改善し、ごみを減らすこと。

記名に頼らなくても私たち1人1人がごみ捨てに責任をきちんと持っていなければいけないと感じました。