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森永邦彦 ノロの装束”ハブラギン”

NHK
2021年3月19日 午後3:52 公開

森永邦彦さん(ファッションデザイナー)が、奄美で祭祀を司ったノロが着用した”ハブラギン”という装束をリサーチ。「服に、着る人を守るという強い意志が込められているデザイン」と出会った感動の言葉です。

森永邦彦 原点のパッチワーク

ブランド創設の頃の作品。布地屋でアルバイトし、捨てるしかないほど小さな端切れをもらい受け、つなぎ合わせてジャケットを仕立てた。なぜかここから離れられない、僕らの魂のようなもの。現在も手仕事によるパッチワークを作り続けている。優しさやぬくもり、服を長く着るために補修するというだけじゃない、攻めたパッチワークを目指してきた。しかし、奄美で出会った「パッチワーク」はそんな僕らのパッチワークの概念をはるかに超えた次元の存在だった。

ノロという文化に魅せられて

ハレとケ、この世とあの世、見えているものと見えていないもの。そうした“日常と非日常”の境目を行き来する服作りをしてきた。奄美には、神々に祈りを捧げ集落の幸せを願う公的な女性司祭・ノロ(祝女)の文化の痕跡が500年以上経った今も残っている。目にみえない存在を身近に感じながら生きる人々が生み出してきた服と出会ってみたいと、奄美に向かった。

ノロの装束・ハブラギンはパッチワーク

12、3歳の少女が初めてノロ(祝女)の祭祀に参加するときに着たと考えられている服が「ハブラギン」。柄と無地、シルクとコットン、性質が違う布を繋ぎ、縫い合わせている。聖なる存在も悪霊もやってくる祭祀の場でまだ霊力の弱い少女の身を守るための様々な〈デザイン〉が施されている。   

パッチワークの三角形は蝶を表現

ハブラ(ハベラ)とは、奄美の言葉で蝶や蛾のこと。子どもたちは「夜に飛んでくる蛾には知っている人の霊が乗っているから殺すな」と教えられて育つ。三角形は蝶や蛾の現れ。浮遊している人間の霊魂を意味し、その霊力をまとうことで着ている者を守護すると考えられてきた。

ハブラギンを着ることは、先祖代々に守られること

着る人がしっかり生きられるようにと、針と布と糸で作られたデザイン。日本人が大切にしてきた見えないものと向き合い「信じて形にする」という魂のデザイン。

二目落とし 魔払いのステッチ

服を成立させるステッチのほかに、装飾としてほどこされている〈二目落とし〉というステッチ。長い一目のあとに小さく二目入れるステッチの繰り返しは、魔払いの意味があると考えられている。何かが入ってきそうな襟元や首は二重に、裾や脇は細かくステッチがかけられており「着る人を守りきる」という縫い手の意思が感じられるデザイン。

三角形に込めた〈着る人を守る意思〉

バブラギンの飾りひもの先端には、〈これでもか〉というほど三角形のステッチが施されている。1センチに満たないとても小さなものまである。パッチワークを細かく繋ぎ、縫い合わせて、さらにステッチを入れて、さらに重ねて。過剰なまでに強い服。「これを着ていれば大丈夫」と生きる力を与えてくれるような、まるで特殊装置のような服。

人知をこえた自然の中で生きていくために、願い祈る心

目には見えない精神的なものさえもデザインに落とし込もうとする所作が感じ取れる。衣服の在り方としても独特。衣服が肉体を超えて、霊魂さえも身に纏うような機能を持つ。       

神は細部に宿る                 

本来一目で縫うところをあえて二目で縫う。本当にわずかなことではあるが、圧倒的な力が宿り、大きな意味を持つ。装飾を超えた細部への畏敬の念。本当に〈神は細部に宿っている〉ことを実感する。

〈服のデザイン〉ってなんだろう?             

服のデザインとは、ただ着る人を美しく見せるためのことではなく、命への願い、人が生きることに対する祈りが現れるもの。ハブラギンはファッションの前提である「誰かのために」という想いの極致から生まれたデザイン。

太陽の光は神の象徴

ハブラギンに込められた思い、そのデザインの精神性を受け継ぎたい。人知が及ばないような存在を服に取り入れたい。光のようにコントロールできない対象を服の中に存在させて、人と自然の間にある祈りを表現したい。