青春の音が、響き合う——
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション
故郷チェコを離れ、アメリカ大陸に渡ったドヴォルザークが作曲した「交響曲第9番『新世界より』」。オーケストラ部員たちは、それぞれの演奏の中にそれぞれの“新世界”を思い描いていた。ドイツで生まれ育った佐伯にとっては、日本こそが新世界。人と音を重ねて表現していく難しさと喜びを高校で初めて知った青野にとっては、オーケストラこそ新世界だ。全員の音が一体となって、海幕高校オーケストラ部の新世界への旅は始まる。
定期演奏会は「カルメン」で幕を開けた。オーケストラ部で楽器を本格的に始めた律子にとって、人前での演奏は未知への挑戦だ。同級生と対立し保健室登校していた中学の頃。ヴァイオリンとの出会い。演奏に、これまでの歩みが重なっていく―。ハルの出番となるチャイコフスキー「くるみ割り人形」。3年生メインのヴィヴァルディ「四季」。それぞれが音とともに過ごした時間、悩みや葛藤、心の交流。その全てをのせて演奏会は進む。
ついに迎えた定期演奏会の日。部員たち自身の手で会場となるホールに楽器や機材の搬入が行われる。舞台袖に並べられる楽器ケース。最後の舞台となる3年生は寂しさを感じていた。開演を待つ観客の中には、青野の中学の恩師・武田先生の姿があった。青野の母と出会った彼は、指揮者の鮎川先生と同級生だった高校時代、ともに部活に打ち込んだ日のことを語る。そして舞台裏では本番を前に、部員たちに向けた3年生の挨拶が始まった。
夏休みの宿題、観察日記。枯らしてしまったミニトマトに、よかったじゃないかと言う父。感じたことを音にしてみろ―。青野は、明け方に目覚めた。父のことを夢に見たのに、不思議と気分は悪くない。世界的に活躍するヴァイオリニストの父・龍仁。褒めてもらいたくて弾き続けた、幼い頃。思い出に導かれるように開いた譜面に見つけた書き込みは、父の筆跡だった。お前は、どう弾く?青野はひとり、ヴァイオリンに弓を走らせていく。
夏休みまっただ中。オーケストラ部員たちは、定期演奏会に向けて、熱心に練習に取り組んでいた。青野たち1年生の初舞台となる“定演”は、3年生にとっては引退公演だ。部長の立石は、部活動と勉強に明け暮れる「最後の夏」に、充実感と少しの寂しさを感じていた。そしてやってきた部活休みの日曜の夜は、ちょうど花火大会。金魚すくい、かき氷、射的、そして花火。青野、律子、佐伯、ハル、山田の5人は、つかの間の夏を楽しむ。
「あいつとケンカしてくる」と秋音に宣言した青野。青野と佐伯は、人気のない夜の公園で向き合っていた。あの夜、佐伯が打ち明けた事実を、青野は許すことができない。謝罪の言葉を繰り返すばかりの佐伯に、青野は感情をぶつける。佐伯との演奏が楽しかったこと、自分に無いものを持つ佐伯を妬んでいたこと―。そのすべてを裏切られたように、青野は感じていた。「佐伯直として、俺の前に立って話せ!」。青野は佐伯を問い詰める。
青野がまた、部活に来ない。秋音は、皆で青野を訪ねた夜、佐伯がひとり戻ったことを知る。最後に会ったはずの佐伯が何か知らないか問うと、返ってきたのは「青野くんはもう来ないかもしれない」という答えだった。その言葉通り、青野は退部を考えていた。体調を崩し入院中の母に、ふとそのことを漏らす青野。しかし母は、自分のやりたいことをやってほしいと反対する。思い悩む青野は、中学時代の恩師・武田先生と街で偶然出会う。
「話したいことがある」。ひとり青野のもとに戻ってきた佐伯。深刻そうな表情で何かを切り出そうとするが、なかなか言葉にすることができない。ふと目に留まった防音室。青野が、父・龍仁とともに幼少期からヴァイオリンの練習に打ち込んだ部屋だ。飾られたトロフィーやコンクールの記念写真。青野の過去に触れる中で、佐伯は口を開き始める。声楽家の母のもとドイツで育った佐伯。日本に戻ってきた目的は、青野に会うことだった。
定期演奏会に向けて合奏練習に熱が入る中、青野が部活に姿を見せない。鮎川先生によると、青野の母が倒れ、入院したのだという。心配で今ひとつ身が入らないまま、練習は進む。青野の母をよく知る律子は、特にショックを受けていた。何度かけても繋がらない電話。じっとしていられず、家に様子を見に行くことを決める律子に、佐伯、ハル、山田も加わる。青野は、皆の突然の訪問に驚きながらも、ぽつぽつと自分のことを話し始めた。
将来のコンサートマスター候補として期待されている青野と佐伯は、弦楽器のトップ練習を見学することになった。各パートのトップ奏者が集まり、コンサートマスターを中心に曲のイメージを共有し、表現を具体的に決めていく場だ。そこには一切の遠慮が無かった。激しい意見のぶつかり合いに2人は圧倒される。しかし一度合奏が始まると、おだやかな時間が流れ始めた。青野は、先輩たちが楽器を通して本音の会話をしていると感じる。