ウォーホル作品に3億円 戸惑う鳥取県民

NHK
2022年11月9日 午前11:24 公開

「どこが美しいのか分からない」「3億円あれば、もっといろいろな作品を購入できる」
鳥取県の作品の収集をめぐって、住民から寄せられた声です。
ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルの代表作の一つを、新たな美術館の収蔵作品として購入したことをきっかけに鳥取県では議論が沸き起こっています。

(鳥取局記者 柴田暢士)
  

アートから生まれた新メニュー!

鳥取県倉吉市の中華料理店に10月、新メニューが登場しました。
赤色と白色の2色が特徴のキャンベルのスープ缶をイメージしていて、トマトベースのスープに麺状のクリームチーズをのせた一品です。店の近くに建設される県立美術館にウォーホルの作品が収蔵されることから考案されました。

(店主 牧田国夫さん)
「ウォーホル作品が倉吉市に来るというのはすごいこと。料理で盛り上げたい。」

アメリカのポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルは、キャンベル・スープ缶やマリリン・モンローの肖像、バナナを描いたロックバンドのアルバムジャケットなどの作品で知られています。数々の作品は、大衆文化のイメージをアートに持ち込んだとして芸術界に大きな波紋を呼びました。
  

ブリロの箱3億円 議論呼ぶ

このウォーホルの作品を、新たな美術館の見どころの一つにしようと、鳥取県は7月にキャンベル・スープ缶の立体作品を4500万円あまりで購入しました。続いて9月に購入したのが「ブリロの箱」5点で、金額はおよそ3億円に上ります。
「ブリロの箱」は、洗剤が付いたタワシの包装箱をベニヤ板の箱に描いた作品です。
1点はウォーホル自身が手がけ、残り4点はウォーホルの死後、関係者が制作しました。
現代の大量生産・大量消費社会を象徴していて、ポップ・アートの傑作と言われています。

この作品の購入が、県民の間で議論を呼ぶことになりました。

9月に倉吉市で開かれた作品の収集方針の説明会。
住民からは「どこが美しいのか分からない」「3億円あれば、もっといろいろな作品を購入できる」「1個あれば十分、なぜ5個も買う必要があるのか」といった意見が相次ぎました。
これまで美術館の建設を応援してきた地元の人からも「突然、3億円で購入のニュースが流れて、裏切られた気持ちがする」といった声が寄せられました。

矢面に立ったのは、鳥取県教育委員会の美術振興監、尾崎信一郎さん。京都国立近代美術館の主任研究官などを務め、日本とアメリカの現代美術が専門です。尾崎さんは、従来の美術は理想とする「美」を目指したのに対して、現代美術は見る人が考えることで楽しむものだとして理解を求めました。

尾崎信一郎さん:
“優れた作品を収蔵していれば、県民だけでなく国内外からも多くの来場者が見込まれ、美術館の存在感を増すことができる。また、ほかの美術館から「貸してほしい」といった声がかかり、代わりにこちらが望む作品を貸してもらうことができる”   

“最後の県立美術館”ポップ・カルチャーが柱

2025年春のオープンを目指して、倉吉市中心部で建設が進められている鳥取県立美術館。
ほとんどの都道府県が美術館を持つ中、鳥取県にはこれまでなかったことから「全国最後の県立美術館」とも言われています。
最後発の公立美術館が収集の柱の1つとしたのが、ポップ・カルチャーでした。

倉吉市は、アニメの舞台になったり、フィギュアを専門に展示する施設があったりと、ポップ・カルチャーを生かしたまちづくりを進めています。鳥取県はこれに目をつけ、地域にゆかりのある作品のほか、「国内外の優れた美術」や「同時代の美術の動向を示す作品」にも収集の範囲を広げました。
ウォーホルの作品は「国内外の優れた美術」にあたるとして購入しました。

尾崎信一郎さん:
“1個だけでなく5個買ったのは、大量生産・大量消費というウォーホルが作品に込めた意図を的確に反映させるためであり、作者の意図に沿った展示をするためだ”

また、高額の作品購入の公表が遅れたことについて、尾崎さんは“美術業界では「鳥取県がこういう作品を求めている」という情報が流れると、作品の価格が一気に上がるおそれがある。情報を明らかにしないで取り引きを進める必要がある”と釈明しました。

これまでに4か所で開かれた説明会では、いずれも県民から疑問や意見が相次ぎました。

鳥取県は説明が不十分だったとして説明会の数を増やすとともに、要望があれば職員が出向いて説明する取り組みを行うことを決めました。

あの手この手でPRを進めてきたものの、盛り上がりを欠いていた美術館の事業は、ウォーホルの作品購入をきっかけに県内外で注目されることに…。
芸術界に大きな波紋を呼んだとされるウォーホルの作品は、いま鳥取県で美術館に対する関心を呼び起こしています。