「有害図書」指定 ネット販売に影響で議論

NHK
2022年10月7日 午後2:10 公開

「鳥取県の条例、大丈夫ですか?」
ことし8月、東京の出版社がSNSに投稿し、話題になりました。
東京の出版社が発売した3冊が、鳥取県の「有害図書」に指定されたことで、ネット通販大手「アマゾン」が販売を取りやめたのです。
鳥取県には、「なぜ有害図書に指定されたのか」「なぜ県の条例で鳥取県外の人への販売まで制限されたのか」などという問い合わせが相次ぎました。

(鳥取局記者 南幸佑)
     

有害図書とは?

鳥取県の有害図書に指定されたのは、三才ブックスが出版した3冊です。
有害図書は、都道府県の条例に基づいて指定されます。鳥取県では、青少年健全育成条例で「青少年の性的感情を刺激し」「粗暴性または残虐性を誘発し、または助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」を指定すると定めています。「有害図書」に指定されると、青少年、つまり18歳未満の子どもたちへの販売が禁止されます。鳥取県は、2020年に条例を改正し、従来の店頭での販売だけでなく、インターネットを通じての販売も禁止しました。

「書いた本がアマゾンに掲載されていない」。
三才ブックスが有害図書の指定に気づいたのは、ことし2月。本の著者からの連絡がきっかけでした。
その後、アマゾンに問い合わせ、鳥取県の有害図書に指定されたことがわかりました。
出版社は、4月に鳥取県に連絡し、有害図書に指定された議事録について問い合わせました。問い合わせから13日後に返ってきたのは「会議概要」の1枚。日時と場所、有害図書に指定された本の一覧が記載されているだけで、指定の理由などは書かれていませんでした。
     

どのようにして「有害図書」に?

鳥取県は、県の担当者が書店で無作為に選んだ本を、書店組合やPTA協議会などの5人の委員で作る「指定審査部会」で審査します。そして最終的には知事が「有害図書」に指定します。
この審査部会の要綱を詳しく見てみると、「委員の自由な心証で投票を行う」ことが規定されています。
県の担当者は取材に対し、この要綱に基づき会議を行ったとして、委員に「本のどの部分が、どのような理由で違反に当たるのか」の発言を求めず、議論は行われなかったと説明しました。

この一連の指定プロセスについて、県の担当者は「制定までのプロセスには問題はなかった」としています。
ただ、三才ブックス・ラジオライフ編集部の小野浩章 編集長は「本を1冊作るのには多くの人が関わっている。それを、どういうプロセスなのか不明なまま、これは有害だとレッテルを貼られて販売を制限され、非常に残念」と鳥取県への不信感をあらわにしました。
     

インターネット上の規制の難しさ

今回の問題の大きな特徴は、鳥取県の条例で、結果的に県外の人の購入まで制限されてしまったことです。
この点について平井知事は。
「こういう条例をもって子供たちに有害なものはなるべく触れさせないという健全な発達のための手段であり、実店舗・ネット店舗であろうが、子供に売ってはいけないことしか規定していない。それ以上のことは何も求めていません」

鳥取県は「条例の対象は県内の青少年が対象で、それ以外は対象ではない」としています。
つまり、条例には対象外の人まで縛る意図はないので、通販サイト側で対策を取るべきだとしました。
一方で、出版社側は「条文でインターネットまで規制している以上、今後も県外の人への販売が結果的に制限されてしまうのではないか」と指摘しています。
また、NHKがアマゾンに対し、この点について問い合わせたところ、「自治体が有害図書として指定したものは、サイトの削除対象となっている」と回答しました。

こうしたインターネット上の規制について、専門家はどう見ているのでしょうか。
岡山大学法学部の山田哲史 教授は、まずアマゾンの対応について「企業に一定の法的な責任を負わされるかもしれないというリスクを冒してまで、第三者の知る権利や表現の自由を守るような対応をとる義務が生じるのかというのは大きな問題だ」と述べました。その上で、「規制の効果の派生が大きいということは大きな問題で、一番厳しい所のルールが全国に波及する。場合によっては全世界に波及するという問題もあり、規制については慎重に考えていかないといけない」と指摘しました。
     

指定のプロセス 明確に

今回の取材を通じて、まず感じた印象は「本が指定された経緯」の曖昧さです。鳥取県は8月下旬にSNSで話題になったあと、9月になってから個別の理由を改めて聞き取って公表しました。ただ、出版社が問い合わせた4月の時点で、理由を明確に説明できなかったことから、出版社側の不信感は拭えないと思います。
鳥取県の担当者は、有害図書指定の意図を、「ひと言で言えば、青少年の健全育成のため。これに尽きる。子どもを守るためのもの」と説明しました。
青少年の育成のためにインターネットを通じての販売まで禁じる必要があるのであれば、最低限、こうした指定のプロセスは、より慎重に行うべきだと感じました。