<2022年7月12日放送より>
夏の甲子園出場をかけて、ことし7月に行われた第104回全国高校野球鳥取大会。
初戦に臨んだ米子高校と境港総合技術高校の連合チームの選手たちの中に、1人の女子部員の姿があった。
米子高校3年・平田愛さん。規定で試合出場はかなわなかったが、男子部員と同じユニフォームを着てベンチ入りした。鳥取の高校野球の歴史で初めてのことだ。
“野球がやりたい”
小学生のとき、兄の影響で野球を始めた平田さん。高校では最初はソフトボール部に入ったが、野球をやりたいという気持ちを抑えきれず、高校2年の秋、思い切って野球部の門をたたいた。
平田愛さん: 「野球がやりたくて、練習できるだけでもいいと思った。高校野球は全部に全力で、声も出して、迫力がすごいところにひかれた。冬の走るトレーニングは男子についていくのが大変だったけど、楽しかったので、つらいとは思わなかった。」
1人の選手として
平田さんは1人の選手として、男子部員と同じ練習メニューをこなしてきた。練習試合に出場してヒットを打ったこともある。夏の大会前、最後の練習でも、平田さんはいつもと同じように男子部員と一緒にメニューをこなした。
野球部の島谷智之監督は、平田さんの野球への情熱が、チームに変化をもたらしてくれたと感じている。
米子高校野球部 島谷智之監督: 「彼女は本気だった。男子と同じメニューを本当にこなすので、おかげで男子部員が『これじゃいけない』と目が覚めた。いい効果をもたらしてくれたんじゃないかな。」
特例でユニフォーム
鳥取県高野連は、選手が18人に満たないチームは、マネージャーが1人、補助スタッフとしてベンチに入ることを認めている。ただし、運動着のジャージを着用する決まりだ。
しかし、県高野連は夏の大会前に開いた理事会で、選手としてプレーしてきた平田さんの思いをくみ、ユニフォームを着用してベンチに入ることを特例で認めた。
平田愛さん: 「一緒にプレーしてきた選手と同じユニフォームを着てベンチに入るので、一緒に戦っている気持ちになる。エラーしたときとか、気持ちが落ちてしまうときこそ、自分から声を出して、チームを盛り上げていきたい。」
ベンチから全力で
迎えた大会初戦。平田さんはベンチの最前列に立ち、大きな声でチームをもり立てた。チームは序盤から失点する苦しい展開が続いたが、ベンチに戻ってきた選手たちに飲み物や氷を渡し、笑顔で励ました。
0対6で迎えた4回。ランナーを1人置いて、打席には4番の篠田吏音選手。一緒に練習を続けてきたキャプテンだ。平田さんはベンチから手をたたいて声援を送る。
篠田選手は力強くバットを振り抜いた。打球は大きな弧を書いてレフトスタンドで弾む。高校に入って初めて打ったというツーランホームランだった。
ベンチに戻ってきた篠田選手を、平田さんはハイタッチで迎え、「ナイスバッティング」と声をかけた。目には涙が浮かんでいた。
平田愛さん: 「初めて近い距離からホームランを見たので感動した。」
篠田吏音主将: 「平田さんの声援がすごく力になった。入部してきてくれたことで、自分たちの練習に対する姿勢が変わったので、とても感謝している。」
高校野球から得たモノ
チームは一時追い上げたものの、再び相手チームに突き放され、初戦で敗れた。
球場から出てきた平田さんは選手たちとともに、涙を流していた。試合に出られなくても、仲間と気持ちをひとつに戦った。
平田愛さん: 「自分がこの大会でできることが、声を出したり、道具を出したりとかだったので、自分のできることでグラウンドに立つ選手をサポートしたいという気持ちでがんばった。最初から最後までしっかり声は出そうと思っていて、ちゃんと声は出せたのでよかったです。」
憧れだった高校野球、最初で最後の夏。「高校野球から得たモノは何でしたか?」と尋ねると、少し考えてから、笑顔で答えてくれた。
平田愛さん: 「仲間と支え合う力。もう、一生忘れない思い出になりました。」