10月11日に全国であった2つの大きな動き。鳥取県内の反応や影響を取材しました。
まずは、政府の新たな観光需要の喚起策「全国旅行支援」の開始について。
前日まで行われていた県民割の「WeLove山陰キャンペーン」と「スペシャル・ウェルカニキャンペーン」は、中国・四国地方と兵庫県の10県に住む人が対象でしたが、全国旅行支援の「ウェルカニとっとり得々割」では、対象が全国から訪れる観光客に広がりました。
全国旅行支援のスタートを山陰の観光地は、どのように受け止めたのでしょうか。
水木しげるロードでは期待
境港市の水木しげるロードです。
ことしの観光客は、9月まででおよそ73万人と、去年の同じ時期と比べおよそ50%増えていますが、年間300万人が訪れていた感染拡大前と比べると30%ほどにとどまっています。
全国旅行支援の開始に土産物店は…。
鬼太郎の里わたなべ 原田幸代さん 「この夏休み以降、たくさん人が来てくれていて、徐々に観光客は戻ってきつつある。(支援の対象が)全国に拡大ということでかなり期待している。この調子でもっとたくさんの方に水木しげるロードに来てほしい」
水木しげるさんの作品などを展示している「水木しげる記念館」です。
鳥取県独自の「割引券」が使える施設にもなっていて、入り口に割引券が利用できることを知らせるチラシをはり出し、訪れた人に声をかけていました。
水木しげる記念館 住吉裕 館長 「まだまだピークまでは戻っていない。全国旅行支援で、もっともっと たくさんのお客さまにお越しいただき、楽しんでいただけるよう願っています」
島根では さっそく利用した人も
年間600万人が訪れていた島根県内最大の観光地・出雲大社です。
一時は激減していた観光客が、感染の落ちつきで戻りつつあります。
全国旅行支援をさっそく利用したという観光客もいました。
「きのう、旅館の方からお電話いただいて(全国旅行支援の割り引きを)適用してくださるとご案内をいただいて、たまたま重なってラッキーでした」
宿泊施設は対応に追われる
期待が高まる一方、宿泊施設は対応に追われています。
鳥取市中心部にある温泉旅館です。
宿泊客のチェックインの際は、全国旅行支援の割り引き手続きやクーポン券、さらに鳥取県独自の「割引券」も配る必要があります。
宿泊客に書いてもらう書類もあり、チェックインの手続きに、最低でも1人3分以上かかるのではないかと考えています。
旅館では、人手が少ない中、素早く対応できるか不安を感じています。
温泉旅館「丸茂」 森田聡一郎 社長 「正直に言うと不安のほうが大きい。私たちみたいな小さな宿だとスタッフが少ないので、作業が増えると同じ時間働いていても大変になる。そこをどうクリアしていくかというところに頭を悩ませている」
観光需要の回復を前に「人手不足」の問題に直面している宿泊施設も少なくないとみられます。
観光分野に詳しい日本総合研究所の高坂晶子主任研究員は、
「日本の観光地は週末など休日のみ忙しく、それ以外の平日は暇な時期が多いという構造になっている。繁忙感の高い日が集中するため、需要を平準化することが重要だ」
と指摘した上で、
「外国人観光客は、曜日に関係なく平日も訪れるため需要の平準化への貢献が期待できる」
と話しています。
水際対策も大幅に緩和
もう1つの大きな動きは、新型コロナの水際対策が大幅に緩和されることです。
制限は、ほぼコロナ禍前の状態に戻ることになります。
海外との玄関口 米子空港と境港
コロナ禍前に鳥取県内で外国人観光客受け入れの拠点となっていたのが、県西部の米子空港と境港です。
米子空港では、韓国や香港などを結ぶ国際線が運航していたほか、コロナの感染拡大直前の2020年1月には上海便が就航。外国人観光客の獲得へ機運が高まっていました。
また、境港には海外からのクルーズ船が相次いで寄港。山陰の観光の玄関口となっていました。
国際クルーズ船再開望む声
ただ、日本への国際クルーズ船の寄港はいまだに再開されていません。
10月11日には、鳥取県庁で国際クルーズ船の寄港再開を求める動きがありました。
国際クルーズ船の運航会社でつくる「日本国際クルーズ協議会」が県庁を訪問。
イタリアとフランスのクルーズ会社の支社長2人が、国に対して早期の再開を働きかけてほしいと平井知事に要望しました。
フランスの船会社「ポナン」 伊知地亮 日本・韓国支社長 「コロナ対策が煮詰まって再開のめどが見えてきそうなので、知事からも国に再開の要請をしていただけたら」
平井知事
「円滑に感染対策を両立しながらのクルーズの旅の再開が実現するように、全力でご協力申し上げたい」
米子支局の記者が解説
水際対策がほぼコロナ禍前の状態に戻ったことで、鳥取県内のインバウンドも復活するのか。取材にあたっている米子支局の林直樹記者が解説します。
Q)今回の水際対策の緩和で、コロナ前のように外国人観光客が県内に大勢訪れることになるのでしょうか?
A)結論からいうと、すぐに以前のように戻るわけではありません。米子空港の国際定期便、境港での国際クルーズ船ともに課題が残っています。
米子空港には、発熱の症状があるなど陽性が疑われる人への検査体制や専用の待機場所がまだありません。
鳥取県によりますと、こういった施設の整備に向けた具体的な基準は、まだ国から示されていないため対応しようとしてもできない状況です。
また境港でも、外国からの客を受けれるにあたって必要な検疫のガイドラインなどが国から示されていません。
境港には、コロナ後に、新たなターミナルが完成しました。
このターミナルでは、国際クルーズ船を受け入れた経験がなく、すぐにスムーズに客を受け入れられるかも課題です。
今後の見通しは
Q)インバウンドの復活には、まだ道半ばとのことですが、今後の見通しはどうなっていますか?
A)米子空港の国際線、境港の海外クルーズ船の寄港の再開時期の見通しがたたないなか、鳥取県では、県外の主要空港、特に関西空港から入国してきた外国人観光客をいかに誘致するかが、当面、カギになると考えています。
そのために、海外の旅行会社の関係者やライターなどを招待し、県内の観光地を視察してもらったり、SNSを通した発信を強化したりするなどしていて、こうした取り組みをさらに進めることにしています。
水際対策が大きく動いたこのタイミングをきっかけに、宿泊・観光業界をはじめとした地元経済界の悲願でもあるインバウンドの再開につなげていけるのか、注目していきたいと思います。