週1で“副社長”しませんか?年間3000人が応募する人気の副業

NHK
2022年9月1日 午後7:14 公開

<2022年3月10日放送より>

「週1副社長」
鳥取県が打ち出したこの取り組みが、都市部のビジネスパーソンなどからひそかな注目を集めています。地方の企業経営の中枢を担う「副社長」を、週に1日務めてもらう。この募集に、年間3000人もの応募が殺到しているというのです。いったいどのような取り組みなのか、密着取材しました。

(鳥取局記者 大本亮)

週1副社長 悩みを解決?

鳥取市の食品加工会社で社長を務める福嶋登美子さんは去年、経営に関わるある悩みを抱えていました。
新たにスキンケアの分野に進出しようと化粧品を開発したものの、畑違いの分野だけに商品をどのように売り込めばよいのか、わからなかったのです。
この時、福嶋社長は鳥取県から意外な人材の採用を持ちかけられます。週1で働く副社長、「週1副社長」です。
 

報酬は月数万円でも応募殺到

副社長と言えば、企業経営の中枢を担う重要ポスト。
“週1で副社長をする”とは、いったいどういうことなのでしょうか?この取り組みをはじめたのは、鳥取県の組織「県立鳥取ハローワーク」です。 

人口が全国で最も少ない鳥取県。地元企業の大きな悩みは人材不足です。デジタル化など、取り組まなければならない課題があっても、人材が足りずに手をつけられない、といったケースも少なくありません。
逆に、規模の小さな企業では、専門的な人材を確保できても、フルタイムで働いてもらうほどの仕事がないこともあります。
こうした中、県立鳥取ハローワークは、「週1副社長」と銘打った人材募集を始めました。

都市部で活躍するビジネスパーソンなどに、副業や兼業の形で、鳥取の企業の「副社長」となってもらい、リモートなども含めておおむね週1回程度、アドバイスを行ってもらいます。
報酬の目安は月に3万円から5万円程度。“副社長”という肩書からすれば、決して高いとは言えません。
しかし、3年前の取り組み開始以降、応募者は年々増加。昨年度の応募者は、3000人に上りました。
 

「週1副社長」どんな仕事している?

週1副社長の募集を勧められた福嶋社長は当初、3万円程度の報酬で本当に人材が集まるのか、半信半疑だったといいます。
しかし、その心配はき憂に終わります。
募集には、東京の大企業に務める人など30人以上が応募。会社では、大手広告代理店やメガバンクのOBなど4人を「副社長」として採用しました。

福嶋社長: 「はじめに鳥取県から紹介いただいたときに、『え、そんなことできるの?』とちょっと思いましたね。たくさんご応募いただいて、いろんな方に、なぜ私どもの会社に興味をもったのか聞いてみたかったので、今回応募いただいた方とはリモートを通じ、全員お会いしました。」

週1副社長の1人、栗谷尚志さん。
アメリカの会社の日本法人で営業本部長を務めた経験を持ち、現在は東京でフリーランスとしてさまざまな企業に販路開拓のアドバイスをしています。
以前から地方の企業でも仕事をしてみたいという思いをもっていたところ、募集を見つけて応募しました。
リモート中心に働くことができる、というのも決め手の1つとなりました。

栗谷尚志さん: 「都内の場合、こうしたリモート中心の仕事はもっと業種が狭まってしまう。募集を見て、この会社の商品を、僕はどうやって世の中の1人でも多くの人に広めることができるか考えればいいんだなと、僕自身もすごくわかりやすかったので応募しました。」

栗谷さんは、「副社長」として、リモートで社長の相談に応じています。
採用後、早速、性別を問わず使えるという新たな化粧品の特徴をアピールするため、カップルを使った広告を提案。

業界の注目も集めだして、第2弾の商品の販売も決まりました。

栗谷さん: 「会社の経営に近いところでサポートさせていただいているというところに、すごくやりがいを感じています。仕事の内容にお金じゃない魅力の部分がたくさんある。」

食品加工会社 福嶋社長: 「いままでとは異なる分野の商談で、質問すら浮かばないときも、栗谷さんがすかさず聞いてくれます。専門的な知識を持っている人に助言してもらえることで、勇気を持って仕事を進めることができ、困ったときのお助けマンです。」  

“事業承継”のサポートも

地方で深刻な後継者不足の問題を、「週1副社長」の力を借りて乗り切ろうという会社も出ています。
鳥取市の電機メーカーの社長、新矢楢夫さん(81)。年齢的にも営業活動などが厳しくなり、会社を勤続20年の社員に託したいと考えています。
安心して後を継いでもらうために、今、力を入れているのが、30年にわたって取り組んでいる家庭用生ゴミ処理機の新商品の販売を軌道に乗せることです。

そこで、「週1副社長」に採用したのが、かつて大手広告代理店に勤めていた経営コンサルタントの江尻敬さんです。
江尻さんは、これまでの仕事相手の多くは大企業だったため、今まで縁のなかった地方の中小企業との仕事も経験してみたいと、応募しました。
社長から、これまでの会社の歩みや経営方針を聞いた江尻さん。この会社が環境に優しい商品を生み出し続けてきたことに共感したといいます。

江尻さん: 「今でこそSDGs・サステイナビリティといった話をみながするようになったが、何十年も前から同じ思想で商品開発をしてきた先見性にひかれた。」

江尻さんは、こうした製品の理念に共感してくれる人に、生産のコストをクラウドファンディングで寄付してもらうことを提案。
さらに人脈を生かして商品をテレビショッピングで紹介してもらうことも実現させました。
また、商品名として考えていた「ママサポート」という名前は、「家事をするのは女性という決めつけととられかねない」として変更するようアドバイスもしました。

新矢社長: 「江尻さんには、広告代理店におられた顔の広さがある。いろいろな選択肢を示してもらえるのはありがたい。いい会社にして経営をよくして後継者に引き継ぎたい。」

江尻さん: 「これまでは大企業が相手で、さまざまな人がサポートしてくれる環境にいたが、週1副社長は、自分がいるからこそ物事が進んでいくということに、やりがいを感じる。」  

“週1”のその先へ

「週1副社長」というたくみなネーミングで、地元企業と都市部の人材のマッチングを進めてきた鳥取県の組織、県立鳥取ハローワーク。
目指しているのは、新型コロナの感染拡大で普及したリモートなどの手段を活用して、都市部の人たちに、地域と関わり続ける「関係人口」になってもらうことだといいます。

北村所長: 「都市部で鍛えられた人材に県内企業の課題解決の力になってもらいたいが、いきなり鳥取で働いてもらうのもハードルが高いので、まずは週1回からつながってもらおうと考えた。『週1副社長』として鳥取のファンになってもらい、関係人口からやがては本当の人口につながるきっかけになればと思う。」

週1副社長には昨年度、製造業やサービス業、情報通信業など124社で220人が採用されました。
鳥取県と同じような形で昨年度、副業・兼業の募集を行った全国45の道府県でのマッチング数は全部で767件。このうちの実に3割近くを鳥取県が占め、ダントツ1位です。

背景には、人材派遣会社が作っている副業サイトに鳥取県の特設ページを開設し、年間を通して募集をしたり、企業側の書類の作成を手伝ったりするなど、仕組みを利用してもらうための県側の手厚いサポートもあると見られています。
県立ハローワークは、年間3000人もの応募に見合う求人はまだまだあるはずだと、今後も県内の企業に積極的な募集を働きかけることにしています。
コロナ禍で地方の魅力に目を向ける人が増えてきた今、地域を救う「週1副社長」はこれからも続々と生まれていきそうです。