コロナ禍チャンスに 消防車メーカー“キッチンカー”に挑む

NHK
2022年9月15日 午後6:48 公開

長引くコロナ禍で人気が高まっているのが、屋外で密を避けて食事を提供できるキッチンカーです。このキッチンカーの製造に、創業90年以上、国内シェア3位の消防車メーカーが新たに乗り出しました。老舗の消防車メーカーが挑む新たな挑戦とは。

(鳥取局記者 大本亮)
 

人気のキッチンカー 改装手がけたのは…

ことし6月、「恋人の聖地」と呼ばれる鳥取市の海岸にある道の駅で、観光客の列ができていました。
列の先にあるのは、地元の名物コーヒー店のキッチンカーです。

1年以上前に、内部の床材を取り替えたり、車体の塗装を施し直すなど車両全体を一新し、各地で移動販売を行っています。
「車の見栄えがかわいくて つい買ってしまった」という客もいて、評判も上々です。

この車両の改装を手がけたのは、ことしで創業95年となる鳥取市の消防車専門メーカー「吉谷機械製作所」です。

ポンプ開発の技術力で全国に知られ、年間の製造台数はおよそ100台。
全国で3位のシェアを誇ります。
この夏から、本格的にキッチンカーの事業に乗り出しました。
実は、消防車は1台1台すべてがオーダーメイドです。

発注元の自治体からの多種多様なリクエストに応じ、消火活動の要となるポンプなどのさまざまな装備を車体に取り付けます。

この会社では、設計から塗装まで、一貫して自社で行っていますが、製造にあたって最も重視しているのは、火災現場など過酷な環境にも耐えられる耐久性です。

吉谷勇一郎社長 「消防車は緊急車両なので絶対に壊れてはいけない。常にしっかりしたものづくりにこだわって作っている」  

急減した消防車の発注

老舗の消防車メーカーが、なぜキッチンカーの製造を始めたのか。
背景にあったのは、全国的な消防車の発注の減少でした。

全国で製造された消防車を検査している日本消防検定協会によると、「消防ポンプ自動車」の検査台数は、令和2年度の1069台から昨年度は896台へと、およそ2割減少。

鳥取市のメーカーも同様の状況で、受注が減少傾向となっています。
全国的に検査台数が減っている理由ははっきりとはわかりませんが、「新型コロナ対応に予算が必要なため、消防車両の更新を急がないという自治体もあるのではないか」という指摘もあります。

消防車の受注が減る中、会社に寄せられたある依頼が、転機をもたらしました。

親交のある名物コーヒー店のオーナーから、老朽化したキッチンカーをリニューアルしてほしいと頼まれたのです。
災害時の炊き出しの応援にも使いたいので耐久性を高めたいという注文に、消防車製造の技術で応えたキッチンカーは好評で、手応えを感じた吉谷社長。
キッチンカーは、コロナ禍で屋外で密を避けて食事を提供できるとして人気が高まっていたこともあり、新たな事業の柱に育てることを決意しました。

決断の背景には、もうひとつ、消防車メーカーならではの事情もありました。

消防車は、自治体が春から夏にかけて行う入札を経て注文が入るため、生産は秋から冬に集中してしまいます。
キッチンカーの生産も行うことで、1年を通し、安定して生産活動ができると考えたのです。

会社ではことし4月、社内にプロジェクトチームを立ち上げ、本格的に事業への取り組みを開始しました。

吉谷勇一郎社長 「消防車を90年以上ずっと作ってきて、それ以外のもの作りをやったことがなかったので、できるのかなというのはありましたが、市場のニーズやキッチンカーの需要も増えてきていました。会社として何か社会に貢献できることをということで、挑戦することにしました」   

消防車製造のノウハウも

ことし6月、新事業をPRするイベントが開催されました。

会場では、車内でゆとりをもって調理できる大型の車両や、ほかの自動車でけん引するトレーラータイプのものなど、3種類のキッチンカーが展示されました。

いずれも、消防車の製造ノウハウがふんだんに取り入れられています。

床材には、消防車の床に敷き詰めている滑り止めのついたアルミ材が使用されています。
軽くてさびにくいだけでなく、調理の際に床をぬらしても滑りにくく、掃除の際には簡単に水洗いすることができます。

消防車メーカーとして、材料を比較的安く入手できるのも強みの1つだと考えています。

消防車の装備品を確実に固定する技術も随所に生かされています。
床材と調理設備などは頑丈に固定され、山道などを長時間走っても、設備がずれたりすることはありません。
走行後、車内にモノが散らかったりせず、到着後にすぐに営業を始めることができるといいます。

車体の防水加工は、消防車と同じレベルで仕上げています。

屋外で営業していても、車内に雨水が入りにくいよう構造も工夫しています。

車両は、顧客の予算やニーズに合わせ、オーダーメードで仕上げます。
 

会社も驚く 多様なニーズ

会場には、移動販売を検討する飲食業者などが次々と訪れました。

このうち、キッチンカーによる焼き芋販売を検討しているという事業者は、「消防車を何百台と手がけている会社なので、ノウハウは信頼できるし安心感がある。購入を前向きに検討している」と話していました。

また、繁華街にあるダイニングバーの料理長は、「夜の客が減り、ランチ営業を始めているが、昼間は人通りが少ないので、イベントが行われている場所に出向くことができるキッチンカーを購入できないかと見に来た。さまざまなタイプがあるので検討してみたい」と話していました。

(ピザの焼き窯が設置された車両も)

意外な業種の人も会場を訪れました。

高齢者の家などを訪問して髪の毛をカットしているという美容師は、「移動式の美容室として使えないか」と相談していました。

また、中山間地を回る移動式のスーパーや移動式の生花店として使用できないか検討している人もいました。

予想を上回る多様なニーズを確認し、手応えを感じた吉谷社長。

今後は、年間のキッチンカーの生産台数を全体の10%の割合にまで引き上げることを目指しています。
まずは山陰地方からスタートし、将来的には全国へと事業を拡大したいと考えています。

吉谷勇一郎社長 「キッチンカーの製作という新しい取り組みにチャレンジすることで、社員のモチベーションも上がってきました。そうした向上心を今後、消防車以外の展開にもつなげていけたらと思います」

コロナ禍に加え、少子高齢化などを背景に、移動販売のニーズは着実に高まっています。

老舗のメーカーとして長年培った技術をいかし、逆境をチャンスに変えることができるのか、今後も注目していきたいと思います。