「脱炭素へ険しい道 エネルギー計画改定案」

初回放送日: 2021年7月21日

脱炭素社会の実現に向けて中長期のエネルギーのあり方を示す政府のエネルギー基本計画の原案が示された。再生可能エネルギーの目標達成は可能なのか、課題を考える。

  • 番組情報
  • その他の情報
  • 詳細記事

目次

  • 脱炭素へ険しい道 エネルギー計画改定案

脱炭素へ険しい道 エネルギー計画改定案

脱炭素社会実現に向けてカギとなるエネルギーの在り方を示す、政府のエネルギー基本計画の改定案がきょう示された。
再生可能エネルギーを主力電源と位置づけ最優先・最大限の導入を掲げ、原発と併せて脱炭素電源を6割まで高める目標。
ただ再エネも原発も課題山積。
中でも政府は太陽光に期待をかけるが最近導入量が伸び悩んでおり、目標達成には相当高いハードル。
太陽光中心に脱炭素実現への課題を考える。

今回の改訂の焦点は、電力の脱炭素化をどこまで追求できるか。
政府は2050年の温室効果ガス実質ゼロに続いて、2030年46%削減を打ち出し。
この目標達成にはあらゆる部門での脱炭素化が必要だが、とりわけCO2排出の4割と最大を占める電力部門の脱炭素化が不可欠。46%削減には電力の6割を脱炭素化する必要があるとされ、2030年の電源構成が最大の注目点に。

現状日本は電力の4分の3を火力に頼る火力大国。
脱炭素電源の再エネと原発は全体の4分の1にとどまる。
これを今の計画では2030年に4割余りに増やすことになっていたが、とても46%削減は達成できない。
そこで今回明確に再エネを「主力電源」と位置づけて「最優先・最大限の導入を目指す」とし36~38%と、現状より倍増させる目標。
また原発は「必要な規模を持続的に活用する」として20~22%に据え置いたほか、まだ実用化していないアンモニアや水素発電も1%めざし、その分、火力を41%まで減らす。

確かに脱炭素電源は6割となり、数字の上では体裁が整っている。しかし今回は先に国際公約が決まり、それに数合わせをした面が強く、実現可能性が大きな課題。
中でも主力となるべき再エネの拡大には相当高いハードルあり。

というのも政府は長期的には洋上風力を原発45基分導入して再エネの切り札とする方針。しかし大型風車の製作導入には8年。
このため2030年に向けては比較的設置が容易な太陽光に事実上頼るしかなく、現状の倍以上となる15%とする目標を掲げる。

しかしそこに大きな課題が。ここ最近太陽光、伸び悩んでいるから。

高い設置コストやせっかく発電しても送電線が脆弱で送電できないなどの課題もあるが、そもそも設置場所の確保が難しくなってきている。大規模に設置できる平坦で広い適地が減り、森林が伐採され逆に自然破壊だとして地域でトラブルも。

今月、日照時間が全国トップクラスの山梨県が、太陽光を規制する条例を。
山間部への設置が増え、災害を懸念して地域住民の反対が強くなっているため。
条例は土砂災害のおそれが高い地域や森林伐採を伴う区域に10キロワット以上の新設を原則禁止。
太陽光の規制は都道府県では4けん目、経済産業省の調べではほかにおよそ130の自治体が何らかの規制条例を制定済みだということで、今後大規模な導入は簡単にはいかなくなるとみられる。

ではどうすれば設置が進むのか。
今回の計画では空港施設や使われていない農地などを積極的に利用していくとしているが、私が注目したいのが自治体所有の土地や建物。多くの場合手つかずのまま残されているから。

中には先駆的に太陽光に取り組みCO2削減を進める自治体も。
その一つ、埼玉県所沢市を取材。

まず訪れたのが市立の中学校。
屋上は生徒たちの出入りはなく、使われていないスペースで、市はそこに目をつけ、去年26kW分のパネルを設置。校内の電気を供給し、余った分は蓄電池にため、災害時に供給。小中学校47校のうち設置可能な27校に設置済み。

次に訪れたのが廃棄物の最終処分場。
すでに埋め立てが終わり、有害ガスが発生しないか監視する期間に入っており、その20年間を有効活用しようとパネルを設置。この日は曇りがちだったが最大350kW発電。260世帯分を賄えるということ。

所沢市が再エネに取り組んだきっかけは福島第一原発の事故。ただ住宅街が多く、広い土地の取得は困難と考え、市所有で住民への影響が少ない学校の屋上や最終処分場に設置したわけ。
さらに雨水を一時的にためておく貯水池にも設置。
パネルの下に青い大きな浮きがついていて、水面に浮かべている。地面設置型より発電コストが高くなるかと思いきや、水でパネルが冷やされることから最終処分場よりも発電効率はよくなるということ。

所沢市ではパネルをリースで調達して設置コストを抑えるのと同時に、再エネが災害時にも役立つよう地産地消も進める。
3年前に市が出資して新電力を設立。市の施設で発電した電気はこの新電力に売り、市役所など市の400の施設が新電力から再エネ由来の電気を買うことで、施設が排出するCO2を85%削減できたということ。

このように自治体の土地や施設で太陽光が可能な手つかずの場所はかなりあると思われる。政府は所沢市のような先駆的な取り組みを全国の自治体に積極的に紹介し、各自治体に検討を進めてもらう必要。
ただ自治体所有施設にも限界あり。
所沢市では今年保育園の屋根にパネルを設置する予定だが、それ以上となるとすぐにあてはない。さらに増やすには例えば強度が弱く設置できなかった学校の屋上の補強工事をしてパネルを設置していく必要があるなど、よりコストもかかるということ。
政府はこうした課題も検証して、自治体が太陽光に取り組みやすくするために必要な支援制度を早急に整えていく必要。

ここまで太陽光を見たが、もう一つの脱炭素電源の原発もあいまいさが目立ち課題山積。

計画では2030年は20~22%に据え置いた。ただこの達成には大手電力が再稼働申請した27基全てのフル稼働が前提。しかしこれまでに再稼働したのは10基だけ。国民の再稼働に対する世論は厳しく、審査に合格したものの、不祥事続きで信頼が失墜した東電の柏崎刈羽原発のように運転のメドがたたない原発もあり、残り9年で27基稼働させるのはかなり難しい。
また原発の今後について、「必要な規模を持続的に活用する」と使い続ける方針を示しながらも大手電力が技術維持のために必要と訴えていた建て替えや新設は見送るなど、相変わらずあいまいな方針。
国民の信頼が回復しない中、今、原発の位置づけをはっきりさせたくない思いが政府内にあるとみられ、議論が不十分なまま目標が示された。しかし原発がはっきりしなければさらなる再エネの上積みが必要になる可能性もあるほか、核燃料サイクルをどうするのかなど課題も山積。
政府はきょう示した改定案に対する国民の意見を幅広くきいて、原発についても課題を先送りすることなくさらに議論を深めて明確な方向性を示し、エネルギー基本計画を実効性あるものにしていく必要。

(水野 倫之 説委員)