「どう止める?途上国・新興国の感染拡大」

初回放送日: 2020年5月28日

日本では緊急事態宣言が解除され、欧米でも経済活動が再開され始めたが、発展途上国や新興国では感染が急増したり拡大のおそれが警告されている。いかに防げばよいのか?

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どう止める? 途上国・新興国の感染拡大

新型コロナウイルスの世界全体での感染者数が、570万人を超え、亡くなった人も、35万人を超えました。日本では緊急事態宣言が解除され、欧米諸国でも経済活動が段階的に再開されています。ところが、世界全体では、感染の勢いは衰えていません。とくに発展途上国や新興国での感染拡大が強く懸念されています。これを止めない限り、今後、感染の第2波、第3波という形で、日本にも影響が及びかねません。

■WHO・世界保健機関のテドロス事務局長は、20日、途上国や新興国で、感染者数が急激に増加していると強い懸念を示しました。

▼とりわけ深刻なのが、南米の新興国ブラジルです。
世界各国の感染状況について調べているアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の集計によりますと、これまでの感染者数は、41万人を超え、アメリカに次いで世界第2位。亡くなった人は2万5000人を超え、1日の死者数はおよそ1000人で世界最多です。
都市部で、貧しい人々が、狭い住宅に密集して暮らす地区を中心に、爆発的な勢いで感染が拡大しています。最大都市サンパウロでは、3月中旬から外出を制限する措置がとられましたが、感染を止めることはできません。新たにつくられた巨大な墓地でも、遺体が多すぎて、埋葬が追いつかない状態です。
これほど急激に感染が拡大した背景には、貧困や格差の問題に加えて、政治指導者の対応に問題があると指摘されています。ボルソナロ大統領は、新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪」と呼び、感染対策を疎かにしてきました。亡くなる人が急増しても、経済活動の再開を優先する考えを強調し、各自治体が実施する規制に強く反対してきたのです。
ちなみに、25日、羽田空港に到着した4人の外国人が、検疫で、新型コロナウイルスに感染していたことが確認されましたが、このうち3人は、ブラジルに滞在していたということです。

▼続いて、中東でも、感染者が急増しています。
サウジアラビアでは、7万8000人で、この1か月間で5倍に急増。

カタールでは、4万9000人で、この1か月で4倍に増え、人口10万人当たりの感染者数では、世界最多です。

また、中東で最初に感染が拡大したイランでは、14万人を超えました。いったん減少した新たな感染者数が再び急上昇し、「第2波」とも呼べる感染拡大が起きています。
これら、ペルシャ湾岸の産油国には、アジアなどから出稼ぎ労働者が数多く働きに来ています。狭い宿舎での集団生活で、いわゆる“3密”の状態が生まれ、感染を拡大させているとみられます。加えて、イスラム教の断食の月ラマダンが、先週終わったばかりですが、この間、親族や仲間が集まっての夕食や集団礼拝で、“3密”状態となり、感染が広がったものとみられます。また、イランで、「第2波」の感染が起きたのは、政府が段階的に経済活動の制限を緩和したためとみられます。

▼ここからは、今後、感染拡大が懸念される地域について、見てゆきます。
まず、内戦や紛争が続く国や地域です。
中東では、イラク、シリア、イエメンなどがこれに該当します。
イエメンでは、5年前から激しい内戦が続き、国民の3分の1が飢餓に直面するなど、「世界最悪の人道危機」と呼ばれる過酷な状況の中で、先月以来、新型コロナウイルスの感染が広がっています。病院が空爆されるなどして、医療体制が崩壊しており、WHOは、「実際の感染者数は全くわからない。衛生環境が劣悪で、感染爆発が心配だ」とコメントしています。
一方、イラクとシリアでは、ほぼ壊滅したとみられていた過激派組織IS・イスラミックステートが、このところ、テロ攻撃を再開しています。そのことは、新型コロナウイルスの感染対策にも悪影響が懸念されます。

▼そして、今後、世界的な感染拡大をくい止めるカギを握るのは、アフリカの国々です。
国連は、先週、「新型コロナウイルスのアフリカへの影響」と題する報告書を発表しました。それによりますと、アフリカ大陸の54か国のすべてで感染者が確認されています。その合計は、18日の時点で、およそ8万4000人。他の地域や事前の予測と比べて少ない水準にとどまっています。報告書は、アフリカ連合などが、エイズやエボラ出血熱など過去の感染症を教訓に、早めに対応したのが功を奏したのではないかと説明しています。その一方で、多くの国で検査態勢が整備されておらず、内戦や紛争の影響もあって、感染の実態が十分に把握されていないとも指摘しています。今後、アフリカ連合と連携して、1000万件のウイルス検査を実施する方針です。
国連のグテーレス事務総長は、「アフリカの感染は、まだ初期段階にあり、楽観を許さない。アフリカの感染拡大を止めることが、世界の感染拡大を止めるために不可欠だ」
と述べて、世界各国に支援と協力を呼びかけています。

■ここからは、途上国や新興国の感染拡大を封じ込めるため、日本を含む国際社会にとって、何が必要かを考えます。
今までは、先進国がそれぞれ、自国の問題への対応で手いっぱいで、途上国に目を向けるゆとりはありませんでした。しかしながら、途上国での感染拡大をこのまま放置すれば、コロナウイルスの脅威は、第2波、第3波となって、必ず先進国に戻ってくるでしょう。そして、世界的大流行の封じ込めを、何年も先まで遅らせることになります。
また、世界経済に与える打撃もいっそう深刻になるでしょう。世界銀行は、先週、コロナウイルスの感染拡大の影響で、今年の世界経済が、最大で5%のマイナス成長になる可能性があると指摘しました。そのうえで、途上国が受ける影響は深刻で、6000万人が極度の貧困に追い込まれる恐れがあるとしています。

こうした新たな困難に備えて、国際的な協力体制をできるだけ速やかに構築する必要があります。具体的な取り組みとしては、
▼まず、途上国に対して、医師や医療スタッフを派遣するとともに、検査キット、人工呼吸器、マスク、防護服、消毒薬など、不可欠な医療資材や衛生用品を届けることが必要です。
▼次に、先進各国の開発で、新型コロナウイルスの治療薬やワクチンができた時には、それらが途上国にも行き渡るよう、制度やしくみを整備しておくことが重要です。
▼さらに、アメリカと中国の対立によって、国連安全保障理事会やWHOが、正常に機能していません。コロナウイルスとの闘いに適切に対応するためには、関係国の対立を解消して、正常化させなければなりません。
WHOの最大の拠出国であるアメリカのトランプ大統領は、WHOの中国寄りの姿勢が根本的に改められなければ、資金拠出を恒久的に停止すると警告し、WHOは創設以来、最大の危機に直面しています。
▼そして、途上国における失業や飢餓、医療崩壊などで、多くの命が失われるのを防ぐため、最も貧しい国々に対しては、債務の返済猶予を含む財政支援が必要です。

■先進国と途上国が手を携えてゆかない限り、コロナウイルスとの闘いに勝利はありません。日本にとっては、来年夏に延期された東京オリンピックやパラリンピックも、世界的大流行が終息しない限り、開催が困難であることを肝に銘じ、積極的に貢献してゆく必要があると考えます。

(出川 展恒 解説委員)