「ウクライナの反転攻勢とロシアの焦り」

初回放送日: 2022年9月28日

反転攻勢に出たウクライナ軍は東部と南部の広い地域を奪還。これに対しロシアは予備役の動員や「住民投票」などの動きに出た。ロシアの焦りと今後の動向を分析する。

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ウクライナの反転攻勢とロシアの焦り

【はじめに】
(津屋)
ウクライナ軍は今月、大規模な反転攻勢の作戦で東部と南部の広い地域を一気に奪還。
戦局はウクライナ優位に大きく傾きました。これに対し、プーチン大統領は予備役の動員に踏み切り、ロシア国民の間には動揺が広がっています。
この戦争はどうなっていくのか、ロシア担当の安間解説委員とともに考えます。

【ロシアの“焦り” ①“住民投票”】
Q)安間さん、ロシアは、予備役の動員や住民投票と称するものを強行するなど性急な動きに出てきた印象だが、こうした動きについてどうみますか?

(安間)
ロシア側の焦りと見て間違いないでしょう。
ロシア側は27日まで、ウクライナ東部のリハンシク州、ドネツク州、南部のザポリージャ州、ヘルソン州の4つの州で、ロシアへの編入に向けた住民投票を一方的に強行しました。
投票の実施を発表してから投票まではわずか3日。
ロシア側は、4つの州でそれぞれ9割前後の賛成が得られたとして、近く一方的に併合を宣言する構えです。
しかし、もとよりこれは軍事占領下で行われた違法な現状変更の動きです。
ウクライナ政府や欧米諸国は偽りであり茶番だと厳しく非難しています。
投票の実施は11月とも伝えられていましたが、ロシア側はこれ以上支配地域を狭められないうちに前倒しで、一方的に併合しようと考えたのでしょう。

【ウクライナ軍の反転攻勢】

(津屋)
ロシアに焦りを生じさせたウクライナ軍の反転攻勢とはどういうものだったのか。
作戦が発動されたのは8月末。ウクライナ軍は南部の要衝ヘルソンの奪還に向けて進撃し、ロシア軍は東部に集中させていた兵力の一部を南部に移動させました。
その結果、東部に生じた隙に乗じて、今度は東部で大規模な奇襲作戦を発動。
要衝イジュームなどハルキウ州の支配地域をわずか1週間あまりで奪還しました。
いま、戦いの主導権はウクライナに移っています。

この作戦が成功した最大の要因は、NATOによる強力な軍事支援です。
戦争が長引き「支援疲れ」も指摘されていますが、少なくとも供与された兵器のリストを見る限り、ロシアにエネルギーを依存してきたドイツを含め各国からは、非常に強力な攻撃用兵器が次々と供与されています。
欧米の情報筋によりますと、ウクライナ軍の作戦本部には、アメリカやイギリス軍の要員が入って、高度な軍事情報の提供や作戦の助言などを行っています。
さらに、ウクライナ兵の訓練も行っており、直接戦火は交えてはいないものの、「NATOとロシアの戦い」の様相を一層強めています。

【劣勢のロシア】

(津屋)
双方の戦闘能力を比較しますと、▼戦うための「装備」は、欧米からの強力な支援でウクライナの能力は確実に高まっています。
対するロシアは、弾薬庫と補給ルートが次々に破壊され、弾薬と兵器の不足に直面しています。
▼戦闘能力に直結する「兵士の士気」については、自国の領土を必ず取り戻すという国民の強い声に支えられて、兵士も高い士気を保っています。
これに対してロシアの兵員不足は深刻です。戦地に投入されたおよそ20万人のうち半分は戦死または負傷するなどして戦力はほぼ「壊滅状態」とNATO軍事筋は見ています。
ウクライナ兵とは対照的に、多くのロシア兵は、命をかける明確な大義が持てないまま戦いを強要されているように見えます。 
このようにロシアは戦力上の様々な課題を抱えており、その作戦は思い通りに進んでいないことは確かです。

【ロシアの“焦り”②予備役動員】

Q)安間さん、プーチン大統領は、兵員不足を補うため「予備役の動員」を発表しましたが、国民からの激しい反発に直面していますね。

(安間)
ある程度反発は抑え込めると見ていたのかもしれませんが、誤算だったのではないでしょうか。
プーチン大統領は今回の動員をわざわざ「部分的」と発表し、ショイグ国防相はその規模を30万人と発表しました。
批判を和らげるため、総動員ではないことを印象づけたかったのでしょう。
しかし署名した大統領令には「非公開」の項目があり、独立系メディアは、ここに書かれていた動員数は30万人ではなく、100万人規模ではないかという見方を伝えています。
対象ではない学生や病人、軍務経験のない人にも招集状が届き、性急でずさんな動員が明らかになっています。
徴兵事務所で銃撃や放火事件も相次ぎ、混乱が広がっています。
対象者が国外に逃れる動きも広がり、独立系メディアによりますと、プーチン大統領が動員を発表してから4日間で26万人を超えたということです。
ロシア国民はこれまでプーチン大統領から「動員はない」と聞かされてきました。
ところが一転、自身や家族が戦闘地域に送り込まれかねない、自らの問題となりました。
プーチン大統領や軍事作戦への国民の支持は、少なくとも一般の国民には害を及ぼさないという暗黙の了解があったためでしたが、それが一気に崩れ、潮目を変える可能性があります。

【核使用の恐れ】
Q)安間さん、ロシア国内の抗議行動を見ると、動員される兵士の士気は著しく低いことが想像でき、「予備役の動員」によって主導権を取り戻すのは難しいように思います。
追い込まれたプーチン大統領が再び核による威嚇を行っているのが気になりますね? 

(安間)
プーチン大統領は先週のテレビ演説で、「ロシアの領土の一体性が脅かされる場合にはあらゆる手段を行使する。脅しではない」と述べ、核の使用を示唆して欧米をけん制しました。
ロシア側は、ウクライナの4つの州を一方的に併合した後は、これらの州への攻撃をロシアの領土への攻撃と見なすと警告を重ねています。
危惧されるのは、プーチン大統領の欧米に対する敵意が強まっているように感じられることです。
プーチン大統領がさらに追い詰められたと感じれば、核を使用する可能性を排除することはできないと思います。

(津屋)
このプーチン大統領の核による威嚇に対して、アメリカは、ウクライナ侵攻が始まった当初、軍事的関与には消極的な姿勢でしたが、今週、アメリカの政府高官は、「ロシアが核兵器をウクライナで使えば破滅的な結果を招くことになる」と警告するメッセージをロシアで非常に高い地位にある人物に直接伝えたことを明らかにしています。
ウクライナで消耗戦を続けるロシアとしては、通常戦力でNATOに太刀打ちできないことは明らかで、NATOが直接介入する事態は避けたいのが本音でしょう。
であれば、核の使用は、NATOの直接介入の可能性を高めかねず、ロシアにとって合理的な判断ではないと思います。
しかし、安間委員が指摘したように、追い込まれたプーチン大統領が核を使用する懸念はぬぐえません。核を使わせずに軍事侵攻を終わらせるには、ウクライナを支え続けるとともに、日本を含む国際社会がそれぞれ持てるチャンネルを使ってロシアと意思の疎通をはかることも、これからの局面では一層重要になってくるのではないでしょうか。

【終わりに】
(安間)
プーチン大統領はこれまでロシア国内で高い支持率を保ってきました。
しかし、今回の事態で、国民の間では、無謀な戦争に国民を巻き込む危険な体制ではないかという疑念が強まり、その支持を揺るがす可能性があります。
さらにプーチン大統領は、2014年のクリミア併合に続いて、改めて武力による領土拡張という、21世紀にはとても時代錯誤な蛮行に踏み出そうとしています。
国際的な孤立は、いっそう後戻りできない段階まで深まっていくことになるでしょう。

(津屋)
ウクライナの大地はこれから、寒さが厳しい「冬将軍」の季節に向かい、双方にとって戦闘はより難しい状況になります。ロシアの軍事侵攻がこのまま続けば、さらなる破壊と数多くの人命が失われることになりかねません。それは国際社会にとっても、ウクライナにとっても、ロシア自身にとっても、大きな損失でしかありません。
その現実をプーチン大統領には直視してほしいと思います。

(津屋 尚 解説委員/安間 英夫 解説委員)