原発事故12年 廃炉への遠い道のり

初回放送日: 2023年3月21日

福島第一原発事故から12年。燃料デブリの取り出しは未だ準備段階。春から夏をめざす処理水放出は関係者の理解が得られていない。政府・東京電力はどう対応すべきか解説。

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  • 福島第一原発事故の発生から12年 燃料デブリ取り出しや処理水問題など廃炉の課題を解説します

福島第一原発事故の発生から12年 燃料デブリ取り出しや処理水問題など廃炉の課題を解説します

福島第一原発事故の発生から12年、現地では燃料デブリ取り出しに向けた内部調査が進むなど前進もあるが、取り出しはいまだ準備の段階。
また政府・東電がこの春から夏を目指す、トリチウムを含む処理水の放出に向けた準備作業も進むが、関係者の理解は得られておらず情勢は不透明で、廃炉はいまだ入り口段階。
現場の廃炉作業を見た上で、おもに処理水問題へ政府東電はどう対応すべきか、水野倫之解説委員が解説。

事故発生から12年の福島第一原発を先月、取材。
原子炉建屋を見下ろす高台。水素爆発を起こした1号機、建屋上部には汚染されたがれきが撤去できずに残っているため、100m離れても放射線量は1時間に100μSvと一般人の年間限度に10時間で達する強さ、この1年ほとんど減っていない。

事故では3基がメルトダウンし格納容器内に燃料デブリとなって残された。極めて強い放射線が出ていて人は近づけず、政府・東電は遠隔操作で、最長40年、2051年までにすべて取り出すことを、廃炉の目標に掲げる。

このデブリ取り出しが廃炉の最難関で、東電はこの1年、1号機でロボットで集中的に調査をしてきた。
その結果デブリとみられる黒い塊に続いて、原子炉を支える鉄筋コンクリートの土台の一部が損傷し、鉄筋がむき出しになっていることが判明。事故直後にデブリの高熱でコンクリートが溶けたとみられる。メルトダウンの激しさをあらためて突きつけられた形で、耐震性に問題がないか詳細に調べる必要。
ただデブリの本格的な取り出しは、めどが立たない。

それはほかの号機も同じで、水素爆発した3号機もいまだ取り出し方法の検討段階。
その隣2号機は調査が進み、東電は昨年末までに試験的に取り出すことを目指してきた。そのために開発したロボットアーム、1回に取り出せるのは耳かき一杯の数グラムだが、それでも長さ20mに及ぶアームの調整が必要なことが判明し1年以上延期されている。

ただ政府・東電は、数gの試験取り出しさえ困難な状況にあっても、工程の見直しはせず、あくまで40年で終える方針を変えていない。

しかしデブリは全体で880トン。2051年までに終えるには単純計算でも毎日85キロ以上取り出すことが必要。加えてどこで最終処分するのかあてはなく、計画通り全量取り出すのは相当困難だと思う。
事故から12年、デブリは全量取り出せるのか、現場をいつまでにどんな状況にするのか、政府東電はより現実的な廃炉の計画について、地元と議論を始める時期に来ていると思う。

次に廃炉の当面の最大の課題、処理水への対応。

今も構内では毎日100tの汚染水が発生。トリチウムは水と一体化しているため基準以下にできず、処理水としてタンクに貯められている。
東電はタンクを新たに作る敷地の余裕がなく、秋には満杯になるとしている。
そこで政府・東電は、原発の排水基準の40分の1以下に薄めて海へ放出する方針を決定。
原子力規制委員会もトリチウムの放射線のエネルギーは比較的弱く、基準以下であれば安全は確保されるとしている。
ただ政府・東電は「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」と文書で地元に約束。にもかかわらず政府はこの1月に、放出の時期をこの春から夏ごろと決定。
現場では準備工事が着々と進められていた。
岸壁に行くと放出設備が建設中で、海に向かって右側の貯水槽に海水で薄めた処理水が貯められ、トリチウム濃度を最終測定。
そして基準の40分の1以下を確認した上で、左側の貯水槽へ移し、海底トンネルに流す。
実際に放出されるのは沖合1キロの4本の杭の真下あたりで、東電は設備の工事を夏前に終える計画。

このように準備は進むものの、放出を地元が了解したわけではない。
林立するタンクは福島の復興に邪魔で放出はやむをえないという意見の一方で、風評で福島県産品が売れなくなるとして、漁業者を中心に根強い反対があるから。

そこで政府・東電は理解を得ようと、事故以降販売が落ち込んだ福島の魚の販売の支援を行っている。
この1月、東電の社員が都内で8店舗の鮮魚店を展開する会社を訪れ、福島の魚の販売イベントへの協力を依頼。会社側は、福島で魚の放射性物質検査の実施状況を確認し安全は確保されていると考え、これまで3回協力。今年も協力を決めた。
そして当日、都内の商店街の店に東電社員3人が訪れ、福島産の魚や製品にシールを貼って陳列を手伝う。
また訪れた客にも東電社員が声をかける。すると男性がヒラメ1匹を丸ごと購入、居酒屋で出すと言う。
「やっぱり刺身にします。みんなにおいしく振舞います」
取材中、ほかにも主婦らが魚製品を購入、福島の魚への抵抗感は薄れているように感じた。東電によるとこうした支援活動で福島の魚を扱う店も増えてきているという。

ほかにも政府や福島県がPRを続けていることもあり、福島の沿岸漁業の水揚げ量は去年、事故後最も多くなり、事故前の2割まで回復。
せっかく回復基調にあるのに今ここで処理水が放出されたら、これまでの努力が水の泡になる。福島の漁業者が反対する理由。

先月行われた西村経済産業大臣と福島の漁業者の意見交換会でも、漁業者から「処理水への世間の認識不足を感じている。もっと全国に情報発信してほしい」という意見が相次いだ。
全国の消費者にはいまだ処理水が放出されることへの認識や理解が広がっておらず、このまま放出となれば再び風評が広がって魚が売れなくなることを懸念しているわけ。

一般の認識に変化がないのは、NHKの世論調査にも表れている。
先月の調査で、処理水を薄めて海へ放出する方針に、賛成が27%だったのに対し、反対が24%。
単純比較はできないものの去年8月の調査で、放出が妥当かどうかきいた時と、傾向はほとんど変わっていない。

政府は海洋放出の方針を決めて以降、説明会を1000回以上開いていると言うが、漁業者や流通関係など、関係者への説明が中心。テレビのCMやウェブ広告も出しているが、全国の消費者に対し、直接、処理水を説明したり議論する場はほとんど設定されていない。
それは事故を起こした当事者の東電も同じで、魚販売の支援活動の場でも積極的に処理水に触れることはなかった。

漁業者が反対するのは放出によって消費者が福島の魚の購入をためらうおそれがあるからで、処理水問題は福島だけの問題ではない。全国の消費者に処理水問題を知ってもらい関心を持ってもらうことが不可欠。今後各地で消費者を交えて処理水を積極的に説明したり議論する場を設けていく必要がある。

処理水について政府・東電は「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」と約束しているわけ。漁業者はいまだ理解はしていない。政府東電はどういう状況になったら理解したと言えるのかその判断基準も示した上で、消費者ともっと向き合い、説明や対話を深めていかなければならない。