初の大型商業運転 洋上風力を“切り札”とするために

初回放送日: 2023年1月25日

国内初となる大規模な洋上風力発電所が秋田県沖で商業運転を開始。電力安定供給と脱炭素に向けて、政府の思惑通り再生可能エネルギー拡大の“切り札”となるのか、解説。

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  • 秋田で初の大型商業運転開始 洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の'切り札'とするために何が必要か解説します

秋田で初の大型商業運転開始 洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の'切り札'とするために何が必要か解説します

国内初となる大規模な洋上風力発電所が秋田県沖で商業運転を開始した。
ウクライナ危機で電力の安定供給と脱炭素の両立が課題となる中、政府は洋上風力を再生可能エネルギー拡大の切り札と位置づけており、一歩踏み出せた形。今後の拡大に向け地元では産業の中核にとの期待も膨らむが、海外から30年遅れの課題も見えてくる。
まず今回の洋上風力発電所をみたうえで、風力後進国日本の現状と求められる技術と人材の育成、以上3点から洋上風力拡大の課題について水野倫之解説委員が解説。

初の大型洋上風力発電所は秋田県沖の2か所に建設された。

能代港と秋田港沖に高さ150mの大型風車があわせて33基設置され、今月中にすべて運転に入る見込みで、一般家庭13万世帯分の電力を供給できる。
秋田県では日本海からの強い風が悩みの種だったが逆に生かそうと、早くから陸上風力に取り組み導入量は全国2位。
加えて洋上風力に適した遠浅の海が広がっていることから、全国に先駆けて港周辺の海域を対象に事業者を公募。商社など13社が出資する発電会社が1000億円かけて建設を進め、今回の商業運転が実現。
株式会社秋田洋上風力発電の岡垣社長は、「大きなメリットは洋上だと強い風が安定して吹く。陸上より大きな発電量が得られる。」と話す。
秋田県ではほかの海域でも100基あまりの洋上風力が計画され、地元では産業の中核にとの期待が高まる。
また政府は洋上風力を再エネ拡大の切り札と位置づけ、2040年に最大4500万kW、原発45基分の導入目標をかかげており、ようやくその一歩が踏み出せたとしている。

とはいえ拡大には多くの課題が。
騒音や漁業者の理解などもあるが、今回は産業化の課題を考えたい。
日本は風力後進国となっているから。

こちら日本の電源構成。再エネは20.3%まで増えたが、牽引役は太陽光で、風力は陸上中心でわずか0.9%にとどまる。ドイツやイギリスで20%以上、アメリカや中国でも5%以上ある中、出遅れは明白。
政府は、平地で風が強い適地が限られていること、また景観や騒音への懸念から反対も広がったためと説明。

実際去年も、宮城県の蔵王連峰近くに23基を設置する関西電力の計画に対して、地元から「蔵王の景観を損ねる」と反対が相次ぎ、関電は計画を撤回。
また今月も、宮城県の別の場所に事業者が17基たてる計画について、地元の環境への懸念を受けて、事業者が風車を減らすことにするなど、計画見直しが相次ぐ。

ただ再エネの牽引役だった太陽光も、山の斜面を切り開いて大雨で崩れる被害が出るなどして反対が拡大。昨年度までに184の自治体で開発を規制する条例ができ、大規模開発が難しくなりつつ。

とはいえ脱炭素などへの対応に向けて再エネの拡大は待ったなし。
そこで政府が目をつけたのが手つかずの洋上風力。

海底への据え付けや海に浮かせたりと、陸上よりハードルが上がるが、日本は四方を海に囲まれ大量導入が可能で、陸地から離れるため、陸上風力よりは騒音や景観の懸念も少なくなる。

海外ではヨーロッパ中心に30年前から導入され、イギリスで40の海域で2300基が回り、また直近は世界の導入量の80%を中国が占めるようになり、発電コストが下がってきたことも後押し。

政府は4500万kWの目標達成に向けて、対象を港周辺からより広い海域に広げ、風が強く漁業者など地域の理解が得られた海域を30年間洋上風力を行うことができる促進区域に指定するなどの法整備。実現度が高い順に全国の海域を3段階に分けて計画が進められており、4海域では事業者が決定。

政府は多くの事業者が参入できるよう、複数の省庁にまたがる審査の窓口を一本化したり、来年度からは海域の風や地質などの初期調査を政府が肩代わりして行いデータを事業者が利用できるようにするなど、支援策も。

ただこうした支援だけでは不十分。
今回の秋田の現場を見ると、30年遅れの課題が見えてくる。
それは技術と人材。
支柱となるタワーの高さは65m。風車の羽根で1枚が60mで、陸上風力の1.5倍。陸上よりも強い風を受けてより大量の電力を生み出すために巨大化した。こうした部品は今回ヨーロッパの会社から調達され、船で運ばれてきた。

海外に頼らなければならないのは、日本が風車を作れない国になっているから。
以前は国内でも陸上風車が作られていたが市場が育たないためメーカーがすべて撤退。
洋上風車は例えば羽根は長いもので100mにおよび、先端は時速300キロで回る。それでも壊れない素材や構造が求められ、日本で今すぐ作ろうと思ってもできないわけ。
また今回作業船で建設にあたった作業員の6割余りが外国籍だった。組み立てには高い技術が必要で、先進地ヨーロッパの技術が欠かせないからだという。技術と人材不足で、今回地元への発注は総事業費の1割にとどまる。

この状況を何とかしたいと地元秋田では、動き始めた企業も。

由利本荘市の従業員80人の機械メーカーでは。航空機部品を開発してきた技術力を生かし、陸上風車の土台の部品の製造をてがけてきた。
今回洋上風力が始まったのを受け、発電機などが入る心臓部の部品の受注を狙う。ただ陸上よりかなり大型で開発は簡単ではないと言いう。それでも関係企業に問い合わせて数億円かけ大型の機械を導入するなど先行投資に踏み切った。
受注につなげようと視察に訪れたメーカーの責任者に技術力のアピールも。

また人材面の動きも出始めている。
能代市では高校での再エネ関連の特別授業に力を入れる。
能代科学技術高校では取材した11月、1年生115人が講堂に集まり、大学の専門家が洋上風力が世界的に拡大する状況を講義。
その後行われた能代港沖の洋上風力の見学会では、能代市の担当者が県内で多くの計画があり、建設やメンテナンスで雇用が期待されることを説明。
秋田県内ではヨーロッパの風車メーカーの拠点も開設されており、能代市の担当者は生徒が将来の進路の選択肢として洋上風力に関心を持つことに期待を寄せる。

今後洋上風力の目標達成に向けては、海外に頼るだけでなく国内でも部品の調達が可能で建設やメンテナンスができるよう産業化を図っていくことが不可欠。そのためにもこうした企業の技術開発や人材育成の取り組みを充実させ、ほかの地域にも広げていかなければ。政府は目標達成に向けて、どのような技術や人材がどれだけ必要なのかを示し、こうした取り組みへの支援を強化していかなければならない。

脱炭素と電力の安定供給に向けて、洋上風力を切り札にしていくためにも、政府は定期的に目標の進展具合をチェックしながら課題を見極め、有効な対策を継続して打ち出していくことが必要。