「石炭火力削減 電源構成の抜本見直しを」

初回放送日: 2020年7月9日

CO2の排出が多い旧式の石炭火力発電の削減が決定。しかしゼロにするわけではなく、代わりに増やす原発と再エネにも多くの課題が。将来の電源構成計画の見直しが必要か。

  • 番組情報
  • その他の情報
  • 詳細記事

目次

  • 石炭火力削減 電源構成の抜本見直しを

石炭火力削減 電源構成の抜本見直しを

脱炭素化に向けて石炭火力発電の削減がようやく一歩前へ進むことに。
政府はCO2の排出が多い旧式の石炭火力を段階的に削減し、海外への輸出も条件を厳しくする方針を決定。国内では旧式の100基分が削減される見通しで、政府はその分を再生可能エネルギーと原発で賄う方針。
しかしそれぞれに課題が多く、賄いきれなければ石炭火力の削減が滞る可能性もあり、電源構成全体の抜本的な見直しまで踏み込んで検討する必要。
石炭火力の削減の課題について水野倫之解説委員の解説。

まず日本は今、どれだけ石炭火力に頼っているのか。

おととし改訂された日本のエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画は、石炭火力を基幹電源と位置づけ。
石炭の価格が原油や天然ガスよりも安く、世界各地で採れるため安定供給できるメリットがあるから。
特に福島の事故を受けて原発が止まってからは依存度が高まり、現在全電源の32%と、天然ガスに次ぐ主力の電源。
ただCO2の排出がほかのどの電源よりも多いことから、2030年には26%まで依存度を減らすと。
今回その実現に向けて政府はようやく削減する方針を打ち出した。

現在国内には140基の石炭火力。
蒸気の温度や圧力が低いと発電効率はよくなく、CO2の排出も多く。
140基のうち114基がこうした効率のよくない旧式の発電所で、今回政府はこの旧式の発電量を2030年度までに9割程度削減する方向で検討。
単純計算でおよそ100基分が削減されることに。

ただ今の制度では政府が特定の発電所の廃止を求めることはできないことから、電力会社が発電できる量に上限を設けて古い発電所の廃止を促したり、早く廃止を決めた会社に対して補助金などを出す優遇策も検討して引き下げていく方法などが検討されるとみられる。

また日本は海外への石炭火力の輸出も積極的で政府系の金融機関が支援してきましたが、政府はきょうインフラ輸出戦略の骨子を改訂し、輸出できる石炭火力を環境性能がトップクラスのものに限定するなど支援の条件を厳しくしていく方針も決めた。

このように国内、海外向けともに石炭火力を抑制しようというわけですが、なぜ今、こうした方針を打ち出したのか。
背景には、世界で脱炭素化・脱石炭の動きが加速する中、その波に乗れずに、石炭火力頼みを続ける日本に対する国際社会の強い批判があった。

温暖化対策の枠組み「パリ協定」が、今世紀後半にCO2などの排出を実質ゼロにする目標をかかげて以降、世界的に脱炭素の流れが加速。
中でもCO2の排出が多い石炭火力を廃止する動きがヨーロッパを中心に拡大。
イギリスが2025年までに廃止する方針を掲げ、フランスも2022年までに、また国内で石炭が採れるドイツも、2038年までに廃止すると。
カナダも、CO2を分離できないタイプの石炭火力を2030年までに段階的に廃止する方針。
こうした流れを受け、去年の温暖化対策を話しあうCOP25では国連のグテーレス事務総長が各国に石炭からの脱却を訴えた。しかし日本政府は具体的な削減策を示さず、温暖化対策に消極的だとして批判にさらされた。
政府としても動かざるを得なくなった。

今回の削減方針はエネルギー政策の方針転換のように見えるかもしれないが、そうではない。

エネルギー基本計画にはおととしの改定の段階で、「非効率な石炭火力にフェードアウトを促す仕組みなど具体的な措置を講ずる」ことがすでに盛り込んであった。
しかし政府はどう減らすのか具体策を打ちださないまま2年が過ぎ、国際的な批判をきっかけにようやく重い腰を上げたわけ。対応が遅いと言えるが、脱炭素に向けてもう旧式の火力を使い続けるべきではなく、削減方針を示した点は一定の評価ができる。

ただ今回方針転換ではないため政府は、石炭火力の基幹電源としての位置づけや2030年に26%賄う方針は見直さず、効率が比較的よい石炭火力は今後も新設を認めることに。
効率が良いとは言っても天然ガスの2倍のCO2を排出するわけで、国際社会から不十分だと批判が高まる可能性も。
政府はCO2などの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半のできるだけ早い段階で実質ゼロにすることを国際的に約束しているわけで削減だけでなく一歩踏み込んで廃止に向けた道筋についても今回あわせて検討しておく必要があると思う。

また、今回削減する分の電力について政府は、再エネと原発で賄う方針。しかしいずれも課題が多く、賄いきれなければ石炭火力削減自体に影響が出る可能性もあり、この際、電源構成を抜本的に見直していく必要。

このうち原発については2030年に20~22%賄う方針を掲げ、30基程度再稼働させる方針。しかし信頼の回復は進まず、これまで再稼働したのは9基で、電源の割合も6%。しかも裁判所が運転停止を命じたり、テロ対策施設の完成が遅れて原子力規制委員会から事実上強制停止させられるなど、原発はいまや不安定電源に。
業界団体が原子力関係各社に行ったアンケートでも半数が20~22%の達成は困難と回答。このまま目標が達成できなければその分をまた石炭火力で賄うということになりかねず、原発比率の見直しは不可欠。

その分、政府が主力電源化を目指す再エネが期待されるが、現状17%と主要国の中でも最低レベル。
普及が進まない理由の一つに送電線の空きが少なく、新規の再エネがなかなかつなげない問題が。
送電線の利用は、先に建設された火力や原発が優先的に利用できる仕組み。このため、発電量が増えて送電線の容量がいっぱいになると、あとから再エネを入れようとしてもできず、送電線を設置する莫大な費用が請求され、再エネ事業を断念せざるを得ないケースも。こうした状況が続く限り再エネの拡大は困難。
この点政府は再エネが優先的につなげるよう、送電線接続のルールを変える方針。
再エネ事業者の意見を丁寧に聞いて、より多くの事業者が参入できるようなルールを早急に整備するのと同時に、普及を加速させるためにも2030年に22~24%となっている再エネの導入目標についてもより高く見直していくことも必要。

政府はエネルギー基本計画を当初予定の通り、来年改定するとしているが、世界の脱炭素化への動きは早い。状況に合わせて素早く見直していかないと世界の流れに乗り遅れることになりかねない。

(水野 倫之 解説委員)