文楽

NHK
2021年8月24日 午後6:04 公開

文楽「義経千本桜」 道行初音旅(よしつねせんぼんざくら みちゆきはつねのたび) 恋人の源義経を追いかけ、旅をする静御前と供の佐藤忠信。忠信は吉野山で過去の戦の様子を勇壮に語りますが、この忠信、なんと狐が化けているのです。 (2018年 「にっぽんの芸能」)

                               

文楽の歴史

江戸時代に入る頃から、大阪(当時は大坂)で育まれてきた人形浄瑠璃(じょうるり)・文楽。
(※文楽は後年付けられた人形浄瑠璃の総称です)

平安時代から存在した「人形あやつり」と、太夫(たゆう)の語りと三味線の演奏で物語を描く「浄瑠璃」が出会い、17世紀初めに「人形浄瑠璃」が誕生しました。

そして、大阪で活躍していた竹本義太夫(たけもと・ぎだゆう)という語りの名手と、江戸時代の天才脚本家・近松門左衛門(ちかまつ・もんざえもん)が組んで、人形浄瑠璃のための作品を発表し大流行しました

二人が作った中には「冥途の飛脚(めいどのひきゃく)」や「曽根崎心中(そねざきしんじゅう)」など今も上演される演目もあり、竹本義太夫と近松門左衛門のコンビによって現在の文楽の基礎が築かれたのです。

ちなみに、「曽根崎心中」は大人気になりすぎて、影響を受け心中する人が増加。その後、心中を扱う演目の上演が禁じられてしまいました。現在文楽で上演されているものは、1955年に復曲されたものです。

     

「三業一体」の芸術

文楽は、物語を語る「太夫」と、音ひとつで様々な情景を描く「三味線」、三人で人形を遣(つか)う「人形」の三業一体の芸術です。

人形劇というと、子供向け?と思われるかもしれませんが、文楽は喜怒哀楽をたっぷりと見せる「大人の人形劇」。

胸が張り裂けそうになる男女の悲恋や親子の別れ、忠義と人情の間で苦悩する人々の「情」を濃密なドラマとして描き出します。

                                         

太夫:豊竹呂勢太夫 三味線:鶴澤清治

           

人形 狐忠信:吉田玉助 静御前:吉田一輔

  

最初はやっぱり人形が気になる!

なんと言っても、文楽を初めて見る人がまず驚くのは人形の動きのリアルさでしょう。

まるで生きているように動き、泣き、笑い、怒る人形たち。

繊細な表現を可能にするため、文楽は三人で人形を操る「三人遣い」となっています。

人形でもっとも重要な首(かしら=頭部)や右手をあやつる「主遣い(おもづかい)」、左手を操作する「左遣い(ひだりづかい)」、足をあやつる「足遣い(あしづかい)」をそれぞれ担当しています。

世界的にも非常に珍しい人形操作で、ブロードウェイで生まれたライオンたちが大活躍する舞台など、海外のミュージカルにも影響をあたえています。

    

最初に見るときは、人形を操る人がどうしても気になってしまうかもしれませんが、舞台にのめり込むうちに気にならなくなるでしょう。
遣っている人の個性も含めて見てみても面白いかもしれません。

基本的に人形遣いは黒衣(くろご:頭までおおう黒づめの衣装)ですが、重要な場面では主遣いは「出遣い(でづかい)」と呼ばれる顔出しの形で、人形を遣います。

出遣いの時は人形にどうやって主遣いが魂をこめていくかを主遣いと人形を比べてみるのも鑑賞のポイントのひとつかもしれません。

                                     

重厚な語りと三味線を「聴く」

通の人たちの間では、文楽を「観に行く」とは言わず、「聴きに行く」と言われることがあります。
昔から、文楽は人形の視覚表現以上に、義太夫とよばれる語りと三味線による演奏表現に重きを置いているからです。

老若男女、作品上すべての役からナレーションまで一人で語りわける「太夫」と、時に一音でこぼれ落ちる涙と悲しみを表現するなど、登場人物の感情や場の情景を描きだす「三味線」。

文楽の舞台は三業一体の総合芸術として表現されますが、三業は「決して合わせに行ってはいけない」と言われています。
「太夫」「三味線」「人形」が互いに最高の演技を求めてしのぎを削り、舞台を作り上げていった先でピタリと合うというのです。
その熱気と気迫も、文楽の魅力の一つです。