日本舞踊

NHK
2021年9月28日 午前11:57 公開

日本の舞踊の原点は、神話の昔までさかのぼることができると言われています。

その神話とは、天岩戸(あまのいわと)に立てこもった太陽の神・天照(アマテラス)の前で、アメノウズメという女神が舞い、天照を岩戸から出したというもの。
神々のために舞う「神楽」から長い歴史を経て発展し、現在の舞踊へ繋がっているとも言えます。

ちなみに「日本舞踊」という言葉は明治以降に使われるようになった言葉で、それ以前は「舞」と「踊り」は区別して用いられていました。

踊り

舞踊「鷺娘(さぎむすめ)」 吾妻徳穂 2009年NHK古典芸能鑑賞会
恋に思い悩む女性の姿を美しい鷺の姿と重ね合わせて描く幻想的な作品。

「踊り」は、出雲阿国が創始したという「かぶき踊り」の流れをくみ、江戸時代の初め頃から歌舞伎と共に発展してきたものです。
そのため日本舞踊の作品の中には、歌舞伎の舞台で上演された舞踊作品=「歌舞伎舞踊」というジャンルのものも数多くあります。

踊りは歌舞伎の舞台で発展してきましたが、江戸時代の終わり頃から、明治・大正を通して、様々な流派(流儀)の「舞踊家」が自分たちの目指す、従来の歌舞伎舞踊とは別の、独立した「舞踊作品」を舞台で発表するようになったのです。
この流れが、創作舞踊など、現在の「日本舞踊」の更なる発展につながり、より柔軟な表現が可能になりました。

時には、バレエなどの要素を取り入れることもあり、例えば「鷺娘」では幕切れに、バレエ「瀕死の白鳥」からヒントを得て、鷺娘が倒れて息絶えるというドラマチックな演出がされることもあります。
一方、倒れずに「二段」という台にのって決まる、という古風な演出もあります。

歌舞伎の舞台と同じように、華やかな衣裳やかつらを身に着けて観客を楽しませようとする「衣裳付(いしょうつき)」に対し、日本舞踊家は踊りの技術だけで曲の趣きを表現しようと、役に扮した衣裳や化粧をしないで踊る「素踊り(すおどり)」という形式を好む方も多いようです。

舞踊「当世うき夜猫」 2017年 日本舞踊 未来座 =賽SAI= 公演 夜の街をたくましく生きる猫たちの愛と共生の物語。ミュージカル?と思われるかもしれませんが、新しい表現にエネルギッシュに挑戦する新作舞踊です。

一方、「舞」は京都・大阪など上方(かみがた)とよばれる地域で、お座敷を中心に発展してきたものです。

江戸の終わりごろから、宮中で女官などがたしなんだ「御殿舞(ごてんまい)」や、能狂言をもとに、人形浄瑠璃や歌舞伎などの要素も取り入れて、現在の形に整えられてきました。

広い劇場空間で披露されていた躍動的な「踊り」と比べると、お座敷で発展してきた「舞」はたたみ一畳の狭い空間でも舞うことができ、抑制された動きの中での表現が発達しました。

特別な衣裳を着けない、「素(す)」とよばれる形で上演されることが多いのですが、今日では大舞台で映える化粧や衣裳を身につける場合もあります。

京舞「小栗曲馬物語」井上八千代 2020年日本舞踊協会公演  京舞は祇園の花街で芸舞妓を中心に受け継がれてきた井上流の「舞」です。

日本舞踊の魅力

日本舞踊では、「所作(しょさ)」と呼ばれる動きの美しさにまず目をひかれるでしょう。
一つ一つの動き、例えばふりむく角度や足の運び方に、計算された美しさと役の表現が込められています。

日本舞踊で特徴的なのは、歌詞の内容そのものを表現する仕種(しぐさ)がつけられている「当て振り」が多いことです。
例えば、「月を見る」という歌詞なら、月の方向を指さしたり、手をかざして月を眺めたり。
水面や鏡に映った月を見る仕種で表現することもあります。

一人の演者が次々と役柄を変えて演じる変化舞踊(へんげぶよう)という演目もありますが、一つの役にとらわれず、自由にイメージが飛躍していくのも日本舞踊の魅力の一つです。

また、舞踊の表現にはシャレを効かせたコミカルなものもあります。

「関の扉(せきのと)」や「戻駕(もどりかご)」という古典作品の中に「生野暮薄鈍情なし(きやぼ うすどん じょうなし:野暮でにぶい薄情もの)」という歌詞がありますが、
  なんとこれに、木、矢、棒、臼、ドン(たたく)、錠、無し という動きを当てて表現するのです。
なんとも大らかなものですね。  

舞踊「戻籠」 2016年日本舞踊協会公演
浪花の次郎作:若柳吉蔵 禿(かむろ)たより:坂東はつ花