去年7月3日、熱海市伊豆山地区で発生した大規模な土石流の被害では、災害関連死も含めて27人が犠牲となり、いまも1人の行方がわかっていません。
土石流の起点となった盛り土の造成現場には、推計で2万立方メートルあまりの土砂が崩れ落ちずに残っていて、大雨などで崩落する危険性も指摘されています。この影響で、土砂が流れ下った川の周辺は「警戒区域」に指定され、原則として立ち入りが禁止されたままです。このため5月末の時点で、132世帯235人が地元を離れた暮らしを余儀なくされていて、多くが公営住宅や賃貸住宅を活用した「みなし仮設」に入居しています。
発災当時、伊豆山地区に住んでいた人たちは、現状をどう感じているのでしょうか。NHKでは6月から7月に聞き取りやインターネットでアンケートを行い、118人から回答を得ました。
(記者・原岡裕太、記者・武友優歩、ディレクター・中村みゆき)
【体調・精神面への影響】
体調・精神面に影響を感じる 3人に2人
7割近くが「体調や精神面に影響を感じる」と回答。自宅が被害・警戒区域指定で離れて暮らす人では9割近くに上る。
【生活再建について】
元の場所で生活したい 2人に1人
自宅が被害を受けたり、警戒区域に指定されたりして離れて暮らす人の半数あまりが将来的に「元の場所で生活したい」と回答。一方で「別の場所に住む」「分からない」と答え、将来的に地元を離れる可能性がある人は計4割あまりに上った。
今後の生活で不安に感じることは「再び災害が起こる可能性」が最多。
【復旧・復興の進捗について】
復興が進んでいない 10人に9人
9割近くが「復興が進んでいない」と感じている一方、「順調」だと回答した人は1人もいなかった。復興に必要なこととして約8割が「残った盛り土の撤去」と回答。
【原因究明について】
原因・責任の所在の解明「進んだと思わない」 3人に2人
土石流の原因や責任の所在の解明が進んだと思わないと6割あまりが回答。「思う」という回答は1割に満たない。
【識者のコメント】
兵庫県立大学 木村玲欧 教授(社会心理学)
「これから伊豆山地区の復興がどのように進むのか、その全体像が見えないため、復旧や復興が一向に進んでいないと感じている人が多いのではないかと思います。現時点ではまだ多くの人が元の場所に戻りたいと考えていることがわかりましたが、今後、工事の遅れや被災者の高齢化に伴い、戻りたくても戻れないという人が増えていくことが考えられます。これからの地域全体の再生を考えた時に、人口が減って、地域そのものが持続可能でなくなってしまうことも考えられます。行政は今回の調査を参考にして、今後どういう時間経過の中で復興が進んでいくのか、工程表やロードマップを住民に示し、住民のニーズをしっかりとくみ取ってほしいです」