浜松市などにまたがる浜名湖特産のアサリ。かつては全国有数の漁獲量を誇った浜名湖の代名詞でしたが、3年前から急激に減少し去年は過去最低となりました。本来ならいま漁が盛んに行われる時期ですがことしも苦戦が続いています。
なぜアサリはいなくなったのか。漁業者が回復に向け模索を続けるなか、ノーベル賞を支えたあの企業も支援に乗り出しています。
(記者・渡邉亜沙)
【小さくて、少ない・・・】
浜名湖特産のアサリ。旬を迎えたはずの3月下旬のこの日も、わずかに取れたアサリは小さいものばかりでした。
例年なら多くの潮干狩り客で賑わう浜名湖の干潟。私も実際に10分かけて掘ってみましたが・・・採れたのは小さなものばかりでした。
【“商売にならない”】
浜名湖での漁獲量は平成29年ごろから減少し、3年前に急激に減少。去年は100トンにまで落ち込みました。
漁業者の河合雄介さん。漁獲量は例年の3分の1以下となり、いまはのりの養殖などで生計をたてています。浜名漁業協同組合のアサリの漁業者はおよそ400人ですが、燃料の高騰も重なりいま漁にでているのは数人しかいません。道路工事や工場のアルバイトで生計をたてる漁業者も少なくないということです。
(漁業者・河合雄介さん)
「過去最低ですね。全然、商売ベースにならなくなりますね。今から一番よくなる時期ですけど今はこれだと先がなかなか見通せない感じがしますね。浜名湖はアサリがないと全員がなかなか生計たてられない」
【原因は皮肉にも・・・?】
漁協の渥美敏組合長。県の水産技術研究所の研究員だった渥美さんは、あることが原因の1つではないかと考えています。
(浜名漁業協同組合・渥美敏組合長)
「水がきれいになった。きれいになって、逆になりすぎて逆に生物が生きづらくなっているんじゃないかと」
昔に比べ汚水処理技術が向上し、湖に流れ込む水はきれいになりました。これによって県や市による水質検査ではリンや窒素などの値はおおむね国の基準内にとどまっています。
その一方で、リンや窒素によって育つプランクトンが少なくなり、それをエサとするアサリが育ちにくくなったと考えているのです。
(渥美敏組合長)
「水の中の栄養分がですねそれが少なくなって植物プランクトンが繁殖しづらくなっているのではないかと考えています」
同じようにイカナゴの不漁に悩む兵庫県では、水中のリンや窒素の量を一定に保つため、濃度の下限を定めた条例が制定されました。
渥美さんは同じような対応をできないか湖と隣接する自治体と交渉しています。
これに対し浜松市環境保全課は「不漁と水質の関係について科学的な調査による原因の究明が必要」として慎重な姿勢です。
【あのノーベル賞貢献企業も】
こうしたなかアサリを守る取り組みが続いています。アサリの天敵であるクロダイなどの食害を防ぐため囲いを設置。
(漁業者・河合雄介さん)
「どうだろうと思ってやってみたら意外とアサリが生き残る。手応えはある」
さらにノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんが研究で使った「カミオカンデ」の検出器を開発したことで知られる光学機器メーカー「浜松ホトニクス」が、研究成果を資源回復に生かしたいと協力を申し出ました。
漁協の建物に実験施設を設置し、培ってきた光の技術を生かして開発したプランクトンの培養技術をもとに養殖の実験を行っています。
(浜松ホトニクス・松永茂プロジェクトリーダー)
「光合成のために赤い光、青い光照射しながらさらにプランクトンの状態をコントロールするために黄色い光も用いて、培養をおこなっています」
メーカーではアサリが好む「パブロバ」と呼ばれるプランクトンが黄色い光を当てると効率よく増えることを発見。
(浜松ホトニクス・松永茂プロジェクトリーダー)
「約2週間たちますと、水槽の色も暗い色合いに変わってきます」
左が培養開始から1週間、右が2週間たった「パブロバ」です。
細胞の大きさが大きくなり、さらに栄養がたくさん蓄えられているのがわかります。
「パブロバ」で育てたアサリは、繁殖能力が高くなる傾向があることもわかってきました。水温などの産卵環境を整えた天然のアサリの動きに対し、「パブロバ」で育てたアサリは、活発に動いている様子が確認できます。
施設では、自然界のアサリよりも強く育っているとみて、育てたアサリを湖に放流し成長するか調べています。
(浜松ホトニクス松永茂プロジェクトリーダー)
「私どもプランクトンの技術や知識を具体的な人の役に立てるというのは私にとっても大変な喜びです。地元の漁師さんと協力しつつ浜名湖の資源回復に努めていきたいと思っています」
(漁業者・河合雄介さん)
「漁師では絶対できないプランクトン、エサの研究をしてこれが成功して稚貝を大量に作れるようになったらとてもうれしいですね。ぜひ協力してやっていきたい」
プロジェクトリーダーの松永さんによりますと、アサリの漁獲量は全国でも減少しているため、今後、各地の課題解消につなげられる技術を確立していきたいと話していました。