劇団SPAC コロナ禍の世界へ込めた思い(2022年3月24日放送)

ニュースディレクター・中村マゼラン太郎
2022年3月24日 午後10:22 公開

静岡県の劇団「SPAC=静岡県舞台芸術センター」が世界に向けて新たな作品を発表します。日本時間の3月25日未明、フランス・パリで、演劇「ギルガメシュ叙事詩」の上演の初日を迎えます。この公演は、新型コロナ感染拡大の影響で1年延期となり、ようやく実現することになります。この作品について、演出家の宮城聰さんは、コロナ禍に見舞われている世界中の人々に向けて、ある教訓が込められているといいます。

(ニュースディレクター・中村マゼラン太郎)

3月14日、フランス公演を前に、稽古は大詰めを迎えていました。

「ギルガメシュ叙事詩」は、4000年以上前のメソポタミア文明を舞台にした“世界最古の物語”と言われています。

主人公の国王ギルガメシュは巨大な都市国家建設のため、木材を調達しようと森を伐採することにします。ところが、その前に、森を守る得たいの知れない怪物「フンババ」が現れ、立ちはだかります。恐ろしさのあまり殺してしまったギルガメシュ。神々から罰を受け、唯一無二の友人を殺されてしまうという話です。

演出家の宮城聰さん。恐ろしさのあまりフンババを殺してしまったギルガメシュは、現代で言えば、新型コロナウイルスを恐れて、取り返しのつかない大切なものまで失おうとしている現代人の姿を重ね合わせることが出来るといいます。

(宮城聰さん)

「過去そのものでありながら今の我々にも問題意識を提供してくれる」

感染した人や、感染が疑われる人に対して広がる“偏見”や“差別”。ウイルスを恐れる余り、ウイルスによってもたらされたすべてのものに対して攻撃を加えて、いつの間にか他者への信頼や思いやりなど大切なものを失おうとしているのではないだろうか。

「これまで人間がどうしてきたかというと結局時々罰せられて“ああ、そうか”と気がついて一緒に生きていく。そうやって共生してきたというのが、なんとか人間が今日まで生き延びてきた知恵なんですね」

得たいの知れないものへの恐れを象徴する「フンババ」。宮城さんは、このフンババをどう表現するかが物語の最大のポイントだと考えました。

「人間の俳優じゃ演じきれないスケール。人間が演じたら嘘くさいと言えば、嘘くさいじゃないですか」

そこで白羽の矢を立てたのが、沢則行さんです。東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムの一環で巨大な人形「モッコ」などを手がけた世界的な人形作家です。宮城さんは、人間では演じきれない世界観を、人形のスペシャリストである沢さんに委ねました。

(沢則行さん)

「ぼくは長いこと(人形の)デザイナーをやっていますけど、こんなに書き直したのは初めて。書き直すたびに宮城さんからダメが出るんで、描き直し続けて、最後は、ウイルスやバクテリアみたいなそういう形に持っていきました」

試行錯誤の末に、たどり着いた「フンババ」の姿。現代人が恐れるウイルスのような形となって舞台を覆い尽くします。沢さんを含めて、8人がかりで操ります。

(沢則行さん)

「ゆっくり倒れてビシッと止まれる?」

フンババをより不気味な存在として動かすにはどうすればよいのか。沢さんは、俳優たちに操るポイントを伝えます。

「止めをいつ作るかというのは人形遣いとしては重要。動かすことは誰にもできるので、そうじゃない“くっ”と止める力。止めたときにお客さんのフォーカスを得るんですよ、“おっ”って。止まっている間にお客さんが人形の動いていたときの意味を想像するんですよね」

命を吹き込まれたフンババ。ギルガメシュ役の俳優も人形の動きの生々しさへの驚きを隠せません。

(ギルガメシュ役・大高浩一さん)

「(人形は)単なるモノなんですけど、動いた瞬間に魂が入る。至近距離で向かい合って、目があったときにやっぱりドキッとする感じがあるんですね。人間相手だとおそらくこういう感覚って受けたことがないような体験ですね」

古代メソポタミアの物語「ギルガメシュ叙事詩」。そこには、今の私たちに向けて繰り返し人間が経験してきた英知が込められているといいます。

(宮城聰さん)

「フンババをやっつけていくシーンは、見ていて痛いというか悲しいですよね。でも人間はこうやっちゃうんだよな、こうやってきたんだよな、というそういう悔恨のような後悔のようなものも湧き上がってきますね。自然の脅威っていうものに反省されられ脅威と一緒に生きていく。だからもう一度そういう種類の謙虚さというものを獲得していけば、人類はこの先もまだ未来があると思うんですね」

この「ギルガメシュ叙事詩」。コロナ禍に加えて、現在のロシアのウクライナ侵攻と世界が混迷する中での上演に宮城さんも観客からどんな反応があるのか、楽しみにされていました。この劇は5月、静岡での凱旋公演が行われる予定です。

【動画】