震災11年・南海トラフに備える『わたしの避難計画』(2022年3月8日放送)

記者・井ノ口尚生
2022年3月8日 午後8:47 公開

【静岡県 南海トラフの被害は?備えは?】

東日本大震災からまもなく11年。この災害を教訓に静岡県では南海トラフ巨大地震への備えを進めてきました。県内の対策はいまどの位置にあるのでしょうか。

まず県の被害想定を振り返ります。2013年、県は最悪のケースで犠牲者は約10万5000人に上るという試算を発表しました。この人数を来年度までに8割減少させる目標を立てていて、189の取り組みを進めています。その一部がこちら。

住宅の耐震化や堤防の整備のほか、外国人のための防災研修や道の駅の防災拠点化といった取り組みもあります。

こうした取り組みの進捗状況がこちらです。

昨年度の時点で189の取り組みのうち40%ほどの77の取り組みで、すでに目標を達成。計画を前倒ししたものや、計画通りのものとあわせて98%が順調に進んでいるとしています。

こうした取り組みで、犠牲者およそ10万5000人のうち7万2000人の命は救えるようになったと県は試算しています。

一方、静岡大学防災総合センター岩田孝仁特任教授は、ハード面の対策が高齢化などの地域の実情にあっているのか、検証していく必要があるとしています。さらに、ソフト面の対策では私たち自身が避難の際の行動を具体的にイメージしておくことが重要だと指摘しています。

(岩田孝仁特任教授)

「住宅で生活していると、自分の家から外へ出て高台に行く、そのルート上に障害物がたくさんあるところもある。全体として対策が進んできているのだろうが、ひとりひとりの視点でもう一度見直すとまだ課題が散在しているところがある。そういったところをきちんと検証していく必要がある」

こうした指摘もある中、県が来年度、ソフト面の対策として全県的に取り組むのが『わたしの避難計画』です。災害時の情報収集の方法を確認しておく欄や、避難先の名前、そこに到着するまでのめやすの時間を書き込む欄もあります。裏面には避難までの経路を書き込む場所もあります。

県は、津波の浸水が想定される全ての世帯に配布することを目指しています。いざというときの行動をできるだけ具体的にイメージしてもらうことがねらいです。ただ、こうした取り組みは配られるだけで終わってしまうという懸念もあります。そこで、住民たちへの配布が先行して始まった牧之原市では、計画作りを自分のこととして捉えてもらうための取り組みが行われています。

【住民の問題意識 配るだけで終わらせない】

牧之原市川崎地区では、南海トラフ巨大地震が起きた場合沿岸部で5m以上の津波の浸水や山沿いの土砂崩れなどの被害が想定されています。

地区では防災意識を高めようと、避難訓練や研修会などを重ねてきました。

こうした中「わたしの避難計画」が配られることになりました。地区の自主防災組織で副会長を務める片瀬徹さんは、配っただけで住民たちがそれぞれ計画を作成してくれるのか疑問に感じたといいます。

(片瀬さん)

「ハザードマップなどを配りこういう危険があるということを周知しているがそれを受ける方がどういう風に受け止めているのか。自分のこととして受けているかどうかが課題だ」。

片瀬さんたちは、地域ごとに説明会を開くなどして住民たちに避難計画の作成を呼びかけるなどしてきました。さらに、自宅で計画を書く人にはアンケートを配ることで、計画の作成を促しました。

アンケートが集まり始めると、「サイレンの音が聞こえづらい」とか「避難場所が遠い」といった住民たちが感じている課題も浮かびあがってきました。

(片瀬さん)

「特にコミュニティーをみんなで日頃からつながりを深めていきたいと意見があった。それから障害者や高齢者、なかなかひとりでは避難が難しいというかたもいた。コミュニティーのつながりの中でお互いに助け合って避難できるそういう体制が構築されていけばよりいいと思う」

今回、川崎地区では住民への説明会やアンケートという形で、避難計画の作成率の向上を目指しました。専門家はこうした取り組みの重要性を次のように指摘しています。

(岩田孝仁特任教授)

「パンフレット、ハザードマップもそうですけど配って終わりというところが全国でもけっこうある。自分の地域は関係ないだろうとか、深く考えないということが結局被害を大きくして、犠牲者をたくさん出したということがこれまで災害のたびに繰り返されている」

災害の犠牲者を減らすため、行政も住民も災害をわがこととして考えて備えを進めていく必要があると思います。いま南海トラフ巨大地震が起きたらどうするのか。みなさんも改めて考えてみてはいかがでしょうか。