【取材記録】台風15号・記録的大雨と大規模断水から1か月 静岡県内の復旧は途上

NHK静岡放送局 台風15号取材班
2022年10月25日 午前9:13 公開

(2022年10月24日放送)

台風15号による記録的大雨で県内に大きな被害が出てから1か月となります。

県内では3人が死亡したほか、6人が軽いけがをしました。

住宅への被害も相次ぎました。床上浸水は5200棟を超えているほか、全壊や半壊、一部損壊した住宅の数はあわせて4300棟余りにのぼっています。

10月24日時点で32世帯82人が公営住宅に入居しているほか、仮住まいでの生活を余儀なくされている人たちもいます。

【静岡市の山あいの旅館 再開見通し立たず】

生活再建も課題です。静岡市葵区の山あいの旅館では今も建物の前の道路が復旧せず、敷地内には土砂が残ったままになっていて、再開の見通しはたっていません。

(山崎航記者)

「静岡市葵区油山に来ています。こちら道路脇に割れたコンクリートがまだ残っていて、奥には大量の流木が残っている状態です」

土砂が流れ込むなどの被害を受けた静岡市葵区油山の創業50年以上の温泉旅館、「元湯館」です。

(旅館のおかみ・海野加奈子さん)

「こちらのぞいていただくと分かるのですが、天井近くまで土砂が詰まっています。だいたい高さにすると3m~4mぐらい土砂で埋まっています」

旅館の前の道路がいまだ復旧していない状態です。このため重機が入ることができず、建物内に入り込んだ土砂を撤去できていないため、この1か月間、復旧作業はほとんど進んでいないということです。

(SNSの映像)

こちらは、被害を受けた当時の映像です。

館内の大浴場につながる廊下に大量の茶色く濁った水が流れ込んでいます。

旅館では、被害の様子をSNSで発信し窮状を訴えていましたが、インターネット上で資金を募る「クラウドファンディング」で支援を呼びかけてみたらどうかという声が上がったということです。このため、旅館では10月7日から資金を募り始め、4日で目標とする300万円が集まり、24日午前10時の時点で480万円以上が集まっているということです。

(おかみ・海野加奈子さん)

「本当に感謝の気持ちでいっぱいです。片づけなどに使わせていただきたいと思っています」

【浜松市天竜区 崩れた土砂の撤去続く】

[取材/記者・牧本真由美]

大雨の影響で住宅3棟が巻き込まれる土砂崩れが発生した浜松市天竜区では、きょうも重機による土砂の撤去などが行われていました。

浜松市天竜区緑恵台です。住宅地近くの斜面が崩れ、3棟が土砂に巻き込まれ3人がけがをしました。

現場では24日も復旧作業が続いていて、新たな土砂被害を防ぐための大型の土のうの設置や、被害にあった住宅や土砂の撤去作業が行われていました。

浜松市は、複数の業者が土砂を運び込んでできた盛り土が原因となった可能性があるとして外部の専門家らによる第三者委員会を設置するとしていますが、いまも委員の選定が進まないなどとして会合は一度も開かれないままとなっています。

24日は、斜面の上で、土砂がどのように積まれたのかを調べるボーリング調査が行われていました。浜松市は、26日に開く浜松市長の定例記者会見で今後の見通しなどについて明らかにするとしています。

こちらは同じ天竜区の二俣町です。大雨の影響で橋の一部が崩落しました。1か月たった今も復旧の見通しが立っていません。

橋のたもとで洋菓子店を営む木下幸一さんです。店舗では川から水や流木があふれ出て看板が壊れ、店内も膝下ほどまで水に浸ってケーキを展示・販売するための冷蔵庫が壊れるなどの被害が出ました。近所の人などの支援で土砂をかき出すなどして、およそ2週間後に営業を再開できたということです。

ただ、店には地元以外から訪れる客も多く、目印となっていた橋が崩落し、看板もなくなっているのを見て諦めて帰ってしまうケースもあるとして、復旧までが長引けば客足に影響が出るのではないかと心配しています。

(洋菓子店 木下幸一さん)

「今まで来てくれたお客さんのためにも頑張ってやるしかないなと。起きちゃったことは変えられないので、あとはがんばってケーキを作っていくしかない」

【川根本町 宿泊客激減で新サービス】

[取材/記者・小尾洋貴]

紅葉シーズンを迎える中、例年観光客でにぎわう川根本町の温泉地は、大井川鉄道の一部運休に加え、観光スポットが被害を受けて宿泊客が激減しています。このため地元の観光協会は、宿泊客を対象にした新たなサービスを始めることになりました。

紅葉シーズンには多くの観光客が訪れる川根本町にある寸又峡温泉は、大井川鉄道の本線が運休となっているうえ、観光スポットとして人気がある「夢のつり橋」に続く歩道が土砂崩れで崩れるなどして観光客が激減しています。

このうち、寸又峡温泉にある旅館「翠紅苑」では10月、これまでに宿泊客がおよそ900人と例年の半分程度にとどまっているということです。また、11月の宿泊客の予約もキャンセルが相次ぎ、例年の半分程度に落ち込んでいるということで、厳しい経営状況が続く見込みだとしています。

(「翠紅苑」の望月孝之会長)

「これほどお客さんが減るとは考えていませんでした。この温泉ができて、ちょうどことしで60年になります。60年で初めて、こういう経験をしたのだろうと思います。紅葉と、温泉に入りに、ぜひお出かけいただきたいと思います」

川根本町ではほかの宿泊施設でも宿泊客が減っているということで、地元の観光協会は、観光客を呼び込もうと新たなサービスを始めることになりました。観光協会によりますと、11月1日から12月7日までのおよそ1か月間、レンタカーで川根本町の旅館やホテルを利用する宿泊客を対象に、原則3000円分を割り引くサービスを始め、集客を図りたいとしています。

(川根本町まちづくり観光協会・土屋和明事務局長)

「道路は今こちらのほうにまで通じていますので、ウエルカムという気持ちでお客様をお迎えしたいと思っています」

こうした中、川根本町では少しでも宿泊客を増やそうと、10月22日に運行が再開した大井川鉄道の井川線の一部区間の電車の運賃を宿泊客を対象に補助する方針を固めました。

具体的には、湖の上にあり、その景色が観光客に人気の「奥大井湖上駅」から「長島ダム駅」の間の片道の運賃160円を宿泊客に補助する方針です。補助の方法は現在検討していて、早ければ11月1日からの1か月間、補助を行うことにしています。

【居住支援の課題 明らかに】

[取材/記者・小田原かれん]

今回の大雨では、5000棟を超える住宅が床上まで浸水する被害を受け、所得が低い世帯や高齢の1人暮らしの人の中には新たな住まいなどを探すのに苦労する人も出ています。

(岡島秋夫さん)

「水が入ってきて、あっという間にばーっと上がってきて、もうびっくりですよ。ことばにならない」

静岡市清水区の岡島秋夫さん(60)です。今回の記録的な大雨でアパートの1階に住む岡島さんの部屋も床上浸水の被害を受けました。被害から1か月たった今も部屋には浸水の跡や砂が残り、むき出しになった床の上での生活を余儀なくされています。

これからの生活をどうしていこうか考えていた矢先、さらに厳しい現実が告げられます。

(岡島秋夫さん)

「大家さん、ここはもう辞めるって。どこか新しいところ探してくれって言われた」

新たな住まいを探すことになりましたが、岡島さんはうつ病が原因で働くことができず、生活保護を受けています。岡島さんのように所得が低い世帯や1人暮らしの高齢者などは、家賃滞納の恐れがあることや連帯保証人が見つからないことなどから、入居を断られるケースが多いといいます。

「本当はここにいたいけど、だめだって言うんで。立ち退きですよね」

そうした人たちからの相談を受け付けているのが、都道府県の指定を受けてサポートにあたる「居住支援法人」です。

国からの補助金を活動資金にあてています。清水区のNPO法人もその1つ。今回、岡島さんの家探しを支援しました。

(「WAC清水さわやかサービス」鈴木久義さん)

「今回は水害に遭ったあと、彼が市役所、区役所に相談に行って、そこからこちらへ連絡が来て、僕が岡島さんに会って話を聞いて。不動産屋さんと調整、大家さんと調整」

支援を受けて、岡島さんは、10月21日、新たな住まいの候補を見学しました。

(不動産業 中澤宏之社長)

「こちらの家主さんはものすごく協力的なんですよ。だから全く心配いらない」

(「WAC清水さわやかサービス」鈴木久義さん)

「なかなか生活保護というと嫌がる人も正直いるんだけど」

支援法人が不動産会社との間に入って家賃を低く抑えてもらったこともあり、岡島さんはこの物件に住むことをその日のうちに決めました。

(岡島秋夫さん)

「ここでもう決めてしまおうと思う。鈴木さんにはいろいろ迷惑をかけた」

今回、岡島さんの新たな住まいは決まりましたが、依然として見つかっていない人も多いといいます。支援法人によりますと、台風15号の被害が出た先月は、支援を始めて以来、1か月の相談件数が初めて20件を超え、今月もすでに28件の相談が寄せられているということです。支援法人としても、国からの補助金では活動に限界があるといいます。

(「WAC清水さわやかサービス」鈴木久義さん)

「1人雇えるか雇えないかの補助金なので、それでやっていくのは難しいのかなと思います。正直回らないです。担当する職員の数は変わりませんし、増やせませんのでなかなか大変です。1人の労力としてはちょっときついですよね」

【SNSで拡散した支援情報】

[取材/記者・若林勇希(社会部)]

こちら、台風15号の際に広がったSNSの投稿です。「お困りの方、助産院でもく浴できます」と書かれています。当時、静岡市内では大規模な断水が発生し、最長で12日間続きました。赤ちゃんのもく浴ボランティアの情報はSNSで拡散され、多くの家族が利用しました。

静岡市清水区に住む吉田美優さんです。先月、自宅が断水する中、不安に思っていたのが、当時、生後2か月の次男、虎臣くんのお風呂でした。

(吉田美優さん)

「首回りとか、あとおむつしてるので蒸れたりとかあるじゃないですか。赤ちゃんって汗っかきなので、どうしよう、かわいそうだなと思う気持ちでいっぱいでした」

近くの親族の家もすべて断水。わずかな水を電子レンジで温めてタオルをぬらし、体を拭いてしのいでいたところ、見つけたのがインスタグラムの投稿でした。市の助産師会が、断水していなかった地域の助産院12か所で始めたもく浴ボランティアの利用を呼びかける内容でした。

このうち、1つの助産院に電話したところ、その日のうちに利用できました。

「もう本当にありがたいっていう気持ちしかなかったですし、支えられているっていう気持ちでいっぱいでしたね」

もく浴ボランティアの情報を投稿した静岡市助産師会の小長井祥子会長です。SNSを通じて情報が拡散した結果、利用者は想定を大きく上回る104の家族にのぼりました。

(静岡市助産師会・小長井祥子会長)

「いろんな人がこの画像を拡散してくれたことが必要なお母さんに情報が届くことになったので、本当に助かりました」

専門家は。

(日本助産学会理事長/聖路加国際大学大学院・片岡弥恵子教授)

「体験の中から生まれてきたものはみんなでシェアをして、こういうこともあって、こういう準備をじゃあしといたほうがいいねということを全国に広げていく。今後起こった時に日本どこでも助産師が活動できるというふうに広がっていくかなと思っています」

日本助産学会は、断水で赤ちゃんのもく浴ができない場合に備えて、泡せっけんや洗浄用のボトル、おしりふきなどをふだんから備蓄しておくことを勧めています。

【動画】(16分9秒)