三島事故遺族 ひぼう中傷刑事告訴への思い(2022年9月30日放送)

NHK武友優歩
2022年10月2日 午後8:33 公開

3年前に三島市で起きた交通事故。突然、父親を失った遺族は、インターネット上にあふれるひぼう中傷にもさらされてきました。

こうした中傷に対して、刑事告訴に踏み切った遺族の思いを取材しました。

(伊東支局記者 武友優歩)

三島市に住む坂本杏梨さんは、3年前、父親の仲澤勝美さん(当時50)を交通事故で亡くしました。

(杏梨さん)

「いまだに、なぜ父がその日そのタイミングで信号無視をしてきた相手側と衝突しなきゃいけなかったのか、毎日考えますね。父親がいてくれたらなと思うことは常にあります」

事故の現場は、1車線の細い道と市道の大通りが交わる交差点でした。

杏梨さんは当初、警察から「原付きバイクで大通りを走っていた仲澤さんが、無理に右折して乗用車と事故を起こした」と説明を受けました。

しかし、仲澤さんはふだんの通勤で細い道を直進するルートを使っていました。

父親に原因があったかのような説明に、違和感を感じた杏梨さん。事故の翌日から、きょうだいとともに街頭やSNSで目撃情報を募りました。すると、「乗用車がすごいスピードで直進していくのを見た」などといった情報が寄せられました。

こうした遺族の活動もきっかけに捜査は進められ、警察は、乗用車の運転手が赤信号を無視して交差点に入り、仲澤さんをはねた疑いがあるとして逮捕。去年3月には禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決が確定しました。

(杏梨さん)

「私たちが声を上げていなかったら、警察は証拠を見つけようともしていなかったと思うので、声を上げたからこそたどり着けた真実だなと思います」

こうした活動の一方で、杏梨さんは、いわれのないひぼう中傷に悩まされてきました。

ネットやSNSに書き込まれたのは、「もうみんな全滅すればいよ」とか「不幸になりますように」といった、杏梨さんや家族に向けられた暴力的なことばの数々。中には、亡くなった父親を冒とくするものもありました。

(杏梨さん)

「怒りで手が震えて『こんなことを書く人がいるんだ』と思いました。自分のことを言われるのも嫌ですが、家族のことを言われるのが一番、精神的につらかったです。一度でもネットで言われたり書き込まれたりすると、しばらくそのことが頭から離れなかったです」

当時、杏梨さんは警察に相談しましたが「実害がないと捜査はできない」として、取り合ってもらえなかったといいます。

状況が変わったのはことし6月。SNS上でのひぼう中傷対策として刑法が改正され、人を侮辱した行為に適用される「侮辱罪」が厳罰化されたのです。

こうした動きに背中を押された杏梨さん。去年受けたひぼう中傷について警察に告訴状を提出し、9月28日に受理されました。

杏梨さんは、事件や事故の遺族が、ことばの暴力で二重に苦しまないような社会になってほしいと願っています。

(杏梨さん)

「これがきっかけで、少しでも遺族に対する二次被害を減らせたら、父の死も無駄にならないかなと思います。自分が発信することで交通事故を未然に防げたりとか、遺族の方に大切な情報や知っておいてほしい情報を伝えたいので、これからも発信していくつもりです」

【解説:告訴の背景は】

今回、杏梨さんが刑事告訴に踏み切った背景には「侮辱罪」の厳罰化がありました。 

具体的には、ひぼう中傷による被害が深刻化していることを受けて、「侮辱罪」の法定刑の上限が引き上げられました。これまでは「30日未満の拘留」か「1万円未満の科料」でしたが、その上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を新たに加え、悪質な行為への対処が厳しくなりました。

ただ、杏梨さんが告訴を検討した際、3年前に受けた激しいひぼう中傷については、すでに「知ってから6か月」という告訴できる期限を過ぎていました。

一方、去年、乗用車の運転手に執行猶予付きの判決が出された際、杏梨さんは会見で不服とする見解を表明していて、この対応をめぐってもひぼう中傷を受けていました。この書き込みについては告訴が可能だったことから、容疑者を特定しないまま、告訴状を提出しました。

今回の杏梨さんの告訴をきっかけに、匿名の安易な書き込みが刃物のように生身の人間に向かう怖さを、一人ひとりが考えてほしいと思います。

【放送した動画】