「モノ売り」から「コト売り」へ 百貨店初の挑戦(2022年4月27日放送)

記者・小尾洋貴
2022年4月28日 午後4:08 公開

ネット通販の拡大や新型コロナウイルスによる来館者の減少など厳しい経営管理が続く百貨店。こうした状況中、静岡市中心部にある松坂屋静岡店では百貨店としては初めてのなる常設の水族館で生き残りを図ることに。その水族館のオープンまでの道のりを取材しました。

(記者・小尾洋貴)

【“モノを売る”からの転換】

水族館プロジェクトを提案した米本佳史さんです。長年、婦人服バイヤーとして現場を見続けてきましたが、最近は人口が減るなか商品を売るだけでは生き残れないと感じていました。

(松坂屋静岡店バイヤー・米本佳史さん)

「もちろん人口が減っているのもあるんですけど、百貨店の数自体も減っていますし、なんとか次の一手を模索しながら」

【前例のない取り組み】

水族館は百貨店の7階を利用してつくりますが、天井が低いため大きな水槽を展示することはできません。

狭い空間のなかにどのように魅力的な水族館をつくるのか。

ことし1月に訪ねたのは、2020年にオープンした香川県宇多津町にある四国水族館です。

この水族館では空間そのものを楽しめる演出が人気を呼んでいます。米本さんは、早速、ヒントを見つけました。額縁がついた絵画のような水槽です。

まるで美術館のような雰囲気を醸しだし客の興味を引きます。また、天井や床に海をイメージした光の演出を映し出し、空間を有効に使う工夫がされていました。

(米本佳史さん)

「今作ろうとしている7階本館のところは天井の高さがそんなに高くないので、圧迫感が出ないようにできたらいいなと思います。ただ水槽を置いてただお魚だけではなくて、やっぱりこういった映像の演出とか光の演出とか、あと空間自体をどう演出して狭いながらでもどう楽しんでいただけるかというのは工夫が必要かなと思っています」 

【ライバルとも連携】

昼食で訪れた近くのうどん店でもヒントを見つけました。

水族館を訪れた人がチケットの半券を見せると、地元の飲食店などで割引きサービスを受けられる仕組みです。

実は米本さんは静岡駅前にどうやって人を呼び込むのかも課題と感じてきました。

静岡市の人口は2019年に70万人を割り込み去年、中心部の商業施設「静岡マルイ」が閉店。

駅前に魅力的な空間を作り地域を活性化させる上で水族館が果たせる役割は大きいと考えています。

水族館の視察後、米本さんのチームのメンバーが訪れたのは店から200メートルほどの場所にある商業施設「静岡パルコ」。香川県のうどん店で見つけた地域に人が滞在する仕組みをいっしょに展開したいと持ちかけたのです。

(松坂屋担当者)

「(水族館の)入館済みのチケットをお持ちいただいたらその方にサービスをするということをお願いしたい」

(静岡パルコ担当者)

「先に松坂屋さんに行かれてうちに来るというのもあるし、うちに来てみて気づいて、先に(松坂屋の)アクアリウムに行っておこうかみたいな。チャンスだし来館者が増えるのは街にとってプラスなので、お客様を共有するのはわれわれもしたい」

ふだんはライバル関係にある駅ビルの「ASTY静岡」や「パルシェ」とも相次いで交渉しました。その結果、ほかの商業施設に入る飲食店や雑貨店など45店舗と割引きサービスで連携することが決定しました。

【体験型百貨店へ】

そしてオープンまで2か月を切ったこの日。44個の水槽が運び込まれました。その中には四国水族館で見た周りが縁取られた水槽もありました。そして床や壁にも光の演出を施し狭い空間の中に幻想的なエリアを作り出しました。

水槽に放たれたのはおよそ100種類、2200匹の魚たち。百貨店と地域に人を集める切り札になるのか。挑戦が始まりました。

「モノ売り」から「コト売り」へ 百貨店初の挑戦